ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

34 / 34
第34話 ミレニアムに眠る機械

 ミレニアム郊外の廃墟から回収された謎の機械。

 

 それは現在、ヴェリタスの部室へと運び込まれていた。

 

 円形の本体から伸びる、複数の管。

 

 金属とも生体組織ともつかない奇妙な質感を持つそれは、見た目だけでは何のために作られたものなのかさえ分からない。

 

 その周囲には、ヴェリタスのマキ、ハレ、コタマ。

 

 そして先生、モモイ、ミドリ、ユズ、アリス。

 

 さらに砂原カナタと炎角も集まっていた。

 

「それで、この機械について分かったことは?」

 

 先生が尋ねる。

 

 マキは端末を操作しながら答えた。

 

「今のところ、製造元も型式も不明。ミレニアムのデータベースにも、該当する記録はないよ」

 

「内部構造も、現在のミレニアム製品とはかなり違います」

 

 ハレが続ける。

 

「電源らしいものも見当たりません。それなのに、完全に停止しているのかどうかも分からなくて……」

 

「それって、つまり……」

 

 モモイが機械を見る。

 

「今でも動く可能性があるってこと?」

 

「可能性だけならあります」

 

 ハレは慎重に答えた。

 

「ただ、どういう原理で動くのかさえ分からないので……」

 

「しかも、この機械が見つかった場所は、アリスが発見された場所とは別なんですよね?」

 

 ユズが確認する。

 

「ああ」

 

 答えたのはカナタだった。

 

「場所は違う。でも、アリスが座っていた機械も、これと同じで、誰が作ったのか分からなかった」

 

 カナタは機械を見つめる。

 

「だから、何か関係があるんじゃないかと思ってる」

 

「なるほど……」

 

 先生が頷く。

 

 その横で、炎角も機械をじっと見ていた。

 

「……我にも、この機械が何のために造られたものなのかは分からぬ」

 

「炎角にも分からないの?」

 

 モモイが驚く。

 

「うむ」

 

 炎角は静かに答えた。

 

「少なくとも、我が知る角獣の力とは異なるものだ。似た力を感じるわけでもない」

 

「じゃあ、角獣とは関係ないのかな?」

 

「それも、まだ分からぬ」

 

 炎角は首を横に振る。

 

「分からぬからこそ、調べる必要があるのであろう」

 

「……そうだな」

 

 カナタも頷いた。

 

 角獣について調べている自分たちにとって、この機械が何なのかは重要な手掛かりになるかもしれない。

 

 だが、今の段階では何も分からない。

 

 製造者も。

 

 用途も。

 

 作られた時代すら。

 

 そして――。

 

「…………」

 

 アリスが、機械を見つめていた。

 

「アリス?」

 

 ミドリが声を掛ける。

 

 アリスは返事をしなかった。

 

 ただ、ゆっくりと機械へ近づいていく。

 

「アリス?」

 

 今度はモモイが呼ぶ。

 

 それでもアリスは止まらない。

 

「……どうした?」

 

 カナタも警戒しながら声を掛ける。

 

 アリスは機械の前で立ち止まった。

 

「……分かりません」

 

「え?」

 

「ですが……」

 

 アリスは自分の胸に手を当てる。

 

「これを……知っているような気がします」

 

 その言葉に、部室にいた全員が黙り込んだ。

 

「知っている?」

 

 先生が尋ねる。

 

「はい」

 

 アリスは機械を見つめたまま答える。

 

「どこで見たのかも、どうして知っているのかも分かりません」

 

 そして、ほんの少しだけ首を傾げた。

 

「でも……初めて見るものではない気がします」

 

 カナタが一歩前へ出る。

 

「アリス。無理に触らなくてもいい」

 

「大丈夫です、カナタさん」

 

 アリスが振り返る。

 

 その表情は、まだいつもの穏やかなものだった。

 

「怖くはありません」

 

「でも――」

 

 カナタが言いかける。

 

 その時だった。

 

 アリスが、ゆっくりと手を伸ばした。

 

「待っ――」

 

 カナタの制止よりも早く。

 

 アリスの指先が、機械に触れた。

 

 ――ピコン。

 

「……え?」

 

 モモイが手元のゲーム機を見る。

 

「今、何か鳴らなかった?」

 

 誰も触れていないはずのゲーム機の画面が、突然点滅していた。

 

「お姉ちゃん?」

 

 ミドリが振り返る。

 

「いや、あたし何もしてないよ?」

 

 ピ……。

 

 ピ……。

 

 ゲーム機から、一定間隔で電子音が響く。

 

「これ……」

 

 ユズが不安そうに画面を見る。

 

「勝手に起動してる……?」

 

 その瞬間だった。

 

 ――ゴォン。

 

 低い音が、部室全体を震わせた。

 

「なっ……!?」

 

 謎の機械の内部が突然発光する。

 

 円形の本体に沿って光が走り、伸びていた管の一本がゆっくりと動き始めた。

 

「全員、離れて!」

 

 マキが叫ぶ。

 

 ハレもすぐに端末を確認する。

 

「待ってください! 内部でエネルギー反応が――!」

 

 次の瞬間。

 

 機械から、光の塊が放たれた。

 

 ――ドォン!!

 

「うわっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 壁の一部が吹き飛ぶ。

 

「全員、下がって!」

 

 先生が叫ぶ。

 

 だが、機械は止まらない。

 

 複数の管が次々と展開し、周囲へ向けられていく。

 

「なんなんですか、これ!?」

 

 ハレが叫ぶ。

 

「分からない!」

 

 マキが端末を操作する。

 

「でも、明らかに攻撃出力が上がってる! このままだと――!」

 

 再び光が収束する。

 

 次の攻撃が放たれる。

 

 その瞬間。

 

「危ない!」

 

 カナタが叫んだ。

 

 考える時間などなかった。

 

 カナタは近くにいたモモイとユズを咄嗟に押し退ける。

 

「えっ――」

 

 二人の身体が床へ倒れ込む。

 

 その直後。

 

 閃光がカナタの目の前を覆った。

 

「御前様!」

 

 炎角が叫ぶ。

 

 ――ドォン!!

 

「ぐっ……!」

 

 カナタの身体が吹き飛ばされた。

 

「カナタさん!」

 

 ユズが叫ぶ。

 

 床を転がったカナタは、そのまま壁際へ叩きつけられる。

 

「御前様!」

 

 炎角が駆け寄り、カナタの身体を支える。

 

「無理をするな!」

 

「……炎角……」

 

 カナタは苦しそうに目を開ける。

 

「御前様、何故あのような無茶を……!」

 

「……急だったから……」

 

 カナタは息を整えながら答える。

 

「攻撃に移るより……庇った方が早かった……」

 

「だが――!」

 

「……みんなは?」

 

「無事だ!」

 

 炎角が即答する。

 

「モモイも、ユズも、他の者たちも無事だ!」

 

「……そっか」

 

 それだけを確認すると、カナタの身体から力が抜けた。

 

「御前様!?」

 

 炎角が慌てて呼び掛ける。

 

 だが、カナタは目を閉じたまま動かない。

 

「御前様! 目を開けよ!」

 

 炎角の声が部室に響く。

 

「カナタ!」

 

 先生が駆け寄ろうとする。

 

 しかし――。

 

 再び、機械が動いた。

 

「先生、危ない!」

 

 ミドリが叫ぶ。

 

 複数の管が一斉に向きを変える。

 

 先生が身を伏せる。

 

 その横で、モモイがゆっくりと身体を起こした。

 

「……カナタ……?」

 

 まだ意識が朦朧としている。

 

「カナタ、大丈夫!?」

 

 モモイが立ち上がろうとする。

 

「お姉ちゃん、待って!」

 

 ミドリが止める。

 

「まだ危ない!」

 

「でも……!」

 

 モモイがカナタを見る。

 

 その瞬間だった。

 

 機械から放たれた光が、モモイの近くを薙ぎ払った。

 

「モモイ!」

 

 先生が叫ぶ。

 

「きゃっ――!」

 

 モモイの身体が吹き飛ばされる。

 

「お姉ちゃん!」

 

 ミドリが駆け寄る。

 

 床に倒れたモモイは、目を閉じたまま動かない。

 

「嘘……」

 

 ミドリの顔が青ざめる。

 

「お姉ちゃん……?」

 

 ハレが駆け寄り、モモイの状態を確認する。

 

「呼吸はあります。気を失っているだけです!」

 

「よかった……」

 

 ミドリが胸を撫で下ろす。

 

 だが――。

 

「…………」

 

 アリスが、ゆっくりと顔を上げた。

 

「アリス……?」

 

 先生が呼び掛ける。

 

 返事はない。

 

 その瞳から、いつもの明るさが消えていた。

 

 そして――。

 

 赤い。

 

 アリスの両目が、鮮やかな赤色に染まっていた。

 

「……アリス?」

 

 ミドリが不安そうに呼ぶ。

 

 アリスは答えない。

 

 ただ、赤く光る瞳で、目の前の機械を見つめている。

 

「アリス!」

 

 先生が声を張る。

 

 それでも反応はない。

 

 やがて、アリスの口がゆっくりと開いた。

 

「コードネーム――AL-1S」

 

「……!」

 

 全員が息を呑む。

 

 その声は、いつものアリスのものとは明らかに違っていた。

 

 感情がない。

 

 ただ、何かを確認するためだけの機械的な声。

 

「起動完了」

 

 赤い瞳が、静かに輝く。

 

「アリス……」

 

 先生が呟く。

 

 アリスは、ゆっくりと背中へ手を伸ばした。

 

 そこにあるのは――。

 

 光の剣:スーパーノヴァ。

 

 いつも背負っている巨大な光の剣を、アリスは無言で手に取る。

 

 そして。

 

 ゆっくりと構えた。

 

「……お姉ちゃん?」

 

 ミドリが怯えた声を漏らす。

 

 アリスは答えない。

 

 ただ、スーパーノヴァを構えたまま、機械の前に立っている。

 

「プロトコル――ATRAHASIS」

 

 無機質な声が、部室に響く。

 

 謎の機械が呼応するように、低い駆動音を響かせる。

 

 ――ゴォォォン……。

 

「実行します」

 

 その瞬間。

 

 機械の複数の管が、一斉に展開した。

 

「まずい……!」

 

 マキが叫ぶ。

 

「このままだと、また出力が上がります!」

 

 先生がアリスを見る。

 

 その手にはスーパーノヴァ。

 

 その瞳は赤く染まっている。

 

 そして、その背後には謎の機械。

 

「アリス……」

 

 先生が静かに呼び掛ける。

 

「君は……何をしようとしているんだ?」

 

 アリスは答えない。

 

 ただ、赤い瞳で前を見つめている。

 

 その時だった。

 

 モモイのゲーム機から、再び電子音が響いた。

 

 ピ――。

 

 ピ――。

 

「……なんだ?」

 

 マキがゲーム機を見る。

 

「信号が出てる……?」

 

 コタマが画面を覗き込む。

 

「ゲーム機から?」

 

「違う」

 

 マキが首を振る。

 

「ゲーム機が……何かを受信してる」

 

 ハレが機械を見る。

 

「まさか……この機械から?」

 

 直後。

 

 謎の機械が、さらに大きな音を立てた。

 

 ――ゴォォォン……。

 

 部室の空気が震える。

 

 円形の本体に走る光が、次第に強くなっていく。

 

 床に倒れたカナタ。

 

 その傍らで彼を支える炎角。

 

 意識を失ったモモイ。

 

 そして、スーパーノヴァを構えるアリス。

 

 誰も、この機械が何なのか分からない。

 

 なぜアリスが反応したのかも。

 

 なぜモモイのゲーム機が起動したのかも。

 

 なぜアリスが「AL-1S」と名乗ったのかも。

 

 そして――。

 

 なぜ「ATRAHASIS」というプロトコルが、この場所で実行されようとしているのかも。

 

 ただ一つ確かなのは。

 

 この機械は、偶然ここで眠っていたわけではない。

 

 アリスが触れたことで、何かが目を覚ました。

 

 そして今。

 

 ミレニアムで起きた事件は、これまで彼らが追ってきた「角獣」や「古代遺物」という謎だけでは説明できない、全く新しい領域へと踏み込もうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

夢の力で青春を手助け(作者:ライダー志望)(原作:ブルーアーカイブ)

何故かゼッツ由来の夢の力を持ってキヴォトスで生活する青年の日記。


総合評価:1186/評価:8.59/連載:51話/更新日時:2026年10月04日(日) 21:03 小説情報

夢と悪夢と青春の物語(作者:ぐでたま&なめこ)(原作:ブルーアーカイブ)

一人は『青春』に憧れ、一人は『エージェント』に憧れた。▼そんな二人が運命が狂った世界で自分の憧れを追い求める物語。▼※初投稿です▼※更新は不定期になるかもしれません


総合評価:30/評価:-.--/連載:5話/更新日時:2026年10月04日(日) 00:00 小説情報

Bonjour、ブルーアーカイブ(作者:guruukulu)(原作:ブルーアーカイブ)

 一人のアバターによって引き起こされたバタフライエフェクトを、みんなで見ていきましょう。▼ 本作は、エンター・◼️◼️◼️◼️様の▼『ゲマトリア兼デカグラマトン所属、エンターと申します。以後お見知りおきを』の三次創作となります。▼https://syosetu.org/novel/404898/


総合評価:490/評価:9.08/短編:10話/更新日時:2026年09月21日(月) 06:30 小説情報

スリーさんは透き通るCODEを作りたい(作者:頂きに立った)(原作:ブルーアーカイブ)

よりにもよってキヴォトスにCODEを作っちゃった偽スリーのお話


総合評価:511/評価:8.06/連載:3話/更新日時:2026年09月28日(月) 20:00 小説情報

夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~(作者:妄想めっちゃ代理人)(原作:仮面ライダー)

一人のライダー好きがダンジョンのある日本に落ちてしまう話▼ライダーがファンタジーで活躍するのが読みたかったので作って貰いました▼作:俺の妄想を形にしてくれたAI様▼校正と編集:自分▼です。AIとインターネットの集合知へ感謝を捧げます▼07/13追記:ちょっとだけタイトル変えました


総合評価:1310/評価:8.92/連載:25話/更新日時:2026年08月07日(金) 00:45 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>