ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

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第31話 ゲームを愛しなさい――その先へ

 ――ネルとの戦いから、数日後。

 

 ミレニアムサイエンススクール。

 

 ゲーム開発部の部室では、四人の少女が一つの画面を見つめていた。

 

「……まだかな」

 

 モモイが机に突っ伏す。

 

「何が?」

 

 ミドリが尋ねる。

 

「ミレニアムプライスの結果!」

 

「ああ……」

 

 ミドリも画面を見る。

 

「まだ発表されてないよ」

 

「分かってるけどさぁ……!」

 

 モモイは顔を上げる。

 

「だって、私たちのゲームがどう評価されるのか気になるじゃん!」

 

 その隣では、ユズが静かに画面を見ていた。

 

 表示されているのは――。

 

『テイルズサガクロニクル2』

 

 ゲーム開発部が、四人で作り上げたゲーム。

 

 G.Bibleに記されていた言葉。

 

『ゲームを愛しなさい』

 

 その一文を胸に、四人が初心に戻って作った作品だった。

 

「……ちゃんと完成したんだよね」

 

 ユズが呟く。

 

「うん」

 

 ミドリが頷く。

 

「締め切りギリギリだったけど」

 

「ギリギリどころか、ほとんどアウト寸前だったけどね!」

 

 モモイが笑う。

 

「でも、間に合ったんだからいいじゃん!」

 

 アリスも頷いた。

 

「アリスは、とても楽しく作れました」

 

「……うん」

 

 ユズも微笑む。

 

「私も……楽しかったです」

 

 そこへ――。

 

「そういえばさ」

 

 カナタが口を開いた。

 

 部室の隅で、炎角と一緒にゲーム画面を眺めていた。

 

「G.Bibleを手に入れる前と、今じゃ、ずいぶん変わったな」

 

「そう?」

 

 モモイが首を傾げる。

 

「ああ」

 

 カナタは頷く。

 

「最初は、G.Bibleに『最高のゲームを作る方法』が書いてあると思ってたんだろ?」

 

「うん」

 

「でも、実際に書いてあったのは――」

 

「『ゲームを愛しなさい』」

 

 ユズが答える。

 

「そう」

 

 カナタは画面を見る。

 

「最初は、ちょっとがっかりしたんじゃないか?」

 

「……した」

 

 モモイが苦笑する。

 

「もっとこう、『こうすれば面白いゲームになる!』みたいな秘訣が書いてあると思ってたから」

 

「でも――」

 

 ミドリが続ける。

 

「結局、そこから自分たちで考えることになったんだよね」

 

「うん」

 

 ユズが頷く。

 

「昔みたいに、ゲームを作ることそのものを楽しもうって」

 

 カナタは静かに笑った。

 

「それなら、G.Bibleの言葉も無駄じゃなかったんじゃないか?」

 

「……」

 

 モモイたちが顔を見合わせる。

 

 カナタは続けた。

 

「ゲームを作るための技術や知識は、誰かから教えてもらうだけじゃない」

 

「好きだから、もっと良くしたいと思う」

 

 ユズが呟く。

 

「遊ぶ人に楽しんでもらいたいと思う」

 

 ミドリが続ける。

 

「そのために、自分たちで考える」

 

 モモイが笑う。

 

「そして、また作ってみる!」

 

 アリスが胸を張った。

 

「それが、ゲームを愛するということです!」

 

 カナタは頷いた。

 

「……そういうことなのかもしれないな」

 

 炎角も静かに頷く。

 

「愛するもののために、己の力を尽くす――か」

 

「炎角にも分かるの?」

 

 モモイが尋ねる。

 

「我とて、角獣である前に一つの存在だ」

 

 炎角はカナタを見る。

 

「御前様と旅をすることも、我にとっては大切なことだ」

 

「炎角……」

 

 カナタが少し照れたように笑う。

 

「そういうの、急に言うなよ」

 

「何故だ?」

 

「恥ずかしいからだよ」

 

「ふむ」

 

 炎角は首を傾げた。

 

「人間とは難しいものだな」

 

「そこは分かってくれよ……」

 

 モモイが笑う。

 

「なんか、カナタくんと炎角って本当に仲良いよね」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 ミドリも微笑んだ。

 

 その時だった。

 

 部室の扉が開く。

 

「みんな、発表始まるよ!」

 

 マキだった。

 

「ミレニアムプライスの結果、もうすぐ出るって!」

 

「来た!」

 

 モモイが立ち上がる。

 

「行こう!」

 

「え、ここで見るんじゃないの?」

 

「大画面で見たい!」

 

 ゲーム開発部の四人とカナタ、炎角は、急いで別室へ向かった。

 

     *

 

 会場では、ミレニアムプライスの結果発表が始まっていた。

 

 ミレニアムの様々な部活が、日頃の研究や活動によって生み出した成果物を出展し、その成果を競い合う校内大会。

 

 ゲーム開発部にとっては――。

 

 ただの大会ではない。

 

 部の存続がかかっている。

 

 モモイは拳を握りしめる。

 

「……大丈夫」

 

 ミドリが隣に立つ。

 

「うん」

 

 ユズも静かに画面を見る。

 

「私たちは、できることを全部やりました」

 

 アリスは真っ直ぐスクリーンを見つめていた。

 

「結果を待ちます」

 

 やがて、発表が始まる。

 

『第七位――』

 

 別の部活の名前が読み上げられる。

 

『第六位――』

 

 また別の名前。

 

『第五位――』

 

 ゲーム開発部の名前はない。

 

 四位。

 

 三位。

 

 二位。

 

 そして――。

 

『第一位――』

 

 発表されたのも、別の部活だった。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 ゲーム開発部の名前は、最後まで呼ばれなかった。

 

「……え?」

 

 モモイが呆然とする。

 

「私たち……」

 

 ミドリも固まっていた。

 

「順位に……入ってない?」

 

 ユズは俯く。

 

「……そうみたいです」

 

 アリスが画面を確認する。

 

「ゲーム開発部は、通常部門では受賞していません」

 

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 モモイが叫んだ。

 

「こんなに頑張ったのに!」

 

 ミドリも俯く。

 

「部室……なくなっちゃうのかな」

 

 ユズは何も言わなかった。

 

 ただ、自分の手を強く握りしめている。

 

 その時。

 

「待って」

 

 声がした。

 

 ユウカだった。

 

「まだ終わってないわ」

 

「……ユウカ?」

 

 ユウカは少し息を切らしながら、ゲーム開発部のところへ歩いてくる。

 

「最後までちゃんと見て」

 

 モモイがスクリーンを見る。

 

『――以上をもちまして、通常部門の順位発表を終了します』

 

「……?」

 

 モモイが首を傾げる。

 

 すると、スクリーンの表示が切り替わった。

 

『なお、今回の審査において、通常の評価基準では順位をつけることが困難だった作品が一つあります』

 

 会場がざわめく。

 

『今回のミレニアムプライスでは、研究成果としての実用性や技術的完成度だけではなく、生徒たちの新たな可能性を示した作品についても審査を行いました』

 

 モモイたちが顔を上げる。

 

『その中で、審査員の間で特に大きな議論となった作品がありました』

 

 一拍。

 

『それは、過去のゲーム文化を思わせながらも、新しい物語と世界を作り上げた作品です』

 

 ミドリが息を呑む。

 

『よって――』

 

 スクリーンに文字が表示された。

 

『特別賞』

 

 モモイの目が見開かれる。

 

『受賞作品は――』

 

 さらに一拍。

 

『ゲーム開発部』

 

『「テイルズサガクロニクル2」』

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「え?」

 

 モモイが目を丸くする。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 ミドリも声を上げる。

 

「うそ……!」

 

 ユズは呆然としていた。

 

「……私たちの……?」

 

 アリスが画面を見る。

 

「『テイルズサガクロニクル2』が特別賞を受賞しました」

 

「やったぁぁぁぁぁぁ!」

 

 モモイがミドリに抱きつく。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ちょ、ちょっとモモちゃん!」

 

 ユズも驚きながら二人を見る。

 

「本当に……?」

 

 ユウカが笑う。

 

「本当よ」

 

 ユウカは少しだけ困ったように笑った。

 

「私も、審査用の体験版を遊んでみたわ」

 

「ユウカも!?」

 

「ええ」

 

 モモイが期待するように見つめる。

 

 ユウカは少し考えてから言った。

 

「正直に言えば、手放しで完成度が高いと言える作品ではなかったわ」

 

「えっ」

 

 モモイが固まる。

 

「でもね」

 

 ユウカは続ける。

 

「遊び終わった後に、不思議な感覚が残ったの」

 

「……」

 

「昔、初めてゲームに夢中になった時のような……そんな感覚」

 

 ユズが静かにスクリーンを見る。

 

「……ゲームを愛しなさい」

 

 小さく呟く。

 

 カナタは、その言葉を聞いていた。

 

「……なるほどな」

 

 ユズが振り返る。

 

「カナタさん?」

 

「G.Bibleの答えが、今になって分かった気がする」

 

「……」

 

「技術的に完璧な作品を作れ、って意味じゃなかったんだ」

 

 カナタはゲーム開発部を見る。

 

「自分たちが好きなものを、好きなまま作れってことだったのかもしれないな」

 

 ユズの目が少し潤む。

 

「……はい」

 

 その時。

 

「それと――」

 

 ユウカが口を開いた。

 

「今回の特別賞を受けて、ゲーム開発部の廃部については撤回します」

 

「…………」

 

 一瞬、四人が固まった。

 

「……本当?」

 

 ミドリが尋ねる。

 

「ええ」

 

 ユウカは頷く。

 

「今回の受賞を、ゲーム開発部が出した成果として正式に認めます」

 

「ということは……」

 

「これからもゲーム開発部として活動していいわ」

 

「やったぁぁぁぁぁ!」

 

 モモイが飛び上がる。

 

「部室が残る!」

 

「ゲーム開発部も……」

 

 ユズが胸に手を当てる。

 

「続けられるんですね」

 

「ええ」

 

 ユウカが笑う。

 

「だから、これからもちゃんと活動しなさい」

 

「はい!」

 

 ユズが答えた。

 

 以前の彼女なら。

 

 人前でこんなに大きな声を出すことは、きっとできなかった。

 

 けれど。

 

 今は違う。

 

 ゲーム開発部という居場所がある。

 

 自分たちで作ったゲームがある。

 

 そして――。

 

 自分自身が、そこにいていいと思える。

 

 ユズは『テイルズサガクロニクル2』のタイトルをもう一度見る。

 

「……ゲームを愛しなさい」

 

 今度は、その言葉を迷わず受け止められた。

 

「私……ゲーム開発部にいて、よかったです」

 

 モモイが笑う。

 

「うん!」

 

 ミドリも笑う。

 

「私も」

 

 アリスが胸を張る。

 

「アリスもです!」

 

 四人が笑い合う。

 

 その光景を見ていたカナタも、自然と笑っていた。

 

 その時。

 

「そういえば、もう一つあるわよ」

 

 ユウカが端末を操作する。

 

「『テイルズサガクロニクル2』の審査用体験版を、ミレニアムプライスの特設ページで公開したでしょう?」

 

「うん」

 

「それが受賞発表をきっかけに、かなり注目されているみたい」

 

「えっ!?」

 

 モモイが端末を覗き込む。

 

 そこには、次々と増えていく体験版のプレイ数が表示されていた。

 

「すごい……」

 

 ミドリが驚く。

 

「こんなに遊んでくれてる人が……」

 

 アリスも画面を確認する。

 

「肯定的な感想も増えています」

 

「否定的なのは?」

 

「あります」

 

 アリスは淡々と答える。

 

「ゲームとしての粗さを指摘する意見もあります」

 

「……そっか」

 

 ユズは少しだけ考える。

 

「でも、それでいいんだと思います」

 

「ユズ?」

 

「全部の人に好きになってもらうのは、きっと難しいです」

 

 ユズは『テイルズサガクロニクル2』のタイトルを見る。

 

「でも……」

 

 少しだけ笑う。

 

「誰か一人でも、このゲームを好きになってくれたなら」

 

「……」

 

「私たちが作った意味は、あったんじゃないでしょうか」

 

 モモイが笑った。

 

「ユズちゃん……」

 

「だって――」

 

 ユズはタイトルを見つめる。

 

「私たちは、このゲームが好きだから作ったんですから」

 

「……!」

 

 モモイがユズに飛びつく。

 

「ユズちゃーん!」

 

「わっ……!」

 

 ミドリも笑う。

 

「もう、お姉ちゃんったら」

 

 アリスも嬉しそうに二人へ近づく。

 

「アリスも参加します!」

 

「ちょっと、アリスまで!」

 

 四人が笑い合う。

 

 少し離れた場所から、それを見ていたカナタ。

 

 炎角も静かに微笑んでいる。

 

「……よかったな」

 

「うむ」

 

 炎角が頷く。

 

「愛するものを愛し続けた結果が、形になったのだろう」

 

「そうだな」

 

 カナタは頷いた。

 

 ゲーム開発部は、廃部の危機を乗り越えた。

 

 だが――。

 

 これで終わりではない。

 

 これからもゲームを作り、失敗し、また作る。

 

 誰かに笑われることもあるだろう。

 

 思い通りにいかないこともあるだろう。

 

 それでも。

 

 自分たちがゲームを好きである限り。

 

 彼女たちは、また次のゲームを作る。

 

「ゲームを愛しなさい」

 

 G.Bibleに残されていた、たった一つの言葉。

 

 それは答えではなかった。

 

 自分たちで答えを見つけるための、始まりだったのだ。

 

 ゲーム開発部の物語は、まだ終わらない。

 

 むしろ――。

 

 ここからが、本当の始まりだった。

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