ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター― 作:ガンダムラザーニャ
ミレニアムサイエンススクール。
その郊外にある、かつて研究施設として使われていた廃墟。
カナタたちは、再びその場所へやって来ていた。
「……またここに来たんですね」
アリスが廃墟を見上げる。
「ああ」
カナタも施設を見上げた。
前回ここへ来た時とは、目的が少し違う。
ゲーム開発部は、伝説のゲーム開発バイブル――G.Bibleを探す。
カナタと炎角は、角獣に関する古い資料を探す。
そしてアリスは――。
自分が発見された場所を、もう一度訪れる。
「よし!」
モモイが銃を掲げる。
「今度こそG.Bibleを見つけるよ!」
「前回は途中で色々ありましたからね」
ミドリが苦笑する。
「今回は準備もちゃんとしてきました」
ユズも小さく頷いた。
カナタは全員の装備を確認する。
「弾薬も十分にある」
「これなら前みたいに、途中で弾切れになることもないね!」
モモイが胸を張る。
「それじゃあ――」
カナタが廃墟を見る。
「行こう」
六人は、再び廃研究施設の中へ足を踏み入れた。
◆
施設へ入って間もなく。
物陰から複数のロボットが姿を現した。
「来た!」
モモイが銃を構える。
「全員、撃って!」
銃声が廃墟の中に響き渡る。
ミドリが正確に敵を撃ち抜き、ユズも震えながら援護射撃を行う。
「そこ!」
モモイが叫ぶ。
カナタも銃を構え、敵のセンサー部分を撃ち抜いた。
「一体、止めた!」
「ナイス、カナタ!」
「次!」
別のロボットが迫ってくる。
カナタは冷静に狙いを定めた。
――発砲。
ロボットの脚部が破壊され、動きが止まる。
「よし!」
その横を、炎角が駆け抜けた。
「任せよ!」
拳がロボットを叩き飛ばす。
「炎角!」
「この程度ならば問題ない」
炎角は周囲を見渡す。
「御前様。敵はまだ来るぞ」
「ああ!」
そして、アリスもスーパーノヴァを構えた。
「アリスも援護します!」
巨大な光が走り、複数のロボットをまとめて吹き飛ばした。
「すごい……」
ユズが呟く。
「前より戦いやすいですね」
ミドリが周囲を確認する。
「弾薬にも余裕があります」
「よし!」
モモイが笑う。
「このまま一気に行こう!」
全員が互いを援護しながら、施設の奥へ進んでいった。
前回とは違う。
今回は、誰か一人だけに負担を集中させる必要はない。
全員が自分の役割を果たしていた。
やがて敵の姿が途絶える。
「……静かになったな」
カナタが周囲を見る。
「今のうちに探そう」
「うん!」
モモイたちは、それぞれ別の場所を調べ始めた。
◆
「G.Bible……G.Bible……」
モモイは棚を片っ端から確認していく。
「どこにあるのかなぁ……」
「お姉ちゃん、ちゃんと資料も見てよ」
「分かってるって!」
ミドリは資料を整理していく。
「この施設、かなり古いですね」
ユズも棚を確認する。
「……昔の研究記録が、たくさん残っています」
「角獣に関するものは?」
カナタが尋ねる。
「まだ見つかってません」
「そうか」
カナタは別の棚へ向かう。
炎角も周囲を見回していた。
「ここには、多くの記録が眠っているようだ」
「ああ」
「しかし、我々が求めるものがすぐ見つかるとは限らぬな」
「それでも探す」
カナタは答える。
「せっかくここまで来たんだからな」
その時だった。
「……」
アリスが立ち止まった。
「アリス?」
カナタが振り返る。
アリスは何も答えない。
ただ、施設の奥を見つめていた。
「どうしたの?」
モモイが声を掛ける。
「……分かりません」
アリスはゆっくり歩き始めた。
「ですが……あちらへ行かなければならない気がします」
「アリス?」
カナタたちは顔を見合わせる。
そして、アリスの後を追った。
辿り着いたのは、一つの小さな研究室だった。
室内には、古びたコンピューターが一台だけ残されている。
「……ここです」
アリスが呟く。
「ここ?」
カナタが尋ねる。
「はい」
アリスはコンピューターを見つめた。
「アリスには、この場所に来た記憶がありません」
少しだけ胸に手を当てる。
「ですが……」
アリスはコンピューターへ近づく。
「この身体が、ここを覚えているような気がします」
そして、そっと手を伸ばした。
――カチッ。
突然、画面が点灯する。
「!?」
全員が驚いた。
画面に文字が表示される。
『施設管理システム――起動』
「コンピューターが動いた……」
モモイが目を丸くする。
画面が何度か明滅する。
『電力供給――低下』
『保存データ――一部破損』
『外部接続――可能』
アリスが画面を見る。
「あなたは……アリスを知っていますか?」
しばらく画面が沈黙する。
やがて、一つの文字列が表示された。
『AL-1S』
「……AL-1S?」
アリスが目を見開く。
「それは……アリスのことですか?」
『該当個体――照合中』
『一致率――高』
「……」
カナタは画面を見つめる。
「AL-1S……」
聞いたことのない名前だった。
「それ以上は分かるか?」
カナタが尋ねる。
『詳細情報――』
画面が明滅する。
『アクセス権限が必要です』
「アクセス権限……」
ミドリが呟く。
「つまり、この端末だけでは詳しい情報を見られないんだ」
『保存データの一部は読み出し可能です』
画面にいくつかのファイル名が表示される。
『G.Bible――』
「G.Bible!?」
モモイが飛びつく。
「あるの!?」
『データ存在を確認』
「やったぁ!」
モモイが拳を握る。
「ついに見つけた!」
しかし――。
『現在の電力では、完全な読み出しは困難です』
「え?」
モモイの顔が固まる。
『電力低下により、保存データが消失する可能性があります』
「そんな!」
ミドリが画面を確認する。
「このままだと、データが消えるかもしれない」
「だったら、どうすればいい?」
カナタが尋ねる。
『外部記録媒体への転送を推奨します』
「外部記録媒体……」
カナタは自分の端末を取り出した。
「これじゃ駄目か?」
『接続を確認』
しばらくして。
『保存領域――不足』
「……駄目か」
カナタは端末を見る。
「不要なデータを削れば――」
だが、ミドリが首を振った。
「それでも全部は入りません」
「そうか……」
カナタが考え込む。
すると。
「だったら!」
モモイが自分のゲーム機を取り出した。
「私のゲーム機を使えばいいよ!」
「モモイ?」
「これなら保存できるんでしょ?」
ミドリがゲーム機を見る。
「でも……」
「いいよ」
モモイは笑った。
「G.Bibleを持って帰るためなら、このくらい!」
「本当にいいのか?」
カナタが尋ねる。
「もちろん!」
モモイはゲーム機を差し出した。
「ゲーム開発部のためだもん!」
ミドリが小さく笑う。
「……お姉ちゃんらしいね」
「でしょ?」
端末とゲーム機を接続する。
『外部記録媒体を確認』
『保存領域――確保』
『データ転送を開始します』
画面に大量の文字列が流れ始めた。
「よし!」
モモイが拳を握る。
「これでG.Bibleを――」
その瞬間。
『警告』
『保存領域確保のため、一部既存データを削除します』
「え?」
モモイの表情が固まる。
「ちょ、ちょっと待って!」
画面に表示される。
『ゲームデータ――削除開始』
「私のゲームがぁぁぁぁ!?」
「お姉ちゃん……」
ミドリが苦笑する。
「大丈夫。全部じゃないから」
「そういう問題じゃないよ!」
カナタは思わず苦笑した。
「……これが、ゲーム開発部の覚悟か」
炎角が腕を組む。
「己の大切なものを犠牲にしてでも、目的を成し遂げる……か」
「そこまで大げさじゃないよ!」
モモイが叫ぶ。
しかし、その顔にはどこか満足そうな表情も浮かんでいた。
『G.Bible――転送完了』
「……!」
モモイが画面を見る。
「本当に……入った?」
ミドリが確認する。
「はい。データは保存されています」
「やったぁ!」
モモイが飛び跳ねる。
「G.Bible、ゲット!」
その隣で、アリスは画面を見つめていた。
「……AL-1S」
自分の知らない名前。
それなのに、自分自身と繋がっている。
「カナタ」
「ん?」
「この施設には、アリスについての情報も残っているのでしょうか?」
「たぶん」
カナタは答える。
「でも、今分かってるのはAL-1Sって名前だけだ」
「……そうですか」
アリスは少しだけ俯く。
「それでも――」
顔を上げる。
「一つ、分かりました」
「ああ」
「アリスには、知らない過去があります」
カナタは頷く。
「だから、これから少しずつ調べればいい」
「はい」
その時だった。
――ガシャン。
遠くから金属音が響いた。
「……?」
ユズが振り返る。
「今の……何?」
さらに。
――ガシャン、ガシャン、ガシャン。
「ロボットです!」
ミドリが叫ぶ。
「また来た!」
モモイが銃を構える。
「でも、今回は弾が十分ある!」
「みんな!」
カナタも銃を構える。
「データを守りながら脱出するぞ!」
「はい!」
ロボットたちが一斉に押し寄せてくる。
銃声が廃墟を満たした。
モモイが前方の敵を撃ち抜く。
ミドリが後方を援護する。
ユズも必死に引き金を引いた。
「……当たった!」
「その調子!」
モモイが叫ぶ。
アリスもスーパーノヴァを構える。
「アリスも援護します!」
光の一撃がロボットをまとめて吹き飛ばす。
カナタは冷静に敵の武装を狙い撃つ。
「武器を止める!」
発砲。
ロボットの銃器が破壊される。
「今だ!」
炎角が飛び込む。
「承知!」
拳が敵を吹き飛ばす。
「出口はもうすぐだ!」
カナタが叫ぶ。
全員が互いを援護しながら走る。
そして――。
「見えた!」
廃墟の出口が見えた。
最後のロボットを撃ち倒し、一行は一斉に外へ飛び出した。
「はぁ……はぁ……」
モモイが息を切らす。
「逃げ切った……?」
「どうやらな」
カナタは端末を確認する。
「データも無事だ」
モモイもゲーム機を見る。
「G.Bibleもちゃんと入ってる!」
「よかったです」
ミドリが笑う。
ユズも小さく頷いた。
「……よかった」
アリスはカナタの端末を見る。
「AL-1Sについての情報も……?」
「少しだけだ」
カナタは答える。
「詳しいことは、まだ分からない」
「そうですか」
アリスは少し考える。
「でも……一つだけ、分かったことがあります」
「何だ?」
「アリスは、アリスが知らない過去を持っています」
「……ああ」
「なら、これから知っていけばいいのです」
アリスは微笑んだ。
「アリスは、まだ何も知らないからこそ――これから知ることができます」
カナタも笑う。
「そうだな」
炎角が空を見上げる。
「知らぬことを知る。それこそが旅の醍醐味であろう」
「ああ」
カナタは頷いた。
だが――。
カナタたちが持ち帰ったデータの中には、まだ誰も気づいていない情報が存在していた。
G.Bibleだけではない。
AL-1Sに関する断片的な記録。
そして――。
その記録にアクセスした、もう一つの存在の痕跡。
それが何を意味するのか。
今の彼らには、まだ分からない。
ただ一つ確かなのは――。
アリスの過去を巡る謎が、少しだけ動き始めたということだった。