ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

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第26話 記憶なき少女と古びた端末

 ミレニアムサイエンススクール。

 

 その郊外にある、かつて研究施設として使われていた廃墟。

 

 カナタたちは、再びその場所へやって来ていた。

 

「……またここに来たんですね」

 

 アリスが廃墟を見上げる。

 

「ああ」

 

 カナタも施設を見上げた。

 

 前回ここへ来た時とは、目的が少し違う。

 

 ゲーム開発部は、伝説のゲーム開発バイブル――G.Bibleを探す。

 

 カナタと炎角は、角獣に関する古い資料を探す。

 

 そしてアリスは――。

 

 自分が発見された場所を、もう一度訪れる。

 

「よし!」

 

 モモイが銃を掲げる。

 

「今度こそG.Bibleを見つけるよ!」

 

「前回は途中で色々ありましたからね」

 

 ミドリが苦笑する。

 

「今回は準備もちゃんとしてきました」

 

 ユズも小さく頷いた。

 

 カナタは全員の装備を確認する。

 

「弾薬も十分にある」

 

「これなら前みたいに、途中で弾切れになることもないね!」

 

 モモイが胸を張る。

 

「それじゃあ――」

 

 カナタが廃墟を見る。

 

「行こう」

 

 六人は、再び廃研究施設の中へ足を踏み入れた。

 

 ◆

 

 施設へ入って間もなく。

 

 物陰から複数のロボットが姿を現した。

 

「来た!」

 

 モモイが銃を構える。

 

「全員、撃って!」

 

 銃声が廃墟の中に響き渡る。

 

 ミドリが正確に敵を撃ち抜き、ユズも震えながら援護射撃を行う。

 

「そこ!」

 

 モモイが叫ぶ。

 

 カナタも銃を構え、敵のセンサー部分を撃ち抜いた。

 

「一体、止めた!」

 

「ナイス、カナタ!」

 

「次!」

 

 別のロボットが迫ってくる。

 

 カナタは冷静に狙いを定めた。

 

 ――発砲。

 

 ロボットの脚部が破壊され、動きが止まる。

 

「よし!」

 

 その横を、炎角が駆け抜けた。

 

「任せよ!」

 

 拳がロボットを叩き飛ばす。

 

「炎角!」

 

「この程度ならば問題ない」

 

 炎角は周囲を見渡す。

 

「御前様。敵はまだ来るぞ」

 

「ああ!」

 

 そして、アリスもスーパーノヴァを構えた。

 

「アリスも援護します!」

 

 巨大な光が走り、複数のロボットをまとめて吹き飛ばした。

 

「すごい……」

 

 ユズが呟く。

 

「前より戦いやすいですね」

 

 ミドリが周囲を確認する。

 

「弾薬にも余裕があります」

 

「よし!」

 

 モモイが笑う。

 

「このまま一気に行こう!」

 

 全員が互いを援護しながら、施設の奥へ進んでいった。

 

 前回とは違う。

 

 今回は、誰か一人だけに負担を集中させる必要はない。

 

 全員が自分の役割を果たしていた。

 

 やがて敵の姿が途絶える。

 

「……静かになったな」

 

 カナタが周囲を見る。

 

「今のうちに探そう」

 

「うん!」

 

 モモイたちは、それぞれ別の場所を調べ始めた。

 

 ◆

 

「G.Bible……G.Bible……」

 

 モモイは棚を片っ端から確認していく。

 

「どこにあるのかなぁ……」

 

「お姉ちゃん、ちゃんと資料も見てよ」

 

「分かってるって!」

 

 ミドリは資料を整理していく。

 

「この施設、かなり古いですね」

 

 ユズも棚を確認する。

 

「……昔の研究記録が、たくさん残っています」

 

「角獣に関するものは?」

 

 カナタが尋ねる。

 

「まだ見つかってません」

 

「そうか」

 

 カナタは別の棚へ向かう。

 

 炎角も周囲を見回していた。

 

「ここには、多くの記録が眠っているようだ」

 

「ああ」

 

「しかし、我々が求めるものがすぐ見つかるとは限らぬな」

 

「それでも探す」

 

 カナタは答える。

 

「せっかくここまで来たんだからな」

 

 その時だった。

 

「……」

 

 アリスが立ち止まった。

 

「アリス?」

 

 カナタが振り返る。

 

 アリスは何も答えない。

 

 ただ、施設の奥を見つめていた。

 

「どうしたの?」

 

 モモイが声を掛ける。

 

「……分かりません」

 

 アリスはゆっくり歩き始めた。

 

「ですが……あちらへ行かなければならない気がします」

 

「アリス?」

 

 カナタたちは顔を見合わせる。

 

 そして、アリスの後を追った。

 

 辿り着いたのは、一つの小さな研究室だった。

 

 室内には、古びたコンピューターが一台だけ残されている。

 

「……ここです」

 

 アリスが呟く。

 

「ここ?」

 

 カナタが尋ねる。

 

「はい」

 

 アリスはコンピューターを見つめた。

 

「アリスには、この場所に来た記憶がありません」

 

 少しだけ胸に手を当てる。

 

「ですが……」

 

 アリスはコンピューターへ近づく。

 

「この身体が、ここを覚えているような気がします」

 

 そして、そっと手を伸ばした。

 

 ――カチッ。

 

 突然、画面が点灯する。

 

「!?」

 

 全員が驚いた。

 

 画面に文字が表示される。

 

『施設管理システム――起動』

 

「コンピューターが動いた……」

 

 モモイが目を丸くする。

 

 画面が何度か明滅する。

 

『電力供給――低下』

 

『保存データ――一部破損』

 

『外部接続――可能』

 

 アリスが画面を見る。

 

「あなたは……アリスを知っていますか?」

 

 しばらく画面が沈黙する。

 

 やがて、一つの文字列が表示された。

 

『AL-1S』

 

「……AL-1S?」

 

 アリスが目を見開く。

 

「それは……アリスのことですか?」

 

『該当個体――照合中』

 

『一致率――高』

 

「……」

 

 カナタは画面を見つめる。

 

「AL-1S……」

 

 聞いたことのない名前だった。

 

「それ以上は分かるか?」

 

 カナタが尋ねる。

 

『詳細情報――』

 

 画面が明滅する。

 

『アクセス権限が必要です』

 

「アクセス権限……」

 

 ミドリが呟く。

 

「つまり、この端末だけでは詳しい情報を見られないんだ」

 

『保存データの一部は読み出し可能です』

 

 画面にいくつかのファイル名が表示される。

 

『G.Bible――』

 

「G.Bible!?」

 

 モモイが飛びつく。

 

「あるの!?」

 

『データ存在を確認』

 

「やったぁ!」

 

 モモイが拳を握る。

 

「ついに見つけた!」

 

 しかし――。

 

『現在の電力では、完全な読み出しは困難です』

 

「え?」

 

 モモイの顔が固まる。

 

『電力低下により、保存データが消失する可能性があります』

 

「そんな!」

 

 ミドリが画面を確認する。

 

「このままだと、データが消えるかもしれない」

 

「だったら、どうすればいい?」

 

 カナタが尋ねる。

 

『外部記録媒体への転送を推奨します』

 

「外部記録媒体……」

 

 カナタは自分の端末を取り出した。

 

「これじゃ駄目か?」

 

『接続を確認』

 

 しばらくして。

 

『保存領域――不足』

 

「……駄目か」

 

 カナタは端末を見る。

 

「不要なデータを削れば――」

 

 だが、ミドリが首を振った。

 

「それでも全部は入りません」

 

「そうか……」

 

 カナタが考え込む。

 

 すると。

 

「だったら!」

 

 モモイが自分のゲーム機を取り出した。

 

「私のゲーム機を使えばいいよ!」

 

「モモイ?」

 

「これなら保存できるんでしょ?」

 

 ミドリがゲーム機を見る。

 

「でも……」

 

「いいよ」

 

 モモイは笑った。

 

「G.Bibleを持って帰るためなら、このくらい!」

 

「本当にいいのか?」

 

 カナタが尋ねる。

 

「もちろん!」

 

 モモイはゲーム機を差し出した。

 

「ゲーム開発部のためだもん!」

 

 ミドリが小さく笑う。

 

「……お姉ちゃんらしいね」

 

「でしょ?」

 

 端末とゲーム機を接続する。

 

『外部記録媒体を確認』

 

『保存領域――確保』

 

『データ転送を開始します』

 

 画面に大量の文字列が流れ始めた。

 

「よし!」

 

 モモイが拳を握る。

 

「これでG.Bibleを――」

 

 その瞬間。

 

『警告』

 

『保存領域確保のため、一部既存データを削除します』

 

「え?」

 

 モモイの表情が固まる。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 画面に表示される。

 

『ゲームデータ――削除開始』

 

「私のゲームがぁぁぁぁ!?」

 

「お姉ちゃん……」

 

 ミドリが苦笑する。

 

「大丈夫。全部じゃないから」

 

「そういう問題じゃないよ!」

 

 カナタは思わず苦笑した。

 

「……これが、ゲーム開発部の覚悟か」

 

 炎角が腕を組む。

 

「己の大切なものを犠牲にしてでも、目的を成し遂げる……か」

 

「そこまで大げさじゃないよ!」

 

 モモイが叫ぶ。

 

 しかし、その顔にはどこか満足そうな表情も浮かんでいた。

 

『G.Bible――転送完了』

 

「……!」

 

 モモイが画面を見る。

 

「本当に……入った?」

 

 ミドリが確認する。

 

「はい。データは保存されています」

 

「やったぁ!」

 

 モモイが飛び跳ねる。

 

「G.Bible、ゲット!」

 

 その隣で、アリスは画面を見つめていた。

 

「……AL-1S」

 

 自分の知らない名前。

 

 それなのに、自分自身と繋がっている。

 

「カナタ」

 

「ん?」

 

「この施設には、アリスについての情報も残っているのでしょうか?」

 

「たぶん」

 

 カナタは答える。

 

「でも、今分かってるのはAL-1Sって名前だけだ」

 

「……そうですか」

 

 アリスは少しだけ俯く。

 

「それでも――」

 

 顔を上げる。

 

「一つ、分かりました」

 

「ああ」

 

「アリスには、知らない過去があります」

 

 カナタは頷く。

 

「だから、これから少しずつ調べればいい」

 

「はい」

 

 その時だった。

 

 ――ガシャン。

 

 遠くから金属音が響いた。

 

「……?」

 

 ユズが振り返る。

 

「今の……何?」

 

 さらに。

 

 ――ガシャン、ガシャン、ガシャン。

 

「ロボットです!」

 

 ミドリが叫ぶ。

 

「また来た!」

 

 モモイが銃を構える。

 

「でも、今回は弾が十分ある!」

 

「みんな!」

 

 カナタも銃を構える。

 

「データを守りながら脱出するぞ!」

 

「はい!」

 

 ロボットたちが一斉に押し寄せてくる。

 

 銃声が廃墟を満たした。

 

 モモイが前方の敵を撃ち抜く。

 

 ミドリが後方を援護する。

 

 ユズも必死に引き金を引いた。

 

「……当たった!」

 

「その調子!」

 

 モモイが叫ぶ。

 

 アリスもスーパーノヴァを構える。

 

「アリスも援護します!」

 

 光の一撃がロボットをまとめて吹き飛ばす。

 

 カナタは冷静に敵の武装を狙い撃つ。

 

「武器を止める!」

 

 発砲。

 

 ロボットの銃器が破壊される。

 

「今だ!」

 

 炎角が飛び込む。

 

「承知!」

 

 拳が敵を吹き飛ばす。

 

「出口はもうすぐだ!」

 

 カナタが叫ぶ。

 

 全員が互いを援護しながら走る。

 

 そして――。

 

「見えた!」

 

 廃墟の出口が見えた。

 

 最後のロボットを撃ち倒し、一行は一斉に外へ飛び出した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 モモイが息を切らす。

 

「逃げ切った……?」

 

「どうやらな」

 

 カナタは端末を確認する。

 

「データも無事だ」

 

 モモイもゲーム機を見る。

 

「G.Bibleもちゃんと入ってる!」

 

「よかったです」

 

 ミドリが笑う。

 

 ユズも小さく頷いた。

 

「……よかった」

 

 アリスはカナタの端末を見る。

 

「AL-1Sについての情報も……?」

 

「少しだけだ」

 

 カナタは答える。

 

「詳しいことは、まだ分からない」

 

「そうですか」

 

 アリスは少し考える。

 

「でも……一つだけ、分かったことがあります」

 

「何だ?」

 

「アリスは、アリスが知らない過去を持っています」

 

「……ああ」

 

「なら、これから知っていけばいいのです」

 

 アリスは微笑んだ。

 

「アリスは、まだ何も知らないからこそ――これから知ることができます」

 

 カナタも笑う。

 

「そうだな」

 

 炎角が空を見上げる。

 

「知らぬことを知る。それこそが旅の醍醐味であろう」

 

「ああ」

 

 カナタは頷いた。

 

 だが――。

 

 カナタたちが持ち帰ったデータの中には、まだ誰も気づいていない情報が存在していた。

 

 G.Bibleだけではない。

 

 AL-1Sに関する断片的な記録。

 

 そして――。

 

 その記録にアクセスした、もう一つの存在の痕跡。

 

 それが何を意味するのか。

 

 今の彼らには、まだ分からない。

 

 ただ一つ確かなのは――。

 

 アリスの過去を巡る謎が、少しだけ動き始めたということだった。

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