ペニー・パーカーに幼馴染を生やして曇ったり曇らせたりする話   作:血袋

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 闘魂からマーベル作品の履修を本格的に始めた新参者です。対戦よろしくお願いします。


大いなる幼馴染には、大いなる湿度が伴う

 

 ──それは、まるでクモの糸に絡め取られた、哀れな羽虫の気分だった。

 

「ハリー……」

 

 こちらにしなだれかかりながら、彼女は僕の名前を呼んでくる。

 常ならば、鈴を転がすようとでも例えるべき彼女の声は、こちらを惹きつけるように蠱惑的で。

 

「……ペニー」

 

 それに釣られて、僕も馬鹿正直に彼女の名前を呼び返してしまう。

 僕からの返答が拒絶ではなかったことに、彼女は満足気に目を細める。それでも尚、その蕩けた瞳は僕の視線を捕らえて離さない。

 

 

「私の手を離さないで。私の目の届く所にいて。私の声を聞いたなら、いつでも返事をして。……私はもう、失いたくないの」

 

 

 いや、目を離せないワケではない。目を離したくなくなってしまうのだ。

 彼女の、綺麗な琥珀色の瞳。ただ、その瞳に囚われる。

 

 本来、彼女の瞳に映るべきは、彼女というヒーローの助けを求める多くの市民たちなのに。

 そのはずが――今はただ、この僕だけを映しているものだから。

 それ以外のモノを視界に入れる必要なんて無い、そう言わんばかりに。

 常は淡い煌めきに満ちた琥珀の双眸が、今はどこか、暗く澱んだ──揺蕩う炎の如き彩を滲ませているものだから。

 

 

「……勿論だ。僕は、君にもう何も失わせやしない」

 

 

 僕の言葉に彼女は頬を緩ませ、その桃色の唇を何度も僕の首に落とす。

 もう、彼女という蜘蛛からは逃げられない──逃げる気も起きない。

 

 ……ああ、しかし。僕と彼女がこうなる──こうなってしまうほどの切っ掛けは何だったか。

 彼女の熱烈な口付けに身を委ねながら、僕は今から半年ほど前の記憶に意識を飛ばした。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 西暦3145年、地球。

 アメリカはニューヨークシティ、クイーンズ。

 

 

 ──あえて言おう、この街はカスであると。

 

 

 何がカスって、何を差し置いても治安が悪い。悪すぎる。終わっている。

 チンピラからギャングに至るまでが銃器を乱射し、カルト教団どもが火炎放射器を振り回し、スーパーヴィランとか呼ばれる超人が縦横無尽に破壊を撒き散し。

 ビルが溶け、人が死ぬ。この街ではよくあることだ。よくあっちゃダメなんだけどね。

 

 食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。牙を持たぬ者は生きてゆかれぬ暴力の街。ここはあらゆる悪徳が武装するニューヨーク──とは、言い過ぎかもしれないが。

 それぐらいの気構えを持っていなければ食われる者で居る一方となってしまうのが、この大都市ニューヨークの一般市民なのである。終。

 

 

 

 ……いかん。いくら事実とは言え、生まれ育った街に対してネガキャンが過ぎたかもしれない。

 どれだけ時代が進み、どれだけテクノロジーが進歩しようとも、それを欲に駆られて扱う人間のステージは変わらない……そう思い知らされる我が街ではあるけれど、そんな街にも良いところの一つや二つは勿論ある。

 

 例えば、そう、この街には何よりも特筆すべき──

 

「ハリー、おはよーう!」

 

 ──僕の幼馴染、ペニー・パーカーが存在していること、とか。

 

「おはよう、ペニー」

 

 鈴を転がすような声の方へ振り向いて朝の挨拶を返せば、僕の視界には彼女が映る。

 綺麗な黒髪に琥珀色の瞳、お気に入りの可愛らしいリュックを背負った制服姿。いつも通りの、しかし毎日見ていようが見飽きることは無いだろうと言える、ペニーの登校姿だ。

 

 

 

 ……えっ、いきなり眼前の女の子に対する気持ち悪い感想を脳内で垂れ流した僕が誰かって?

 本当に知りたい? 退屈な話が嫌いなドパガキ(死語)は聞かない方が良い。僕が何不自由なく幸せな人生を送って来た、世の中に何の心配も無い平凡な人間だなんて言う奴がいたとしたら……そいつは正しい。

 

 まあ安心して良い。これは他の物語と同じように、女の子を巡る話──この女の子、僕の幼馴染であるペニー・パーカーを。

 物心付いた頃から僕はこの子が好きだ。その隣が僕だって言いたい……それだけの話だから。

 

 おっと、僕の名前だったか。と言っても、さっきペニーが呼んでくれていたけど。

 ()()()()()()()()──それが、僕っていう男子中学生14歳の名前だ。ポッターだとか揶揄うのはNGでヨロシク。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)。朝から元気な挨拶をしてくれたペニーは、しかし次に大きな欠伸を見せてくる。今日も今日とてこれから学校だというのに、少しばかり眠そうな顔だ。

 

「昨日も夜更かし? ここ最近、多くなったんじゃない?」

 

「えへへ……恥ずかしいところ見られちゃった。でも安心してね、こういうところはハリーにしか見せてないから」

 

「……そうしてもらえると嬉しいよ」

 

 そう。今みたいに寝不足気味だったり、約束をドタキャンすることがあったり、ちっとも連絡が付かない時があったり……そんなことは、ペニーにとって珍しいことじゃない。

 小学生の頃から、ずっとペニーは何かに忙しくしている。何をそんなに掛かり切りになっているのか……それを彼女の方から話してくれたことは、未だに無い。

 

 何をしているの? と、僕が言葉にして訊くこと自体は簡単だ。でも、自分から話そうとしないことを強引に訊こうとして、万が一にもノンデリ扱いされるのは御免被りたいのが男子の心。

 全く、つくづく思うのだが、こういう時──

 

 

「──こら、夜更かしは成長期のお肌に大敵よ? ペニー」

 

「ひゃっ!? ……も、もう、グウェン! やめてよね、ハリーの前で!」

 

 

 こういう時、異性である僕は、ペニーと同性の友人や同級生に敵わない。

 例えば今、ペニーの背後からこっそり現れ、その胸部を揉みしだいている羨まけしからん金髪の女子──グウェン・ステイシーにとか。

 ペニーの言う通り、僕もやめてほしい。こういう女子のじゃれ合いに立ち会った男子はどういう対応をしてやり過ごすのが正解なのかわかるほど、僕は大人でも陽キャでもないのだ。

 

「あら残念。そうね、たしかに今はお邪魔なハリーが居るし。ひとまず睡眠不足の危険性についてお説教するだけで勘弁してあげるわ」

 

「うぅ、それは学校に着いてからでも良い? そろそろ歩き出さないと遅刻しちゃうよ」

 

「ペニーの言う通りだ、グウェン。お邪魔虫が引率してやるから、さっさと行こう」

 

 話の流れを絶ってくれたペニーに感謝しつつ、登校を再開……しようとしたところで、いきなり軽快な音楽が鳴り響く。

 それはペニーの携帯端末から鳴る着信音だった。ペニーは「ちょっとごめんね」と断って電話に出る。

 

「もしもし、メイおばさん? どうしたの、家を出てすぐから……えっ、本当!? もう、こんな朝から……わかった、すぐ戻るね! ベンおじさんにもよろしく!」

 

 どうやら、電話の向こうにいるのはメイ叔母さんとベン叔父さん──両親を失っているペニーの親代わりを務める叔父夫妻のようだった。

 登校の最中とわかっているだろうに寄越す急の連絡……十中八九、ペニーが掛かり切りになっている何かについてのことだろう。電話を切ったペニーがパッとこちらに顔を向ける。

 

「ごめん、二人とも! 私、急用ができちゃった! 家に戻らなくちゃ!」

 

「ありゃ、今日も学校サボる感じ? そろそろ先生に目ェ付けられるぞー?」

 

「テストの点数は落ちてないから平気ヘーキ! いつもの言い訳、代わりに伝えておいて!」

 

「そろそろ新しい言い訳のパターン考えておきなよ? そのテスト満点な頭脳でさ」

 

 グウェンが言うように、ペニーが学校を遅刻したり早退したりするのは、もはや平常運転だ。

 義務教育を何だと思っているのかって教師ならボヤきそうだけれど、それをメイ叔母さんたちは容認どころか支援しているらしい程度に、ペニーが忙しくしている理由は重要なものらしく。

 

 だから、引き留めるような野暮は言えない。僕の役割は一つだ。

 

 

「ペニー、どうする? 急ぐなら、()()()()()()は要らないか?」

 

「えぇっ!? だ、ダメよ! 私のチャージ、サボらないでよね!」

 

 

 そう言うと思った。

 膨れっ面になりながら「ん!」とこちらに突き出されたペニーの頭を──僕は優しく撫でる。

 

 

「……ペニーはいつも頑張ってるな。僕にとって、君はヒーローだ」

 

「えへへ……」

 

 

 これが、いつものアレだ。ペニーの頭を撫でながら褒め称える。それだけ。

 彼女曰く、これは頑張るために必要な「チャージ」なんだとか。何を頑張っているのかは教えてくれないくせに、褒めろとだけ言われても……という複雑な気持ちではあるが、頬を赤らめながら嬉し気に表情をふにゃりと緩めてくれるペニーを見てしまえば、拒否はできず。

 数年前に初めてペニーからお願いされて以来、奇妙な日課となっているのが現状だ。

 

「ハリー……も、もっと……」

 

「ペニーちゃん可愛い大好き、えらいねすごいね天才!」

 

「そ、そうかなぁ? えへへぇ……」

 

 欲しがりさんなペニーに応えるためギアを上げる。恥じらいは捨て、誉め言葉は溌溂に、撫でる手はわしゃわしゃと。

 急ぐと言っておきながら、ひとしきり撫でられる彼女が満足するには一分ほどを要した。

 

「うぅーん、チャージ完了っ! ありがとうハリー、それじゃまた後で!」

 

 満面の笑みを見せてから踵を返して、ペニーは通学路を戻っていく──その姿が見えなくなる前に、クルリと彼女は僕の方へ振り向いて。

 

「私を抜きにして、グウェンをランチに誘ったりしちゃダメだからねーっ!」

 

 大声でそう言い残して、今度こそペニーは走り去っていった。

 必然、この場に取り残されたのは僕とグウェンの二人になる。

 

「お断りよ」

 

「まだ何も言ってないだろ……」

 

 誘い文句の頭文字も発さない内から先手必勝でNOを突き付けてきたグウェンに抗議した。

 あんなのはペニーの冗談に決まってる。意中の相手ってワケでもない女子をランチに誘うほど、僕は大人でも陽キャでもない……というのは、彼女だって知っているはずで。

 

 そもそも、共通の親友であるペニーがこの場から居なくなってしまったら、僕とグウェンが共有するような話題など大して見つからないのだ。

 僕とあなたは友達じゃないけど、僕の友達とあなたは友達。大体そんな感じ、マーベルコミックス日和──

 

 

「それで? 結局どうしてペニーは、あんなに忙しそうなワケ? いい加減に訊き出しなさいよ」

 

 ──等と思っていたけれど、今に限っては話題があった。まあ、それもペニーのことなんだが。

 

「無理だ。僕は訊き出せないし、訊き出さない」

 

「ふん、このヘタレめ」

 

「フフフ……酷い言われようだな。まぁ事実だからしょうがないけど」

 

 そう、事実だ。グウェンが吐き捨てた通り、結局のところ僕は、好きな女の子から秘密の一つを訊き出すこともできないヘタレでしかない。言われなくても、わかっている。

 

「ハリー……あんた、ペニーのこと心配じゃないの?」

 

「……邪魔だけは、したくないんだ」

 

 ただ、ヘタレと言われることに甘んじようと、その一点だけは譲れない。

 

 

「知ってるだろグウェン。ペニーは天才、いや鬼才の女の子だ。学校一の、なんて話じゃないぞ。特に機械技術を触らせれば、ニューヨークであいつに敵う奴はいないロボコンのチャンピオンさ。彼女は……特別な人間なんだ」

 

「……何が言いたいワケ?」

 

「ペニーには()()()()()がある。その力を使っているんじゃないかって、僕は思うんだよ」

 

 

 ペニーは僕の幼馴染で、僕の好きな女の子だ。その隣が僕だって言いたい……でも、それ以上にペニーは特別な女の子だ。僕なんかには無い力を持った、強い人間だ。

 心配はしている。だけど、そんな特別な彼女の為すことを平凡な人間である僕が邪魔するようなことだけは……絶対にしたくなかった。

 

「……そう思うんなら、なおさらアンタはペニーの支えになってあげるべきだよ」

 

 僕のヘタレ具合に呆れ果てたのか、グウェンは一人で歩き出し、僕の方を見ないまま口にする。

 

「女子ってのはね、相手が幼馴染だろうと……好きでもない男子に頭を撫でさせたり、褒められて喜んだり、他の女子とランチに行くなって釘を刺したり……そんなジメジメしたこと、やらないんだから」

 

 その言葉を信じて一歩踏み出す勇気が僕にもあれば、どれだけ良いだろう。

 どこまでもナードな自分を恨めしく思いながら、僕はグウェンの後をついていくだけだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 結局その日、ペニーは最後まで学校に来なかった。

 ペニーのいない教室に長居する理由も無く、僕は足早に帰宅した。なお、釘を刺された通りに、ランチは同性の友人であるエディと一緒に過ごしたことを申し添える。

 

「ただいま、バーナード」

 

「オカエリナサイマセ、ハリー様」

 

 威容を誇る門戸を構えた玄関を潜り、城館のような屋敷の扉を開ければ、幾つとなく続いている部屋だの、遠くまでまっすぐに見える廊下だの、あたかも天井が付いた町のような景色が広がる。

 出迎えに来たバーナード──アンドロイドの執事に鞄を預け、二階にある一室へ向かう。今日は在宅のはずだ、帰った挨拶はしておくべきだろう。扉をノックした。

 

「父さん、帰ったよ。いるかい?」

 

「ああ、おかえりハリー。入りなさい」

 

 許しを得て、中に入る。この部屋は父の書斎。当然、その中に居るのは僕の父──巨大軍需企業オズコープ社の社長にして科学者、ノーマン・オズボーンだ。

 

 

 ……えっ? 大企業の社長を父親に持つなんて、ちっとも平凡な人間じゃないだろって?

 平凡だよ、僕はね。父親が偉大ってだけで、その息子まで特別な人間になる訳じゃないさ。

 

 

「ハリー。相変わらず徒歩での登下校を続けているらしいな。なぜ私の言い付けを聞かない?」

 

「父さん。公立中学の生徒は、最新AIが運転する武装リムジンに送迎されたりなんてしないんだ。特別扱いはしないでくれって言ってるだろ」

 

「……名門私立中学であれば、それぐらいは普通だ」

 

 父さんが僕を心配して言ってくれているのは知ってる。何せここは治安最悪の街ニューヨーク。息子の安全に気を配りたいのは当然だろう。

 だけど僕は、何でもかんでも父さんの力を借りたくはないんだ。

 

「その名門私立中学に通えるのは、僕の父さんがノーマン・オズボーンだからだよ。僕がハリー・オズボーンだからじゃない……僕に合わないのは分かり切ってるさ」

 

「そんなことはない。……自分を恥じることはないだろう」

 

「恥じてなんかいないよ。ただ……」

 

「ただ、何だ?」

 

「……特別な人間になるなら、自分の力だけでなりたいんだ。自分で自分に、胸を張れるような」

 

 そう──胸を張って、ペニーの隣に並び立てるような。そういう人間に、僕はなりたい。

 そのためには、ノーマン・オズボーンの権威に頼るんじゃなく、ハリー・オズボーンとして何かを成さなくちゃならない。そう考えている。

 

「特別な人間を目指すため、子が親の力を頼るのは悪いことじゃないぞハリー。……あのペニー君だって例外ではない。あの子は、父親によく似ている」

 

「ペニーの父親って……リチャード・パーカーさん? そっか、父さんとは科学者仲間だったね」

 

「科学者として優秀な頭脳だけではない、強い正義感を持った男だったよ。今のペニー君があるのは、彼がいたからこそだ。……私も、おまえにとって、そんな父親でありたいと思っている」

 

「……父さんの気持ちは嬉しいよ。でも、これは僕のプライドの話なんだ。好きな女の子にカッコつけたいっていう、ちっぽけな……だけど譲れない、プライドのさ」

 

 そう言って、書斎の扉に手を掛ける。今は放課後だ、僕には僕のやることがある。

 それに……これ以上は、父さんからの愛情に申し訳が立たず、耐えられない。

 

「ハリー、これだけは言っておくぞ」

 

 そんな僕の背中に、なおも父さんは声を掛けてくれて。

 

「おまえが自分をどう思おうと、誰かが何を言おうと、幼馴染の女の子がどれほどの天才であろうと……おまえは特別な人間だ。私と……天国から見守ってくれている、母さんにとってのな」

 

「……ありがとう父さん。愛してるよ」

 

 返しきれない愛情に、せめてその一言だけを返して、僕は父さんの書斎を後にした。

 




ペニー・パーカー
▪外見は闘魂準拠(最強)。CVも高橋李依さん(絶対無敵)。
▪性格も闘魂準拠……のつもりではあるけどなんかジメッとしてるかも。
▪設定は各媒体を都合よく混ぜ合わせた感じで。そういうマルチバースです。

ハリー・オズボーン
▪ぶっちゃけ名前と設定を借りただけのオリキャラなので外見や声は自由にイメージしてほしい。
▪偉大な父ノーマンと幼馴染のペニーが大好き……であると同時にコンプレックスを抱いている。
▪父譲りの才能はあるけど比較対象が天才鬼才な女の子だから最悪。自己肯定感が低い。ナード。
▪スパイダーマンの幼馴染が無事に生きられる道理は無い。カノンイベントが悪いよ。
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