「下がれ、真希、真依」
現代の異能、500年に一度の逸材、六眼保有者ーーー五条悟、その封印。
凡百の存在と比べれば無比の強者として生まれた己をもってしても、一世一代と言っていい偉業を乗り越えた呪霊、漏瑚。
その目の前に現れたのは、悠久の時を生きた大樹の年輪の如く、深く皺の刻まれた老練な雰囲気を醸し出す一人の呪術師。
「で、ですがお父様!」
「異論は許さぬ。貴様ら如きでは、斯様な戦場では立つことすらままならん。自らの分を弁えろ」
「……クソがっ、退くぞ!真依!」
「誰が、逃げてよいと言った?」
背を向けて走る二人の少女へ向けて、自らの炎の凝縮体である『火礫蟲』を差し向けてーー
迸った炎刃によって撃ち落とされる。
「追ってよいと、言った覚えはないぞ」
「……生意気な」
「術式解放ーー万象一切灰燼と為せ、『流刃若火』」
溢れ出る呪力が、龍が如き炎となって周囲を覆う。
ただの人間であれば、そこにいるだけで皮膚は焼け肺は爛れ死に絶えるだろう熱量、だがしかし……。
「よりにもよって炎か」
老体の前に立つは『火山』の呪霊、漏瑚。
炎熱をこそ操る漏瑚にとって、周囲を覆う炎熱は脅威足りうるものとは映らなかった。
「死ね」
素早く老体の背後へと回った漏瑚はその頭部へと手を伸ばしーーー
伸ばした腕ごと、肩の付け根までを焼き斬られた。
「!?」
咄嗟に飛び退って、斬られた腕を修復しながら目の前の老体を睨みつける。
腰に差して居たはずの刃が振り抜かれた体勢で止まっている事から、刀によって自らの腕を斬られたことを認識する。
(問題なのは、儂が斬られた瞬間に一切反応出来なかったことだ)
腰の刀に手を掛けていたのは分かっていた。その上で、自らの力があれば警戒の必要はないと断じていた。
「……流石に、一太刀では首までは取れんか」
しかしここに至ってようやく、漏瑚は自らの認識が甘かった事を認めざるを得なかった。
「名を名乗れ、呪術師」
「人に名を尋ねるならば、自らが先に名を名乗るべき……と、言いたいところだが、呪霊風情に人の理を説くのも無駄というものか」
「この儂が人間風情に態々名を聞いてやっているのだ。貴様はその栄誉を感じながら早々に答えればよい」
「……まぁ、よかろう。ならば覚えておくがいい」
「禪院家当主、禪院扇。貴様を殺す呪術師の名だ」
「冥土の土産に覚えて逝くがいい。最も、呪霊である貴様らが冥土に行くことが出来るかは、私の与り知らぬところではあるがな」
「……どこまでも口の減らん人間だな」
この禪院扇、かなり山本元柳斎重國