角醒ハンター オメガホーン ―砂塵の向こうに眠る角―   作:ガンダムラザーニャ

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第3話 砂の下に眠る角

 翌朝。

 

 アビドス高等学校の校舎前に、一台の車が停まっていた。

 

「水よし。食料よし。発掘道具よし……」

 

 砂原カナタは、車の荷台に積み込んだ荷物を一つずつ確認していた。

 

 水筒、保存食、発掘用の工具、簡易医療キット、通信端末、予備のバッテリー。

 

 そして――。

 

「地図もある」

 

 手にしたのは、二年前から大切に保管している古い地図だった。

 

 ユメ先輩から渡された、一枚の地図。

 

 長い間、その場所を特定することができなかった。

 

 だが、昨日。

 

 ついに地図が示す場所をほぼ特定できた。

 

「……やっとだ」

 

 カナタは地図を丁寧に畳み、バックパックへしまう。

 

「今日、行ける」

 

「準備できた?」

 

 背後から声がした。

 

 振り返ると、シロコが立っていた。

 

「うん。シロコ先輩も?」

 

「準備できてる」

 

「なら、出発――」

 

「ちょっと待って!」

 

 セリカが駆けてくる。

 

「私の水、ちゃんと積んだ?」

 

「積んだよ」

 

「本当に?」

 

「昨日、アヤネと一緒に確認したから大丈夫」

 

「ならいいけど……」

 

 セリカは荷台を覗き込む。

 

「……ちゃんとあるわね」

 

「だから言ったじゃん」

 

「確認するのは大事でしょ」

 

「まあ、それはそうだけど」

 

 その後ろからアヤネとノノミもやってきた。

 

「みなさん、お待たせしました」

 

「準備万端ですよ~」

 

「ありがとう、アヤネ。ノノミ先輩」

 

 そして最後に。

 

「ふわぁ~……」

 

 眠そうな少女が歩いてくる。

 

「おはようございます、ホシノ先輩」

 

「おはよ~、カナタくん」

 

 小鳥遊ホシノ。

 

 アビドスの先輩であり、ユメ先輩と共にかつてのアビドスを支えていた生徒。

 

「今日はちゃんと起きてるんですね」

 

「起きてるよ~。これでも先輩だからねぇ」

 

「いつも寝てるじゃない」

 

 セリカが呆れた声を出す。

 

「セリカちゃん、厳しいなぁ」

 

「事実でしょ」

 

「まあまあ」

 

 ノノミが笑いながら二人を宥める。

 

 いつものアビドスだった。

 

 人数は少ない。

 

 設備も古い。

 

 借金だってある。

 

 それでも。

 

 こうして仲間と一緒に出かけることができる。

 

 カナタは少しだけ笑った。

 

「じゃあ、行こう」

 

     *

 

 車が砂漠を走る。

 

 窓の外には、どこまでも続く砂。

 

 太陽はすでに高く昇り始めている。

 

 カナタは膝の上に広げた古い地図と、端末に表示した現在の地図を何度も見比べていた。

 

「このまま北東へ」

 

「あとどれくらい?」

 

 運転しているアヤネが尋ねる。

 

「二十分くらい」

 

「分かりました」

 

 カナタは再び地図を見る。

 

 古代の地形。

 

 方角を示す記号。

 

 距離を表していると思われる印。

 

 昨日まで繋がらなかった情報が、今では一つの場所を指している。

 

「……間違ってなければ、ここ」

 

 カナタが地図の一点を指差す。

 

 その場所は、アビドスのさらに奥。

 

 現在の地図には、ほとんど何も記録されていない地域だった。

 

「本当に何があるのかしらね」

 

 セリカが呟く。

 

「遺跡だと思う」

 

「それは分かってるわよ」

 

「じゃあ……何だろう」

 

「いや、あんたが分からないなら私にも分からないわよ」

 

 セリカがため息をつく。

 

 カナタは苦笑した。

 

 そして、地図の端を見る。

 

 そこには、あの奇妙な生物の絵が描かれている。

 

 大きな身体。

 

 四本の脚。

 

 頭部に一本の角。

 

「……これだけは、まだ分からない」

 

「何が?」

 

 シロコが尋ねる。

 

「地図に描かれてる生物」

 

 カナタは絵を見せる。

 

「古代の動物なのかな」

 

「角がある」

 

「うん」

 

「強そう」

 

「……そこ?」

 

 シロコは真顔で答えた。

 

「大事」

 

「まあ……そうだけど」

 

 カナタは地図をしまった。

 

「現地に行けば分かるかもしれない」

 

 その時。

 

 ホシノが静かにカナタを見る。

 

「……」

 

「ホシノ先輩?」

 

「ううん。何でもないよ~」

 

 いつもの眠そうな笑顔。

 

 けれど、その目にはほんの少しだけ寂しさが浮かんでいた。

 

 カナタは気づかなかった。

 

     *

 

「止めて」

 

 カナタが言った。

 

 車がゆっくりと停止する。

 

「ここ?」

 

 シロコが外を見る。

 

「うん」

 

 カナタも車から降りた。

 

 砂丘の向こう。

 

 巨大な岩山が見えている。

 

 古い地図に描かれた地形と一致していた。

 

「間違いない」

 

 カナタは地図と岩山を見比べる。

 

「ここから先は徒歩」

 

「了解」

 

 全員が車から降りる。

 

 カナタはバックパックを背負った。

 

 そして、自分のスマートフォンを取り出す。

 

「じゃあ、スーツを出す」

 

「スーツ?」

 

 ノノミが首を傾げる。

 

「GOハントスーツ」

 

 カナタがスマートフォンを操作する。

 

 画面に一つのアプリが表示された。

 

 GO HUNT

 

 カナタがアプリを起動する。

 

 画面には、スーツの簡易モデルといくつかの項目が表示された。

 

 ――防塵性能。

 

 ――耐熱性能。

 

 ――機動性。

 

 ――センサー。

 

 ――収納。

 

 ――補助装備。

 

「これ、カナタ君が使ってるアプリ?」

 

「うん」

 

 アヤネが画面を覗き込む。

 

「設定を変更できるんですか?」

 

「用途に合わせてカスタマイズできる」

 

 カナタはプリセットを選択する。

 

 画面に表示される。

 

 DESERT EXPLORATION

 

「砂漠探索用」

 

 防塵性能を高く。

 

 耐熱性能も高く。

 

 センサーは地形探索向け。

 

 収納には発掘道具を優先。

 

「基本はこれ」

 

「自分で調整してるの?」

 

 セリカが尋ねる。

 

「うん。砂漠を歩く時と遺跡に入る時じゃ必要な装備が違うから」

 

「へぇ……」

 

 セリカが感心する。

 

「結構ちゃんとしてるじゃない」

 

「遺跡探索って、装備が悪いと普通に危ないから」

 

 カナタは設定を確認する。

 

 そして。

 

「……よし」

 

 画面中央のボタンをタップする。

 

 DEPLOY

 

「GOハントスーツ、展開」

 

 スマートフォンから光が溢れ出した。

 

 光がカナタの身体を包み込む。

 

 腕。

 

 脚。

 

 胴体。

 

 そして頭部。

 

 光が収束すると、そこには砂漠探索用に調整されたスーツを身に纏ったカナタが立っていた。

 

「おお~」

 

 ノノミが目を輝かせる。

 

「かっこいいですね~」

 

「ありがとう」

 

 カナタは腕を動かす。

 

 関節の動きを確認。

 

 センサーを確認。

 

 通信状態を確認。

 

「問題なし」

 

「本当に便利ね」

 

 セリカが言う。

 

「スマホ一つでスーツを出せるなんて」

 

「便利だけど、何でもできるわけじゃないよ」

 

 カナタは答えた。

 

「これはあくまで探索用。戦うための装備じゃないから」

 

「なるほど」

 

 アヤネが頷く。

 

「カナタ君らしいですね」

 

「そう?」

 

「ええ」

 

 アヤネは笑った。

 

「遺跡を安全に調べることを一番に考えているところが」

 

 カナタは少し照れたように目を逸らした。

 

「……まあね」

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 シロコが言う。

 

「うん」

 

 カナタは先頭に立った。

 

「ここからは足元に注意して」

 

 砂漠の奥へ。

 

 一行は歩き始めた。

 

     *

 

 岩山を越える。

 

 砂丘を一つ越える。

 

 さらにその先へ。

 

「……あった」

 

 カナタが足を止めた。

 

 砂の中から、石柱が一本だけ突き出している。

 

「これ……」

 

 アヤネが近づく。

 

「人工物ですね」

 

「うん」

 

 カナタは周囲を見渡した。

 

 さらに進む。

 

 砂の中から、別の柱。

 

 崩れた壁。

 

 そして――。

 

「……門だ」

 

 巨大な石造りの門が、砂の中から姿を現していた。

 

 半ばまで埋まっている。

 

 表面には、古代文字。

 

 そして。

 

 地図に描かれていた記号。

 

「間違いない」

 

 カナタは地図を取り出した。

 

「ここだ」

 

 その目が輝く。

 

「ユメ先輩が見つけた場所……」

 

 カナタは門を見上げる。

 

「やっと来られた」

 

 ホシノが少し離れた場所で、その姿を見つめていた。

 

「……」

 

     *

 

 遺跡内部。

 

 中は薄暗く、砂が床の上に積もっている。

 

 カナタはライトを点け、慎重に進んでいた。

 

「足元、気をつけて」

 

「何かある?」

 

 セリカが尋ねる。

 

「崩落の可能性がある」

 

「それ、もっと早く言ってよ!」

 

「だから今言った」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 ノノミがくすくすと笑う。

 

 シロコは周囲を警戒している。

 

「……敵はいない?」

 

「今のところは」

 

 カナタは壁を見る。

 

「でも、人が来てた痕跡はある」

 

「分かるの?」

 

「この砂の積もり方」

 

 カナタは壁際を指差す。

 

「ここだけ砂が少ない。昔、誰かが通ってた」

 

 アヤネが感心したように頷く。

 

「さすがですね」

 

「遺跡はこういうのを見るのが面白いんだよ」

 

 カナタは歩きながら壁を調べる。

 

 古代文字。

 

 記号。

 

 そして――。

 

「……これ」

 

 地図と同じ記号を見つけた。

 

「この先だ」

 

 壁の一部に手を触れる。

 

 押す。

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 

 重い音が響いた。

 

 壁がゆっくりと動く。

 

 その奥から、地下へ続く階段が姿を現した。

 

「地下……」

 

 アヤネが呟く。

 

「行きましょう」

 

 カナタがライトを向ける。

 

 その先は、暗闇に包まれていた。

 

     *

 

 階段を下りる。

 

 一段。

 

 また一段。

 

 やがて。

 

 巨大な空間に出た。

 

「……広い」

 

 セリカが息を呑む。

 

 そこは地下神殿のような場所だった。

 

 中央には祭壇。

 

 その周囲には、無数の古代文字。

 

 壁には巨大な生物の絵。

 

「これ……」

 

 カナタが立ち止まる。

 

 描かれていたのは、地図の隅にあったものと同じ生物だった。

 

 巨大な身体。

 

 四本の脚。

 

 頭に一本の角。

 

「同じだ……」

 

 カナタは壁画に近づく。

 

「この生物が、ここにいた?」

 

「動物なの?」

 

 セリカが尋ねる。

 

「分からない」

 

 カナタは壁画を調べる。

 

「でも、ただの動物ならこんなに大きく描かないと思う」

 

 さらに祭壇へ近づく。

 

 その上に。

 

 一つの奇妙な装置が置かれていた。

 

「……何だろう」

 

 それは一本の角を思わせる形をしている。

 

 動物の角にも見える。

 

 しかし、明らかに人工物だった。

 

 金属とも石とも違う、不思議な材質。

 

 表面には細かな紋様が刻まれている。

 

「触って大丈夫?」

 

 アヤネが尋ねる。

 

「分からない」

 

「なら、無理に触らない方が――」

 

 カナタは手を止める。

 

 確かに。

 

 いつもの自分なら、まず周囲を調べる。

 

 だが。

 

 なぜか。

 

 その装置だけは、自分を呼んでいるような気がした。

 

「……」

 

 カナタは慎重に手を伸ばす。

 

「カナタ」

 

 シロコが警戒する。

 

「分かってる」

 

 指先が触れる。

 

 何も起きない。

 

「……?」

 

 カナタは装置を持ち上げた。

 

「軽い」

 

 その瞬間。

 

 祭壇の奥から。

 

「カナタくん!」

 

 ホシノの声が響いた。

 

「後ろ!」

 

 カナタが振り返る。

 

 そこにあったのは――。

 

「……角?」

 

 壁から突き出す、巨大な一本の角。

 

 赤黒い。

 

 その表面には、炎が流れているような紋様が刻まれている。

 

 まるで。

 

 生きているようだった。

 

「すごい……」

 

 カナタは息を呑む。

 

 古文献を取り出す。

 

 角の周囲に刻まれた文字と照らし合わせる。

 

「この文字……」

 

 一文字。

 

 また一文字。

 

 そして。

 

「……エゴルギア」

 

 カナタが、その名を口にした。

 

 ――ドクン。

 

「……え?」

 

 角が震えた、次の瞬間。

 

 遺跡全体が大きく揺れる。

 

「何!?」

 

 セリカが叫ぶ。

 

「みんな、下がって!」

 

 カナタが叫ぶ。

 

 天井から砂が落ちてくる。

 

 地面が揺れる。

 

 祭壇が軋む。

 

「遺跡が崩れるんですか!?」

 

「分からない!」

 

 カナタは角から目を離せなかった。

 

 その奥に。

 

 何かがいる。

 

 そんな感覚。

 

 そして――。

 

 ゴオオオオオオッ!

 

 巨大な炎が噴き上がった。

 

「きゃっ!」

 

 ノノミが声を上げる。

 

 シロコがすぐに彼女の前へ出る。

 

 炎が祭壇を包み込む。

 

 カナタは腕で顔を覆った。

 

 炎の中。

 

 巨大な影が浮かび上がる。

 

 四本の脚。

 

 巨大な身体。

 

 頭部に生えた一本の角。

 

「……!」

 

 地図の絵と同じだった。

 

「角獣……?」

 

 炎が消える。

 

 そこにいたのは、巨大な獣。

 

 赤い毛並み。

 

 燃えるような角。

 

 鋭い眼。

 

 そして。

 

 その瞳には、明らかな知性が宿っていた。

 

「……」

 

 獣はカナタを見る。

 

 まるで。

 

 長い眠りから目覚めた者が、初めて見る世界を確かめるように。

 

 そして。

 

 その身体から再び炎が立ち上がった。

 

 炎が獣を包み込む。

 

 輪郭が変わる。

 

 四本の脚が二本へ。

 

 巨大な身体が人の形へ。

 

 炎が消える。

 

 そこに立っていたのは、一人の青年だった。

 

 赤みを帯びた髪。

 

 鋭い眼差し。

 

 そして。

 

 頭部から伸びる巨大な角。

 

 青年はカナタを見つめる。

 

「……」

 

 しばらく沈黙が続く。

 

 やがて。

 

「我は炎角」

 

 青年は静かに名乗った。

 

「古き時代より、この地に眠りし角獣なり」

 

 カナタは呆然とする。

 

「……角獣が、人間になった?」

 

「我は人の姿を取ることもできる」

 

 炎角は答えた。

 

 そして、カナタの手にある装置を見る。

 

「御前様」

 

「……俺?」

 

「そうだ」

 

 炎角は装置を指差す。

 

「それを持つ者こそ、我を目覚めさせた者」

 

「これが……?」

 

「オメガホーン」

 

 カナタは装置を見る。

 

「オメガ……ホーン」

 

「我ら角獣の力を、人の世へ繋ぐ器」

 

 カナタは炎角の角を見る。

 

 そして祭壇の奥にある巨大な角を見る。

 

「じゃあ、これが炎角のエゴルギア?」

 

「そうだ」

 

 カナタは息を呑んだ。

 

 目の前にいるのは、伝説でも神話でもない。

 

 古代から生き続けていた生命。

 

 角獣。

 

 そして、その力を宿すための装置。

 

 オメガホーン。

 

「……」

 

 カナタは装置を見つめた。

 

 その時。

 

 スマートフォンが小さく振動する。

 

 画面を見る。

 

 GO HUNT――UNKNOWN ENERGY DETECTED

 

「……え?」

 

 GOハントスーツのシステムが、オメガホーンから発せられる未知のエネルギーを検知していた。

 

 カナタは思わず目を輝かせる。

 

「これ……解析できるかもしれない」

 

 炎角が怪訝そうに見る。

 

「何をしている」

 

「いや、ちょっと気になって」

 

「我の力を?」

 

「うん」

 

「……」

 

 炎角はしばらくカナタを見る。

 

 そして、小さく息を吐いた。

 

「変わった御方だ」

 

「よく言われる」

 

     *

 

「炎角」

 

「何だ、御前様」

 

「俺と一緒に来ない?」

 

 炎角が眉を動かす。

 

「……何故だ」

 

「今の人の世を見てほしい」

 

 カナタは答えた。

 

「この遺跡がいつ作られたのかも知りたい。あんたたち角獣が昔どう生きてたのかも知りたい」

 

 炎角は黙っている。

 

「俺、遺跡を調べるのが好きなんだ」

 

 カナタはオメガホーンを見る。

 

「だから、あんたのことも知りたい」

 

 炎角は長い沈黙の後。

 

「……御前様」

 

「何?」

 

「我は長き眠りについていた」

 

 炎角は周囲を見渡す。

 

「目覚めた今、この世が如何なるものとなっているのか。我には分からぬ」

 

「……」

 

「かつて我が知っていた人の世は、既に過ぎ去った」

 

 炎角はカナタを見る。

 

「ならば――」

 

 一歩、近づく。

 

「我を案内せよ」

 

「……案内?」

 

「今の人の世を」

 

 炎角は言った。

 

「我に見せるのだ」

 

 カナタは少し考えた。

 

 そして。

 

「……分かった」

 

「うむ」

 

「じゃあ、まずはアビドスに行こう」

 

「アビドス?」

 

「俺たちが住んでる学園」

 

 炎角は頷いた。

 

「では、行こう」

 

「よろしく、炎角」

 

「こちらこそ、御前様」

 

「……だから、その呼び方やめてくれない?」

 

「ならぬ」

 

「即答!?」

 

 セリカが吹き出した。

 

「何よ、それ」

 

「俺にも分からない……」

 

 ノノミも楽しそうに笑っている。

 

「なんだか面白い組み合わせですね~」

 

 シロコは炎角をじっと見ていた。

 

「……強い?」

 

 炎角がシロコを見る。

 

「我か?」

 

「うん」

 

「戦うというのであれば、それなりには」

 

 シロコが少しだけ目を輝かせた。

 

「……今度、戦ってみたい」

 

「シロコ先輩!?」

 

「興味がある」

 

「俺もあるけど、今はそれどころじゃないから!」

 

 そんなやり取りを見ながら。

 

 ホシノは少し離れた場所から二人を見ていた。

 

「……カナタくん」

 

「はい?」

 

「大切にしてあげてね」

 

「……うん」

 

 カナタは頷いた。

 

     *

 

「カナタ!」

 

 アヤネが叫ぶ。

 

「遺跡が崩れます!」

 

「え!?」

 

 天井から大量の砂が落ちてくる。

 

「みんな、急いで!」

 

 一行は出口へ走り出す。

 

 カナタも走る。

 

 その隣には炎角。

 

 古代から蘇った角獣。

 

 そして、その手にはオメガホーン。

 

 カナタは走りながら、自分のスマートフォンを見る。

 

 GO HUNTの画面には、解析不能なデータが次々と表示されている。

 

「……何なんだ、これ」

 

 オメガホーン。

 

 エゴルギア。

 

 角獣。

 

 そして古代アビドス。

 

 分からないことばかりだ。

 

 けれど。

 

 それがたまらなく面白い。

 

 遺跡探索者として。

 

 自分は、とんでもないものを見つけてしまった。

 

     *

 

 遺跡から脱出した。

 

 一行は砂漠に立っていた。

 

「……何とか出られた」

 

 カナタが息を吐く。

 

「怪我は?」

 

 アヤネが確認する。

 

「大丈夫」

 

「私も平気」

 

「私も~」

 

「問題なし」

 

 シロコ、セリカ、ノノミも無事だった。

 

 そして。

 

 カナタは隣を見る。

 

 炎角。

 

 赤い角を持つ青年が、砂漠の向こうを眺めている。

 

「……これが、今の世界か」

 

 炎角が呟いた。

 

「そう」

 

 カナタが答える。

 

「これから案内するよ」

 

 炎角は頷いた。

 

「頼むぞ、御前様」

 

「……だから、その呼び方――」

 

「ならぬ」

 

「また!?」

 

 セリカが笑う。

 

「もう諦めなさいよ」

 

「いや、諦めたくないんだけど……」

 

 ノノミも楽しそうに笑っている。

 

 ホシノはそんな二人を見つめていた。

 

「……」

 

 そして、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。

 

「ユメ先輩」

 

 一瞬だけ、遠い記憶を思い出す。

 

 あの日。

 

 ユメ先輩がカナタに渡した地図。

 

 その地図が。

 

 今、新しい出会いを連れてきた。

 

 ホシノは静かに目を細める。

 

「……ちゃんと、帰ってきたよ」

 

 その言葉は、誰に向けたものなのか。

 

 カナタには分からなかった。

 

     *

 

 カナタは地図を取り出した。

 

 二年前。

 

 ユメ先輩と交わした約束。

 

 一緒に、この場所へ行く。

 

 その約束を果たすことはできなかった。

 

 それでも。

 

 地図は無駄にならなかった。

 

 その先には。

 

 古代から眠り続けていた角獣がいた。

 

 そして。

 

 その力を人の世へ繋ぐ器。

 

 オメガホーン。

 

 カナタはそれを見つめる。

 

「……ユメ先輩」

 

 小さく呟く。

 

「俺、見つけたよ」

 

 砂漠の風が吹く。

 

 地図の端に描かれた角獣の絵が、風に揺れた。

 

 その絵と同じ存在が。

 

 今、カナタの隣に立っている。

 

 まだ誰も知らない。

 

 オメガホーンが何なのか。

 

 角獣がなぜこの場所で眠っていたのか。

 

 そして。

 

 この出会いがキヴォトスに何をもたらすのか。

 

 ただ一つだけ。

 

 確かなことがある。

 

 今日。

 

 砂原カナタの日常は変わった。

 

 遺跡を探すだけだった少年は。

 

 これから。

 

 古代の角獣と共に。

 

 砂の下に眠る謎を追うことになる。

 

 ――物語は、ここから大きく動き始める。

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