暫く空中を旋回していたスラグフライヤーだったが、機体を傾けた先、地上の戦闘が落ち着いたのを見計らうと、適当な平地へ垂直離着陸機のままに着陸した。
その風圧を浴びていくヴァルキューレやSRTの生徒達。 皆が鬱陶しく目を細める中、その下手人は誰かと一連の動きを見守り続ける事暫く。
エンジン音が切れ、静寂の後。 キャノピーが上に開き、飛び降りるパイロット……マルコに皆が注目した。
間も無くして、この場の責任者、縦長なケモ耳にギザ歯が生えた公安局長、尾刃カンナとの会話が始まる。
「連邦捜査部シャーレ顧問、マルコだ。 突風気味の参戦と指示を受け入れてくれた事に先ずは感謝する」
「ヴァルキューレ警察学校、公安局長のカンナです。 ご協力感謝します。 マルコ先生の噂は予々……まさか航空機で来るとは思いませんでしたが」
「特殊部隊の陣地と聞いたからな。 向こうのホームグラウンドでやり合う気は無かった」
マルコは言う。
毎度正面からドンパチしているからって、それが得意な訳でも趣味にしている訳でもない。
楽に制圧出来るなら、それに越した事はない。
それで強力な生徒対策のスラグフライヤーだ。
ミレニアムのエンジニア部に開発を頼んでいたが、完成していた為に受領。
これで当初の予定通り、生徒を空から俯瞰、支援しつつ、必要に応じて指示を出した。
先程は正にそのように運用され、最後は警察隊に任せる形となった。
尚、自爆機能なメタスラアタック機能は設計通り付けられているが、Bluetooth機能まで付けられたのはエンジニア部の悪癖だ。
……邪魔にならなければ良いが。 落ち着いたらCPUに細工をして、メタルスラッグにしたようにアロナが並列演算、操作をし易くする予定。
一方、事情を知らないカンナ。
ボソリと彼の非常識振りにツッコんだ。
「……元々普通じゃない」
「何か言ったか?」
「流石はマルコ先生、と」
「そうか。 なんであれ鎮圧完了だ」
誤魔化し握手をし、挨拶を交わす両者。
その背後では連行されていく小隊が背景として映る。 マルコは一瞥し、質問する。
「RABBITはどうなる?」
「普段なら取り調べの後、ヴァルキューレ警察が裁量するのですが、今回は連邦生徒会、防衛室が絡んでいるので其方の意向が反映されるでしょうね。 希望すれば彼女達の取り調べを見学する事は可能かと」
「……防衛室、ね」
防衛室……連邦生徒会を構成する何十かの部署の1つ。 名前の通り治安絡みを担当、ヴァルキューレ警察の他、SRTも一応の管轄下にある。
その意味では、SRTの制御が出来なかった連邦生徒会の不始末が招いた事件ともいえ、それを内々で処理したといえる。
とはいえ、既にクロノス報道部なる生徒によるメディアが事態を放送している為、世間への隠し立ては無理だろうが。
……が、それが主目的ではないのならば。 事はそう単純ではないかも知れない。
「室長はカヤ・シラヌイだったな、後で調べる」
「はい。 その先は私の権限にありませんので」
「今はソイツらの取り調べを希望する」
通り過ぎていくRABBIT小隊と目が合った。
すると早々に睨まれ、文句を垂れてきた。
最初に口を開いたのは、隊長のミヤコだ。
「あなたがVTOL機のパイロット、シャーレのマルコ先生ですか」
「そうだ。 最もパイロットがメインじゃないぜ……さても君は隊長のミヤコだったな。 訓練途上と聞いたが、中々良い動きだった。 ただ相手が悪かったな、子兎じゃ空飛ぶ猛禽ならぬ"スラッグ"には苦戦するか」
「"ナメクジ"? 私達を馬鹿にしてるのは理解しました」
「さて、馬鹿にしてるのはどっちだ? ウサギがナメクジに負けて悔しいか?」
「……あなたのような大人は嫌いです」
「俺もテメェらみてぇなテロリストは嫌いだぜ。 正当性を主張するには世間体が悪いし、カメラも回っていた。 益々廃校にしたがる市民や議員が出る一方だってのが分からねぇか? 仮に廃校が撤廃されたところで、その信用は地の底だぞ」
「……私達は屈しません。 その限り、SRT特殊学園は廃校にはなりませんから」
「精神が生き続ける限りってか? そうして歴史から消えたモノはどれだけある事か。 さて、後のメンバーは……」
後続を見やる。
サキ、モエ、そして陰も幸も薄そうなミユ。
ミヤコ共々共通して青いセーラーのような制服、装備もモノトーンで統一されている他、兎の耳が生えた無線機やらヘルメットを着けている。
LEDライトでバイタルを示しているらしいが、どこかハロウィンや遊園地での客がつけるカチューシャのようにも見えてしまう。
……トンチキな兵器を相手にしてきたマルコとしては、全然マトモな部類であるが。
「真面目ヘルメットはサキか。 どうだ戦場は。 航空機に襲われるのは初めてか? 教練通りいかねぇだろ?」
「地獄に落ちろ」
「クレイジーオペレーターなデカパイ眼鏡はモエか。 どうだミサイルの味は。 派手にやったらやり返された気分を聞かせてくれよ?」
「もう会う事は無いだろうね」
「陰気で存在感希薄でスナイパーが天職、天賦の才って感じのはミユか。 どうだしっかり認知されて攻撃された感想は?」
「あうぅ……もうSRTは終わりなんだ……」
マルコがニヤつきながら煽れば、三者三様の反応を示してくる。
概ね嫌われたようだが、この程度で挫けるほど修羅場を潜り抜けていない。
「あまり彼女達を煽らないでやってください。 取り調べに響きます」
「SRTは拷問に耐える訓練もしてるらしいじゃないか。 この程度は挨拶にもなんねぇだろ」
「この後はヴァルキューレの、いや、私なりのやり方がありますが。 マルコ先生は"拷問"をされるので?」
今度はカンナにまで睨まれるマルコ。
信頼されていない証左でもあり、話の流れ的に手荒な事を生徒にする外道かと、心の隅では思っているらしい。
手厳しいが、初対面だしドンパチの後なので仕方ないと言えば仕方ない。
マルコは唸る獣にどうどう、と手で宥める動作をしながら信頼回復に努めた。
「その手は専門じゃない。 どちらかというと解放する側だったからな、カンナ達に倣おうと思う」
戦場で助けた捕虜達を思い出す。
縄で胴体や棒ごと締め回されている事が多かったが、他にも両手を縛られて空中にぶら下げられたり、意味不明な場所から現れる事もあった。
また捕虜枠は、場所によっては敵兵だったり宇宙人だったりもした。 他にも何故か大統領……VIPが捕まっている事も。
助けると、大体決まって何かしらくれる事が多く、マルコ側としてもメリットがあるものではある。
……ただ要らない物を寄越してきたり、助けた筈が視界外に消えたり、水に落ちたり高い場所から落ちたりして何も得る物が無かった時は心の中で「NOoo!」と叫んだ事もあったが。
「分かりました。 状況次第では介入させていただきます」
「良いぜ、それで」
今回、SRTを助ける事でメリットはあるのか。
無いようで、ある。 取り敢えず恩を売る。
マルコも特殊部隊だ。 シンパシーもある。
「最も、縄をナイフで切るほど簡単じゃないか」
政治的な要素が絡むなら、それはマルコの分野ではない。
それでも首を突っ込んだ以上、出来る事はやる。
先生もまた、生徒と共に学ぶ立場でもある。