「大変です! ブラックマーケットの銀行が襲撃され、現金及び紙媒体による記録書が強奪されました!」
「追撃に出た、貴重な爆撃機も失いました!」
「サーバーに不正アクセス! 新型コンピュータウィルスによる攻撃も検知! 金融会社のみならず、PMC、インダストリー社、各社口座全て凍結! 数字は全てゼロに!?」
「不正取引の証拠流出! クロノス報道部及び連邦生徒会から追及の声が!」
アビドス生が銀行襲撃後、カイザーコーポレーションは混乱の坩堝へ叩き落とされた。
銀行を物理的に襲われた程度なら、ここまで取り乱さない。 言わずもがな、マルコの仕業だ。 自身が趣味とするコンピュータ、ハッキングで不正を暴き回ったのだ。
特に自作ウィルスをサーバーに注入したのが大きい。 ウィルスは自発的に悪徳大企業が使用するセキュリティ、ファイヤウォールを秒で突破。 続々と不正データをネットの海へ垂れ流し、既に大衆に隠せないレベルにまで達している。
「おのれおのれおのれぇ!! タイミング的にアビドスか! いやシャーレのマルコ、そうに違いない!!」
理事は発狂するも、今度はその証拠が無い。
構う余裕も無かった。 溜め込んだ数多の不祥事、不正記録の山、それら流出で起きた濁流が、金も地位も押しつぶす。
「理事、プレジデントからも責任の所在について追及がきております」
「ひいぃ!? 知らん、私は知らんぞ!」
「眠れる獅子を起こした責任は大きい、と」
「ふざけるなあああ!!」
アビドスを早期に潰さず、じわじわと痛ぶって楽しんでいたツケが理事に回る。
何かしらボロが出ても、こんなアッサリと足元が崩れる筈が無かったのに。
「夢だ。 これは悪い夢に決まってる!」
ところがどっこい、夢じゃない。
カイザーPMC理事は多大な出血を強いられる。
取り敢えずカイザー本社の口座は無事だったので、そこから補填して薄皮1枚で繋げつつ、以後、アビドスには手を出さずに本命……砂漠で例のブツの発掘作業に集中しろと本社命令が飛んできた。
同時に連邦捜査部シャーレ、顧問のマルコ先生には要警戒するようにと全社に通達。 事実上、大企業がたかが個人を認知、敵認定した瞬間である。
「いずれこの借り、返してやるぞマルコォ!」
復讐にメラメラの理事。
本社命令があるからと、コケにされて黙っていられるほど、地位もプライドも安くなかった。
しかし、その代償はあまりに高くついた事を知るのは、そこそこ未来でのお話である……。
「マルコ先生! カイザーローンから連絡が!」
アビドス、廃校対策委員会室。
戻ってきて暫くして、アヤネに1本の電話。
それは前回同様、ローン会社からだった。
「ほぅ。 なんて言ってる?」
「その、計算ミスで借金は返し終わっていたのが判明した、と……返済証明書を発行されました……」
「そうか。 良かった、これで解決だ」
「あと、基地への攻撃は不問にすると」
「おー、暴れた甲斐があったな」
突然、借金返済終了となり、喜びより困惑が勝つ面々。 マルコはその中で唯一、笑みを浮かべている。
「何かしたんですか?」
「ん? 君達も一緒だったろ? 不正取引の証拠をネットに撒いたお陰さ」
そう言われるも、腑に落ちない。
お金の流れは勉強不足だから分からない事が多いけど、紙に記載されていた事をネットに流しただけで、こうも上手くいくだろうかと。
そう怪訝な顔を向けられたマルコは、バツが悪そうに頭を掻くとアヤネのノートPC、ネットのトップ画面、ニュース一覧を指差す。
「お、見てみろ。 大企業カイザーコーポレーションにハッキング、未知のコンピュータウィルスが暴れてるんだってよ。 そんでヤバい不正記録が流出してるんだと。 口座が止まったり、帳簿の上で金が踊って大慌てだとさ。 悪い事をしてきたバチが当たったな?」
「……本当に、何も知らないのですね?」
「……アヤネ、大人は怖ェんだ。 今後は気をつけな。 まだ1年だろ。 これからのアビドスを、先輩を支えてやれ」
脅しとも、憐れみとも取れるマルコの言動に、口を結ぶアヤネ。
色々教えて欲しい事はある。 だけど、マルコ先生なりに裏で頑張っていたのだろう事も察する。
まだ大人じゃないけれど。 もう子供のつもりもない。 いや、マルコにとっては子供だろうけど、それでも。
「マルコ先生」
「ん?」
「尽力して下さり、ありがとうございました」
ペコリ、と頭を下げた。
お礼は、ちゃんと言いたかったから。
「おう」
そう短く言って、マルコは頭を撫でたのだった。