思いついたまま短編集 作:戯れ
裏梅の出番はもっとあってよかったと思ってる作者
『凍星』裏梅は全速力で走っていた。
先日、宿儺様の器となっている虎杖悠仁とかいう小童を襲撃し、愚かにも宿儺様の怒りに触れ、とある『縛り』を結ばされて帰ってきたという『人間』の呪霊・真人。
その呪霊から伝えられた言葉を聞いて、居ても立っても居られず飛び出した。
『裏梅に伝える。疾く俺のもとに馳せ参じろ』
事を裏で引いていた
かもしれない、という可能性が頭を過る。
私の現代への受肉をまだ宿儺様に知らせることは出来ておらず、私の現状を知らない宿儺様が私を呼ぶことがそもそも有り得ない事態なのだ。
しかしそんなことは些事である。
仮に九分九厘罠であったとしても、万が一本当に宿儺様が私を呼んでいるというのなら、私がそれに応えないことは有り得ない。
宿儺様のお役に立つこと、その為に全てを捧げると決め、それを実行してきたのが私という存在なのだから。
かくして、伝言を聞き届けた私は、休むことなく全力疾走した果てに、呪術高専へと辿り着いた。
「宿儺様はどこだ」
「着いて開口一番それか……アンタには色々と聞かなきゃならないことが、」
「黙れ小僧。私が宿儺様以外の命令を聞くと思うな」
「おい、ちょ」
目の前に現れた人相の悪い黒髪の小僧を氷漬けにしようと呪力を漲らせ、
「待て、裏梅」
その手を、背後から掴まれる。
常ならば自分の手を掴んだ不埒者ごと氷漬けにして行動を続けていただろうが、私はそれを停止した。
背後に感じる気配、それはこの世においてあらゆるものを差し置いて例外となる御方のそれであったからだ。
「す、宿儺様!?」
「よく来た、裏梅」
「も、もったいのうお言葉にございます………………あの、宿儺様?」
「なんだ?」
「あの……お手が……その……このままでは、跪くことすら……」
「……おっと、掴んだまま離すのを忘れていたな」
パッと自身の手を掴んでいた手が離される。
その手の温かさを名残惜しむと共に、素早く跪いて頭を垂れる。
「裏梅、お申し付けに従い馳せ参じました」
「あぁ。改めてよく来た」
「ご命令があらば、なんなりとお命じください」
「ではまず、
「はい。元よりそのつもりなれば」
「うむ、
「………………」←嬉しい
「あとは………………今は、特に無いな」
「は……」
「何、受肉してしばらく、お前の居ない生活というのをしていたが、どうにも不便を感じることが多くてな。『お前が居ればこの程度のことに煩わされることもなかったろうに』と何度も思っている内に、お前が傍に居ない生活というものに我慢が出来なくなった、それだけだ」
「………………」←めちゃくちゃ嬉しい
「用があれば都度伝える。今は、オレ……というよりは、器である小僧から付かず離れずの位置に立ち、用命があるまで待機しろ」
「はっ」
自らの為すべきことが明確となった私は、立ち去ろうとする宿儺様の気配を察知し、言われた通り御方の三歩後ろを歩きながらーーー
「あ」
何かを思い出して立ち止まった宿儺様の姿を前に、釣られてその場に立ち止まった。
「一つ、試したいことがあった」
「何でございましょう?」
「手を出せ、裏梅」
「? はい」
一瞬意図を掴み損ねたものの、宿儺様の命令に否を返すわけもなく。
言われるがままに手を前に差し出し。
その手を、がっしりと掴まれた。
「っ!?!?!?」
「隣に立て、裏梅。そしてこのまま連れ立って、オレの隣をしばらく歩け」
「は、い……!?」
ぐいっ、と強引に引っ張られ、宿儺様の歩みを遅らせるわけにはいかぬと早足で追いつき、緑が生い茂る中を連れ立って歩く。
その姿はあるいは端から見れば人の番のようでーー
(ななな何を考えている私はっっっ!!!)
これは邪念だ!自身の欲望が入り混じった邪念!!
そのようなものを宿儺様を前にして抱くなど万死に値する!!!
(………………しかし)
目の前の人物は本当に宿儺様なのだろうか?
まだ二本しか無いため自分の覚えているソレに比べれば些か量では劣るものの、その圧倒的な存在感を放つ呪力は間違いなく宿儺様のもの。しかし……
「オレらしくないと思うか?」
「は、いえ、その……」
「ククッ、良い。オレも、オレらしからぬ行動を取っている自覚はある」
「………………」
なんと返せば正解なのか分からず、思わず押し黙ってしまう。
「以前のオレは、思うがままに力を振るい、呪い、呪われ、その生を『悪くはない』と堪能していた。……が、こうして第二の生と呼ぶべき状況を得て思ったのだ」
「と、言いますと……?」
「オレが下らんと切り捨てていたそれらは、意外と味わってみれば美味だったかもしらん、と」
ようするに、食わず嫌いを疑っているわけだ、と宿儺様は自嘲気味に笑う。
千年前には見られなかったカタチの笑みに、どんな感情を抱くべきか戸惑う。
「いつまで続く気紛れかはオレ自身にも分からん。だがこの気紛れが続く内は、お前にも付き合ってもらうぞ」
「は……」
「それとも、こんなオレには愛想も尽きるか?」
「そのようなこと!私はどこまでもいつまでも、ただ宿儺様の傍に付き従うのみでございます」
「そうか」
それきり、言葉を重ねるでもなく、ただの並木道を、ただの人の如く歩く宿儺様。
私のやることは変わらない。
だがどのような感情を抱いて傍を歩くべきかはやはり分からず……。
ただ。
そっと、握られた手に籠める力を強め、こちらから宿儺様の手を握り返す。
「………………」
「………………」
弾け飛びそうな程早鐘を打つ、自らの心臓の音を聞きながら。
ただ、手を握り返すことを許してくれた宿儺様との時間に。
(
感極まって叫びだしてしまいそうな喉を、抑えつけていた。
虎杖(………………で、出ていきづれぇ~~~)