「AL-1S。 型式番号か?」
「えーえるわんえす、じゃなくてアリスだよ!」
「本当は先生の方が合ってると思うけど。 でもアリス、その方が親しみがあるかな」
廃墟で発見した全裸少女ことアリスに、ミドリがパンツや上着を着せて、取り敢えずの体裁を整えると。
「ッ、2人とも俺の後ろに!」
突如としてアリスの目がパチリと開いた。
マルコは咄嗟に拳銃を構えるが、アリスは臆する事もなく淡々と人の言葉を紡ぐ。
「状態の変化、および接触許可対象を検知。 休眠状態を解除します」
「あとは向こうの出方次第だ。 2人とも、銃はしっかり握ってろ」
マルコは姉妹を庇いながら、尚も警戒を緩めない。 しかし発砲はしない。
危機感はあるが、同時に興味がある。 好奇心に応えてくれるだろうかと。
「状況把握、難航。 会話を試みます。 説明をお願いできますか」
「えっ、えっ? せ、説明? なんのこと?」
「せ、説明が欲しいのはこっちの方! あなたは何者? ここは一体なんなの!?」
「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。 データがありません」
「本当か?」
残念ながら求める情報は得られそうに無い。
それに、そっくり信じてもいない。 嘘をついている可能性もある。
獣が狩人の言葉を信じるな……この場合、どちらが獣なのだろうか。
モモイとミドリは混乱と興奮のまま、素直な気持ちを吐露しているが。
「ど、どういうこと? いきなり攻撃してきたりこないよね?」
「肯定。 接触許可対象への遭遇時、本機の敵対意思は発動しません」
「うわ、すごい。 ロボット市民ならキヴォトスによくいるけど、こんなに私たちに似てるロボットなんて初めて」
マルコもそうだな、と肯定。
そして高度な技術だろう。 それが油断させる為なのか、そうじゃないのか。
作り手がこのデザインにした意図は何か。 警戒は尚もある。 同時に好奇心も。
「うーん……先生どうしましょう?」
「接触許可対象ってどういう意味だ?」
「回答不可、本機の深層意識における第1反応が発生したものと推定されます」
「深層意識……?」
誤魔化されている気にもなるが。
中身がなくても、後で如何様にもできそうだ。
が、能天気モモイ。 敵意が無さそうならばと都合の良い算段をつけてしまう。
「工場の地下、ほぼ全裸の女の子、おまけに記憶喪失……ひらめいた!」
「いや……今の言葉の羅列からは、嫌なことしか思い当たらないんだけど……」
「ミレニアムの生徒名簿を偽造! アリスを部員に、仲間にして廃部を逃れるよ!」
「やっぱり」
「置いていく訳にもいかないしな」
結局、一行はG.bibleの他にアリスをお持ち帰りする事にするのであった!
収穫を得て、部室に生還した一行。
AL-1Sことアリスをお持ち帰りしたは良いが、マルコは扱いに困っていた。
ロボット市民と異なり、完全に人間の少女の姿。 腕や頬の質感も人肌の滑らかさで、端子だとかパーツ同士の繋ぎ目とか、球体関節のような機械的な部品は見当たらない。
さても、とマルコ。 もし予想通り機械人間、アンドロイドであれば、とんでもない技術力だなと関心を寄せる。 反乱軍どころか古代人、宇宙人もびっくりではなかろうか。
問題は何の為に作られたかだ。 兵器なのか単なるコミュニケーションツールに過ぎないのか。
「アリス、ね。 童話……いや、別のどこかで聞いた気がする」
関心のままブツブツいうマルコだったが、残念ながら関連性が浮かばない。
アリス、メタスラ的にはAIだが。 目前のアリスとは無関係だろう。 スペルが違うし物理的に存在しているし。
「友好的である事を祈ろう」
厄介事には慣れているマルコは、楽観視とも諦観とも取れる発言をして考えるのをやめた。
分かり易いのは今すぐ破壊する事だが、ここまで高度なオーパーツを訳も分からず破壊するなんてとんでもない話でもあり。
知りたい事が色々ある。 そこから新たな知見が広がるのを期待する。
一方、モモイは本来の目当てであるG.bibleを読み込み、アリス問題を棚に上げて廃部回避ルートを模索中だったが……。
「えっ? これだけ!?」
「そんな……」
落胆の声が聞こえて、マルコは尋ねた。
「どうした。 期待していたものじゃなかったか」
「なんか精神論というか、自分が最高と思えれば最高なんだ的なオチだった……そうじゃなくて、万人に評価される面白いゲームの作り方のコツを知りたかったのにぃ!」
「伝説はアテにできなかったね……」
「ははは! そりゃ残念だったな!」
「笑い事じゃないよもー! ゲーム作り、先生も協力してよね!?」
G.bibleは求めるモノでは無かったらしい。
マルコは他人事として笑い飛ばしたが、ゲーム開発部にとっては死活問題だ。 協力できる事はするつもりだ。 元より、それが任務である。
「わかってる。 それよりアリスはどうする?」
「そうですよね。 アリスちゃんを何とかしてあげないと。 このままじゃミレニアムの生徒じゃないって追われちゃうよ」
「そうだよ! ミドリはアリスに話し方を教えて! 私は学生証の方を何とかしてくる!」
「ちょ、ちょっと待って! はぁ、会話かぁ」
モモイは本当、勢いだけはある。
能力は怪しい。 だがムードメーカーである。
戦場であれ何処であれ、その手も大切だ。 マルコなりに認めつつ、ミドリと共に投げられた仕事を熟す。
「アリスは言葉を喋れるが、話し方に違和感がある。 ネットの海を漁れば、コミニュケーションの取り方が出てくるだろう、それを読んでもらうか?」
「それが堅実かも知れません。 ですが今すぐ用意できる物として試したい事があります」
「何をするつもりだ?」
「ゲーム開発部に入部するにあたっては、ある意味で大切な事かなと」
ミドリはゲーム機をセット。
液晶の前にアリスを座らせて、コントローラーを握らせた。 いずれも何処か古めかしがある。
「アリスちゃん、私たちが作ったゲームやってみない? 酷評されちゃったけど、テキスト表示で進行するから、会話の勉強になるかもだし」
「肯定。 アリスはゲームをやります」
なるほど。 ゲームをやらせて、キャラの会話やテキストを教材としつつ、ゲームも好きになって貰おうと。
或いは、自分達のゲームをやって欲しい、という欲求もあるか。 マルコも興味のままに、アリスの背後からプレイ画面を見始めた。
「タイトルから分かるかも知れないけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの。 といっても色々な要素を混ぜてたりするんだけどね」
「ほう。 開発部の技量拝見だな」
コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた……と文字が浮かぶ。
その後にBボタンを押せと指示され、その通りのボタンを押するアリス。
〈GAME OVER〉と浮かび上がる。
「!?!?」
アリスは困惑し、マルコは眉間に皺を寄せた。
「シナリオライターのお姉ちゃんが、予想出来る展開ほど詰まらないものはないからって、こうしたの。 ここは指示に従わずAボタンなんだけど……改めて見ても、この部分は酷いと思う」
「なるほど、そういうノリか」
理不尽で物語と関連性が無い、やりたいギャグをプレイヤーに強制させて時間を浪費させてくるストレス。
この怒りを例えるなら……背丈の高いハイネック戦車、サルビアの砲口の下にいれば砲撃を躱せるだろと油断していたら、普通に頭上から鉄球のような弾が転がり落ちてきた時のような衝撃というか、その後の嵌められた怒りというか。
「も、もう1度始めます……」
その後も似たような理不尽展開、謎のゲームバランスを味合わされた。
1番辛いのはアリスだろうに、見ているマルコもしんどくなってくる。
「思考停止、電算処理が追いつきません」
「理不尽だよね……クソゲー扱いされちゃうのも、改めて納得するしかないというか」
マルコは悟った。
廃部を撤回させるだけの結果を出すのは、並大抵の域では無い事を。
「ゲーム作りは専門じゃねぇが……トレバーがいりゃ少しは違ったか? いや今いる俺と生徒で、出来る事をするだけか」
今のところ、アリスは安全そうである。
であれば本題の方を優先的に取り組むか。
果たしてマルコはゲーム開発部を救えるのか。
趣味のコンピュータ関連が役に立つのか否か。
アリスの事はどうなるのか。
色々と面白い物事がありそうなミレニアムを堪能する暇は、果たして訪れるのだろうか……。