ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

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第29話 ゲームを愛しなさい

 ――鏡奪取作戦から、一週間。

 

 ミレニアムサイエンススクール。

 

 ヴェリタスの部室では、ゲーム開発部の四人とカナタたちが集まっていた。

 

 机の上には、一台の端末。

 

 そこに保存されているのは、あの廃墟から持ち帰ったデータだった。

 

「それじゃあ……」

 

 モモイが息を呑む。

 

「ついに、G.Bibleを開くんだね!」

 

「はい」

 

 コタマが端末を操作する。

 

 ハレも隣から画面を確認している。

 

 そして――。

 

 画面に、一つの文章が表示された。

 

『ゲームを愛しなさい』

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 全員が沈黙した。

 

「……え?」

 

 モモイが目を瞬かせる。

 

「これだけ?」

 

「これだけですね」

 

 コタマが答える。

 

「他にデータはありません」

 

「パスワードまで掛かってたのに!?」

 

 モモイが頭を抱える。

 

「鏡まで取りに行ったのに!?」

 

「しかも一週間かけて解析した結果がこれ……」

 

 マキが画面を覗き込みながら呟く。

 

「『ゲームを愛しなさい』って……」

 

「他にゲーム制作の秘訣とか、売れるゲームの作り方とか……」

 

 モモイが期待を込めて画面を見る。

 

「ないの?」

 

「ありません」

 

 ハレが即答する。

 

「完全にこれだけ」

 

「そ、そんなぁ……!」

 

 モモイが机に突っ伏した。

 

 ミドリも苦笑する。

 

「伝説のゲーム開発バイブルなのに……」

 

「……ゲームを愛しなさい」

 

 ユズが小さく呟く。

 

 その言葉を、じっと見つめていた。

 

「……それだけ、なんですね」

 

「ああ」

 

 カナタも画面を見る。

 

「でも……」

 

「?」

 

「案外、それが一番大事なのかもしれないぞ」

 

 モモイが顔を上げる。

 

「カナタ?」

 

「ゲームの作り方を知りたいなら、技術や知識は必要だろうけどさ」

 

 カナタは続ける。

 

「結局、何のためにゲームを作るのかって話じゃないか?」

 

「…………」

 

「好きだから作るんじゃないのか?」

 

 ユズが静かに顔を上げる。

 

 モモイとミドリも互いの顔を見る。

 

 しばらくして――。

 

「……そっか」

 

 モモイが呟いた。

 

「私たち、最初から難しく考えすぎてたのかも」

 

「うん」

 

 ミドリが頷く。

 

「ゲーム開発部を守るために、何か凄いものを作らなきゃって……」

 

 ユズが小さく拳を握る。

 

「でも……」

 

「?」

 

「私たちがゲームを作るのは……ゲームが好きだから、ですよね」

 

「……ユズ」

 

「だったら……」

 

 ユズは画面を見る。

 

『ゲームを愛しなさい』

 

「もう一度、最初から作りませんか?」

 

 モモイの顔が明るくなる。

 

「……そうだね!」

 

 ミドリも笑った。

 

「うん」

 

 マキが拳を突き上げる。

 

「やろう!」

 

「もちろんです!」

 

 アリスも勢いよく頷く。

 

「アリスもゲームを作りたいです!」

 

 こうして――。

 

 ゲーム開発部は、もう一度ゲームを作ることになった。

 

     *

 

 数日後。

 

 ゲーム開発部の部室。

 

 モニターには、懐かしいタイトルが表示されていた。

 

『テイルズサガクロニクル』

 

「やっぱり、これの続編にしよう!」

 

 モモイが宣言する。

 

「続編?」

 

「うん!」

 

 ミドリが画面を見る。

 

「前作の反省点も分かってるし、今度はちゃんと作れると思う」

 

「それに……」

 

 ユズが小さく笑う。

 

「私たちが一番好きなゲームですから」

 

「そういうこと!」

 

 モモイが頷く。

 

「テイルズサガクロニクル2!」

 

「タイトルがそのまますぎない?」

 

 ミドリが苦笑する。

 

「でも、分かりやすいよ」

 

 マキが笑った。

 

 そして――。

 

 ゲーム開発部は、制作を始めた。

 

 シナリオ。

 

 グラフィック。

 

 プログラム。

 

 音楽。

 

 それぞれが、自分たちにできることを積み重ねていく。

 

 以前のように「凄いゲームを作らなければ」と焦るのではない。

 

 自分たちが楽しめるゲームを。

 

 遊ぶ人にも楽しんでもらえるゲームを。

 

 何より――。

 

 自分たちがゲームを好きだと思える作品を。

 

 その気持ちを形にしていった。

 

     *

 

 そして。

 

 ミレニアムプライス。

 

 ミレニアムの様々な部活が、日頃の研究や活動によって作り上げた成果物を出展し、競い合う校内大会。

 

 ゲーム開発部にとっては、単なる発表会ではない。

 

 部を存続させるための、大きな機会だった。

 

 以前、ユウカから告げられた言葉。

 

『このまま成果が出なかったら……ゲーム開発部の存続について、考えないといけないかもしれません』

 

 あの言葉が、ずっと頭に残っていた。

 

 だからこそ。

 

 今度こそ結果を出す。

 

 ゲーム開発部は、完成した作品をミレニアムプライスへ提出することを決めた。

 

「これで……」

 

 ユズが完成したゲームを見つめる。

 

「私たちのゲームを、みんなに見てもらえるんですね」

 

「うん!」

 

 モモイが笑う。

 

「今度こそ、ゲーム開発部の本気を見せるんだ!」

 

「受付、もうすぐ終わるよ」

 

 ミドリが時計を見る。

 

「分かってる!」

 

 モモイが最後の確認を行う。

 

「データ、問題なし!」

 

「映像データも大丈夫です」

 

 ユズが確認する。

 

「じゃあ――」

 

 モモイが送信画面を開く。

 

「いっけぇぇぇぇ!」

 

 送信。

 

 画面に表示された文字。

 

『ミレニアムプライス 受付完了』

 

「…………」

 

 一瞬、誰も言葉を発しなかった。

 

 そして――。

 

「やったぁぁぁぁ!!」

 

 モモイが叫んだ。

 

「間に合った!」

 

 ミドリも安堵する。

 

「よかった……」

 

 ユズは胸に手を当てた。

 

「……間に合った」

 

 アリスも嬉しそうに笑う。

 

「ゲームが完成しました!」

 

「うん!」

 

 ゲーム開発部の四人は顔を見合わせる。

 

 まだ結果が出たわけではない。

 

 受賞できるかも分からない。

 

 それでも――。

 

 自分たちの力で、一本のゲームを完成させた。

 

 それだけで、今までとは違う何かを感じていた。

 

 その時だった。

 

 ――ドン!

 

 廊下から大きな音が響いた。

 

「……?」

 

 モモイが振り返る。

 

「今の何?」

 

 ミドリが窓の外を見る。

 

「……誰か走ってる?」

 

 ユズが不安そうに尋ねる。

 

「まさか……」

 

 アリスが首を傾げる。

 

 次の瞬間。

 

「見つけた!」

 

 聞き覚えのある声が響いた。

 

「……え?」

 

 モモイの顔が引きつる。

 

 廊下の向こうから、複数の人影が走ってくる。

 

 白い髪。

 

 二丁の銃。

 

 そして――。

 

「ネルさん?」

 

 アリスが呟いた。

 

 その後ろには、アスナ、アカネ、カリン。

 

 C&Cのメンバーがいた。

 

「ちょっと待って!」

 

 モモイが叫ぶ。

 

「なんで!?」

 

 ネルが叫び返す。

 

「こっちの台詞だ!」

 

「えぇ!?」

 

 モモイが混乱する。

 

 カリンが冷静に答える。

 

「ミレニアムプライスへの出展作品について、確認したいことがあります」

 

「え、作品!?」

 

 ミドリが驚く。

 

 アカネが微笑む。

 

「はい。少々お話を伺いたいだけです」

 

「その言い方、絶対少々じゃないよ!」

 

 モモイが叫ぶ。

 

 アスナが楽しそうに手を振る。

 

「モモイちゃん、待ってー!」

 

「待てるわけないでしょ!」

 

 ゲーム開発部が一斉に走り出す。

 

「逃げるよ!」

 

「どうしてこうなったんですか!?」

 

 ユズも必死に走る。

 

 アリスは首を傾げながらもついていく。

 

「ゲーム開発部、逃走します!」

 

「そんな宣言しなくていいから!」

 

 モモイが叫ぶ。

 

 その騒ぎを――。

 

 少し離れた場所から見ていた者がいた。

 

「……何やってんだ、あいつら」

 

 カナタだった。

 

 その隣には、人間の姿をした炎角がいる。

 

「どうやら、騒動が起きているようだな」

 

「……またか」

 

 カナタは苦笑する。

 

 そして、走ってくるゲーム開発部とC&Cを見て目を細める。

 

「……ネルもいる」

 

 炎角が頷く。

 

「先日の少女か」

 

「ああ」

 

 ネルもカナタに気づいた。

 

「……あ?」

 

 一瞬、足を止める。

 

「カナタ?」

 

 カナタも構える。

 

「ネル……?」

 

 しかし――。

 

「今は後だ!」

 

 ネルが叫ぶ。

 

「こいつらを捕まえるのが先だ!」

 

「え?」

 

 カナタが目を丸くする。

 

 モモイがカナタの横を駆け抜けながら叫んだ。

 

「カナタくん! 助けてぇぇぇ!」

 

「ちょっと待て! 俺を巻き込むな!」

 

 炎角が呆れたように呟く。

 

「……また騒がしくなったな」

 

 こうして。

 

 ゲーム開発部がG.Bibleの言葉を胸に作り上げた新作ゲームは、無事にミレニアムプライスへ提出された。

 

 だが――。

 

 その直後。

 

 なぜかゲーム開発部は、C&Cから追われることになった。

 

 その理由は、まだカナタたちには分からない。

 

 ただ一つ確かなのは――。

 

 彼女たちが、ゲーム開発部を追いかける理由を持っているということだった。

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