ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター― 作:ガンダムラザーニャ
ミレニアムサイエンススクール。
ヴェリタスの部室には、ゲーム開発部、エンジニア部、そしてカナタと炎角が集まっていた。
壁面モニターには、ミレニアムの管理区域にある施設の見取り図が表示されている。
その中央。
一つの赤いマーカーが点滅していた。
「ここが、セミナーの差し押さえ品保管区画」
ハレが説明する。
「そして、ここに『鏡』が保管されている」
「G.Bibleを開くために必要なツール……」
カナタがモニターを見る。
「本当にこれを使えば、G.Bibleの中身が読めるんだな?」
「可能性は高いよ」
ハレが頷く。
「廃墟から回収したデータは、確かにG.Bibleそのものだと思う。でも、普通の方法じゃ開けない。『鏡』を使えば、暗号化されたデータから必要な情報を取り出せる可能性がある」
「つまり、あれを手に入れればいいんだね!」
モモイが拳を握る。
「そういうこと」
マキが笑う。
「ただし、簡単にはいかないよ」
コタマが続ける。
「保管区画はセミナーの管理下。監視カメラ、電子ロック、警備ロボット……それなりの防衛設備があります」
「そこで私たちの出番というわけだね」
ウタハが言った。
エンジニア部の三人も、準備を進めている。
「警備システムには、こちらから一時的に干渉できるようにしておくよ」
「監視カメラの映像も、一部なら誤魔化せます」
ヒビキが機材を確認する。
「ただし、完全に無力化するのは無理だからね」
先生が全員を見回す。
「目的はあくまで『鏡』の確保。必要以上に騒ぎを大きくしないこと」
「分かってるって!」
モモイが胸を張る。
「鏡を取ったら、すぐ撤退!」
「その通りです」
ユズも小さく頷いた。
カナタは自分の銃を確認する。
「俺たちは?」
先生がカナタを見る。
「セキュリティロボットが出てきた場合、みんなが鏡を確保するまで足止めを頼みたい」
「了解」
カナタは炎角を見る。
「炎角」
「うむ」
「今回は角醒憑依で行こう」
「承知した」
炎角が頷く。
「角醒そのものでは目立ちすぎるからな」
「ああ。施設の中であの大きさになったら、俺たち自身が目立つ」
炎角の身体が赤い光に包まれる。
「ならば――」
カナタの手元に炎の力が集まっていく。
「【角醒憑依せよ】」
炎角の力がカナタへ流れ込む。
その瞬間。
カナタの身体に炎の力が宿った。
「これなら、十分戦える」
「うむ」
炎角の力を纏ったカナタが銃を構える。
「では、参ろう」
「よし」
カナタたちは立ち上がった。
「鏡を取って、無事に帰ってくる」
その言葉を合図に、作戦が始まった。
*
管理区域。
カナタたちは慎重に施設内部へ侵入していく。
『第一監視区画、突破』
ハレから通信が入る。
『監視カメラは今のところ誤魔化せています』
「了解」
モモイたちが先を進む。
カナタと炎角は、その後方を警戒していた。
「静かすぎるな」
カナタが呟く。
「警備が薄いということか?」
「いや……」
カナタが足を止めた。
「来る」
「え?」
ミドリが振り返る。
廊下の奥。
金属音が響いた。
ガシャン。
ガシャン。
次の瞬間。
複数のセキュリティロボットが姿を現した。
「やっぱり!」
モモイが銃を構える。
「先に行け!」
カナタが叫んだ。
「ここは俺たちがやる!」
「分かった!」
モモイたちは走り出す。
その直後――。
「来い!」
カナタが銃を構えた。
ロボットの銃撃が飛んでくる。
カナタは身を翻しながら撃ち返した。
正確な射撃がロボットの関節を撃ち抜く。
動きが止まったところへ――。
「炎角!」
「承知!」
炎角の力を纏ったカナタが一気に踏み込む。
炎を纏った拳が、ロボットを吹き飛ばした。
「まだいる!」
さらに複数のロボットが現れる。
「数が多いな……!」
「ならば、押し通るのみ!」
カナタは炎角の力を使いながら、次々と敵を撃破していく。
炎の力によって身体能力が強化されている。
銃撃。
回避。
接近。
打撃。
その全てを組み合わせながら、カナタはロボットたちを押し返していった。
『カナタ!』
モモイから通信が入る。
「どうした?」
『こっちは保管区画に着いた!』
「よし。そのまま鏡を探せ!」
『了解!』
カナタは通信を切る。
「……なら、俺たちも急いで終わらせるぞ!」
「うむ!」
炎角の力を纏った拳が、最後のロボットを吹き飛ばした。
「これで……!」
だが。
廊下の先から、さらに機械音が響く。
「……まだ来るのか」
「御前様」
「ああ」
カナタは銃を構え直した。
「ここは俺たちの仕事だ」
*
一方、保管区画。
「ここだよ!」
モモイが扉を見つけた。
「ハレ、開けられる?」
『今やるよ』
電子ロックが解除される。
ガチャリ。
「開いた!」
モモイたちが中へ入る。
そこには大量の差し押さえ品が保管されていた。
「これ……全部セミナーが回収したもの?」
ミドリが目を丸くする。
「すごい数……」
ユズも周囲を見る。
「でも、今は鏡を探そう」
アリスが言った。
「はい」
アリスも一緒に棚を確認する。
「『鏡』……『鏡』……」
モモイが探し続ける。
「これじゃない!」
「それは普通の鏡だよ、お姉ちゃん」
「分かってるって!」
その時。
「ありました」
アリスが指を差した。
「え?」
棚の奥。
一つのケースが置かれている。
その表面には、簡素な管理番号と――。
『鏡』
という文字。
「これだ!」
モモイが駆け寄る。
しかし、その瞬間。
「侵入者を確認」
無機質な声が響いた。
「えっ?」
保管区画の入口。
そこに、一人の少女が立っていた。
白い髪。
黒い服。
そして、冷静な目。
「……C&C」
コタマの通信が入る。
『モモイさん、気をつけて!』
『そこにいるのはC&Cのメンバー!』
「C&C!?」
モモイが銃を構える。
少女――アカネは静かに銃を構えた。
「申し訳ありませんが、そこから先へは行かせません」
「でも、こっちは鏡を取りに来ただけなんだけど!」
「それが問題なんです」
アカネが一歩進む。
「それはセミナーの管理物ですから」
「じゃあ、話し合いを――」
ミドリが言いかけた瞬間。
「侵入者なら、排除するよ!」
別の少女が飛び込んできた。
「うわっ!」
モモイが慌てて避ける。
アスナだった。
「ごめんねー! でもお仕事だから!」
「アスナさんまで!?」
ユズが驚く。
さらに。
「そこから動かないで」
遠距離から銃口が向けられる。
カリンだった。
「三人とも……!」
ミドリが息を呑む。
C&C。
アカネ。
アスナ。
そしてカリン。
ネルを除く三人が、保管区画を守るために集まっていた。
「モモイ!」
ミドリが叫ぶ。
「分かってる!」
モモイが銃を構える。
「みんな、鏡を確保して!」
「でも……!」
「私が時間を稼ぐ!」
モモイが飛び出す。
「アリス、ユズ、ミドリ!」
「はい!」
アリスがスーパーノヴァを構える。
光が室内を照らした。
「おおっ!?」
アスナが驚いて飛び退く。
「アリスちゃん、すごい武器持ってるね!」
「これは勇者の剣です!」
「勇者!?」
アスナが目を輝かせる。
「なんだか楽しそう!」
「アスナ、油断しないで」
カリンが注意する。
「分かってるよー!」
銃撃が飛び交う。
ミドリが正確に反撃し、ユズも必死に援護する。
アカネは冷静に位置を変えながら、三人を追い詰めていく。
「さすがに強い……!」
モモイが歯を食いしばる。
「でも!」
アリスがスーパーノヴァを構える。
「ここは、退きません!」
「わあっ!」
アスナが慌てて飛び退く。
光線が床を走り、アカネたちの進路を塞いだ。
「今です!」
アリスが叫ぶ。
「鏡を!」
「分かった!」
モモイが保管ケースへ走る。
ケースを開け――。
「確保!」
鏡を手に取る。
「取ったよ!」
『モモイさん!』
ハレから通信が入る。
『急いで撤退して! 警備システムが復旧し始めてる!』
「了解!」
モモイが叫ぶ。
「みんな、逃げるよ!」
ゲーム開発部は一斉に撤退を開始する。
「待って!」
カリンが追う。
「逃がさない!」
アカネも続く。
アスナも笑いながら追いかける。
「待ってよー!」
「待つわけないでしょ!」
モモイたちは全力で走った。
*
その頃。
「これで最後だ!」
カナタが最後のセキュリティロボットを撃ち抜いた。
炎角の力が徐々に薄れていく。
「……終わったか」
「どうやらな」
カナタは息を整える。
その時。
『カナター! 鏡、取ったよ!』
モモイの通信が入った。
「よし!」
カナタは走り出す。
「炎角、撤退するぞ!」
「うむ!」
二人が廊下を駆ける。
角を曲がった先。
「カナタ!」
モモイたちが走ってくる。
「鏡は?」
「ここ!」
モモイが鏡を見せる。
「よくやった!」
カナタが笑う。
「でも、後ろからC&Cが来てる!」
「……分かった」
カナタが振り返る。
「なら、急ぐぞ!」
全員が出口へ向かう。
そして――。
「……あ?」
別の通路から声が聞こえた。
一人の少女が歩いてくる。
赤い髪。
鋭い目。
両手には二丁のサブマシンガン。
そして、その二丁を繋ぐ一本の鎖。
「ネル……?」
アカネが呟く。
「なんでここに?」
ネルは面倒そうに答えた。
「別任務が終わったんだよ」
そして、カナタを見る。
「……あ?」
カナタも足を止める。
「お前は……」
ネルの口元が吊り上がる。
「昨日の角獣連れじゃねぇか」
炎角が警戒する。
「御前様」
「ああ」
ネルは二丁のサブマシンガンを構えた。
鎖がジャラリと鳴る。
「ちょうどいい」
ネルが笑う。
「今度こそ遊べそうだな」
カナタも銃を構える。
「……そうだな」
だが。
「カナタ!」
モモイが叫ぶ。
「早く!」
カナタは一瞬だけネルを見る。
そして銃を下ろした。
「今日は戦うために来たんじゃない」
「は?」
「また今度だ」
ネルが目を細める。
「……逃げんのか?」
「目的は果たしたからな」
カナタは炎角を見る。
「行くぞ!」
「承知!」
カナタたちは走り出す。
「チッ……」
ネルは追おうとする。
しかし、アカネが制した。
「ネル、深追いは不要です」
「分かってるよ」
ネルは銃を下ろす。
そして去っていくカナタたちを見ながら、笑った。
「……カナタ、か」
「次は逃がさねぇぞ」
*
施設の外。
「はぁ……」
モモイが膝に手をつく。
「なんとか逃げ切った……」
「本当にギリギリでしたね」
ミドリも息を整える。
ユズは鏡を確認する。
「……壊れてません」
「よかった……」
モモイが胸を撫で下ろす。
アリスも鏡を見る。
「これでG.Bibleを読むことができますか?」
カナタが頷く。
「たぶんな」
炎角も静かに鏡を見る。
「しかし、これほど多くの者に守られているとはな」
「それだけ重要なものってことだろ」
カナタは鏡を見つめる。
これで、G.Bibleを読むための準備は整った。
ゲーム開発部を救うための手掛かり。
そして――。
アリスの正体へ繋がる可能性。
さらに、角獣の謎にも関係するかもしれない。
「……戻ろう」
カナタが言った。
「ヴェリタスで、この鏡を使ってG.Bibleを開いてもらおう」
「うん!」
モモイが元気よく答える。
「今度こそ、G.Bibleの中身を見るんだ!」
「はい!」
アリスも頷いた。
その一方で。
遠くからカナタたちを見送る少女がいた。
ネル。
彼女は鎖で繋がれた二丁のサブマシンガンを肩に担ぐ。
「……角獣を連れた銃使い、ねぇ」
口元に笑みを浮かべる。
「次に会った時は、ちゃんと遊べるといいな」
こうして――。
鏡奪取作戦は成功した。
ゲーム開発部は、G.Bibleを開くための鍵を手に入れた。
カナタと炎角は、C&Cというミレニアム屈指の実戦部隊と接触した。
そして、ネルという少女にも目をつけられることになった。
だが――。
彼らはまだ知らない。
G.Bibleに記された情報が、ゲーム開発部だけでなく。
アリスの正体。
そして、ミレニアムが追い続けてきた「何か」へと繋がっていることを。
次に彼らが開くのは――。
一冊の伝説ではなく。
ミレニアムの過去そのものだった。