───“
それは前世で罪を犯した犯罪者が行き着く、とんでもなく治安の悪いスラム街みたいな場所です。ここにいる人たちは皆尻尾や角、翼が生えてて、聖書に出てくる悪魔みたいな姿で暴れ回ってます。
その中で唯一、前世で犯した罪を反省して『救済ポイント』を貯めた人たちが漸く“
「こ、来ないで下さいぃ〜!?そんなロケランとか手榴弾とか人に投げちゃ危ないですよぉ〜ッ!!!???」
戦っている訳でもないのに、街中から四方八方に飛んでくる危ない兵器の数々。
「わ、わぁ……地獄って凄い……!」
なんて本気で感嘆していました──えっと、二日目までは。
「もっぺん死ねぇぇえええええ!!!」
「だから危ないですってえぇぇぇぇぇッッ!?」
真後ろから放たれたロケランが道路を吹き飛ばしたのを眺めながら、私は悲鳴を上げて何とかその場から逃げ出せました。
この世界は、科学技術も医療技術も全てにおいて前世より上です。ですが、人々の感性……というか知性……具体的には頭の方がちょっと……いやかなりトんじゃってるんです!
誰が言い出したのか、リアルG○Aなんて揶揄する人も居ました。冗談じゃないです。
「はぁ……もうこんな場所嫌です!さっさと
ため息を吐きながら、『救済ポイント』を貯めさせてくれる斡旋役場に足を運びます。
──“
地獄に存在する数少ない中立地帯であり、罪人たちが救済ポイントを得るための仕事を紹介してくれる場所です。見た目は、どう見ても役場には見えないんですけどね〜。
高級ホテルかな?って思うくらい豪華ですし、磨き上げられた大理石の床とか、天井から吊るされた大きなシャンデリア。そして、入口の前には角や翼を生やした屈強な悪魔たちが、各々武器を持ったまま立っています。
そのうち一人が、マシンガンを提げたまま近付いてきました。
「お嬢様、今回はどのようなご要件で?」
「……あの、えっと。以来達成の報告に来ました!これ、会員証ですっ!」
「ふむ……畏まりました。それとご存知だと思いますが、当役場での『悪魔同士の殺人』や『救済ポイントの横領』は厳罰に処されます。ご注意を」
「こ、心得てます!」
そう言うと笑顔を浮かべた強面の警備員は、私を役場へと通してくれました。
わざわざ言われなくても、人殺しなんてしません。
だって、私は真面目な悪魔。天国に行くため、日々コツコツと善行を積んでいるだけですもん!
役場の中にはちょっとしたBARやクラブ、賭場なんかも豊富です。『救済ポイント』を使って利用出来るみたいですけど、勿体なくて私は使ったことないんですけどね。
目的地は、一階中央に設置された受付カウンターです。
そこでは依頼の受注や達成報告に加えて、救済ポイントの管理が行われています。
「あ、あのぉすみません。依頼達成の報告をお願いしたいんですけど」
「はい。会員証をどうぞ」
受付にいた女性へ、先ほどの会員証を差し出しました。
私の会員証には、名前や顔写真の他に現在所持している救済ポイント。過去に達成した依頼とかも載っています。
さらに──“前世で犯した罪の等級”すらも記載されているんです。
例えば軽犯罪ならば、約十万ポイント程貯めれば天国にいけます。重犯罪となると十〜百倍。もっと酷いと更に等級が跳ね上がります。つまり、この犯罪の等級によって、天国に行ける難易度が決まるという訳です。
ちなみに私は……。
「はい、確認出来ました。“フラメア=ヴェゼリー”様、本日は当役場をご利用していただき光栄です。宜しければ、現在の救済ポイントを確認いたしますか?」
「お、お願いします!」
「畏まりました。現在の犯罪等級──“六億六千万”。そのうち、所持している救済ポイントを差し引いて、残りは五億八千万程になっております」
「ごおくはっせん……」
はい、六億六千万です。
これでも八千万ポイントは返したのに、まだまだ先が残っています。
──遠い、あまりにも天国まで遠すぎますよ!
前世の私は何をやらかしたんでしょうか?如何せん殆ど記憶がないので、自分がどれだけ酷いことをしたのかすら分からないんです。
そして、今日の仕事依頼である街中の清掃(朝から夕方までロケットランチャーが飛び交う街を歩き回り、三回ほど爆発に巻き込まれ。五回ほど知らない悪魔に殴られた)は、一回で千ポイント。
単純計算で五十八万日掛かります。年単位なら千五百年くらいでしょうか?それも毎日欠かさず、生活費も一切使わずに節約して漸く天国に行けます。
八千万ポイント返すだけで何百年と掛かったのに……やっぱりもっと高い依頼をこなすべきなんですかねぇ。
「うぅーん、もっと稼げる依頼はありませんか?」
「……あまりオススメは致しません。アグリゲートでは、個々人の能力に見合った依頼をお渡ししていますので、引受人が死亡してしまった場合は役場の信用問題に関わります」
「さいですか……」
「ですが──覚悟がおありなら話は別です。ミセスヴェゼリー、どうぞこちらへ」
そう言うと受付のお姉さんは、カウンターの奥にある『関係者以外立ち入り禁止』の立て札の下げられた扉を指差しました。
……い、嫌な予感しかしませんよぉ。
でもこうでもしないと、何千年かかっても天国へは行けません。私は覚悟を決めて、受付のお姉さんに案内されるままカウンターの奥へと進みました。
『管理番号と指紋認証をどうぞ──認証完了』
厳重な指紋認証を経て、扉が開きます。
普段なら人で溢れているアグリゲートの一階とは違い、こちら側は妙に静かでした。
赤い絨毯が奥まで続いていて、大理石の廊下と壁には見たこともない悪魔たちの肖像画が見えます。
あれ一つで多分億は下らないでしょうね……触らないようにしとこ。
「ていうか、ここは一体どこなんでしょうか?」
「……こちらは高額な依頼を希望される方だけが利用できる、特別な受付です。本来なら信用がなければご案内することはありませんが、ミセスヴェゼリーは額が額ですので」
「な、なるほど……」
泣きたくなるくらいの現実を叩き付けられましたけど、依頼書を見ればその理由が分かりました。
──“
それは通常の依頼とは違って成功すれば数十万、時には数千万もの救済ポイントを得られる高額依頼でした。そして、当然と言えば当然なんですけど。
「………」
「いかがでしょう、ミセスヴェゼリー」
「い、以来難易度が高すぎてちょっと……」
チラッと見ただけで私には役不足なのが丸わかりの依頼が、そこかしこにありました。手元にある比較的安易そうな依頼書でさえ、私には厳しそうです。
【依頼内容:指名手配中の罪人の捕縛】
【危険度:A】
【報酬:500,000ポイント】
とか。
【依頼内容:暴走した上級悪魔の討伐】
【危険度:S】
【報酬:3,000,000ポイント】
とかとか。
【依頼内容:地獄外縁部に出現した異常個体の調査】
【危険度:特S】
【報酬:10,000,000ポイント】
なんてのもありました。
某バトル漫画のインフレじゃないんですから、私みたいな下級悪魔じゃ何百回死んでも達成できなさそうですよコレ!しかもだいたいこんなのばっかりで、千ポイントで稼いでいた私には遠い世界過ぎます。
お陰で、諦めて帰ろうかなぁ……なんて考えが頭をチラつきましたけど、私でも受けられそうな依頼を聞いてみた方が早いですよね。
「ち、ちなみになんですけど。一番簡単な依頼ってありますか?」
「……なるほど、それならコチラがオススメです」
「どれどれ……」
私の問に考え込んだお姉さんが取り出したのは、比較的新しめの依頼用紙でした。内容をじっくり確認して見ると、確かにこの中じゃ一番達成できそうではあります。
【依頼内容:天国から逃亡した“
【危険度:B】
【報酬:2,000,000ポイント】
危険度の割に報酬も高いし、悪魔や天使を殺さなくていいのもとってもありがたいです。人を殺すなんて私には無理ですもん。
でも天国から逃げ出す人なんているんですねぇ、私と入れ替わって欲しいくらいですけど……まぁ、その人にはその人なりの考えがあるんでしょう。
「じゃあ、その依頼にします!」
「畏まりました。それでは、ご依頼の達成を心よりお待ちしております」
ピコンッと首のチョーカーが光りだして、依頼の受理が完了しました。会員証も受け取って、準備万端です!
さぁ、私の天国へのチケットを掴み取りに行きましょうか!
「……あれ、開かない」
「……ミセスヴェゼリー、出口はあちらです」
恥ずかしい思いをしてから三十分後。
私は自衛のために、武器屋を訪れていました。腰に下げている愛銃の弾が、今朝の依頼でほとんど尽きてしまいましたからね。
ロケットランチャーやら何やらが飛び交う街中を歩くなら、最低限の自衛手段くらい持っておかないと生きていけません。
「兎にも角にも、天使っぽい人を探せばいいというわけじゃないですもんね!」
そんな簡単な依頼なら、多分すぐに終わってますし。
でも天使ってどんな外見をしているんでしょうね。頭に輪っかが付いてて、綺麗な白い羽根を持ってる綺麗な人──そんなThe・天使みたいなイメージしか出てきません。
例えばそう、今武器屋に並んでいるお姉さんみたいな人……あれ?
「あの人、天使では?」