ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター― 作:ガンダムラザーニャ
――ミレニアムプライス、特別賞。
ゲーム開発部の廃部がひとまず回避されてから、数日が経った。
ミレニアムサイエンススクールでは、相変わらず生徒たちが忙しそうに行き交っている。
そんな校内の一角。
「……さて」
カナタは、一冊の分厚い資料を机の上に置いた。
「これで何冊目だ?」
隣では、炎角が資料の山を眺めている。
「数えるのを諦めた」
「だよな……」
カナタは苦笑した。
資料の表紙には、いくつもの分類番号が記されている。
――古代生命体研究記録。
その中でも、カナタが探しているのは一つ。
「角獣」
ミレニアムでは、角獣もまた研究対象の一つだった。
過去に発見された文献。
古代遺跡から回収された記録。
角のような器官を持つ未知の生命体について記された資料。
そして、それらとエゴルギアや角醒現象との関連性。
カナタは一枚ずつ資料をめくっていく。
「……生息地域、不明」
次の資料。
「起源、不明」
さらに次。
「発生原因、不明」
そして、
「エゴルギアとの関係……仮説段階」
カナタの手が止まった。
「……」
炎角もその資料を覗き込む。
「随分と分からぬことが多いようだな」
「ミレニアムでも、ここまでしか分かってないのか」
カナタは椅子の背もたれに身体を預けた。
もっと詳しい情報があると思っていた。
ミレニアムなら、古代技術の研究も進んでいる。
レプリカについても研究している。
エゴルギアについても調査している。
ならば、角獣についてもかなりのことが分かっている。
そう思っていた。
しかし、現実は違った。
分かっているのは、過去に角獣という存在が確認されていたこと。
そして、エゴルギアという特殊な遺物が存在していること。
そこから先は、ほとんどが仮説だった。
「……これ、角獣の研究が進んでないってことだよな」
「そういうことになるな」
炎角が静かに答える。
「だが、それほど不思議なことでもあるまい」
「どうして?」
「我ら角獣は、そもそも現代の人間にとって未知の存在なのだろう?」
「……まあ、そうだな」
「ならば、知らぬことが多いのは当然だ」
炎角は資料を見つめる。
その表情には、どこか複雑なものがあった。
「それにしても……」
炎角は一枚の古い資料を手に取った。
そこには、角獣と思われる生物の姿が描かれている。
四足。
巨大な角。
そして、全身を覆う装甲のような外皮。
カナタが見ても、確かに角獣に見える。
だが――。
「……これは」
炎角が呟いた。
「知っているのか?」
「いや」
炎角は首を横に振る。
「だが、我の知る角獣とは違う」
「違う?」
「姿形もそうだ。だが、それだけではない」
炎角は資料を指でなぞった。
「この記録にある角獣は、人間の集落を襲い、破壊したとある」
「……」
「我の知る角獣には、確かに人間を敵とするものもいた。だが、全てがそうだったわけではない」
炎角はしばらく資料を見つめた。
「角獣という存在を、一つの種族として扱っているようだな」
「……つまり?」
「分からぬ」
炎角は即答した。
「この記録が間違っているのかもしれぬ。あるいは、我の知らぬ角獣なのかもしれぬ」
「なるほど……」
カナタは考え込んだ。
角獣。
一言で呼ばれている。
だが、実際にはもっと複雑なのかもしれない。
「……じゃあ、角獣って一種類じゃないのか?」
「その可能性はある」
炎角は否定しなかった。
「だが、それを証明するだけの知識を我は持っていない」
「そっか」
カナタは再び資料に目を落とした。
今まで自分は、角獣というものをある程度理解しているつもりだった。
炎角がいる。
猛角がいる。
弾角がいる。
重角がいる。
それぞれ異なる力を持つ角獣。
だが――。
その全体像については、何も知らない。
「……俺も、まだまだ知らないことばっかりだな」
「何を今更」
炎角が笑う。
「我らのことを知りたいのであれば、これから知ればよい」
「……そうだな」
カナタも笑った。
その時だった。
「ん?」
カナタは、一枚の資料に目を留めた。
「これ……」
資料の端には、古い研究者の記録が残されている。
そこには、こう書かれていた。
――角獣は単なる生命体ではない可能性がある。
――その力を記録・保存する特殊な遺物との関連性が疑われる。
――角獣の角醒現象と古代文明の技術には、何らかの共通点が存在する可能性がある。
カナタの目が細くなる。
「……エゴルギア」
炎角も同じ箇所を見ていた。
「そして、角醒」
「俺たちが使ってるものと繋がってるかもしれないってことか」
「可能性を述べているだけだがな」
「でも、これを書いた人はそこまで考えてた」
カナタはページをめくった。
「……あれ?」
次のページがない。
その先が、綺麗に切り取られている。
「またか……」
「何がだ?」
「この前の施設でもそうだった」
カナタは欠落したページを見つめた。
「重要そうなところになると、資料がなくなってる」
「偶然か?」
「分からない」
カナタは資料を閉じた。
「でも、気になる」
そのとき、炎角がふと口を開いた。
「カナタ」
「ん?」
「お前は、何故そこまで我らのことを知ろうとする?」
「……」
少しだけ考える。
そしてカナタは答えた。
「最初は、遺跡で見つけたからだ」
炎角は黙って聞いている。
「オメガホーンも、角獣も。俺にとっては探索の途中で出会ったものだった」
カナタは、自分の手元にあるオメガホーンを見る。
「でも、炎角と一緒に旅をして、色んな角獣を見て……」
猛角。
弾角。
重角。
そして、レプリカを使う人間たち。
「ただの遺物じゃないって思うようになった」
炎角が静かに目を細める。
「だから知りたい」
カナタはまっすぐ資料を見る。
「角獣が何なのか」
そして、
「オメガホーンが何なのか」
「……そうか」
炎角はそれ以上、何も言わなかった。
ただ、僅かに口元を緩めた。
その日の夕方。
カナタは資料を整理しながら、ミレニアムの研究データをさらに調べていた。
そこで、一つの記録を見つける。
「……過去の角獣関連資料が発見された場所?」
そこには、以前訪れた廃研究施設についての記録があった。
過去にその施設から、角獣に関する古い文献が複数発見されている。
しかし、その後の調査では十分な成果が得られなかったらしい。
「ここ……」
カナタは画面を見つめる。
「この前行った場所だ」
「つまり、あの場所にはまだ何か残っている可能性があるということか」
「かもしれない」
カナタは椅子から立ち上がった。
「一回行っただけじゃ、全部調べきれてない」
「また行くのか?」
「ああ」
カナタは頷いた。
「俺たちが探してるものが、あそこに残ってるかもしれない」
炎角は静かに頷いた。
「ならば行こう」
「うん」
カナタは端末を閉じた。
ミレニアムに来て、たくさんのことを知った。
けれど、それ以上に分からないことも増えた。
角獣。
エゴルギア。
角醒。
そして――オメガホーン。
謎は、まだ終わっていない。
むしろ。
ここからが、本当の探索なのかもしれない。
「……行こう、炎角」
「うむ」
二人は資料室を後にした。
ミレニアムの巨大な校舎の中。
無数の研究資料が眠るその場所で――。
砂原カナタは、新たな謎への手掛かりを掴み始めていた。