ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

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第22話 セミナー会長、リオ

 ミレニアムサイエンススクールの校舎。

 

 カナタと炎角は、ゲーム開発部の部室を出てから、校舎の中を歩いていた。

 

「それにしても……」

 

 カナタは廊下を見回す。

 

「本当に色々あるな」

 

 廊下を歩く生徒たちの中には、端末を片手に何かを確認している者もいれば、実験器具のようなものを運んでいる者もいる。

 

 少し先では、小型のロボットが廊下を走っていた。

 

「学校というより、研究施設のようだな」

 

 炎角が呟く。

 

「俺も最初はそう思った」

 

 カナタは苦笑する。

 

「でも、教室では普通に授業もやってる。ちゃんと学校なんだよ」

 

「学びながら研究する……か」

 

「ああ。アビドスとは全然違うけどな」

 

 二人はしばらく歩き続ける。

 

 すると、前方から一人の少女が歩いてきた。

 

 黒い髪。

 

 整った身なり。

 

 落ち着いた雰囲気を纏っている。

 

 少女はカナタたちの姿を確認すると、足を止めた。

 

「……あなたたち」

 

 カナタも立ち止まる。

 

「俺たち?」

 

「ええ。少し、いいかしら?」

 

 炎角が僅かに身構える。

 

 だが、少女は敵意を見せることなく、まず自分から名乗った。

 

「私はリオ。ミレニアムサイエンススクールのセミナー会長を務めているわ」

 

「セミナー……?」

 

 カナタが首を傾げる。

 

 リオはその反応を見て、淡々と説明する。

 

「ミレニアムの生徒会に相当する組織よ」

 

「なるほど」

 

 カナタは頷く。

 

「俺はカナタ。アビドスの生徒だ」

 

「知っているわ」

 

「え?」

 

「先生から少し話を聞いているもの」

 

 リオは続ける。

 

「それに、あなたたちがゲーム開発部と行動していることも把握しているわ」

 

「そこまで知ってるのか?」

 

「ええ」

 

 リオは視線を炎角へ移す。

 

「そして、そちらが炎角ね」

 

「そうだ」

 

 炎角が答える。

 

「我が炎角だ」

 

 リオの目が僅かに細くなる。

 

「……本当に意思疎通ができるのね」

 

「当然だ」

 

「興味深いわ」

 

「何がだ?」

 

「あなたよ」

 

 炎角が首を傾げる。

 

「我が?」

 

「ええ」

 

 リオは淡々と答えた。

 

「ミレニアムでは角獣についても研究されている。エゴルギアを持つ角獣そのものは、決して珍しい存在ではないわ」

 

「ならば、何故我に興味を持つ?」

 

「あなたが単なる角獣ではないからよ」

 

 カナタが口を挟む。

 

「炎角は俺と一緒に旅をしてる。人間の言葉も話せるし、俺たちと普通に会話もする」

 

「その点が気になっているのよ」

 

 リオは答えた。

 

「既存の角獣に関する資料だけでは、あなたを十分に説明できない可能性があるわ」

 

 炎角は少しだけリオを見る。

 

「随分と我を調べたいようだな」

 

「研究者として興味があるもの」

 

 リオは即答した。

 

「でも、今すぐあなたを研究施設へ連れて行こうとは思っていないわ」

 

「……」

 

「あなたたちはミレニアムの生徒ではないもの。無理に干渉する理由もないでしょう?」

 

 カナタは少し安心した。

 

「それならよかった」

 

「ただし、一つだけ聞いておきたいことがあるわ」

 

「何だ?」

 

 リオの表情が少し変わる。

 

「あなたたちは、ゲーム開発部と一緒にいるのよね?」

 

「ああ」

 

「そこにいる少女についてよ」

 

 カナタの表情が変わった。

 

「……アリスか?」

 

「ええ」

 

 リオは頷いた。

 

「私は、まだ彼女本人には会っていないわ」

 

「じゃあ、何でアリスを知ってるんだ?」

 

 カナタは疑問を隠さなかった。

 

「先生から聞いたのか?」

 

「それもあるわ」

 

 リオは一度言葉を切る。

 

「でも、それだけではない」

 

「……?」

 

 リオは端末を取り出した。

 

「これを見て」

 

 画面に、一つの映像が表示される。

 

 薄暗い施設の内部。

 

 崩れた壁。

 

 瓦礫。

 

 そして――。

 

 巨大な機械の前に立つカナタたちの姿が映っていた。

 

「……これ」

 

 カナタが目を見開く。

 

「俺たち?」

 

「そう」

 

 炎角も画面を覗き込む。

 

「この小さな機械は何だ?」

 

「監視用ドローンよ」

 

 リオが答える。

 

「ミレニアムでは、危険性のある旧研究施設や未使用施設の一部を、無人機で定期的に監視しているの」

 

「じゃあ……」

 

「ええ」

 

 リオは映像を切り替える。

 

 そこには、巨大な機械に座った少女の姿が映っていた。

 

「あなたたちが施設に入るより前から、私はこの子の存在を把握していた」

 

「アリス……」

 

 カナタは画面を見つめる。

 

「でも、どうして今まで助けに来なかったんだ?」

 

 リオは静かに答えた。

 

「存在は確認できても、施設の内部まで安全に進入できる状態ではなかったからよ」

 

「……」

 

「建物は老朽化していた。内部には崩落の危険もあったし、旧式の防衛設備が残っている可能性もあった」

 

 リオは映像を停止する。

 

「それに、監視ドローンだけでは、あの子が何者なのかまでは判断できなかった」

 

「だから、ずっと見ていた?」

 

「正確には、定期的に確認していたのよ」

 

 リオは訂正する。

 

「施設の監視が目的だったから」

 

 カナタは黙り込む。

 

 それなら、リオがアリスの存在を知っていたことにも説明がつく。

 

「じゃあ、俺たちがアリスを見つけたことも……」

 

「把握しているわ」

 

「……なるほど」

 

 炎角が口を開く。

 

「つまり、我らは最初から見られていたということか」

 

「正確には、施設そのものを監視していた結果、あなたたちも映っていたということね」

 

「ふむ」

 

 炎角は納得したように頷いた。

 

「ならば、仕方あるまい」

 

 カナタは苦笑する。

 

「炎角、そこは気にするところじゃないのか?」

 

「我らも旅先で周囲を観察する。向こうも同じことをしていただけだろう」

 

「……確かに」

 

 リオは二人のやり取りを見ていた。

 

「あなたたちは、本当に変わった組み合わせね」

 

「よく言われる」

 

 カナタは苦笑する。

 

「それで……アリスは危険なのか?」

 

 リオの表情が少し変わった。

 

「私は、彼女自身が危険な子だと言っているわけではないわ」

 

「じゃあ、何が危険なんだ?」

 

「彼女という存在が持っている可能性よ」

 

 カナタは眉を寄せる。

 

「可能性?」

 

「ええ」

 

 リオは淡々と説明する。

 

「自分が何者なのかも分からない。しかも、旧研究施設の特殊な装置に接続されていた」

 

「……」

 

「さらに、その施設には角獣や古代技術に関係する資料が残されていた」

 

 カナタはアリスの姿を思い出す。

 

「でも、アリスは普通の女の子みたいだった」

 

「それは否定しないわ」

 

 リオは静かに答える。

 

「だからこそ、慎重になる必要があるのよ」

 

「本人に悪意がなくても、その力を利用しようとする人間が現れるかもしれない」

 

 カナタは黙って聞いている。

 

「本人が望んでいなくても、何かを引き起こしてしまう可能性だってある」

 

「だから、危険だと?」

 

「正確には違うわ」

 

 リオは首を横に振る。

 

「『危険かもしれない』。今の私が言えるのは、それだけよ」

 

 カナタは少し考えた。

 

「……それなら、俺はアリスを危険なものとして扱うつもりはない」

 

「でしょうね」

 

 リオは驚かなかった。

 

「あなたならそう言うと思ったわ」

 

「アリス自身が何も分からないなら、まずは本人が自分のことを知っていけばいい」

 

「そういう考えなのね」

 

「ああ」

 

「否定はしないわ」

 

 リオは言った。

 

「ただ、何かが起きてからでは遅いこともある」

 

「……それは分かる」

 

 カナタは頷いた。

 

「だから俺も、知らないままでいいとは思ってない」

 

「なら、話は早いわ」

 

 リオは僅かに表情を和らげた。

 

「調べること自体を否定するつもりはないわ」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。知らないものを知ろうとすることは必要でしょう」

 

 そしてリオは炎角を見る。

 

「あなたのことも含めてね」

 

「我もか」

 

「ええ」

 

 炎角は少しだけ笑った。

 

「ならば、互いに知ればよい」

 

「その通りよ」

 

 リオは頷く。

 

「ところで、あなたたちは角獣について調べているのでしょう?」

 

「ああ」

 

「なら、ちょうどいい情報があるわ」

 

 リオは端末にミレニアム郊外の地図を表示する。

 

「あなたたちが先ほどいた施設には、角獣に関する資料が残っていたわね?」

 

「知ってるのか?」

 

「ドローンの映像から確認しているわ」

 

「なるほど」

 

「その施設について、過去の記録を調べれば、何か分かるかもしれない」

 

「……やっぱり」

 

 カナタの目が変わる。

 

「もっと調べたい」

 

「そう言うと思ったわ」

 

 リオは地図を拡大する。

 

「ただし、勝手に再調査するのはやめて頂戴」

 

「分かってる」

 

「あなたたちはミレニアムの生徒ではないもの。正式に許可を取る必要があるわ」

 

「先生に相談する」

 

「それがいいわ」

 

 リオは端末を閉じる。

 

 そして、その場を離れようとする。

 

「リオ」

 

 カナタが呼び止める。

 

「何?」

 

「アリスのこと……本当に危険だと思ってるのか?」

 

 リオは少しだけ振り返る。

 

「……今の段階では、何も断定できないわ」

 

 そして静かに続ける。

 

「でも、知らないということ自体が危険なのよ」

 

「……」

 

「だから私は、調べるの」

 

 それだけ言って、リオは歩き去っていった。

 

 カナタはその背中を見つめる。

 

「……変わった人だったな」

 

「だが、悪意は感じなかった」

 

 炎角が言う。

 

「ああ」

 

 カナタは頷いた。

 

「アリスを敵だって決めつけてるわけでもなかった」

 

「ただ、警戒している」

 

「そういうことなんだろうな」

 

 二人はしばらく黙っていた。

 

 やがてカナタが歩き出す。

 

「戻るか」

 

「うむ」

 

「先生に話してみよう」

 

 ミレニアムの廊下を歩きながら、カナタは先ほどのリオの言葉を思い返していた。

 

 ――知らないということ自体が危険。

 

 確かに、その通りなのかもしれない。

 

 アリスのことも。

 

 炎角のことも。

 

 そして――角獣という存在そのものも。

 

 まだ、自分たちは知らないことが多すぎる。

 

「……だからこそ、調べるしかないな」

 

 カナタは呟いた。

 

 炎角が頷く。

 

「御前様の言う通りだ」

 

 二人はゲーム開発部の部室へと戻っていく。

 

 その頃、部室では――。

 

「アリス! そこは回復アイテムじゃなくて攻撃アイテム!」

 

「ですが、回復アイテムの方が必要だと思います」

 

「違うって!」

 

「理解不能です」

 

「また!?」

 

 そんな声が廊下まで響いていた。

 

 カナタは思わず苦笑する。

 

「……やっぱり、あっちはあっちで大変そうだな」

 

 炎角も静かに頷いた。

 

「我々には理解できぬ戦場だ」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

 そして、ミレニアム郊外にある廃研究施設へ向けて――新たな調査が始まろうとしていた。

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