ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター― 作:ガンダムラザーニャ
ミレニウムサイエンススクール。
ゲーム開発部の部室。
先日の廃墟探索から戻ったカナタは、炎角と共にゲーム開発部のメンバーから話を聞いていた。
アリスは部室の隅でゲーム機を操作している。
どうやら以前モモイから借りた『テイルズ・サガ・クロニクル』を、最後まで遊び切ったらしい。
ただし、その道中でゲームのあまりにも不可思議な展開に何度か動きが止まり、本人曰く「エラー」を起こしていた。
「それでさ!」
モモイが勢いよく身を乗り出す。
「私たちがあの廃墟に行った理由は、G.Bibleを探すためだったんだよ!」
「G.Bible?」
カナタは聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「ゲーム開発部の秘密の聖典!」
モモイが胸を張る。
「最高のゲームを作るための秘密が書かれてるっていう、伝説のゲーム開発バイブルなんだよ!」
「……伝説ねぇ」
炎角が腕を組む。
「つまり、その書物を手に入れれば、最高のゲームを作れると?」
「そういうこと!」
「……本当に?」
カナタが尋ねる。
「たぶん!」
「たぶんかよ」
思わずカナタは苦笑した。
「でも、どうしてそこまでしてG.Bibleを?」
モモイの表情が少し曇る。
「それは……ゲーム開発部が、廃部になりそうだったから」
「廃部?」
カナタが聞き返す。
ミドリが静かに頷いた。
「部員が足りなかったのと……実績が足りなかったんです」
「私たちが作ったゲームも……」
モモイが言葉を濁す。
「……まあ、かなりアレだったからね」
カナタは何とも言えない顔になった。
そのゲームなら、アリスが最後までプレイしたことも知っている。
「……最後まで遊びました」
アリスが突然口を挟む。
「そういえば、アリスは全部クリアしたんだったな」
「はい。ですが、理解できない場面が多く、何度かエラーが発生しました」
「それはゲームのせいだと思うよ」
モモイが即答する。
「話を戻すけど……」
ミドリが続ける。
「前回の廃墟探索では、私たちはG.Bibleを探していました」
「ああ」
「でも、途中でアリスを見つけたんです」
ミドリはアリスを見る。
「その後はいろいろあって、G.Bibleを最後まで探すことができませんでした」
「なるほど」
カナタは頷く。
「だから、まだ見つかってないんだな」
「そう!」
モモイが力強く頷く。
「だから今度こそ見つけるんだよ!」
「今度こそ、か」
カナタが笑う。
「だったら、俺たちにも都合がいい」
「カナタさんたちにも?」
「ああ」
カナタは炎角を見る。
「俺たちは、あの廃墟に角獣に関する資料が残ってる可能性があると聞いたんだ」
「リオ会長から教えてもらったんだよね?」
ミドリが尋ねる。
「ああ。過去に古代生物や未確認生物に関する資料が見つかった研究施設らしい」
炎角が頷く。
「ならば、我々もあの場所を調べる意味がある」
すると――。
ガチャ。
部屋の隅にあるロッカーが、ほんの少しだけ開いた。
「……あの……」
カナタが振り向く。
ロッカーの隙間から、少女が顔だけを覗かせていた。
「……?」
カナタは目を瞬かせる。
「誰だ?」
「ユズだよ」
モモイが何でもないように答える。
「ゲーム開発部の部長!」
「部長?」
カナタは少し驚いた。
こんなに小さな声で、しかもロッカーから顔だけを出している少女が部長だとは思わなかった。
少女はおずおずとロッカーを少しだけ開く。
「……初めまして……ですよね」
「ああ」
カナタは頷いた。
「俺は砂原カナタ。アビドスの一年生で、炎角と一緒に旅をしてる」
「……アビドス……」
ユズは小さく呟いた。
「……私は、花岡ユズです」
少し間を置いて。
「……ゲーム開発部の……部長をしています……」
「ユズ、もっと堂々としていいんだよ!」
「む、無理……」
「即答!?」
モモイがツッコむ。
炎角はそんなユズを見ながら、静かに頷いた。
「なるほど。御前様と同じく、この地の生徒というわけか」
「……はい」
ユズは小さく頭を下げる。
「……よろしく、お願いします……」
「ああ。よろしく、ユズ」
「……!」
自分の名前を呼ばれたユズは、少し驚いたように目を見開いた。
「……はい」
そして――。
ゆっくりとロッカーの扉を閉める。
「…………」
「……戻っちゃった」
モモイが苦笑する。
「いつものことだよ」
「そうなのか……」
カナタも苦笑した。
だが、しばらくするとロッカーの中から小さな声が聞こえてきた。
「……あの」
「ん?」
「……私も……」
扉が少しだけ開く。
「……今度の廃墟探索に……一緒に行ってもいいですか?」
モモイとミドリが顔を見合わせる。
「ユズ……」
「……うん」
ユズは俯いたまま続ける。
「……前は、私が部長として行けなかったから……」
カナタが首を傾げる。
「行けなかった?」
「……部長会議があったんです」
ユズの声が小さくなる。
「本当なら、私がゲーム開発部の代表として出るはずだったんですけど……」
「ユズちゃん、人が多いところ苦手だからね」
モモイが言う。
「それで私が代わりに行くことになったんだけど!」
「……その日は、ちょうどアイテムドロップ率二倍キャンペーン中で……」
「それは今言わなくていいよ!」
ミドリが呆れたように突っ込む。
「……だから」
ユズが小さく息を吸う。
「今度は……私も行きたいです」
「……」
カナタはユズを見る。
「ユズが会議に行けなかったことだけが、ゲーム開発部の問題なのか?」
「違います」
ミドリが答える。
「部員が足りないこと。それと、十分な実績が出せていないこと。それが大きな理由です」
「だったら、ユズ一人が背負う必要はないだろ」
「……」
ユズが顔を上げる。
「でも……」
小さな声。
「……私も、ゲーム開発部の部長だから」
その言葉には、いつもの怯えとは違うものがあった。
「……みんなが頑張ってるのに……私だけ何もしないのは……嫌です」
カナタは少し驚いた。
目の前の少女は、決して強そうには見えない。
むしろ、人前に出ることすら苦手そうだ。
それでも――。
「……分かった」
カナタは頷いた。
「俺たちもあの廃墟へ行く予定だった」
「……!」
「ミレニウムの研究者が、過去にあそこで角獣に関する資料を見つけたらしい。俺たちはその資料を探したい」
「じゃあ……」
モモイが手を叩く。
「G.Bible探し!」
「角獣の資料探し!」
「アリスの記憶の場所!」
それぞれの目的が重なった。
炎角も頷く。
「目的は異なれど、向かう場所は同じということか」
「ああ」
カナタは答えた。
「だったら、一緒に行けばいい」
「……私も……」
ユズはロッカーの中から、ほんの少しだけ身を乗り出す。
「……行きます」
その声は小さかった。
けれど――。
今までより、ほんの少しだけ力があった。
アリスも立ち上がる。
「私も行きます」
「もちろん!」
モモイが笑う。
「今度こそG.Bibleを見つけるんだから!」
ミドリも頷いた。
「はい。前回見落としたものがないか、今度はしっかり調べましょう」
「……前回は、アリスを見つけたところで終わってしまいましたから」
アリスが静かに呟く。
「今度は、最後まで見てみたいです」
カナタはアリスを見る。
「……自分が見つかった場所だからか?」
「はい」
アリスは頷く。
「アリスは、あの場所で目覚めました」
「……」
「でも、アリスが何者なのかは、まだ分かりません」
アリスは手を握る。
「だから……もう一度、見てみたいです」
カナタは静かに頷いた。
「ああ。一緒に調べよう」
「はい」
炎角も頷く。
「知らぬものを知るために戻る。それもまた、旅というものだ」
「それもそうだな」
カナタは笑った。
「じゃあ、準備を始めよう」
「はい!」
モモイが元気よく返事をする。
ミドリも頷く。
アリスは静かに頷き。
そして――。
「……はい」
ユズも答えた。
ロッカーから、ほんの少しだけ顔を出したまま。
こうして彼らは再び、ミレニウム自治区郊外にある廃墟へ向かうことになった。
目的は一つではない。
ゲーム開発部は、伝説のG.Bibleを。
カナタと炎角は、角獣に関する古い資料を。
ユズは、ゲーム開発部の部長として仲間と共に行動するために。
そしてアリスは――。
自分が初めて目覚めた場所に、もう一度向き合うために。
前回、彼らはあの廃墟でアリスを見つけた。
しかし、まだ何もかもが終わったわけではない。
あの場所には、まだ探していないものがある。
G.Bible。
角獣に関する古い記録。
そして――アリス自身に繋がる何か。
今度の廃墟探索は、前回とは違う。
それぞれが、それぞれの目的を持って戻るのだから。
そして、その先に何が待っているのか。
カナタたちは、まだ知らなかった。