ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

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第23話 色々あった一日

 ミレニアムサイエンススクール。

 

 校舎の一角にある資料室で、カナタと炎角は大量の資料に囲まれていた。

 

「……これも違うな」

 

 カナタは一冊の資料を閉じる。

 

「角獣の発見記録じゃない」

 

「こちらもだ」

 

 炎角が隣から別の資料を置いた。

 

「エゴルギアに関する記録ではあるが、我々が求めているものとは異なる」

 

「やっぱり、そう簡単には見つからないか」

 

 カナタは椅子に背を預ける。

 

 ミレニアムには、角獣に関する資料が想像以上に多く存在していた。

 

 生態。

 

 エゴルギア。

 

 過去の遭遇記録。

 

 そして、レプリカに関する研究。

 

 だが、それだけ調べても、角獣が一体何なのかという根本的な答えには辿り着けない。

 

「角獣について研究してる人は、やっぱり多いんだな」

 

「千年難題の一つとして扱われているのなら、当然であろう」

 

「ああ」

 

 カナタは資料をめくる。

 

「でも、エゴルギアを持つ角獣自体は珍しくないんだよな」

 

「うむ」

 

 炎角は腕を組む。

 

「ならば、我が特別珍しい角獣というわけではないのだな」

 

「それでも、炎角には分からないことが多い」

 

 カナタは炎角を見る。

 

「人間の言葉を話せることもそうだし、俺と一緒に行動してることもそうだ」

 

「……我自身にも、それが何故なのかは分からぬ」

 

「だから調べるんだろ」

 

 カナタは再び資料へ目を向けた。

 

「俺も、炎角のことをもっと知りたい」

 

「御前様……」

 

 炎角は少しだけ目を細めた。

 

 しばらくして、カナタの手が止まる。

 

「……これだ」

 

「何か見つかったか?」

 

「ああ」

 

 カナタが取り出したのは、かなり古い研究記録だった。

 

 そこには、現在は使われていない研究施設について記されている。

 

「ここに、古代生物や未確認生物に関する文献が発見されたって書いてある」

 

「角獣については?」

 

「直接そう書かれてるわけじゃない。でも……」

 

 カナタは昨日リオから聞いた話を思い出す。

 

「リオが言ってた場所と一致する」

 

 カナタは地図を広げた。

 

「ミレニアム郊外。ここだ」

 

「かなり離れているな」

 

「それでも行ってみる価値はある」

 

 カナタは資料をまとめる。

 

「先生に相談しよう」

 

「うむ」

 

 二人は資料室を後にした。

 

 ――その頃。

 

 ゲーム開発部では、別の問題が発生していた。

 

「アリス!」

 

 モモイが叫ぶ。

 

「もう寝ようよ!」

 

「ですが、モモイさん」

 

 アリスはゲーム画面から目を離さない。

 

「魔王を倒すまで、眠るわけにはいきません」

 

「昨日からずっとやってるじゃん!」

 

「ゲームとは、最後までやり遂げるものです」

 

「いや、それはそうだけど!」

 

 ミドリが苦笑する。

 

「お姉ちゃんもアリスも、ほどほどにしてね」

 

「分かってるって!」

 

 アリスは真剣な表情でゲームを続けていた。

 

 そして翌日。

 

 ゲーム開発部の部室。

 

 モモイは、ふとアリスを見た。

 

「……そうだ!」

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

 

「アリス、ゲーム開発部に入らない?」

 

「ゲーム開発部……」

 

 アリスが顔を上げる。

 

「そこでは何をするのですか?」

 

「ゲームを作るんだよ!」

 

「……!」

 

 アリスの目が輝いた。

 

「アリスもゲームを作りたいです」

 

「じゃあ決まり!」

 

 モモイは勢いよく立ち上がる。

 

 しかし――。

 

「あ」

 

「どうしたの?」

 

 ミドリが尋ねる。

 

「アリスって……ミレニアムの生徒じゃないよね?」

 

「そうですね」

 

 アリスは頷いた。

 

「私は、ミレニアムの生徒ではありません」

 

「うーん……」

 

 モモイが腕を組む。

 

「でも、ゲーム開発部って今でも人数ギリギリなんだよね」

 

「そうだね」

 

 ミドリも少し表情を曇らせる。

 

「人数が足りないままだと、部活動としても色々大変だし……」

 

「そう!」

 

 モモイが机を叩く。

 

「このままだとゲーム開発部が大変なんだよ!」

 

「お姉ちゃん、落ち着いて」

 

「アリスが入ってくれたら、人数の問題も解決するじゃん!」

 

 アリスが首を傾げる。

 

「私が入れば、問題が解決するのですか?」

 

「うん!」

 

 モモイは即答した。

 

「ゲームもできるし、ゲームも作れる! しかもゲーム開発部の人数も増える!」

 

「一石二鳥ですね」

 

「そういうこと!」

 

 ミドリは少し不安そうにモモイを見る。

 

「でも、アリスはミレニアムの生徒じゃないよ?」

 

「…………」

 

 モモイは考え込んだ。

 

 そして――。

 

「……ヴェリタスに頼もう」

 

「え?」

 

「ヴェリタスなら、何とかしてくれるかも!」

 

「お姉ちゃん……」

 

「だって、このままじゃゲーム開発部が困るんだよ!」

 

 モモイはかなり切羽詰まっていた。

 

 ゲーム開発部は、決して余裕のある部活ではない。

 

 人数が少ない。

 

 活動も安定しない。

 

 それでも、自分たちの作りたいゲームを作り続けてきた。

 

 だからこそ――。

 

「アリスと一緒にゲームを作りたい!」

 

 モモイは真っ直ぐに言った。

 

「それに、アリスもゲーム開発部に入りたいんだよね?」

 

「はい」

 

 アリスは頷く。

 

「私も、皆さんと一緒にゲームを作りたいです」

 

「……決まり!」

 

 モモイは拳を握る。

 

「ヴェリタスにお願いしよう!」

 

「本当に大丈夫かな……」

 

 ミドリは不安そうに呟いた。

 

 しかし、モモイはもう止まらない。

 

* * *

 

 その日のうちに、モモイはヴェリタスへ相談を持ち込んだ。

 

 ただし、話は単純ではなかった。

 

「つまり、この子をミレニアムの生徒として登録したい、と?」

 

 ヴェリタスの担当者が確認する。

 

「うん!」

 

 モモイは頷く。

 

「ゲーム開発部に必要なんだよ!」

 

「必要というのは?」

 

「人数!」

 

「……」

 

「それにアリスもゲーム開発部に入りたいって言ってるし!」

 

 担当者はアリスを見る。

 

 アリスは静かに立っていた。

 

「私は、ゲーム開発部の皆さんと一緒にゲームを作りたいです」

 

「……なるほど」

 

 ヴェリタス側も、すぐには答えを出さなかった。

 

 アリスについては、出自が分からない。

 

 記憶もない。

 

 名前すら本人は覚えていない。

 

 しかし、AL-1Sという識別番号だけは確認されている。

 

 普通の転入生とは、あまりにも事情が違った。

 

「少し調査する必要があります」

 

「うん!」

 

「それと、この件はセミナーにも確認を取る必要があります」

 

「分かった!」

 

 こうして調査が始まった。

 

 アリスの身元。

 

 発見された場所。

 

 彼女を保護した経緯。

 

 そして、彼女自身に敵意や危険性が確認されていないこと。

 

 最終的に――。

 

 正式な身元が分からない以上、通常の転入手続きとは異なる形ではあったものの、アリスはミレニアムの生徒として扱われることになった。

 

 ゲーム開発部への所属も認められた。

 

 もちろん、これは後々まで問題にならないような簡単な話ではない。

 

 セミナーやヴェリタスがアリスを監視・調査する必要も残っていた。

 

 そして――。

 

「ちょっと待ってください!」

 

 ゲーム開発部にユウカの声が響いた。

 

「どうして私は、こんな子がミレニアムにいることを知らないんですか!?」

 

「えっと……」

 

 モモイが困ったように笑う。

 

「アリスだよ?」

 

「名前は聞きました!」

 

 ユウカはアリスを見る。

 

「あなた、いつからミレニアムの生徒なんですか?」

 

「……分かりません」

 

「分からない!?」

 

「はい」

 

「……」

 

 ユウカは頭を抱えた。

 

「そもそも、あなたはどこから来たんですか?」

 

「それも、分かりません」

 

「…………」

 

 モモイたちが気まずそうに見守る。

 

「どうしてこうなったんですか……」

 

 ユウカは額を押さえた。

 

 しかし、アリス自身に悪意があるわけではない。

 

 彼女はただ、自分が何者なのか分からないだけだ。

 

「私は、ゲーム開発部の皆さんと一緒にゲームをしたいです」

 

 アリスが真っ直ぐに言う。

 

 ユウカはしばらくアリスを見つめた。

 

「……そうですか」

 

 そして、小さく息を吐いた。

 

「少なくとも、本人が望んでいることは分かりました」

 

「じゃあ――」

 

 モモイが期待する。

 

「ゲーム開発部の活動は続けていいんですか?」

 

「……今のところは、です」

 

「やった!」

 

 モモイが喜ぶ。

 

 ユウカはため息をついた。

 

「ただし、後でセミナーにも確認しますからね」

 

「はーい!」

 

 その返事を聞いて、ユウカはさらに頭を抱えた。

 

* * *

 

 一方その頃。

 

 資料室から戻ったカナタと炎角は、先生のいる場所へ向かっていた。

 

「先生、ただいま」

 

「おかえり、カナタ君」

 

「調べてきた。廃研究施設の場所、だいたい分かったよ」

 

 カナタは地図を広げる。

 

「昨日リオから聞いた場所と一致してる」

 

「それはよかった」

 

 先生は頷く。

 

「じゃあ、明日にでも準備して行ってみようか」

 

「ああ」

 

 カナタは頷いた。

 

 そして、ふと先生の様子を見る。

 

「……ところで」

 

「うん?」

 

「何かあった?」

 

 先生が苦笑する。

 

「うん。こっちも色々あったよ」

 

「色々?」

 

「アリスがゲームに夢中になったり」

 

「それは知ってる」

 

「それから、モモイがヴェリタスにお願いして――」

 

 先生は少し困ったように笑う。

 

「アリスをミレニアムの生徒として登録することになった」

 

「……え?」

 

 カナタの顔が固まる。

 

「何で?」

 

「ゲーム開発部の人数が足りなくてね」

 

「人数?」

 

「うん。モモイがかなり切羽詰まっていたみたいで」

 

「なるほど……」

 

 カナタは何となく納得した。

 

「だからヴェリタスに頼んだのか」

 

「そういうこと」

 

 炎角が呆れたように呟く。

 

「我々が角獣について調べている間に、あの少女はゲームに熱中し、勇者となり、さらには新たな身分まで得たということか」

 

「まとめると、そうなるね」

 

「……本当に色々あったな」

 

 カナタはため息をついた。

 

 その時――。

 

「カナタさん」

 

 アリスがやってきた。

 

「アリス」

 

「アリスは、ミレニアムの生徒になりました」

 

「そうみたいだな」

 

「これで、ゲーム開発部の皆さんと正式に活動できます」

 

「よかったな」

 

「はい!」

 

 アリスは嬉しそうに頷いた。

 

 カナタも少し笑う。

 

「じゃあ、これからはゲームだけじゃなくて、学校生活も頑張らないとな」

 

「はい!」

 

 アリスが元気よく返事をする。

 

 その様子を見ながら、カナタはふと昨日のリオとの会話を思い出した。

 

 ――知らないということ自体が危険。

 

 そして、リオはアリスの存在を知っていた。

 

 カナタは先生を見る。

 

「先生」

 

「何?」

 

「そういえば……リオは、どうやってアリスのことを知ったんだ?」

 

「……確かに」

 

 先生も少し考える。

 

 その答えは、まだカナタたちには分からなかった。

 

 だが、セミナーが何も知らずにアリスの存在を把握していたとは考えにくい。

 

 ミレニアムでは、広範囲を監視するドローンやセンサーが運用されている。

 

 もしかすると――。

 

 あの研究施設そのものが、以前からセミナーによって監視されていたのかもしれない。

 

 そして、施設からアリスが発見されたことで、その存在を把握した。

 

 カナタは地図を見る。

 

「……まあ、今はいいか」

 

「うん」

 

 先生が頷く。

 

「まずは明日の研究施設だね」

 

「ああ」

 

 カナタは地図へ目を向ける。

 

 アリスには、アリスの進む道がある。

 

 そして自分には、自分の調べるべきことがある。

 

 炎角と共に追っている、角獣という存在の謎。

 

 その手掛かりが、ミレニウム郊外の廃研究施設に眠っているかもしれない。

 

「先生」

 

「何?」

 

「明日、廃研究施設へ行こう」

 

「うん。準備しておくよ」

 

「頼む」

 

 炎角も静かに頷く。

 

「いよいよ、角獣の謎に近づけるかもしれぬな」

 

「ああ」

 

 カナタは地図を見つめた。

 

 ミレニウムでの時間は、まだ終わらない。

 

 新しい仲間を得たアリス。

 

 ゲーム開発部を守ろうと動いたモモイ。

 

 その裏で、アリスを監視対象として見るセミナー。

 

 そして、角獣の謎を追うカナタと炎角。

 

 それぞれの物語は、少しずつ交差し始めていた。

 

 明日、カナタたちは再び郊外へ向かう。

 

 その先にある、忘れられた研究施設へ。

 

 そこに眠る秘密が、彼らの知らないところで――すでにアリスと繋がっていることも知らずに。

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