さて、どうするか。
取り調べ室を出た刹那、出迎えたはカンナや生活局ではなかった。
細い体つきに連邦生徒会の純白の制服。 ピンクの髪の毛は後頭部で纏められているも、アホ毛はチャームポイントか。
細目から僅かに覗かせる瞳孔は、ヤギのように横に長いのも特徴的である。
「初めましてマルコ先生。 私は防衛室を担当する不知火カヤと申します。 シャーレの各地での活躍は聞いておりますが、こうして顔を合わせるとは思っていませんでした」
なんとカヤ防衛室長だった。
連邦生徒会を構成する統括室以下、11あるとされる部署の1つ、キヴォトスの市民の安全と治安を守る仕事を担当するお偉方だ。
「You too……で、ここにきたって事はSRT絡みと見て良いか?」
「ヴァルキューレ警察のカンナ局長に用事があったのもありますが……SRTは特性上、防衛室の管轄ではありませんよ。 総括室とは別に独立した組織といえます。 リン行政官やアオイ財務室長、人材管理室などから聞いていませんか?」
「いや。 悪いなら仮にも先生なのに不勉強で」
「いえ、皆さん忙しい中ですからね。 折角なのでSRTについてご説明致します」
そしてリンから口頭による説明を受けるマルコ。
キヴォトスでの治安は基本的に各自治区の風紀委員会等により維持されているが、D.U.と呼ばれる場所など、自治区以外の地域では防衛室の指示によりヴァルキューレ警察が担当となる。
しかし、そこで発生した犯罪者が他の学園の自治区に逃げ込んだり、生徒会と結託した場合、介入が困難になるという問題があった。
これを解決する為に連邦生徒会長によって設立されたのがSRT特殊学園であり、その為に他自治区問わず強制介入、調査を可能とする強い権限と武器装備を持ち、同時に学園の生徒達は厳しい選抜によって選ばれしエリートである。
そして最も優秀な3年生部隊「FOX小隊」の活躍により、厄災の狐ことワカモの逮捕など実績も上げた。
ところが連邦生徒会長の失踪により、責任が宙に浮いてしまう。
万が一のSRTの暴走に責任を持とうとする者は現れず、強力な武器装備の都合、投入場面が難しいというのもあり、廃校にするか存続するかで揉めていく。
そんな中、廃校の可能性があると情報を掴んだであろうFOX小隊が連邦生徒会を襲撃。
廃校派が重症を負い病院送りにされる議員が出る惨事となる。
これによって議員が恐れていた「暴走」が現実となり、益々廃校派の意見が増える事に。
更にここにきて1年生のRABBIT小隊まで連邦生徒会に牙を剥こうとしたとなれば、いよいよ存続は難しいと言わざるを得ないのだった。
「───という訳でして、SRT特殊学園は廃校が決定的な状況です」
「何とかならないか? 今言ったSRTの存在意義とやらは、今後も必要だろ」
「私も存続に賛成なのですが、他の議員はそうはいかないでしょう。 シャーレが責任を持つと言っても、今度は私兵化の疑いがかけられます」
「俺は構わねぇがな。 だが連中の要求は廃校の撤回だ、誰かの手駒になる事じゃねぇ……それも状況次第で幾らでも転ぶだろうが」
そう言うと、カヤは細目を僅かに開く。
その横長の瞳孔に映るマルコは、邪魔で面倒で不都合な大人に見えた事だろう。
或いは"相容れぬ同志"か。
それでも室長の座にいる者として、"確定していない"として、毅然とした態度を偽り続けるカヤ。
「……彼女達にヴァルキューレ警察学校の警備局に転校するよう、説得できませんか?」
「最後の手段に取っておく。 今は……そうだな、SRT特殊学園の籍を残してやってくれ。 それと」
「それと、なんでしょうか」
「それは───」
───────────────────
「喜べRABBIT。 カヤ防衛室長と話したぞ」
マルコ、カヤに約束を取り付けると、鉄格子越しのミヤコ達に嬉々として話しかける。
「もしかしてSRT特殊学園の存続が?」
「どんな手品を使ったんだ?」
「へぇ、やるじゃん」
「こ、これで居場所が……」
「おう。 お前らの居場所は取り敢えず確保した」
マルコがガハハと笑いながら白い歯を輝かせ、親指を立てグッジョブサイン。
その様子に、ミヤコ達の瞳に輝きが戻る。
「本当ですか!」
「抗議は無駄じゃなかったな!」
「また武器に火薬と使い放題!?」
「帰れる場所がある……!」
「おう。 元の場所、子兎公園だぜ!!」
「「「は???」」」
「公園暮らしOKだと。 名前もピッタだ!」
希望が砕け、一斉にハモった。
罵詈雑言となるのに時間はかからない。
「くたばってください」
「地獄に落ちろ」
「あげて落とすのって楽しい?」
「やっぱりこうなるんだ……」
落胆、侮蔑、絶望……!
現実は非情である。 少しでも頼れる大人と思ったのが間違いだった。
だが当人は怯まない。 今できる事はやったと言わんばかりの堂々とした態度だ。
「お前らの先輩、FOX小隊が抗議の意味で連邦生徒会を襲って議員が病院送りにされ、お前らRABBIT小隊は公園の不法占拠ときた。 SRT特殊学園が廃校になるのは残念だが当然の帰結だろ常識的に考えて」
「横暴です!」
「そうだな。 反省しろ」
「私らじゃない、連邦生徒会とお前だ!?」
「やれる事はやってたぜ? いずれもお前らの見えないところでな。 で、それを蔑ろにしちゃったんだなコレが」
「えー……私らどうなるん?」
「言ったろ。 公園で暮らして、どうぞ」
「そして、誰からも忘れ去られて……」
「問題無い。 黄金で崇高な精神とやらがある限り、SRTは不滅なんだろ?」
それぞれの言葉に容赦なく返すマルコ。
カヤの言葉や好意の裏は怪しいが、FOX小隊の話が本当なら度し難い話である。
マルコの同情心も、だいぶ擦り減ってしまった。
それでも完全に情けが消えたワケではない。
RABBIT小隊をヴァルキューレ警察学校に転校させるのは最後の手段として残しているから、その気になれば居場所はできる。
根無草、無職無所属、食べるに困る雨風に晒される家無し状態となる事は避けられる筈だ。
ただ今の彼女達はそこまで追い詰められていない。 故に少し追い詰めて反省を促すと共に様子を見る必要がある。
その上でギブアップするなら、その時は警察学校に転校となるし、そうじゃないなら、どこまで無支援状態で公園生活を続けられるかという"見もの"だ。
カヤにも説明し、まぁシャーレが責任を持つならと了承してくれたのだった。
「本当、あなたのような大人は大嫌いです!」
マルコ、またもミヤコに嫌われる!
けれど当人、全く効(聞)かないまま、鍵を開けてウサギ小屋を解放する。
「おうおう、取り敢えず釈放だ。 見せて貰おうか、公費の贅沢から解放された野兎のサバイバル生活とやらをよ」
「馬鹿にして! 絶対後悔させてあげます!」
「ギャフンと言わせてやるからな!」
「2度とそのツラ、見たくないね」
「どうなっちゃうんだろう、私たち……」
反抗的な態度を見せつつも、しかし行き場も金も無い彼女達は結局公園に戻るしかなかった。
その哀愁と悲壮感漂う背中を見届けるマルコは、一方で気になる点を口にした。
「で、上級生のFOX小隊とやらは今どこで何をしているんだろうな。 戦闘部隊ってのは武器や弾薬、装備が無いと戦えない。 飯や拠点といった後方支援もなしじゃ厳しい筈だ。 普通は、な」
マルコみたいに、武器を現地調達してドンパチして、飯は拾い食いするなんてのは特殊過ぎて参考にしちゃ駄目だろうし。
「カヤってのも何か"臭う"な。 何か俺に隠していそうだ……アロナ、手伝ってくれ。 行政権を連邦生徒会に委譲する際、バックドアを仕込んだからな、それを使ってデータベースや監視カメラへのハッキングだ。 必要ならミレニアムのヴェリタスに協力要請を出す」
サイバー攻撃をしようというのか。
場所によっては最近頻発、問題が深刻化しているような事を、マルコがやっちゃうのか。
アロナは知ってか知らずかツッコんだ。
「遂に総本山の連邦生徒会へ攻撃を!?」
「面白い冗談だ。 連中の中にいる"腐った蜜柑"とやらを探すだけだぜ」
戦いはドンパチに限らない。
だがまた必要ならドンパチする。 それだけだ。