対峙したのは便利屋を追って来たと思われるゲヘナ学園の風紀委員会、その実働部隊。
砲兵隊と歩兵部隊を組み合わせ、アビドス自治区にやってきた。 そして砲撃、市街地に着弾。 損害軽微なれど、その後は抗議するアビドス生を邪魔者として排除しようとするまである。
いくら規律違反者を追跡、捕縛する為とはいえ、侵略行為と思われて仕方がない。 アビドスの生徒は5人しかいない弱小だからと舐めているとしか思えない。
「ゲヘナってのはキヴォトス3大校に数えられる、悪魔の生徒がメインの勢力とは聞いているが。 人の土地を荒らすのは悪魔なりの風紀なのか?」
マルコ、スラグガンナーに乗ったまま臨戦態勢で話し掛ける。 イオリはヘンテコなロボットと、それに乗る大人に警戒。
チナツも警戒、部隊にハンドサインを送って銃口を向けさせ、援護できる姿勢を維持。
「誰だよアンタ。 その変なロボットといい、まさかシャーレだったりするのか?」
「そしたらどうする。 穏便に話し合うか? 便利屋を追ってるなら協力するぞ?」
「他所の助けはいらない」
「そうかい。 でも俺らとしちゃ、ここまで荒らされて何もなしは困るんだ」
「邪魔すんの? 先生と5人程度で、この数を相手にするって?」
「御託は良い。 さっさと来い前線指揮官。 上を引き摺り出す餌にしてやらぁ」
「馬鹿にするな!」
「イオリ!」
チナツの静止の声を聞かず、感情のままにガンナーに飛び掛かるイオリ。
マルコ、パイルバンカーを突き出し、タイミングを合わせ射出。 火薬の勢いで打ち出された杭がイオリの腹を叩く!
「かはっ……!?」
蹴りや拳の何倍かも分からない力で腹が潰され、体内の空気が吐き出され、苦痛の声すら潰されながら部隊後方へと飛んでいくや、そのまま地面を転がり気絶してしまった。
一方パイルバンカーの腕からは、バコンッ! と景気良く音を立てて大きな空薬莢が排出される。 格好良いが、現場はそれどころではない。
「イオリ!? そんな、一撃で……」
「本来は強いんだろう。 もっと冷静ならな」
「くっ、撃ち方用意、始め!」
チナツの号令で、一斉に撃ち始める風紀委員の歩兵部隊。 ガンナーとアビドス生それぞれに銃撃を浴びせていく。
「結局こうなるんだねぇ。 分かりやすいけど」
「負けない!」
「仕返しの時間ですよ〜⭐︎」
「今日は何て日よ!」
「シャーレからの補給が無ければ、とっくに戦えていませんね……」
「殲滅する気で戦え。 俺も出る」
マルコ、ガンナーを変形。 脚が畳まれ車高が低くなり、人型から戦車型に。
ギュイィーーと高速で動く履帯の走行音。 この形態でパイルバンカーは使えないし、バルカンも前方に固定されるが、素早く移動できるし敵を轢ける。
マルコ、その特性のままに歩兵隊にバルカンやキャノンで撃ち返しながら突っ込みつつ、逃げ遅れた者は車体で蹴散らした。
「戦車に変形して突っ込んでくる!?」
「バルカンの弾幕が強くて撃ち負ける!」
「榴弾にも注意しろ! 吹き飛ばされるぞ!」
「散開! 囲って撃てば……なっ!?」
「飛んだ! 人型になって空を飛んだァ!?」
再び人型になるや、背面ブースターを吹かして大ジャンプ。 太陽を背に、空からバルカンのシャワーをお見舞いする!
「ぐはっ!?」「ごふっ!?」「うっ!」
一気に数を減らす歩兵。
アビドス生に対応きている部隊も、ぼちぼち壊滅といった様相。
「不良や傭兵よりは連帯感があって強かった。 装備の差もあるだろう。 だがソレは俺もだ。 今回は相手が悪かったと思って家に帰りな」
「……シャーレのマルコ先生、噂以上です」
戦々恐々とするチナツ。
油断はあった。 けれど、まさかここまでとは思えなかった。 妙な戦車に乗ってるくらいで、歩兵隊が壊滅するなんて。
残された戦力を集結させれば或いは……というところで無線が入る。 それはサンクトゥムタワーで見たのと同様、ホログラム付きで、マルコ達にも見えているものだった。
「初めまして、マルコ先生」
ホログラム越しの彼女は水色の髪の毛に、それ以上に目を引く大きな胸、そして横乳が見える服という、痴女と言われる可能性がある格好だった。
「あんたは? この作戦の責任者か?」
「私はゲヘナ学園の風紀委員会行政官、天雨アコと申します。 以後、お見知り置きを」
「挨拶はいい。 コレは何の真似だ、人の自治区に武力行使する程か」
「ええ、便利屋は勝手に起業し、学園を飛び出しているので……是非その力、風紀委員会の為に役立ててくれませんか?」
「さっきは断られたんだが」
「不手際があり、申し訳ありません。 ですがお陰で先生の強さの片鱗を見る事ができました」
どうもその場の出まかせではなく、計略の内らしい。 本心は現場に伝えていない雰囲気を醸し出す。
表向きは便利屋の捕縛だが、真の狙いは別にある。 察するに───。
「便利屋じゃなく、俺が狙いか」
「さて、どうでしょうか」
とぼけられたが、マルコは代わりに言ってやる。
「シャーレってのは権限が強過ぎる。 学園への無制限介入、生徒の引き入れ、戦闘行動……政治屋やってる奴ほど、脅威にも駒にもなるだろうさ。 だが見て分かったろ。 俺は今アビドスの対応で忙しいし、女学生に顎で使われる気はねぇ。 そういう訳だから部隊を引き上げさせろ」
「そうですね、先生は懸念要素です。 しかしご安心ください。 少しの間、ジッとしてくれていれば良いんです。 でないと、少々手荒な処置をさせていただきます」
アコが砲兵隊に指示を出そうとした刹那、新たな声が響いた。
それは大きな蝙蝠の翼を広げてやってきて、バサリとマルコ達の前へ舞い降りた。
小さな背丈に白いロングヘア、大きな角が生えて、紫色を基色とした立派なコートを羽織っている。 得物もまた大きな機関銃で如何にも強そうだ。
「アコ、これはどう言う事?」
「ヒナ委員長!?」
来たのは空崎ヒナ。
1番偉くて強い、風紀委員長だ。
「その、用事があったのでは……?」
「早めに終わった。 それで戻ってみれば、この状況。 私に断りもなく他の自治区に部隊を出すなんて、そんな余裕はウチに無いでしょ」
「お言葉ですがヒナ委員長。 其方にいるロボット、じゃなくて中にいるマルコ先生は大変脅威です」
「心配する気持ちは分かる。 エデン条約締結までの懸念になるって。 でも私達は風紀委員会、政治活動は万魔殿のタヌキにやらせておけば良い───アコ、帰ったら反省文」
「……はい委員長」
しょぼくれた声と共に、プツンと切れる通信。
ホログラムが消え、チナツを中心に撤退の準備が始まった。 その引く波の中、ヒナはマルコ達に謝罪をした。
「アコがごめんなさい。 あなた達の土地に勝手に立ち入った事は謝るわ」
「それじゃあ、このまま撤退して、柴関ラーメンの店とか直してくれるのか?」
「それとコレは別。 便利屋は捕まえなきゃいけない。 邪魔はしないで」
「……まだやるのかよ。 だが便利屋には俺達も用事があるんだ。 被害が広がった挙句にリターンが無いのも気分が悪い」
「あなた達の事情は知らないけど、邪魔するのね」
互いに大きな銃口を向け合う。
キヴォトス最強格、ヒナとの戦いが始まろうとしていた……!