「アイスブレイクは必要無いよね」
ミカはそう言い、ポツポツと語り出す。
内容は大凡予想通りのものだった。
ゲヘナ嫌い故にエデン条約に反対していた事。
ゲヘナよりアリウスと仲直りするべきとナギサとセイアに提案するも、その所在が不明な事や歴史的背景から拒絶されてしまった事。
そんな中、アリウスと接触する機会があり、皆に内緒で話を進め、両者を繋ぐ架橋になればとアズサを受け入れた事。
難解な言葉遣いをしてくるセイアにムカついてたから、ちょっと痛い目に遭わせるつもりでアリウスの生徒に手を出させた事。
そうしたら、セイアは怪我どころか死んだと聞かされた事。
アリウスの思惑と自身の予想、現実と理想の乖離を感じたところで、もう遅かった事。
後には戻れないから、このままアリウスに乗る形で、トリニティを裏切った魔女として振る舞おうとした事。
「大体把握した。 つまり世間知らずのお嬢様が好き勝手に振る舞ったという訳か。 好き嫌いをして過去の禍根を考慮せず、気に入らない奴に、ひと泡吹かせようと何の相談なく話を進め、テロリストの良いように扱われた。 その結果、セイアが殺されるという取り返しのつかない展開になった。 だがその罪を認めて踏み止まる勇気がなく、利用されていたのを認められず、最初からトリニティを裏切っていた悪役として振る舞って自尊心を守る事を優先して被害拡大をヨシとする卑怯者という訳だ」
ミカを責めるマルコ。
共に動くにしても、その罪は重過ぎる足枷だ。
外せないにしても、一生付き纏うモノだと認め、裁かれる覚悟をしなければ戦いに支障が出る。
しかしミカは、未練やら自身の感情、プライドやらが邪魔をして的外れな反論をし、己はマトモなのだと言い訳してしまう。
「言うじゃんね。 でもマルコ先生は何も知らないでしょ。 ゲヘナの連中の方がずっとだよ。 アイツら好き勝手に振る舞うし、角生えて尻尾と翼が生えて、あっちの方が余程だって」
「自己紹介か? 俺からすればアンタも変わらないぞ。 弾や爆弾を喰らっても平然としているバケモノって意味でもな。 その意味ではセイアもだと思うが……死んだってのはブラフじゃねぇのか? ちゃんと死体を確認したのか?」
マルコは容赦無くバッサリ切り捨てつつ、疑問を口にした。
キヴォトス人は多種多様な種族がいるが、共通して銃弾や爆弾といった脅威によって命を落とす事は滅多に無い。 マルコから見れば皆共通して十分なモンスターだ。
故に、セイアの所在が気になった。 本当に死んだのかと。 身体が弱いそうだが、すると神秘とやらの効力が無く、銃弾で死んでしまうのか。 そんな生徒が今まで生き延び、首長をしてきたのか?
ミカは言い淀みながら返答する。
「……見てないよ。 でもアリウスの生徒が言ったから……セイアちゃんは体弱いし、銃弾や爆弾にも種類があるし、延々と攻撃を受けていたら健康な生徒だって分からないよ。 それに」
「それに、なんだ?」
「……銃火器以外の方法だってある」
「なるほど?」
盲点だったとマルコ。
毒、水、電気、絞首、酸欠、飢餓、燃焼、冷却、高所からの落下、特殊な武器等など……。
何も銃や爆発物である必要は無い。 そしてキヴォトス人は対人火器による銃撃や爆撃には頑丈だが無敵ではない。 それに他の環境にまで強いかは不明である。
ゾンビ化で銃撃に耐えられるようになっても、2度目の体液攻撃を浴びたら無い的な。 少々違うか……。
「セイアについては後で調べるとして、今は急ぎだ。 アリウスの拠点は何処だ?」
「それも分からないよ。 カタコンベの入り組んだ道の奥にあるらしいけど、不思議な事に定期的に道が変わるみたいだから」
「地下墓地の奥、ね。 アンデッドが出そうだ……アズサに聞くか」
「アズサちゃんも学園に来て時間が経つから、帰り道は分からないんじゃないかな」
「だが情報を持ち帰る為に、道を知ってるアリウス生が接触しに来る筈だ。 ミカに対してもな。 ソイツを捕まえる」
「でも強いよ? 特にアリウススクワッドって特殊部隊の子たち」
「腕が鳴る。 名前や特徴は?」
「リーダーはサオリって子。 背が高めで、帽子とマスクを着けてた。 ゲリラ戦のエキスパートだよ」
「ともすれば、アズサとも関係があるか。 とにかく聞いてみるか」
マルコは取り敢えず情報を得ると、メタスラで元来た道を引き返した。
キュラキュラと履帯音を奏でるも、その先ではそれ以上の轟音が響いてきて───。
「いたぞ! 例の豆戦車だ!」
「撃て! 撃てーッ!!」
「……やれやれだぜ」
トリニティの戦車、クルセイダーの群れが行く手を遮った。
事は大きくなるばかり。 半分以上はマルコのせいだろうけど。