C&C引け上げ後。
部長のユズが、壊した建物について生徒会に謝罪しに行くも、事故としてC&Cで処理されてお咎め無しとなった。
いくらなんでも都合が良過ぎる話だが、裏事情として、アリスとマルコの危険性についての威力偵察がメインだったのが関係している。
マルコはその辺、何となく察するも、今は己の主任務達成を優先。 ゲーム開発部の運命が決まるミレニアムプライス、その発表日がやってきた。
「ミレニアムプライス、始まったね」
ユズ、レトロなTVをつけて皆と見守る。
画面にはエンジニア部のコトリがマイクを握っており、得意気に司会中。
「今回は、これまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました。 おそらくは生徒会の方針変更により、部活動維持の為に成果が必要になった影響かと思われます!」
「史上最多の応募って」「ちょっと困るなぁ」
「他の部活も大変そうだ」
マルコは呟き、開発部は複雑な表情に。
今回、ゲーム開発部は偶然シャーレのマルコの目に止まり助けられたが、他にも同じような境遇の生徒がいるであろう事は想像に難しくない。
公平性の問題は常に付き纏うが、シャーレのキャパシティは有限で、それも解りやすくマルコただ1人。
……やはりワンオペは無理がある。 いくらシッテムの箱が優秀だとしても。
「───歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ、ミサイルが内蔵された護身用の傘、ネクタイ型モバイルバッテリー、光学迷彩下着セット、ちょうど缶1個なら入る筆箱型個人用冷蔵庫───」
なんか注目度を上げる為か、変な出品が多いようだが、マルコの見てきた武器装備にもその風潮があった気がするのでツッコまない。
「そしてインターネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム『テイルズ・サガ・クロニクル2』及び、試作品の『メタルスラッグ』などなど!」
この並びでゲーム開発部も紹介された。
事実もあるが身内のよしみ、持つべきは友達。
「今回出品された3桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのは、たったの7作品それでは7位から受賞作品を発表します! ─── 7位はエンジニア部、ウタハさんの『光学迷彩下着セット』です!」
「ふぅー……まっ、私たちのゲームは7位にはふさわしくないよね」
モモイが、自身と皆の不安と緊張を消すように言うが、その後も中々ゲーム開発部の名が出る事はなく。
「そして6位! この製品は───5位……4位……」
「ううぅっ! そろそろお願い!」
「ここからはベスト3位です! 3位は……」
「も、もう心臓がもたない!」
「お願い……お願い……」
「僅差で2位を受賞したのは……!」
「お願いします! 私たちの名前を……!」
「くっ、2位でもない……!」
遂に最後まで来てしまった。
これで呼ばれなければ希望は無い。
皆は祈るような気持ちで画面を見つめる。
「最後に! 今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です!」
「ドキドキ……」
「その1位は!」
「うぅ……!」
「新素材開発部───」
ダン! ダン! ダン!
刹那、発砲音。
砕け散るディスプレイ!
絶望した! その発表に絶望したぁ!!
「きゃあっ! 本当に撃ってどうするの!?」
「モモイ……気を確かに持て」
「どうせ全部持って行かれちゃうんだし、もう関係ない! うえぇぇん! 今度こそ終わりだぁぁぁぁぁ!!」
「うぅ……結局、こうなっちゃうなんて……」
「落ち着いて、お姉ちゃん。 でも……」
「分かってるよ! 全部が否定されたわけじゃない、へこたれる必要なんて無いって。 ネット上の評価も悪くなかったし、クソゲーランキング1位のあの時から、ちゃんと成長した。 マルコ先生の協力で作った『メタルスラッグ』のプロトタイプだって、ミドリもユズも頑張って凄いドット絵を作ったし。 これからも、きっと成長していける。 次こそはもっと良い結果を出して、今より立派な大きい部室だってもらえるはず! でも……」
「うん……だって、ここを追い出されたら、ユズちゃんとアリスちゃんは……」
ユズとアリスを見る2人。
ユズは周囲の目がある。 アリスは本当の生徒じゃないから、帰る部屋が無い。
だがユズは、努めて冷静に声を繋げる。
「心配しないで、ミドリ。 わたし、寮に戻る」
「えっ?」
「もうわたしのことを、クソゲー開発者って呼ぶ人はいないと思う。 ううん、もし仮にいたとしても大丈夫。 今のわたしには……この3人と、先生がいるから」
「……ユズ」
言葉が出ないマルコに、向き直るユズ。
「ありがとうございました、先生。 部室に来てくれた時から……わたしたちは、大きく変わる事が出来ました」
「……そう、俺も思うぜ」
やっと出た言葉は、肯定。
現実の痛みを癒すには、あまりにも弱い。
もっと気の利いた言葉が出れば良かったが、今できる精一杯が、コレだった。
「ただ、アリスちゃんは……」
「任せな。 アリス、シャーレに来るか?」
「アリスちゃん……ごめんね」
ミドリの申し訳ない、今にも消えそうな声を立ち直らせるように、アリスは言った。
「いえ。 先生の事は信じられますから。 ですが、もう……みんなとは、一緒にいられないんですね」
でもやはり、寂しさはあり。
廃墟で出会い、短い付き合いだったかも知れない。 打算があっての入部だったかも知れない。 それでもそこに学びがあり愛があった。
その温もりを手放すのは辛い。 それはミドリ達も同様、思わず涙が溢れていく。
「うっ、ごめんね、ごめんねアリスちゃん! 私、毎日シャーレに行く! どこに行っても、一緒にゲームを作ろう!」
「や、やっぱり嫌! 先生! アリスを連れていっちゃダメ! 私の部屋に連れて行く! ベッドも一緒に使おう! ごはんも2人で分けて食べるから!」
「わ、私の分もあげる!」
「2人とも、先生も困らせないであげて……それに、もしそのことがバレたら、モモイも、ミドリも……」
しんみりとした空気の中。
突然ガチャ、と扉が開いて入室してきたのはユウカ。 その表情はだいぶ笑顔だ。
「モモイ! ミドリ! アリスちゃん! ユズ!」
「ひいっ! もうユウカが!」
「ちょ、ちょっと待って! そんな直ぐなんて!」
「悪魔め! 生徒会に人の心は無いわけ!?」
「ユウカ、俺達に恨みがあるのは分かるが」
「おめでとう!」
「……?」「え?」「……嫌味か?」
「え、なにこの反応? 結果見てなかったの?」
「結果?」「私たち7位以内に入れなくて」
「はぁ? 何を言ってるの、今も放送中なんだからちゃんと見てなさいよ」
「お姉ちゃんが吹っ飛ばしちゃって……」
「ほんとに何をしてるのよ……ほら、見てみて。 私もスマホで見てて、途中から走ってきたの」
そう言って、ユウカは携帯機器を取り出して皆に見せ始める。
皆で見るには小さな画面だが、そこにはミレニアムプライスの審査員ロボ市民が何やら語っているのが確認できた。
「───ミレニアムプライスはこれまで、生徒たちの才能と能力で作られた作品に対し『実用性』を軸に据えて授賞を行ってきました。 これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています。
しかし今回の作品の中には、新しい角度から『実用性』を感じさせてくれたものがありました。 とある『ゲーム』が実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです。
よって、私たちはこの度、異例の選択をすることにしました。 今回は『特別賞』を設けます、その受賞作品は……
ゲーム開発部の
『テイルズ・サガ・クロニクル2』です」
「えぇ、嘘っ!?」「何が起きてるの?」
まさかの展開だ。
順位とは別枠で、特別に選ばれていたのだ。
「レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開、一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観、と、最初は困惑の連続でしたが……新しい世界を旅して、ひとつひとつ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く……そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかり込められた作品だと思います。
プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中になった頃の思い出を、鮮明に思い出しました。 そういった点を評価して、この作品に……今回、
ミレニアムプライス『特別賞』を授与します」
「え……あ……」
突然の事、予想だにしていなかった事態に、皆は理解が追いつかない。
夢か現実か。 教えるようにユウカが賛美する。
「本当におめでとう! その、実は私もプレイしてみたの。 決して手放しに面白かったとは言えないけれど……良いゲームを遊んだ後の、あの独特な感覚が味わえた」
「えっと、廃部にはならないんだよね!?」
「そうよ。 でも正式な受賞ではないし、生徒会としては来学期まで廃部を保留する形だから、これからもちゃんと成果を出すのよ……えっと、それから……その……」
「ん?」
「ご、ごめんなさい。 あなた達の事、偏見で色々悪く扱ってきて」
「分かってくれたなら良いよ!」
ユウカは態度を謝罪し、モモイは綺麗さっぱりと流して笑い、簡単に許した。
結果ありきのやり取りだとしても、望んだ結果は取り敢えず得られたのだった。
「……ありがとう。 それじゃあ、部活の延長
申請とか必要だから、落ち着いたら生徒会室に来てね。 じゃ、また後で!」
恥ずかしそうに、逃げるように部屋を後にするユウカ。 マルコには一瞥、軽く会釈する程度で終わった。
未だ一応の礼儀をする程度の仲だが、逆に言えば、散々やらかしてこの程度で済まされているのだ、最悪の関係ではない。
「……完全に嫌われるより、マシか」
独り、寂しげにボヤくマルコ。
対してゲーム開発部の皆はというと。
「や……やったああぁぁぁっ!」
「良かった……!」「やった……嬉しい!」
マルコに気付かず、歓喜する面々。
まだ理解が追いつかず困惑するアリス。
「えっと?」
「アリスちゃん、これからも一緒にいられるよ!」
「アリス、とっても嬉しいです……!」
「うん! これからも一緒だよ!」
「……はい! 宜しくお願いします!」
辛勝といった様相になれど、部活は救われた。
マルコ、共に笑いながら、良いところで撤収する準備に入る。
「めでたし、めでたし。 表向きは、な」
ゲーム開発部の面々を尻目に、扉を閉める。
……帰るまでが任務だ。
「初めましてマルコ先生」
廊下で出待ちしていたは、車椅子の天才美少女。
髪の毛も服も全体的に純白で、病弱そうではあるが声色は悪戯っぽい明るさだ。
「すまんが、店じまいだ」
どうせ厄介ごとだ、俺は詳しいんだ。
そう言うように無視しようするも、向こうは構わず話続けてくる。
お前の事は知ってるぞ、と言わんばかりに。
「ご冗談を。 今回のミレニアムプライスにおける先生の手腕、お見事でした」
「頑張ったのはアイツらだ」
「ふふっ、ご謙遜を」
「少し手伝ったに過ぎない。 そうだな、プロトタイプのゲームのデザインやストーリーあたりは少し助力したが、後は双子姉妹の努力だろ」
「そうなのでしょう。 先生が言うのなら」
「何が言いたい」
捲し立てるように早口になり、ペースを持っていき、勢いで誤魔化そうとするが。
車椅子の生徒は、面白そうに口角を上げる一方で。
「───ミレニアムプライスに出品された作品を審議する期間中、審査員の住まいにハッキングがありまして」
「ほぅ?」
「特別枠を設けて、ゲーム開発部の作品を受賞させるようにと。 さもなくば、無慈悲な暴露を行うと脅迫文があったのを独自の調査で知り得ました」
「だから?」
静かに、けれど追い詰めるような糸目。
口は笑っているが、視線は鋭い。
「犯人は貴方ですよね、マルコ先生?」
そこまで言うと、口共々目まで笑い始めた。
ハッキングを把握、犯人も探り当てるとは。
「頭の良いガキは嫌いだよ」
意表を突かれた驚き。 そして湧いてくるイラつき。
逃げられないと悟るがままに、自白してやるマルコ。
そんな彼女はヴェリタスの部長兼、特異現象捜査部長。
「今の私にとっては、とても良い褒め言葉です」
全知の明星ヒマリであった。