ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

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第13話 カイザーの角

アビドス高等学校。

 

 夜の教室に、カナタたちが集まっていた。

 

 いつもならホシノが眠そうに机へ突っ伏している時間だった。

 

 しかし――その姿はない。

 

「……ホシノ先輩が、カイザーに連れて行かれた」

 

 カナタは、重い声でそう告げた。

 

 シロコたちの表情も険しい。

 

「昨日、カイザーの施設で何があったの?」

 

 アヤネが尋ねる。

 

 カナタは、昨日の出来事を順番に話した。

 

 ホシノが退学届を持ってカイザーと交渉していたこと。

 

 アビドスの借金はすでに返済されているが、それだけでは学校の自治権まで保証されないこと。

 

 そして、旧生徒会の権利を正式に継承できる人物がいなくなれば、カイザーが自治権について手続きを進められる可能性があること。

 

「……それで、ホシノ先輩が自分からアビドスを離れようとしていた」

 

 セリカが拳を握る。

 

「そんなの……ホシノ先輩、何考えてるのよ……」

 

「ホシノ先輩は、私たちを守ろうとしたんだと思います」

 

 アヤネが静かに答えた。

 

「でも、それが逆にカイザーへアビドスへ介入する口実を与えてしまった」

 

「そういうことです」

 

 カナタは頷く。

 

 そして、もう一つの問題を口にした。

 

「それだけじゃありません」

 

 カナタは机の上に資料を並べる。

 

「角状遺物のことです」

 

 カイザー系採掘会社。

 

 ブラックマーケット。

 

 角状遺物。

 

 エゴルギア。

 

「俺たちが調べた記録では、カイザー系の採掘会社が角状遺物を複数回収して、それをブラックマーケットへ流していた」

 

「そして、ヘルメット団が弾角を使っていた」

 

 シロコが続ける。

 

「便利屋68のカヨコも忍角を使っていた」

 

 カナタが頷いた。

 

「ただ、まだカイザーが全部のエゴルギアを流していたって証拠はありません」

 

 炎角が腕を組む。

 

「だが、カイザーが角状遺物と何らかの関わりを持っている可能性は高い」

 

「そして昨日……」

 

 カナタは言葉を詰まらせた。

 

 あの男が見せたもの。

 

「カイザー側が、エゴルギアを持っていました」

 

「……!」

 

 全員が息を呑む。

 

「だから俺は、先生に連絡します」

 

 カナタは端末を取り出した。

 

「ホシノ先輩を取り戻すだけじゃない。アビドスそのものがカイザーに狙われてる」

 

 通信を繋ぐ。

 

 しばらくして、先生が応答した。

 

『カナタ? どうした?』

 

「先生……」

 

 カナタは深く息を吸った。

 

「ホシノ先輩が、カイザーに連れて行かれました」

 

『……何?』

 

「昨日、ホシノ先輩は退学届を持ってカイザーと交渉していました」

 

 カナタは、これまで分かったことを一つずつ説明する。

 

 アビドスの借金。

 

 土地や権利の問題。

 

 旧生徒会と自治権。

 

 角状遺物。

 

 ブラックマーケット。

 

 カイザー系採掘会社。

 

 エゴルギア。

 

 そして、ホシノの連行。

 

『……分かった』

 

 先生の声が返ってくる。

 

『すぐにアビドスへ向かう』

 

「ありがとうございます」

 

 カナタは通信を切った。

 

「先生が来てくれる」

 

 シロコが頷く。

 

「なら、私たちはホシノを取り戻す」

 

「ああ」

 

 カナタも頷いた。

 

 その時だった。

 

 遠くから、複数のエンジン音が聞こえてきた。

 

「……?」

 

 アヤネが窓の外を見る。

 

「何でしょう、あれ……?」

 

 砂漠の向こうから、黒い車両が次々と姿を現した。

 

 一台。

 

 二台。

 

 三台。

 

 それどころではない。

 

 数十台にも及ぶ車両が、アビドス高等学校へ向かってくる。

 

「カイザー……!」

 

 セリカが叫ぶ。

 

 やがて車両から、武装したカイザーPMCが降りてきた。

 

 彼らは銃を構えながら校舎を取り囲んでいく。

 

「……何だ、これ」

 

 カナタが呟く。

 

 炎角が険しい表情でPMCを見つめた。

 

「御前様。あれは戦の構えだ」

 

「ああ……」

 

 カナタはオメガホーンへ手を伸ばす。

 

「でも、向こうは攻撃だとは言わないだろうな」

 

 昨日の男の言葉が蘇る。

 

――正式な手続きです。

 

「カイザーは、アビドスを攻撃するんじゃない」

 

 カナタは呟いた。

 

「管理するつもりなんだ」

 

 その時、PMCの一人が拡声器を手に取った。

 

『こちらはカイザー・コーポレーションです』

 

『現在、アビドス高等学校の自治権について正式な確認および管理手続きを開始しています』

 

 セリカが怒鳴る。

 

「銃を持って学校を囲んでおいて、よくそんなこと言えるわね!」

 

『抵抗しなければ、武力行使は必要ありません』

 

「ふざけないで!」

 

 カナタは周囲を見る。

 

 PMCの数は多い。

 

 アビドスの生徒だけでは、全員を相手にするのは難しい。

 

「……先生が来るまで、持ちこたえる」

 

 その時だった。

 

「おやおや~? ずいぶんと大所帯になってるじゃない」

 

 聞き覚えのある声が響いた。

 

 全員が振り返る。

 

「便利屋68……?」

 

 そこにはアル、ムツキ、カヨコ、ハルカが立っていた。

 

「そう!」

 

 アルが胸を張る。

 

「我々便利屋68も、今回ばかりは助太刀するわ!」

 

「……いつから仲良くなったんだ?」

 

「仲良くなんてなってないわよ!」

 

 アルが即座に否定する。

 

「ただ、カイザーのやり方はハードボイルドじゃない!」

 

「それに、前の事件で一緒に戦ったでしょ」

 

 カヨコが静かに言う。

 

「……ああ」

 

 カナタは思い出す。

 

 柴関ラーメン爆破事件。

 

 その時、アビドスと便利屋68は一時的に手を組んでいた。

 

「まあ、今は細かいことはいいじゃん?」

 

 ムツキが笑う。

 

「敵が同じなら、一緒に遊んだ方が楽しいしね」

 

「私は……アビドスを守ります」

 

 ハルカも銃を構える。

 

「ホシノさんを連れて行った人たちを、このままにはできません」

 

 アルが指を突き出す。

 

「そういうことよ!」

 

 その瞬間。

 

 遠くから別の車両が近づいてきた。

 

「先生だ!」

 

 アヤネが叫ぶ。

 

 車両が止まり、先生が降りてくる。

 

 先生は周囲を一瞥すると、すぐに状況を把握した。

 

「……多いな」

 

 そして、指示を出す。

 

「シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ。正面を抑えて」

 

「了解!」

 

「任せてください!」

 

「分かったわ!」

 

「はい!」

 

「便利屋68は側面を頼む」

 

「任せて!」

 

 アルが胸を張る。

 

「ハードボイルドに決めるわよ!」

 

「社長、それ自分で言うものなの?」

 

 ムツキが笑った。

 

「カナタ」

 

 先生が振り返る。

 

「君は?」

 

「俺は……」

 

 カナタはオメガホーンを握った。

 

「角獣を相手にします」

 

 先生が頷く。

 

「分かった。ただし無理はするな」

 

「はい!」

 

 銃声が響いた。

 

 戦闘が始まる。

 

 シロコが砂煙の中を駆け抜ける。

 

「そこ!」

 

 銃撃。

 

 PMCが倒れる。

 

「ノノミ、右!」

 

「お任せください!」

 

 ミニガンが火を噴き、PMCの隊列を崩す。

 

「セリカ、下がりすぎないで!」

 

「分かってる!」

 

 セリカも銃を撃ちながら前進する。

 

「昨日あんたたちにラーメン大盛りにしてあげたのに! 今度は敵なの!?」

 

「まだ根に持ってるんだ」

 

 カナタが苦笑する。

 

「当然でしょ!」

 

 セリカが叫ぶ。

 

 便利屋68も側面から攻撃を仕掛ける。

 

「ムツキ!」

 

「はーい!」

 

 爆発。

 

「ハルカ、次!」

 

「はい!」

 

 PMCの隊列が次々と崩れていく。

 

 先生の指揮によって、戦況は徐々にアビドス側へ傾き始めていた。

 

 しかし――。

 

「……なるほど」

 

 低い声が響く。

 

 PMCの後方から、一人の男が歩いてくる。

 

「カイザー理事……」

 

 カナタが目を細めた。

 

「砂原カナタ」

 

 男はカナタを見る。

 

「君がここにいることは把握している。遺跡探索、角状遺物の調査。そして我々の採掘事業への干渉もな」

 

「だったら話は早い」

 

 カナタは一歩前へ出る。

 

「ホシノ先輩を返せ」

 

「それはできない」

 

「……!」

 

「彼女は旧生徒会の権利継承者として、確認すべき事項がある。手続きが完了するまでは、こちらで預かる」

 

「人質だろ」

 

「法的には違う」

 

 理事は淡々と答える。

 

「君たちがどう受け取るかは自由だがな」

 

 カナタは怒りを抑える。

 

「……じゃあ、角状遺物について聞かせてもらう」

 

「何のことかな?」

 

「カイザー系の採掘会社が角状遺物を複数回収していた」

 

「その一部がブラックマーケットへ流れていた記録もある」

 

「ヘルメット団は弾角を使っていた」

 

「便利屋68のカヨコは忍角を使っていた」

 

 そして、理事の懐を見る。

 

「……昨日、お前が持っていたのもエゴルギアだった」

 

 理事は少しだけ笑った。

 

「よく調べたものだ」

 

 そして、懐から一つのエゴルギアを取り出す。

 

「ならば、もう一つ見せてあげよう」

 

 理事が装置をレプリカへ装填する。

 

 機械音が響く。

 

「角醒せよ――重角!!」

 

 大地が震えた。

 

【重角獣!!】

 

 砂煙を突き破り、巨大な角獣が姿を現す。

 

「……重角!」

 

 カナタが息を呑む。

 

 炎角が低く唸った。

 

「御前様……」

 

「ああ」

 

 カナタはオメガホーンを握りしめる。

 

「カイザーも、角獣の力を使える……」

 

 しかし、まだ全てが分かったわけではない。

 

 カイザーがどこまで角状遺物を集めているのか。

 

 ブラックマーケットへ流した遺物が、最終的に誰の手へ渡ったのか。

 

 何のためにエゴルギアを利用しているのか。

 

 その答えは、まだ見えない。

 

「でも……」

 

 カナタは重角を睨む。

 

「カイザーが角獣に関わっていることだけは、もう間違いない」

 

 理事が手を上げる。

 

「行け、重角」

 

 重角が地面を踏み鳴らした。

 

 ズン――。

 

 大地が揺れる。

 

「炎角」

 

「承知した」

 

 カナタはオメガホーンを握りしめる。

 

「俺たちも行くぞ」

 

 炎角がカナタを見る。

 

 次の瞬間、カナタは叫んだ。

 

「鼓膜に力を入れろ!!

 角醒せよ――角獣王・炎角!!」

 

【炎角獣!!】

 

 炎が爆発する。

 

 その中心から、巨大な炎角が姿を現した。

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 炎角の咆哮が砂漠に響き渡る。

 

 向かい側では、重角もまた大地を踏み鳴らしていた。

 

「グオオオオオッ!!」

 

 二体の角獣が睨み合う。

 

「行け、重角」

 

 カイザー理事の命令を受け、重角が地面を蹴った。

 

 巨体が一直線に炎角へ迫る。

 

「炎角、右!」

 

「グオオオオッ!!」

 

 炎角が身を翻す。

 

 重角の巨大な角が、わずか数メートル横を通り過ぎた。

 

「今だ!」

 

 炎角が振り返る。

 

 その拳に炎が集まり、重角の側面へ叩き込まれる。

 

 轟音。

 

 砂煙が舞い上がった。

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 しかし――。

 

「……硬い!」

 

 重角は倒れない。

 

 炎角の攻撃を受け止め、巨体をわずかに揺らしただけだった。

 

「真正面からじゃ、突破できない……!」

 

 カナタは重角の動きを観察する。

 

 巨体。

 

 圧倒的な突進力。

 

 そして、それを支える強固な装甲。

 

「だったら……!」

 

 カナタがオメガホーンを構える。

 

「炎角、もう一度行くぞ!」

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 炎角が咆哮する。

 

 大地を蹴り、重角へ突進する。

 

 重角もまた真正面から迎え撃つ。

 

 炎と土煙。

 

 二体の角獣が再び激突した。

 

 その衝撃で、周囲の砂が大きく吹き飛ばされる。

 

 カナタは炎角の動きを見ながら叫ぶ。

 

「左! 次は下から!」

 

「グオオオオッ!!」

 

 炎角が低く身を沈める。

 

 重角の角をかわし、その懐へ潜り込む。

 

「今だ!」

 

 炎角の拳が重角の腹部へ突き刺さる。

 

 だが、重角は怯まない。

 

 その巨体から放たれた反撃を、炎角が両腕で受け止める。

 

「グオオオオオッ!!」

 

「炎角!」

 

 カナタは思わず叫ぶ。

 

 炎角は吹き飛ばされながらも、地面を削って踏みとどまった。

 

 そして、ゆっくりと顔を上げる。

 

「グルルル……」

 

 低い唸り声。

 

 その目には、戦意が宿っている。

 

「……まだやれるな」

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 炎角が再び咆哮した。

 

 カナタもオメガホーンを握り直す。

 

「よし……!」

 

 その頃、別の場所では先生の指揮によってアビドスと便利屋68がPMCを押し返していた。

 

 だが、カナタの視界には重角しか映っていなかった。

 

 まだ突破口は見えない。

 

 しかし――。

 

「絶対に負けるな、炎角!」

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 炎角が大地を蹴る。

 

 再び、重角へ向かって駆け出した。

 

 その一方で、PMCとの戦いも続いている。

 

「シロコ、左!」

 

「分かった!」

 

「ノノミ、援護!」

 

「お任せください!」

 

「セリカ、前方!」

 

「任せて!」

 

 先生の指示に従い、アビドスの生徒たちが動く。

 

 便利屋68も負けてはいない。

 

「ムツキ!」

 

「任せて~!」

 

 爆発。

 

「ハルカ、今!」

 

「はい!」

 

 PMCの隊列がさらに崩れる。

 

 しかし、カイザー理事はその光景を見ても動じなかった。

 

「……興味深い」

 

 理事は炎角と重角を見つめる。

 

「君は角獣を兵器として扱わないのだな」

 

「……何?」

 

「我々にとって、エゴルギアは資源だ」

 

 理事は淡々と言う。

 

「採掘し、管理し、必要に応じて利用する。それだけだ」

 

 カナタの表情が険しくなる。

 

「角獣は物じゃない」

 

「君がそう考えているだけだ」

 

 その言葉に、炎角が唸った。

 

「我らを……物と呼ぶか」

 

「炎角……」

 

 カナタはオメガホーンを握り直す。

 

「だったら、俺が証明してやる」

 

「角獣は、誰かの所有物じゃない」

 

「一緒に戦う仲間だ!」

 

 炎角が吠える。

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 重角も大きく咆哮する。

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 二体の角獣が、再び激突した。

 

 炎と砂塵が荒れ狂う。

 

 カナタはその中で、必死に重角の動きを見極める。

 

 まだ勝てない。

 

 真正面からでは、重角の防御を破れない。

 

 ならば――。

 

「……先生!」

 

 カナタが叫ぶ。

 

「こっちはまだ時間がかかります!」

 

 先生が振り返る。

 

「分かった! 無理に倒す必要はない! まずはPMCを押し返そう!」

 

「了解!」

 

 カナタは頷いた。

 

 今は、一人で勝つ必要はない。

 

 シロコたちがいる。

 

 便利屋68がいる。

 

 先生がいる。

 

 そして、炎角がいる。

 

 カナタは重角を見据える。

 

「……必ず突き止めてやる」

 

 カイザーは、なぜ角獣の力を利用しているのか。

 

 誰がエゴルギアを集めているのか。

 

 ブラックマーケットの先にいるのは誰なのか。

 

 そして――。

 

 ホシノを、どこへ連れて行ったのか。

 

「待ってろ、ホシノ先輩」

 

 炎角が隣に立つ。

 

「御前様」

 

「ああ」

 

「我も付き合おう」

 

 カナタは頷く。

 

「頼む、炎角」

 

 アビドスを巡る戦いは、まだ始まったばかりだった。

 

 そしてカナタが追い続けてきた「角」の謎は――。

 

 ついに、カイザーという巨大な存在へと繋がった。

カナタたちが次に行く場所

  • ミレニアム
  • トリニティ(アリウス)
  • 百鬼夜行
  • ゲヘナ
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