ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

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第18話 千年難題

 ミレニアムの街を歩き始めてから、しばらく経った。

 

「……すごいな」

 

 砂原カナタは、何度目か分からない感想を口にした。

 

 視界に入るもの、その一つ一つがアビドスとは違う。

 

 巨大な建物。

 

 整備された道路。

 

 街中を行き交う機械。

 

 空中を飛び交う小型ドローン。

 

 何かの実験装置を抱えて走る生徒。

 

 端末を操作しながら歩く生徒。

 

 アビドスでは、ほとんど見ることのなかった光景だった。

 

「御前様」

 

「ん?」

 

「あれは何だ?」

 

「……分からない」

 

 炎角が別の機械を指差す。

 

「では、あれは?」

 

「それも分からない」

 

「ならば、あれは?」

 

「……炎角」

 

「何だ?」

 

「俺にも分からないものくらいあるよ」

 

「そうか」

 

 炎角は真面目な顔で頷いた。

 

「ならば、ここは実に興味深い」

 

「……うん」

 

 カナタも笑った。

 

 知らないものがある。

 

 分からないものがある。

 

 だからこそ、調べてみたくなる。

 

 それは、遺跡を探していた頃から変わらなかった。

 

 しばらく歩いたところで、カナタはふと思い出す。

 

「そうだ」

 

「何だ?」

 

「大将が言ってたこと」

 

 アビドスを旅立つ前。

 

 柴関ラーメンの大将に、これからの行き先について相談した。

 

 その時に勧められたのが、このミレニアムだった。

 

 科学と技術の学校。

 

 珍しい機械や研究施設も多い。

 

「せっかく来たんだし、何か調べてみようかな」

 

「何を調べる?」

 

「……角獣」

 

 その言葉に、炎角の表情が変わった。

 

「角獣を?」

 

「うん」

 

 カナタは腰に装着したオメガホーンを見る。

 

 アビドスでの戦い。

 

 カイザーとの戦い。

 

 そして、これまでに出会った角獣たち。

 

 カナタは少しずつ、角獣という存在について知ってきた。

 

 しかし、分からないことの方が圧倒的に多い。

 

 なぜ角獣は存在するのか。

 

 なぜ人間は、その力を扱えるのか。

 

 エゴルギアとは何なのか。

 

 そして――。

 

 炎角とは、いったい何者なのか。

 

「ミレニアムなら、何か知ってるかもしれない」

 

「確かに」

 

 二人は近くにいた生徒へ声をかけることにした。

 

「すみません」

 

「ん? どうしたの?」

 

「角獣について調べている人って、ミレニアムにいますか?」

 

「角獣?」

 

 生徒は少し考える。

 

「ああ……研究テーマにしてる人なら、いると思うよ」

 

「本当ですか?」

 

「うん。でも、角獣だけを専門にしてる人がいるってわけじゃないかな」

 

「そうなんですか?」

 

「ミレニアムって、いろんな未解明の現象を研究してるからね」

 

「未解明の現象……」

 

「長い間、答えが出てない問題とか」

 

 生徒は端末を確認する。

 

「そういう難しい研究テーマを、研究者の間では『千年難題』って呼ぶことがあるんだ」

 

「千年難題……?」

 

「正式な分類ってわけじゃないけどね。まあ、ミレニアムらしい呼び方かな」

 

 生徒は苦笑する。

 

「角獣も、その中に入れて考えてる研究者はいるよ」

 

「……!」

 

 カナタは目を見開いた。

 

「角獣が?」

 

「うん」

 

 生徒は端末を操作しながら続ける。

 

「角獣の起源とか、エゴルギアの仕組みとか、どうして人間が角醒によって力を扱えるのかとか……」

 

「そこまで分かってないんですか?」

 

「だから研究してるんじゃない?」

 

 生徒は笑った。

 

「興味があるなら、研究施設を当たってみたら?」

 

「ありがとうございます」

 

 生徒と別れた後。

 

 カナタはしばらく黙っていた。

 

「……千年難題」

 

「どうした、御前様?」

 

「僕は、角獣のことを追いかけてきたつもりだったけど」

 

 カナタはミレニアムの街を見渡した。

 

「ここでは、角獣も『まだ分からないこと』の一つなんだな」

 

「つまり?」

 

「僕だけが知らないわけじゃない」

 

 炎角は少し考える。

 

「それは、悪いことなのか?」

 

「ううん」

 

 カナタは首を横に振った。

 

「むしろ安心した」

 

「安心?」

 

「ミレニアムみたいな場所でも答えが出てないなら、僕が知らなくても仕方ないって思えるから」

 

「……なるほど」

 

 炎角は頷いた。

 

「しかし、御前様はそれで諦める男ではないだろう?」

 

「もちろん」

 

 カナタは笑った。

 

「だから、もう少し調べてみよう」

 

* * *

 

 それから二人は、角獣研究に関係している研究施設を訪れた。

 

 受付で事情を説明すると、研究員が資料の一部を見せてくれることになった。

 

「角獣については、現在も調査が続いています」

 

 研究員が端末を操作する。

 

 画面には、角獣の記録やエゴルギアの分析データが表示されていた。

 

「エゴルギアは、角獣の力を人間が扱うための媒体として機能していると考えられています」

 

「考えられている……?」

 

「ええ。仕組みの全容が解明されているわけではありません」

 

「なるほど……」

 

 カナタは画面を覗き込む。

 

「同じ種類の角獣に対応するエゴルギアって、複数あるんですか?」

 

「複数存在する例は確認されています」

 

「じゃあ、それぞれ別物なんですか?」

 

「そこも、まだ研究段階です」

 

 研究員は別の資料を表示した。

 

「同じ角獣に対応しているように見えても、エゴルギアそのものの性質に違いがある可能性があります」

 

「へえ……」

 

 カナタは興味深そうに資料を見る。

 

「レプリカについては?」

 

「レプリカは構造解析の面では非常に興味深いですね」

 

 研究員が別の画面を開く。

 

「角醒器としての構造を再現することで、どのように力が伝達されているのかを調べることができます」

 

「じゃあ、レプリカを調べれば角獣のことが分かる?」

 

「いいえ」

 

 研究員は首を横に振った。

 

「そこまでは分かりません」

 

「……」

 

「レプリカから分かるのは、あくまで角醒器やエゴルギアの一部の構造です。角獣そのものの起源や正体とは、別の問題です」

 

「なるほど」

 

 カナタは頷いた。

 

「つまり、分かることは増えてるけど、肝心なところはまだ分からない」

 

「そういうことです」

 

 研究員は苦笑する。

 

「だから『千年難題』なんて呼ばれたりするんですよ」

 

 カナタは隣の炎角を見る。

 

 炎角は静かに資料を見つめていた。

 

 自分自身について、誰も明確な答えを持っていない。

 

 その事実を、炎角自身も理解しているようだった。

 

「……あ」

 

 研究員が何かを思い出したように端末を操作する。

 

「そういえば、角獣について調べているなら、面白い資料があります」

 

「何ですか?」

 

「過去に、ミレニアム郊外の廃墟から角獣に関する文献が発見されたことがあるんです」

 

「廃墟?」

 

 カナタの目が変わった。

 

「はい」

 

「どんな文献ですか?」

 

「断片的なものです。角獣らしき存在の姿を記した記録や、エゴルギアについて触れたと思われる文章があったそうです」

 

「だったら、その廃墟にまだ資料が残っている可能性は?」

 

「否定できません」

 

 研究員は地図を表示した。

 

 ミレニアムの中心部から離れた場所。

 

 周囲には、ほとんど建物がない。

 

「ただ、現在は本格的な調査が行われていません」

 

「どうして?」

 

「施設の用途が分かっていないんです」

 

 研究員は続ける。

 

「それに、かなり古い建物なので、内部の崩落や設備の故障など、安全面の問題もあります」

 

 カナタは地図を見る。

 

 そして、ゆっくり頷いた。

 

「……行ってみたい」

 

「カナタ」

 

 炎角が呼びかける。

 

「分かってる」

 

 カナタは答えた。

 

「危険なら、勝手に入るつもりはないよ」

 

 研究員を見る。

 

「正式に調査する方法はありますか?」

 

「君は遺跡探索をしているんでしたね」

 

「はい」

 

「それなら、研究協力という形で申請できるかもしれません」

 

「お願いします」

 

 研究員は頷いた。

 

「分かりました。こちらでも手続きを確認してみます」

 

「ありがとうございます」

 

 カナタは地図をもう一度見る。

 

 ミレニアム郊外。

 

 過去に角獣の文献が発見された廃墟。

 

 そして、そこにまだ何かが残っている可能性。

 

 遺跡探索者として、これほど気になる情報はない。

 

「……楽しみだな」

 

「御前様」

 

「ん?」

 

「先ほどまで『ミレニアムで何をするか分からない』と言っていたのが嘘のようだな」

 

「……そうだね」

 

 カナタは苦笑した。

 

「でも、これも旅の面白いところなんじゃないかな」

 

「違いない」

 

 二人は研究施設を後にした。

 

 向かう先は、ミレニアム郊外。

 

 過去に角獣の文献が発見されたという、名も分からぬ廃墟。

 

 そこに何が眠っているのか。

 

 カナタも、炎角も、まだ知らない。

 

 ただ――。

 

 その場所には、二人が予想していなかった「出会い」が待っていた。

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