思いついたまま短編集 作:戯れ
なので今回の話はBLEACH最終巻のネタバレを含みます
あとややセンシティブな内容も含みます
それでもOK?
「あの……今日は、来てもらってありがとうございます」
「いや、構わないよ」
石田雨竜は黒崎一護の妹である黒崎遊子に「誰にも秘密で、二人っきりで相談したいことがある」との言葉を受けて、とある料亭の個室を訪れていた。
実のところ大病院の医師である石田雨竜は言うほど暇の多い人間ではなく、かなり無理をしてこの余暇の時間を確保しているが、その気配は微塵も見せていない。
そこまでする理由は単純に
そしてもう半分は、それなりに接触の機会があることから来る黒崎遊子という少女への理解故。
深刻な様子で、それも自分という絶妙に近くも遠くもない人間を選んで、態々一対一での相談を望むという自体に、ただならぬ気配を感じたからでもある。
なお、この事態を知った人間が居れば、例えば黒崎一護の友人である浅野啓吾などであれば、「いやお前……いい年した男女が二人っきりで会いたいとかそれはもう……色恋以外にありえないだろ???」とツッコミを入れる状況ではあるが、石田雨竜は全く気付いていない。
「それで、早速本題に入ってもいいかな?……相談っていうのは?」
「はい……その……」
「私と一勇くんとのDNA鑑定をお願いすることは出来ないでしょうか!?」
パリンッッッ!!!(眼鏡の割れる音)
「………………あの?」
「……すまない、少しだけ頭の中を整理させてくれ」
瞬間、石田雨竜の脳裏に過るのは黒崎一護の友人である小島水色から伝えられた警告。
『遊子ちゃんの一勇君を見るときの眼は"マジ"だよ』
血縁的には叔母と甥に当たり、兄との年齢差がややあるのもあって現実の間柄は少し年の離れた姉弟に近い、という微笑ましい関係……と、一見したものは思うだろう。
『何かと不慣れな自分を支えてくれるし、一勇くんの相手をしてくれるのは、母親としての嫉妬もなくはないけど、正直に言えばそれ以上に助かっている』と、義姉との関係も良好で、黒崎一護の妹にしておくには勿体ないと思うほどの『良い子』であると認識していた。
そんな石田雨竜にとって、小島水色からの言葉は青天の霹靂であったし、『何を馬鹿なことを』と咄嗟に否定した。
が、小島水色は石田雨竜よりも多少なりとも早く黒崎一護と友人としての付き合いを始めており、何より『仲良く遊びに出歩くような間柄ではないだろう』という互いの共通認識からプライベートでの付き合いに関しては他と比べればかなり希薄な黒崎一護と石田雨竜の関係性を鑑みると、黒崎遊子という少女に関する見立ては小島水色の方が正確であるという判断も間違いではない。
そんな小島水色から聞かされたのは、黒崎遊子に関する、主に黒崎一護から漏れ出てきたという話の数々。
曰く、もう一人の妹である黒崎夏梨と違い、なかなか兄離れしたがらず困っているという言。
具体的には、本人が断固として拒否した為止まることとなったが、かなり大きくなるまで一緒にお風呂に入っていたという話。あるいは兄のお下がりを黒崎夏梨は文句を言わず受け入れただけだったが、黒崎遊子はむしろ『兄のお下がりであること』に価値を見出し喜んで着ていたこと。あるいは、あるいは、あるいは……。
あくまで状況証拠でしかなく、決定的なものは何もないが、それでも『かなり重度のブラコン』と判断出来るだけの証言は揃っている。
だが、黒崎一護と結婚し義姉となった井上改め黒崎織姫と問題なく良好な関係を築けていることから、『あくまで家族の好きであって恋愛対象としての好きとは違うだろう』と当時石田雨竜は反論した。
小島水色もそれを肯定したものの、『でも、今の遊子ちゃんが一勇くんへの家族愛を恋愛感情と混ぜて考えてしまってる可能性はあるよね?』と言われ、それ以上の反論を石田雨竜は思いつかなかった。
かくして、『黒崎遊子は黒崎一勇と恋愛的な意味で関係を構築することを目論んでいる』という疑念が、石田雨竜の中には植え付けられていたのだった。
が、ここでそれを指摘するのは余りに早計。
小島水色の推測がただの穿ち過ぎであるという可能性も十分存在するのだから。
「……どうしてそんなことを、というのは……聞いてもいいのかな」
「その……調べてみたら、血が繋がっていないなら、結婚が出来るって知って……」
パリンッッッ!!!(眼鏡の割れる音)
穿ち過ぎなどではなかった。小島水色の推測は正しかった。
それはマズイと矢継ぎ早に否定の言葉を紡ぎそうになる口を抑え、順序立てて黒崎遊子の思考を整理し、決定的な問題点を指摘する。
「けれど、君はくろさ……アイツの妹だろう?なら、一勇くんとは血が繋がっていないわけがないじゃないか」
「………………それは」
そう、確かに法的には血が繋がっていなければ結婚できる。
しかしそれは、連れ子や親の再婚などで血縁関係はないが家族関係はある、という特殊な関係が築かれた場合の話であって、黒崎家においてそのような複雑な家庭事情が存在するという話は(ある意味ではそれ以上に複雑な血縁の問題はあるものの)聞いたことがない。
ならば、黒崎遊子の希望的観測は最初から破綻しているはずだ。
「私が……血が繋がっていないかもって、そう思って……」
「……なんだって?」
「だって、家族は皆幽霊が見えるし、触れるし……でも、私はそれなりに視えるくらいで、そういう霊感が大して強くない……お父さんもそうだったから、お父さんの血が濃く出たんだって昔は思っていたけれど、本当はお父さんも霊感が凄く強いって知って……お母さんも……なのに……」
「……遊子ちゃん」
「……夏梨ちゃんと違って、胸もおっきくならなかったし……」
パリンッッッ!!!(眼鏡の割れる音)
男性である石田雨竜には触れづら過ぎる話題であったため、最後の一言は聞こえなかったことにした。
(しかしそうか……問題の根幹は、『自分だけが違う』というところか)
元は護廷十三隊の隊長の内の一人だったという父の黒崎一心。
そして数少ない真血の滅却師であった母の黒崎真咲。
この二人の間に生まれて、『多少霊感がある』程度止まりであるのは、確かにむしろ違和感があるくらいだ。
黒崎一護の霊的能力が、数多の苦難を乗り越えて覚醒を続けた結果生まれた外れ値と考えても、黒崎夏梨くらいの能力はある方が自然ではある。
新しく増えた義姉まで含めても、家族の中で自分だけが霊的能力で著しく劣っている。
そのような状況で暮らし続けていれば、その劣等感が何らかの歪みとして出力されるのは、そこまでおかしな話でもなかったのかもしれない、と思い直す。
(しかし……参ったな)
現状では、否定できる材料がない。
黒崎一家の異常なまでの霊的能力の高さの中で、黒崎遊子だけが常人寄りであることは事実であり、それを不可思議に思うこと自体は真っ当な感覚ですらある。
そして厄介なのが、もし彼女の懸念が事実であり、例えば彼女自身が物心付く前に黒崎家に引き取られた身の上であったとして、それを知っていたとしても黒崎一護や黒崎一心、黒崎真咲は本当の家族として接していただろうと容易に想像できることだ。
黒崎家全体に共通するその真っ当な善性(ある破面に言わせれば"
だからこそ、今までの黒崎家での扱いを根拠に彼女の不安を払拭することは逆に不可能である。
故に、石田雨竜は切り口を変えることにした。
「遊子ちゃんは……一勇くんとどうしても結婚したいのかい?」
「それは……一勇くんのことは大好きだし……」
「けれどそれは、くろさ……お兄さんやお義姉さんとはまず間違いなく袂を分かつ決断になるよ」
「ぇ…………ぁ…………」
そう、まだまだ幼い一人息子と、家族とは言え成人した女性が、そういった関係になりたいと望むことは、一般的には忌避される事柄ではある。
普段の素行の悪さから勘違いされることが多いが、なんだかんだ根は真面目な常識人である黒崎一護が、頭ごなしに否定してくる……少なくとも難色を示すことは、想像に難くない。
せめてその黒崎一勇が成人かそれに近い年齢で、黒崎遊子の一方的な想いではなく双方の合意があれば、いつものしかめっ面をしながらも話を聞く姿勢くらいは取ってくれそうだが……今の状況では、それすら望めない可能性が高いだろう。
「遊子ちゃんは、家族の中で一人だけ仲間外れだ……という感覚が、気になりすぎてしまっているんじゃないのかな?」
「………………かも、しれません」
「確かに状況を考えれば君の孤立感はあってもおかしくないものだけど……独りで悩みすぎた果てに、少し突拍子もない発想に飛びついてしまった……という感じだと、聞いていて思う」
「……う、うううぅぅぅ……!!」
「だ、大丈夫かい?」
「なんだか冷静になってくると自分が凄く頭のおかしいことを言ってしまっていた気がして……!!」
「それは……まぁ……」
流石に苦笑いを浮かべるしかない石田雨竜。
大好きな兄ともし血の繋がりがないというのなら、代わりに甥と結婚してしまおう、というのは……まぁ、かなり控えめに言って、非常識な発想ではあるだろう。
「わ、態々お呼び立てしたのにごめんなさい!!きょ、今日のお話は聞かなかったことに……!!」
「あぁ、構わないよ。……でも、そうして思い悩むくらいなら、誰かに相談してしまう方がいいと思うよ?人間、思い詰めると変な方向に思考が飛躍してしまうのはままあることだからね。第三者の視点があれば、それもある程度未然に防げるだろうから」
「お、仰るとおりで……」
「今回は、内容が内容だったから、身近な人間に相談できる相手が居なかった、というのも分かるけれどね」
「はいぃ……」
それから。
二人は事前に頼んでいた料理をつまみながら他愛のない世間話を交わし、日の暮れた後に利用していた料亭を出ることになった。
「本当に、今日はごめんなさい、石田さん……変な相談に乗ってもらった挙句、お支払いまでお世話になってしまって……」
「食事の場所を指定したのは僕の方だからね……それに、年下の、それも女性に支払いを任せるなんてことは出来ないよ」
「……ありがとうございます」
「さっきの件だけれど、一応やるだけやってみようか?対象は、一勇くんじゃなくて、くろさ……お兄さんでも、夏梨ちゃんでもいいだろうけど……きっと、君の懸念を払拭するのには役立ってくれるだろうし」
「いえ……その、もしかしたら改めてお願いするかも知れませんけれど……ちょっと、自分が冷静じゃなかったのが分かったので……少し、時間を置かせてください」
「あぁ、それもそうだね……もし、また思考が煮詰まってきたら連絡してくれ。相談に乗るよ」
「それは、その……お願いするかもしれません……お世話になってばかりで申し訳ないです……」
「君の家には時々お邪魔させてもらってるし、その度に遊子ちゃんにはお世話になっているからね。お互い様さ」
「……こ、今度また遊びに来てください!しっかりおもてなしさせてもらうので!」
「ははは。あぁ、その時はまたよろしくーー」
ぶるぉんぶるぉぉぉんんん!!!
「なんだ……?」
そろそろ帰路に着こうかというところで、突如としてバイクに乗った集団が二人の前に立ちふさがる。
「何者だ、君たちは」
「おいおい寂しいこと言うなよ先生……今でもアンタに殴られたところが痛んで仕方ないっていうのによぉ……!」
即座に黒崎遊子をかばいながら前に出た石田雨竜に対して、男たちはバイクを降りて前に出る。
その顔を見た雨竜は思い出す。
「あぁ、以前ウチの病院に押しかけてきた不良の集団だな?確か患者へのお礼参りだとかなんとか言っていたか……」
「おうよ!武装して乗り込んでやったらアンタにボコボコに叩きのめされて病院送りにされちまった恨み……晴らさせてもらうぜぇ!!」
「完全に逆恨みじゃないか……」
「しっかしお医者様の先生のくせに随分と貧相な女連れてるじゃねーか、えぇ?」
「っ…………!」
視線を移された黒崎遊子の体が、思わずこわばる。
「背格好からして中坊か?ぎゃはは!先生ってばもしかしてそういうしゅmぽぎゅっっっ」
一歩前に出てきた不良その1に対して、石田雨竜の返答は、一般人相手には少々過剰な威力で放たれた前蹴りであった。
「横ちん!!」
「大丈夫か横ちん!?」
「てめぇよくも横ちんを!!!」
「訂正しろ。遊子ちゃ……さんは淑女として扱われるべき立派な一人の女性だ。まかり間違っても、お前らのような人間如きが上から目線で秤にかけていいような
「…………………………」
「…………しまった、訂正させるつもりならもう少し手加減するべきだった」
「お、おめぇら!!やっちまえ!!」
数秒後。
「……面倒な事になってしまったな」
死屍累々……とまでは言わないまでも、気絶しているかその一歩手前かの状態で転がされている不良集団を前に、思わず石田雨竜は額の皺を揉みほぐす。
「正当防衛を主張……いや、過剰防衛にされてしまうか……つい力が入ってやり過ぎてしまった」
「す、すごい……石田さんって、喧嘩も強かったんですね……」
「ん、あぁ、まぁね……ごめん、遊子ちゃん、こんなことになってしまって……」
「い、いえ!私こそ、護って貰ってありがとうございます」
「アイツらの狙いは僕だったから、遊子ちゃんは巻き込まれただけだよ……本当に申し訳ない」
「そんな……石田さんは、何も悪くないですから……」
「そう言ってもらえると、いくらか気が楽になるよ。……じゃあ、さっさと逃げてしまおうか」
「えぇ!?い、いいんですか!?」
「よくはないけれど、捕まっても面倒だし、こいつらの逆恨みのせいで不利益を被るのもバカバカしいしね……さ、行こう!」
「は、はい!……ふふふっ」
「遊子ちゃん?」
「あっ、ご、ごめんなさい!……こういう荒事に慣れてる感じ、なんだかお兄ちゃんに似ているなって思ってしまって……」
「……………………………………」
黒崎一護に似ている。
その評価を受けた石田雨竜は、非常に味わい深い表情を浮かべることになる。
そしてその額に眉根を寄せた不機嫌そうな顔を見て、黒崎遊子が思ったことは、
(やっぱり石田さんって、思ってたよりもお兄ちゃんに似ているかも……)
であった。
「お帰りなさい、遊子ちゃん」
「ただいま、義姉さん」
「お友だちに会いに行ってたんだよね?楽しかった?」
「あ……はい」
「?」
秘密裏に事を運ぶため嘘をついていたことに罪悪感を抱いた黒崎遊子は、返答に若干つっかかりながらも、それを義姉である黒崎織姫が指摘することはなかった。
だからこそ、というべきか。
罪悪感に耐えきれなくなった黒崎遊子は、ぽつりぽつりと今日あったことを話し始めた。
「実は……今日会いに行ったのって、友達じゃなくて、石田さんなんです」
「え、石田くんに?」
「はい……その、お医者さんの石田さんに相談したいことがあって……」
「えっ遊子ちゃん、どこか調子悪いの!?」
「あ、いえ!そっちの問題は私の勘違いだってわかったので、大丈夫です!」
「そ、そっかぁ……良かったぁ……」
「それで…………あの…………」
「うん、なぁに?」
『遊子さんは淑女として扱われるべき立派な一人の女性だ。まかり間違っても、お前らのような人間如きが上から目線で秤にかけていいような女性ひとじゃない』
「い、石田さんの、好みの女性のタイプって、どういう人なのか……義姉さんは、知ってたりしますか?」
「………………………………ゑ?」
BLEACH最終巻読んでたら遊子は一勇くんになんかヤバい感情向けてそうだなってなったし夏梨ちゃんはデッッッッカってなった
日常回が全然足りない……BLEACHの登場人物たちはもっと軽率にイチャイチャして欲しい……
思いの外文字数が伸びてしまったので最後は駆け足でまとめ