ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター― 作:ガンダムラザーニャ
炎角の拳が、重角の巨体を大きく吹き飛ばした。
「グオオオオオッ!!」
砂煙を巻き上げながら、重角が地面を何度も転がる。
「ぐっ……!」
カイザー理事も、その衝撃によろめいた。
その手には、重角の力を引き出していたレプリカが握られている。
カナタは荒い息を吐きながら、それを見据えた。
「……これで終わらせる!」
カナタは炎角へと向き直る。
「炎角!」
「グルルル……!」
炎角が低く唸りながら身構える。
「力を貸してくれ!」
「グオオオオオッ!!」
炎の力が、カナタの腕へと集中していく。
「角醒憑依せよ――角獣王・炎角!!」
【炎角獣!!】
炎をまとったカナタが、一気に駆け出した。
「なっ――!」
理事がレプリカを構える。
だが、間に合わない。
カナタの拳が、レプリカを正面から捉えた。
――バキィィン!!
甲高い破砕音。
レプリカが砕け散る。
「な……!」
同時に、重角の力を宿していたエゴルギアが宙へと弾き飛ばされた。
カナタは手を伸ばす。
角状の遺物が、吸い寄せられるようにその手へ収まった。
「……これが」
カナタは、手の中のエゴルギアを見つめる。
「重角のエゴルギア……」
これまで追ってきた疑念が、また一つ形になった。
カイザーは、エゴルギアを利用している。
それはもう、疑いようがない。
しかし。
「これだけじゃ、まだ分からない……」
ブラックマーケットで見つけた記録。
カイザー系採掘会社。
角状遺物。
そして、エゴルギア。
すべてが繋がっているように見える。
だが、その全貌までは見えていない。
「理事!」
遠くからPMCの声が響く。
「これ以上は無理です! 撤退を!」
「くっ……!」
カイザー理事は、砕けたレプリカとカナタを交互に睨みつける。
「貴様……覚えていろ!」
捨て台詞を残し、理事はPMCを引き連れて撤退していった。
砂煙が舞う。
やがて、その姿も見えなくなった。
――戦いは終わった。
「……終わった、のか?」
セリカが周囲を見渡す。
「うん。カイザーはもういないよ」
先生が答える。
シロコ、ノノミ、アヤネも武器を下ろす。
カナタも角醒憑依を解除した。
炎の力が消えていく。
その横で、炎角もまた人の姿へ戻った。
「……ふう」
炎角が周囲を見渡す。
「どうやら、終わったようだな」
「ああ」
カナタは答える。
そのとき。
「あれ?」
ノノミが周囲を見渡した。
「便利屋68の皆さんは?」
「……あ」
セリカも気づいた。
先ほどまで一緒に戦っていたはずの四人の姿が、どこにもない。
「いつの間に……」
アヤネが困惑する。
先生が苦笑した。
「戦いが終わる前には、もういなかったみたいだね」
カナタも周囲を見る。
「……まあ、あいつららしいか」
便利屋68は、もう帰っていた。
今回は利害が一致したから共に戦った。
それだけだった。
カナタは手の中の重角のエゴルギアを見つめる。
「でも……」
勝った。
カイザーを追い払った。
それでも。
「ホシノ先輩は、まだ戻ってきてない」
誰も言葉を返せなかった。
◇
アビドスへ戻った後。
先生が全員を集めた。
「みんなに話がある」
全員が先生を見る。
「ホシノの居場所が分かった」
「!」
シロコたちの表情が変わる。
「どこですか!?」
アヤネが身を乗り出す。
「カイザーの実験施設だ」
「……カイザーの」
セリカが拳を握る。
「じゃあ、そこを叩けば……!」
「待って」
先生が制した。
「施設の規模も、防衛戦力も分かっていない」
「……」
「今回戦ったPMCだけでも、かなりの数だった。あれ以上の戦力が待っている可能性もある」
シロコが考え込む。
「アビドスだけで攻めるのは危険……」
「そういうことだ」
先生は頷く。
「だから、協力してくれる学校を探そう」
「どこに?」
「トリニティとゲヘナだ」
セリカが少し驚く。
「ゲヘナも?」
「今回は、正式にお願いする」
先生は答えた。
「以前みたいに、偶然共闘するわけじゃない」
カナタも頷いた。
「それなら……俺も行きます」
◇
まず、トリニティ。
先生が事情を説明すると、ヒフミがすぐにナギサへ話を通した。
「ホシノさんを助けるためなら、私も協力します」
ヒフミは真剣な顔で言った。
「以前、アビドスの皆さんには助けてもらいましたから」
その話を受け、ナギサも先生からの要請に答えた。
「……分かりました」
ナギサは静かに頷く。
「トリニティとして、救出作戦への支援を行いましょう」
「ありがとうございます」
「ただし、大規模な部隊を派遣するわけにはいきません」
ナギサは続ける。
「必要な火力支援を中心に行います」
「はい」
「そのために――」
ナギサは少し考えた。
「榴弾砲を一門、貸し出しましょう」
「榴弾砲……」
「ええ。施設の外壁など、通常の装備では突破が難しい場合に使用してください」
先生は頷いた。
「分かった。大切に使うよ」
「お願いします」
ナギサは微笑む。
「これは先生への貸しです」
「……貸し?」
「ええ。いつか返していただきます」
先生は苦笑しながら頷いた。
「分かった」
こうして、トリニティからの協力を得た。
残るはゲヘナだった。
◇
ゲヘナ学園。
先生とアビドスの一行は、ヒナとマコトの前に立っていた。
「事情は分かったわ」
ヒナは静かに言った。
「ホシノをカイザーの実験施設から救出する。そのためにゲヘナの戦力を借りたい」
「はい」
先生が頷く。
「ただ、今はエデン条約も近い」
ヒナは腕を組む。
「大規模な戦力を動かす以上、ゲヘナとしても簡単には決められない」
「……そうですよね」
先生が答える。
「トリニティとの関係もありますから」
「ええ」
ヒナが頷く。
「軽率に軍事行動を起こせば、別の問題を生む可能性もある」
すると。
「俺からも話があります」
カナタが前へ出た。
ヒナとマコトの視線がカナタへ向く。
「アビドスの砂漠を探索していたときに、妙なものを見つけました」
カナタは端末を取り出す。
画面に映し出されたのは、砂の中から一部だけが露出した巨大な物体だった。
戦車。
そう呼ぶには、あまりにも巨大だった。
巨大な車体。
異様な装甲。
そして、その一部には――
ゲヘナの校章が刻まれている。
「……」
ヒナは黙って映像を見る。
マコトも同じように画面を見つめていた。
カナタは二人の反応を見て、続ける。
「俺には、それが何なのか分かりません」
映像を拡大する。
「ただ、ゲヘナの校章が入っていました」
そして、二人を見る。
「アビドスに、ゲヘナの校章が入った巨大な兵器らしき物があったんですけど……何か心当たりはありませんか?」
「……」
ヒナの表情がわずかに変わった。
「場所は?」
「アビドスの砂漠です」
「動く状態?」
「分かりません。ただ、完全に壊れているわけではありませんでした」
「カイザーが見つける可能性は?」
「あります」
カナタは即答した。
「だから、危険だと思っています」
「……そう」
ヒナはもう一度、画面を見る。
「その兵器について、何か分かっていることは?」
「ほとんどありません」
カナタは首を横に振る。
「ただ……」
手の中にある重角のエゴルギアを見る。
「カイザーがエゴルギアを使っていたことは確認しました」
ヒナの視線がエゴルギアへ移る。
「それに、カイザー系の採掘会社が角状遺物を回収して、ブラックマーケットへ流していた記録もあります」
「……」
「そんなカイザーが、あの巨大兵器まで見つけたら?」
カナタは画面を見る。
「俺には、あれが何なのか分かりません」
一呼吸置く。
「でも、カイザーに渡していいものじゃない。それだけは分かります」
しばらく沈黙が続いた。
やがて。
「……これは」
ヒナが呟く。
マコトも画面を見ながら口を開いた。
「心当たりがある、ということだな」
「ええ」
ヒナが答える。
「私たちが処理しなければならないものかもしれない」
「何なんですか?」
カナタが尋ねる。
ヒナは少しだけ間を置いた。
「……雷帝の遺産よ」
「雷帝……?」
カナタは首を傾げた。
その名前を、彼は知らなかった。
「ゲヘナの過去に存在した人物よ」
ヒナは淡々と説明する。
「そして、その人物が残した兵器には、今でも危険なものがいくつもある」
「……なるほど」
カナタは画面を見る。
「だから、あんなに反応したんですね」
「ええ」
ヒナは頷く。
「カイザーがそれを手に入れる前に、確保する必要がある」
マコトも淡々と答える。
「再利用できる状態なら、破壊した方がいい」
「残骸も?」
カナタが尋ねる。
「もちろん」
ヒナは即答した。
「カイザーに回収される可能性があるなら、残骸まで処理する必要がある」
カナタは二人の反応を見つめた。
自分には知らない過去。
だが、ゲヘナにとっては、それほどまでに危険なものなのだ。
「……分かりました」
カナタは頷いた。
「なら、あの兵器はゲヘナに任せます」
「本当に?」
ヒナが尋ねる。
「はい」
カナタは答える。
「俺は、あれを所有するつもりはありません」
一呼吸置く。
「危険なものなら、俺が持っているより、ゲヘナが処理した方がいい」
「……」
「その代わり」
カナタはまっすぐヒナを見る。
「ホシノ先輩を助けるために、力を貸してほしい」
沈黙。
やがてヒナが答えた。
「分かった」
先生が顔を上げる。
「ヒナ」
「ゲヘナは協力するわ」
ヒナは続ける。
「ホシノの救出に必要な戦力を出す」
「ありがとうございます!」
先生が頭を下げる。
「ただし」
ヒナはカナタを見る。
「あの兵器の処理は、私たちに任せてもらう」
「もちろんです」
「場所は、後で詳しく教えて」
「分かりました」
マコトも頷く。
「決まりだな」
カナタも頷いた。
「はい」
「ホシノを救出し、カイザーの実験施設を攻略する」
マコトが宣言する。
「そのついでに、厄介な兵器も消してしまおう」
「……ついで、ですか」
カナタは少し苦笑した。
「ゲヘナらしいな」
◇
アビドスへ戻る道。
カナタは、手にした重角のエゴルギアを見つめていた。
「……カイザー」
敵は、ただアビドスを支配しようとしているだけではない。
エゴルギアを利用し。
角獣の力を兵器として扱っている。
そして、ホシノを実験施設へ連れ去った。
だが、それだけではない。
ブラックマーケット。
カイザー系採掘会社。
角状遺物。
エゴルギア。
そして、雷帝の遺産。
まだ、すべてが繋がったわけではない。
それでも。
「絶対に取り戻す」
隣を歩く炎角が、カナタを見る。
「御前様」
「ああ」
「次は、戦いになるだろうな」
「たぶんな」
カナタは前を向いた。
「でも、今度は俺たちだけじゃない」
トリニティの支援。
ゲヘナの戦力。
そしてシャーレ。
ホシノを取り戻すための仲間が、少しずつ集まり始めている。
「待っててください、ホシノ先輩」
カナタは強く拳を握った。
「今度こそ、助けに行きます」
その先に待っているのは。
カイザーの実験施設。
そして――
ホシノを巡る、決戦だった。
カナタたちが次に行く場所
-
ミレニアム
-
トリニティ(アリウス)
-
百鬼夜行
-
ゲヘナ