角醒ハンター オメガホーン ―砂塵の向こうに眠る角―   作:ガンダムラザーニャ

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今回はブルーアーカイブとオメガホーンの話を書かせていただきました。


アビドス編
第1話 約束の地図


 砂漠には、今日も容赦なく太陽が照りつけていた。

 

 空を見上げれば、雲一つない青空。

 

 しかし、見渡す限り広がっているのは、美しい海ではない。

 

 どこまでも続く、砂の海だった。

 

「……暑い」

 

 一人の少年が、砂丘を登っていた。

 

 額から流れ落ちる汗を手の甲で拭う。

 

 少年の名は、砂原カナタ。

 

 十五歳。

 

 アビドス高等学校に通う生徒であり、遺跡探索を趣味としている少年だった。

 

 背中には大きなバックパック。

 

 中には水筒、携帯食料、発掘用の道具、それに今日までに見つけた古代の部品がいくつか入っている。

 

 アビドスの砂漠には、かつて栄えていた文明の痕跡が数多く眠っている。

 

 だからカナタは、暇さえあれば砂漠を歩いていた。

 

 価値のある発掘品が見つかれば売って、学園の資金の足しにする。

 

 けれど、それだけが目的ではない。

 

「……あれかな」

 

 カナタは端末を取り出した。

 

 画面に表示されているのは、簡易的な地図。

 

 現在地と、目的地が表示されている。

 

 その先。

 

 砂丘の向こうに、わずかに人工物らしき影が見えていた。

 

「見つけた」

 

 カナタの足取りが少しだけ速くなる。

 

 砂を踏みしめながら丘を越える。

 

 そこにあったのは、砂に埋もれた古代遺跡だった。

 

 崩れた壁。

 

 半ば砂に埋まった柱。

 

 地面から顔を出している石板。

 

 長い年月の中で建物としての形は失われている。

 

 それでも、ここがかつて人の手によって作られた場所であることは分かった。

 

「……結構残ってるな」

 

 カナタは周囲を見渡す。

 

 すぐには中へ入らない。

 

 まずは遺跡の外周を確認する。

 

 崩落の危険はないか。

 

 足場は安定しているか。

 

 不自然な穴はないか。

 

 古代遺跡には、思わぬ危険が潜んでいる。

 

 焦って探索すれば、宝を見つける前に自分が埋まってしまう。

 

「……大丈夫」

 

 安全を確認してから、カナタは遺跡の中へ入った。

 

 薄暗い通路を進み、壁に刻まれた文字を見つける。

 

「古代の文字……」

 

 しゃがみ込み、砂を払う。

 

 文字を端末で撮影する。

 

 すべてを読めるわけではない。

 

 それでも、何度も遺跡を探索してきたカナタには、ある程度の知識があった。

 

「……これは、祭祀に関係する言葉かな」

 

 記録を残す。

 

 そして、さらに奥へ。

 

 しばらく進んだところで、崩れた壁の隙間に何かが見えた。

 

「ん?」

 

 カナタは足を止める。

 

 砂を払う。

 

 指先に硬い感触があった。

 

「……箱?」

 

 慎重に周囲の砂を掘り出していく。

 

 やがて姿を現したのは、小さな金属製の箱だった。

 

「おっ」

 

 カナタの目が輝く。

 

 箱を持ち上げ、裏側を見る。

 

 側面には古代文字らしき刻印。

 

「機械部品……かな」

 

 錆びてはいるものの、完全には壊れていない。

 

 これなら売れるかもしれない。

 

 しかし、すぐにはバックパックへ入れなかった。

 

 カナタは箱をひっくり返し、留め具や接合部分を確認する。

 

「……無理に開けるのはやめとこう」

 

 中に何が入っているか分からない。

 

 壊してしまえば価値がなくなる可能性もある。

 

 カナタは箱を布で包み、慎重にバックパックへしまった。

 

「今日の成果としては十分だな」

 

 立ち上がる。

 

 それからもう一度、遺跡の奥を見た。

 

 何か見落としていないか。

 

 カナタは必ず最後にもう一度確認する。

 

 それが彼の探索方法だった。

 

「……よし」

 

 今日はここまで。

 

 カナタは遺跡を後にした。

 

     *

 

 夕方。

 

 アビドス高等学校。

 

 砂漠に囲まれた校舎へ、カナタが戻ってくる。

 

「ただいま」

 

 返事はない。

 

 広い校舎に対して、生徒の数はあまりにも少ない。

 

 廊下を歩いていても、誰ともすれ違わないことの方が多かった。

 

 カナタは窓の外を見る。

 

 夕焼けに染まった砂漠。

 

 昼間の灼熱が嘘のように、少しずつ冷えていく。

 

「……静かだな」

 

 この静けさにも、もう慣れていた。

 

 カナタは自分の部屋へ戻ると、バックパックを机の上に置いた。

 

 中から今日の発掘品を取り出していく。

 

「これは売る」

 

 古い金属部品。

 

「こっちは……資料に使えるかな」

 

 古代文字が刻まれた石片。

 

 そして、最後に今日見つけた金属製の箱。

 

「これは後で調べよう」

 

 カナタは机の隅に置いた。

 

 発掘品の中には、金になるものもある。

 

 しかし、カナタは何でもかんでも売るわけではなかった。

 

 古代の道具が何に使われていたのか。

 

 誰が作ったのか。

 

 なぜここに残っているのか。

 

 それを考えることが好きだった。

 

「……やっぱり、遺跡は面白いな」

 

 誰もいない部屋で、小さく笑う。

 

 そのときだった。

 

 ふと、棚の奥に目が留まった。

 

「……」

 

 そこだけは、他の発掘品と違う。

 

 カナタは立ち上がり、棚の奥から古びた箱を取り出した。

 

 埃を払う。

 

 蓋を開ける。

 

 中に入っているのは、一冊の古文献。

 

 そして、一枚の古い地図だった。

 

 カナタは地図を取り出した。

 

 その瞬間。

 

 遠い昔の記憶が蘇った。

 

     *

 

 ――二年前。

 

「カナタ君!」

 

「……ユメ先輩?」

 

 十三歳だったカナタが振り返る。

 

 そこにいたのは、一人の少女。

 

 アビドス高等学校の生徒会長。

 

 ユメ。

 

 いつも明るく、少し抜けていて。

 

 それでも、誰よりもアビドスの未来を考えていた少女。

 

 ユメは一冊の古い本を抱えていた。

 

「これ、見て!」

 

「何ですか?」

 

「昔の資料!」

 

 ユメは嬉しそうに本を差し出した。

 

 カナタは表紙を眺める。

 

「……随分古いですね」

 

「でしょ?」

 

「どこで見つけたんですか?」

 

「倉庫!」

 

「……普通に置いてあったんですか?」

 

「うん!」

 

 カナタは苦笑した。

 

 ユメらしい。

 

「それで、何を見てほしいんです?」

 

「こっち!」

 

 ユメは本の間から、一枚の紙を取り出した。

 

 古びた地図だった。

 

 そこには、現在のアビドスとは異なる地形が描かれている。

 

 砂漠。

 

 山々。

 

 そして、いくつもの奇妙な記号。

 

「これ、昔のアビドス周辺を描いた地図だと思うんだけど……」

 

 ユメが首を傾げる。

 

「この場所だけ、どうしても分からないんだ」

 

 カナタは地図を覗き込んだ。

 

 細かな線。

 

 古代文字。

 

 現在とは違う地形。

 

 だが、その中に見覚えのある記号があった。

 

「……これ」

 

「分かる?」

 

「たぶん、遺跡の位置を示してるんじゃないですか?」

 

「やっぱり!?」

 

 ユメの顔がぱっと明るくなる。

 

「じゃあ、探せる?」

 

「まだ分かりません。でも、今の地形と照らし合わせれば……」

 

「本当!?」

 

「はい」

 

 カナタは地図を眺める。

 

 正直、まだ自信はなかった。

 

 けれど、調べてみたいと思った。

 

「場所が分かったら――」

 

 ユメが口を開く。

 

「今度、一緒に行こうよ!」

 

「……俺とですか?」

 

「うん!」

 

 ユメは満面の笑みを浮かべた。

 

「だって、カナタ君の方がこういうの詳しいでしょ?」

 

「そうですけど……」

 

「私も行ってみたい!」

 

「……危ないですよ」

 

「え?」

 

「砂漠ですから」

 

 カナタは真面目な顔で続ける。

 

「水も必要だし、道具も必要です。遺跡なら崩落の危険もあります。ちゃんと準備してからじゃないと――」

 

「じゃあ、準備しよう!」

 

「……え?」

 

「二人で!」

 

 ユメは笑った。

 

 カナタは少しだけ困った顔をする。

 

 けれど。

 

「……分かりました」

 

「やった!」

 

「ただし、無茶はなしですよ」

 

「分かってるって!」

 

「本当ですか?」

 

「本当、本当!」

 

 ユメは笑いながら手を差し出した。

 

「じゃあ、約束!」

 

 カナタは差し出された手を見る。

 

 少しだけ照れながら、その手を握った。

 

「……約束です」

 

     *

 

 ――その約束が、果たされることはなかった。

 

「……ユメ先輩」

 

 十三歳のカナタは、ただ呆然と立っていた。

 

 聞かされた話が理解できない。

 

 砂漠で。

 

 遠く離れた場所で。

 

 ユメが亡くなった。

 

「……嘘ですよね」

 

 返事はない。

 

「だって……」

 

 カナタの手には、あの日の地図があった。

 

「一緒に行くって……言ったじゃないですか」

 

 返事はなかった。

 

 握りしめた紙が、くしゃりと音を立てる。

 

 それでもカナタは、地図を捨てなかった。

 

 捨てることだけは、できなかった。

 

     *

 

 現在。

 

 カナタは机の上に地図を広げていた。

 

 二年前と変わらない。

 

 いや。

 

 紙は少し傷んでいる。

 

 角は擦れ、ところどころに小さな皺もある。

 

 それでも、カナタは一度も捨てなかった。

 

「……ユメ先輩」

 

 静かな部屋に、名前だけが響く。

 

 カナタは地図を見つめる。

 

「……」

 

 そして、首を横に振った。

 

「まだ終わってない」

 

 約束は果たせなかった。

 

 けれど。

 

 だからといって、この地図まで終わったことにはしたくなかった。

 

 ユメが見つけたもの。

 

 二人で行くはずだった場所。

 

 そこに何があるのか。

 

 カナタ自身も知りたかった。

 

「……もう一回、調べてみるか」

 

 古文献を開く。

 

 地図を隣に置く。

 

 古代文字を一つずつ読み解いていく。

 

「これは……方角?」

 

 ペンを走らせる。

 

「こっちは距離を示してるのか?」

 

 地図を回転させる。

 

 現在の地形と照らし合わせる。

 

 一つ。

 

 また一つ。

 

 ばらばらだった情報が、少しずつ繋がっていく。

 

「……」

 

 カナタの手が止まった。

 

 地図の端。

 

 そこに描かれた奇妙な記号。

 

 二年前には意味が分からなかった。

 

 しかし、今日発掘した資料に刻まれていた文字と照らし合わせると――。

 

「……これ」

 

 カナタは目を細める。

 

「方角を示してるんじゃないか?」

 

 地図を回転させる。

 

 端末に現在の地形を表示する。

 

 重ね合わせる。

 

「もし、この解釈で合ってるなら……」

 

 カナタの指が、地図上の一点を指した。

 

 アビドスの砂漠。

 

 そのさらに奥。

 

 現在の地図には、ほとんど何も記されていない場所。

 

「……ここ」

 

 胸が高鳴る。

 

「ここに、何かある」

 

 まだ確信はない。

 

 地図を完全に読み解いたわけでもない。

 

 それでも、カナタには分かる。

 

 この場所は、何かを隠している。

 

「……明日、行ってみるか」

 

 地図を丁寧に畳む。

 

 古文献も箱に戻す。

 

 そして、カナタは最後にもう一度、地図を見た。

 

 その隅に、小さな絵が描かれている。

 

「……?」

 

 今まで気にしたこともなかった。

 

 古代の生物らしき姿。

 

 大きな身体。

 

 四本の脚。

 

 そして――頭部から伸びる、一本の巨大な角。

 

「……何だ、これ」

 

 カナタは首を傾げた。

 

 生物なのか。

 

 神なのか。

 

 それとも、古代人が作り出した何かなのか。

 

 答えは分からない。

 

「まあ……明日、調べればいいか」

 

 カナタは地図を箱へ戻した。

 

 部屋の明かりを消す。

 

「……おやすみ、ユメ先輩」

 

 暗闇の中。

 

 少年は静かに眠りについた。

 

 ――その頃。

 

 砂漠の遥か彼方。

 

 誰も訪れない場所。

 

 何千年もの間、砂の下に埋もれていた遺跡があった。

 

 その最深部。

 

 巨大な空間の中央に、一つの影が眠っている。

 

 それは、生物のようにも見えた。

 

 巨大な身体。

 

 硬い外殻。

 

 そして、その頭部。

 

 そこには一本の角が生えていた。

 

 長い眠りの中。

 

 何も感じず。

 

 何も求めず。

 

 ただ、砂の下で眠り続けていた存在。

 

 だが――。

 

 遠く離れた場所で、一人の少年が地図を開いた瞬間。

 

「――」

 

 角の先に。

 

 ほんの一瞬だけ。

 

 淡い光が灯った。

 

 そして、消える。

 

 少年はまだ知らない。

 

 この地図が、二年前に果たせなかった約束へと続いていることを。

 

 そして。

 

 砂の下で眠っていた存在との出会いが、自分の人生を大きく変えることを。

 

 ――物語は、まだ始まったばかりだった。

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