ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター―   作:ガンダムラザーニャ

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投降遅くなりました

そして近いうちに、ボルメテウスさんのサムライガールのギャバン・キングの話とコラボをする予定となっています。


第41話 暴走する壁角の力

 要塞都市エリドゥ――中央区画へと続く通路から離れた退避地点。

 

 カナタたちは、アバンギャルド君との戦闘から一度撤退し、次の行動に備えていた。

 

「……くそっ。まさか、炎角の攻撃にまで対応してくるとはな」

 

 カナタは壁に手をつき、荒くなった息を整えた。

 

 先ほどの戦闘では、炎角の攻撃が最初こそ通用していたものの、攻撃を繰り返すにつれてアバンギャルド君の対応が変化していった。

 

 防御の仕方を変え、回避のタイミングを調整し、最後には炎角の反撃まで予測するような動きを見せたのだ。

 

 こちらが攻撃を続けるほど、相手は対応を最適化していく。

 

 このまま同じ戦法を繰り返しても、勝ち目は薄い。

 

「最初は押せてたのに、途中からどんどん攻撃が当たらなくなってたよね……」

 

 モモイが端末に映し出された戦闘記録を見ながら、悔しそうに唇を尖らせる。

 

「お姉ちゃん、最後のほうなんて、炎角さんの動きを先読みしてるみたいだったよ」

 

「分かってるって、ミドリ! だから今、どうすればいいか考えてるんじゃん!」

 

「う、うん……。でも、焦って突っ込んでも、また同じことになると思う」

 

 ミドリの言葉に、モモイも反論できなかった。

 

 先生は全員の顔を見渡し、落ち着いた声で告げる。

 

「一度撤退したのは正解だった。相手の強さが分かった以上、次は情報を生かして戦おう。ハレ、分析を頼めるかな?」

 

「了解。戦闘記録はこっちにも送ってもらってるよ」

 

 ハレは端末を操作し、アバンギャルド君との戦闘映像を共有した。

 

「まずは、こいつがどんな条件で動きを変えているのかを確認しよう。学習する機能があるなら、そこにも何かしらの癖があるはずだからね」

 

 映像が再生される。

 

 炎角が突進する。

 

 アバンギャルド君が腕を構えて防御する。

 

 炎角が体勢を立て直す間に、アバンギャルド君が反撃へ移る。

 

 何度見ても、最初のうちは炎角の攻撃が命中していた。

 

 しかし、二度目、三度目と同じような攻撃が繰り返されるたび、アバンギャルド君の動きは洗練されていく。

 

「やっぱり、攻撃を繰り返すほど対応が早くなってる……」

 

 ミドリが画面を見つめながら呟いた。

 

「ただ避けてるんじゃない。攻撃を受けたときの姿勢や、次の攻撃に移るまでの動きまで変わってる」

 

「うん。戦闘中に対応パターンを更新してるんだろうね」

 

 ハレはそう答え、映像を少し巻き戻した。

 

「でも、完全に無駄な動きがなくなったわけじゃない。ここ、見てくれる?」

 

 画面には、炎角の攻撃を防いだ直後のアバンギャルド君が映っていた。

 

 防御を終えた機体が次の動作へ移るまで、ほんのわずかな間が生じている。

 

「……あれ?」

 

 それまで黙って映像を見ていたユズが、小さく声を上げた。

 

「先生、もう一度、そこを再生してもらえますか?」

 

「もちろん」

 

 先生が映像を巻き戻す。

 

 炎角の攻撃。

 

 防御。

 

 そして、わずかな硬直。

 

 ユズは身を乗り出し、何度も同じ場面を見比べた。

 

「やっぱり……。防御した直後だけ、次の動きに移るまで少し遅れてます」

 

「本当だね」

 

 ハレが別の場面も確認する。

 

「一回だけなら偶然かもしれないけど、ほかの場面でも似たような遅延が起きてる。攻撃を防いだ直後に、次の行動へ移るまでの時間がわずかに長いんだ」

 

「じゃあ、そこが弱点なの?」

 

 モモイが尋ねる。

 

「まだ断定はできないよ。防御後の姿勢を立て直しているだけかもしれないし、学習処理の影響かもしれない。内部のデータが見られない以上、原因までは分からない」

 

 ハレは一度言葉を切り、映像を停止させた。

 

「でも、防御直後に隙ができること自体は確認できた。そこを狙う価値はあると思う」

 

「なるほど……」

 

 先生は少し考えたあと、全員に向き直った。

 

「次は、その隙を作戦に組み込もう。誰か一人が攻撃を当てようとするのではなく、複数方向から攻撃して、防御を誘発する」

 

「防御させた瞬間に、別の方向から本命を叩き込むってことか」

 

 ネルが腕を組み、口元に笑みを浮かべた。

 

「悪くねえな。相手が学習してくるなら、こっちも一つの攻撃にこだわらなきゃいい」

 

「そう。ただし、同じタイミングで攻撃を重ねると、相手がまとめて対処する可能性がある。陽動と本命を分けて、タイミングもずらそう」

 

 先生は続けて、C&Cの各メンバーに役割を伝えていく。

 

 アスナとカリンが左右から射撃を行い、アカネが機体の移動を制限する。ネルは接近して防御を誘発し、カナタと炎角が本命の一撃を叩き込む。

 

 その間、ハレとユズは機体の挙動を観察し、隙が生まれる瞬間を見極める。

 

「私たちも、映像の確認を続けるね!」

 

 モモイが拳を握る。

 

「ゲームだって、強い敵にはパターンがあるんだから! 攻略法さえ見つければ、絶対に勝てるよ!」

 

「うん。今回は、その攻略法を探しながら戦うことになるね」

 

 ミドリも頷いた。

 

 カナタはオメガホーンを握り直し、隣に立つ炎角を見た。

 

「今度は、ただ力をぶつけるだけじゃない。みんなが作ってくれた隙を、俺たちが勝利につなげる」

 

「うむ、御前様」

 

 人の姿をした炎角は、静かに頷いた。

 

「敵がいかに優れた機構を備えていようとも、完全無欠ではあるまい。勝機があるならば、我らはそこを突くのみ」

 

「頼りにしてるぞ、炎角」

 

「任せよ、御前様」

 

 先生が最後に全員を見渡す。

 

「よし、行こう。目的はアバンギャルド君の撃破だけじゃない。アリスを助け出すためにも、ここを突破しなければならないんだ」

 

 全員が頷いた。

 

 前回の撤退は、敗北で終わったわけではない。

 

 そこから得た情報を、今度は勝利へと変える。

 

 カナタたちは再び、中央区画へと歩み出した。

 

     ◇

 

 エリドゥ中央区画。

 

 広い防衛通路の奥で、巨大な機械が待ち構えていた。

 

 カナタたちが姿を現すと、アバンギャルド君はすぐさま反応する。

 

 重々しい駆動音が響き、巨大な機体が通路を塞ぐように立ち上がった。

 

『……また来たのね』

 

 通路に設置されたモニターが点灯し、リオの姿が映し出される。

 

『一度撤退したところで、状況は変わらないわ。アバンギャルド君、迎撃を続けて頂戴』

 

 機体が腕を構える。

 

 カナタたちも、それぞれの武器を手に取った。

 

「先生、準備できてます!」

 

 アスナが明るく告げる。

 

「よし。全員、作戦どおりに。無理に攻めず、相手の動きをよく見て!」

 

 先生の指示が響いた。

 

「行くぞ!」

 

 ネルが真っ先に駆け出した。

 

 アバンギャルド君は即座に反応し、ネルの接近を阻むように腕を振るう。

 

 ネルは身をひねって攻撃をかわし、懐へ踏み込もうとした。

 

 しかし、機体はその動きに合わせて腕を下ろし、進路を塞ぐ。

 

「っと、やっぱり簡単には通してくれねえか!」

 

 ネルは無理に突っ込まず、後方へ飛び退いた。

 

 その直後、左右からアスナとカリンの射撃が飛び込む。

 

 アカネもタイミングをずらして射撃を加え、アバンギャルド君の注意を分散させた。

 

 機体は右腕で射撃を防ぎながら、左側からの攻撃にも対応しようと姿勢を変える。

 

「今、右側の防御が優先された!」

 

 ユズが端末を確認しながら声を上げた。

 

「ハレさん、次の動きは?」

 

「左側への対応が遅れてる! ただし、まだ本命は撃たないで!」

 

 ハレの指示を受け、カリンは射撃の間隔を変えた。

 

 アスナもわずかに位置をずらし、機体の視線を誘導する。

 

 アバンギャルド君は、左右から迫る攻撃を防ぐため、上半身を大きくひねった。

 

「よし、もう一度!」

 

 ネルが踏み込む。

 

 機体はネルの攻撃を防ごうと腕を構えた。

 

 その瞬間だった。

 

「今です!」

 

 ユズの声が通路に響く。

 

「カナタくん、炎角さん!」

 

「ああ!」

 

 カナタはオメガホーンを掲げた。

 

「鼓膜に力を入れろ! 角醒せよ、角獣王・炎角!!」

 

 オメガホーンから光が放たれる。

 

 人の姿をしていた炎角の身体が炎に包まれ、次の瞬間、巨大な角獣の姿へと変じた。

 

【炎角獣!】

 

「グオオオオッ!!」

 

 炎角が咆哮する。

 

 全身に炎を纏い、巨大な前脚で床を踏みしめた。

 

 そして、アバンギャルド君へと突撃する。

 

 機体は炎角の動きを捉え、防御態勢へ移行しようとした。

 

 だが、左右からの射撃がその動作を妨げる。

 

 ネルも正面から攻撃を仕掛け、機体の注意を引きつけた。

 

 アバンギャルド君は、炎角の突進を防ぐため、両腕を前方へ構えた。

 

 防御動作。

 

 わずかな硬直。

 

 そして――。

 

「グオオオオッ!!」

 

 炎角の巨体が、正面から激突した。

 

 轟音が響き渡り、アバンギャルド君の胸部装甲が大きく歪む。

 

「よしっ、決まった!」

 

 モモイが思わず声を上げた。

 

 しかし、アバンギャルド君は倒れなかった。

 

 損傷した装甲をきしませながらも、機体は姿勢を立て直そうとする。

 

 炎角はすぐに距離を取った。

 

 その直後、アバンギャルド君の胸部から、見慣れない光が漏れ始める。

 

「……何だ、あれ?」

 

 カナタが目を見開いた。

 

 機体の内部から、重苦しい振動音が響いてくる。

 

 まるで、何かを無理やり動かそうとしているかのようだった。

 

「待って……。機体の出力が急上昇してる!」

 

 ハレが端末を見つめ、表情を変えた。

 

「通常の駆動系だけじゃない。別のエネルギー反応が混じってる……!」

 

「別のエネルギー?」

 

 ミドリが問い返す。

 

「うん。さっきまでの数値とは明らかに違う。これ、機体の動力だけで説明できる反応じゃないよ!」

 

 アバンギャルド君の周囲に、異様な圧力が広がっていく。

 

 床が震え、周囲の照明が明滅した。

 

 機体は攻撃を受けた胸部を押さえるように腕を動かそうとする。

 

 だが、その動作は途中で止まり、再び不自然に震え始めた。

 

「……何かがおかしい」

 

 炎角が低く唸った。

 

 機械の駆動音とは異なる、得体の知れない気配。

 

 戦闘が始まる前から、炎角はその存在を感じ取っていた。

 

 しかし、今になって、その気配がはっきりと強まっている。

 

「グルルル……!」

 

 炎角は警戒するように唸り、アバンギャルド君を見据えた。

 

「炎角……?」

 

 カナタは、炎角の反応に気づく。

 

 そのとき、アバンギャルド君の腕が突然跳ね上がった。

 

 攻撃を仕掛けようとしているのか、それとも制御を失っているのか。

 

 機体の動きからは、判断できなかった。

 

     ◇

 

 ミレニアム、別区画。

 

 リオは、モニターに表示された異常値を見つめていた。

 

「……制御機構が損傷したのね」

 

 彼女の表情が険しくなる。

 

 アバンギャルド君には、通常の姿勢制御や動作制御に加え、特殊なエネルギー反応を調整するための機構が組み込まれていた。

 

 それは、角獣に関する研究データを参考に、エゴルギアから引き出される力を機械の動作へ適合させるためのものだった。

 

 エゴルギアの力を、そのまま機械に流し込めばいいわけではない。

 

 出力の変動を監視し、機体の動作に合わせて調整しなければ、機械そのものが損傷する恐れがある。

 

 そのため、リオは複数の制御機構を連動させ、機体の安定性を維持する設計を採用していた。

 

 しかし、先ほどの一撃で、その調整機構が損傷したらしい。

 

「緊急制御を開始。出力を抑え、機体の安定化を優先して」

 

 リオは即座に命令を送った。

 

 残存する制御機構が作動し、エゴルギアから引き出される力を抑え込もうとする。

 

 だが、アバンギャルド君は依然として戦闘を継続しようとしていた。

 

 学習機能は、カナタたちの攻撃パターンを分析し、次の行動を計算し続けている。

 

 姿勢制御は、その行動を実行するために機体を動かそうとする。

 

 そして、エゴルギアの力を抑制する機構は、異常な出力を検知するたびに、動作を制限しようとする。

 

 本来ならば、互いに連携するはずの処理だった。

 

 しかし、調整機構が損傷したことで、その連携が崩れ始めていた。

 

 学習機能が回避行動を選択する。

 

 姿勢制御が機体を動かそうとする。

 

 その瞬間、出力抑制の命令が割り込み、動作を止める。

 

 機体が硬直する。

 

 硬直を解消しようと姿勢制御が再び動き、学習機能が新たな行動を計算する。

 

 そのたびに、エゴルギアの力が不安定に脈動した。

 

「……制御系が競合しているの?」

 

 リオはすぐさま修正命令を送った。

 

 しかし、機体の応答は遅い。

 

 命令そのものは届いている。

 

 学習機能も停止していない。

 

 それでも、機体を動かすための処理と、暴走する力を抑える処理が互いに干渉し、正常な動作を妨げていた。

 

「出力抑制を最優先に。戦闘行動を一時停止して、機体の安定化を――」

 

 リオが指示を送る。

 

 だが、すでに複数の制御が競合する状態は深刻化していた。

 

 アバンギャルド君は動こうとしている。

 

 しかし、思うように動けない。

 

 それは、学習機能が壊れたからではない。

 

 むしろ、戦闘に適した動作を計算し続けているからこそ、機体を動かすための命令が次々に発生し、それを抑制する処理との衝突が繰り返されていたのだ。

 

 リオは唇を噛んだ。

 

「……こんなはずでは」

 

 彼女にとっても、予想外の事態だった。

 

     ◇

 

「動きが……止まった?」

 

 ユズが端末を確認しながら呟いた。

 

 アバンギャルド君は、完全に停止したわけではない。

 

 腕を動かそうとしては硬直し、体勢を変えようとしては不自然に震えている。

 

 その動きは、先ほどまでの精密な戦闘動作とは明らかに異なっていた。

 

「ハレ、これって……」

 

「うん。さっきの攻撃で、内部の制御機構に何か問題が起きたんだと思う」

 

 ハレは端末に表示された数値を確認した。

 

「エネルギー反応が不安定になってる。機体を動かすための制御と、出力を抑えるための制御がぶつかってるんじゃないかな」

 

「だから、あんな動きになってるのか……」

 

 カナタはアバンギャルド君を見据えた。

 

 これまでの戦闘では、相手が学習して対応するたび、こちらが不利になっていった。

 

 しかし今は、その学習機能が計算した動作を、機体そのものが正常に実行できていない。

 

「……今なら、突破できるかもしれない」

 

 カナタが呟く。

 

「ただし、無理に突っ込まないで」

 

 先生がすぐに釘を刺した。

 

「まだ動ける可能性はある。機体の反応を見ながら、攻撃を集中させよう。ハレ、ユズ、動きが止まるタイミングを教えて!」

 

「了解!」

 

「分かりました!」

 

 先生の指示に、二人が応じる。

 

「ネル、アスナ、カリン、アカネ。まずは攻撃を分散させて、機体の動きを制限して!」

 

「任せな!」

 

 ネルが再び前へ出る。

 

 アスナとカリンの射撃が左右から飛び込み、アカネも間隔をずらして攻撃を重ねた。

 

 アバンギャルド君は反応する。

 

 右腕を持ち上げ、射撃を防ごうとする。

 

 しかし、その動作が途中で止まった。

 

「今です! 右腕の動きが止まりました!」

 

 ユズの声が響く。

 

「出力抑制が割り込んでる! 今なら、正面への防御が間に合わない!」

 

 ハレもすぐに判断を下した。

 

「カナタ、炎角! 今だ!」

 

「分かった!」

 

 カナタはオメガホーンを握り締め、炎角とともに正面から踏み込んだ。

 

 アバンギャルド君が、再び腕を動かそうとする。

 

 だが、機体の胸部で異常な光が明滅し、動作が一瞬だけ止まった。

 

 炎角はその隙を逃さなかった。

 

「グオオオオッ!!」

 

 全身に炎を纏い、巨大な角を突き出す。

 

 炎角の突撃が、アバンギャルド君の胸部へと直撃した。

 

 轟音が通路を震わせる。

 

 装甲が砕け、内部の機構が露出した。

 

「まだだ! みんな、攻撃を続けて!」

 

 先生の指示が飛ぶ。

 

 ネルが接近し、機体の腕を押し戻すように攻撃を加える。

 

 アスナとカリンは露出した装甲の周囲へ射撃を集中させ、アカネも残された駆動部を狙った。

 

 アバンギャルド君は反撃しようとする。

 

 しかし、出力抑制の処理が割り込み、動作が再び硬直した。

 

 その隙に、炎角がもう一度踏み込む。

 

 巨大な前脚が床を踏み砕き、炎を纏った一撃が露出した中枢付近へと叩き込まれた。

 

 激しい衝撃。

 

 火花が散り、駆動音が途切れる。

 

 アバンギャルド君の腕が力なく垂れ下がった。

 

 それでも、機体はわずかに動こうとしていた。

 

 だが、もう一度立ち上がるだけの力は残っていなかった。

 

 最後の駆動音が響き、巨大な機体がゆっくりと傾く。

 

 そして――。

 

 アバンギャルド君は、ついに床へと崩れ落ちた。

 

     ◇

 

「……やっと、止まったか」

 

 カナタは息を吐き、動かなくなった機体を見つめた。

 

 炎角もまた、警戒を解かずに周囲を見渡す。

 

「機体の出力は急速に低下してる。制御系も、ほとんど反応してないみたい」

 

 ハレは端末を確認しながら告げた。

 

「これなら、すぐに再起動して襲ってくることはないと思う。ただし、完全に安全だと断言はできないから、近づくときは気をつけてね」

 

「了解。みんな、警戒を続けて」

 

 先生の指示を受け、全員が周囲を確認する。

 

 しばらくして、ユズがほっと息を吐いた。

 

「……本当に、倒せたんですね」

 

「うん。ユズのおかげだよ」

 

 先生が優しく告げる。

 

「前回の戦闘記録から弱点を見つけてくれた。あの隙がなければ、今回も苦戦していたと思う」

 

「い、いえ……。私は、気になったところを調べただけで……」

 

 ユズは照れたように俯いた。

 

「でも、その気づきが勝利につながったんだ」

 

 カナタも笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、ユズ」

 

「……はい!」

 

 モモイも嬉しそうにユズの肩を叩いた。

 

「さっすがユズ! これでアリスを助けに行けるね!」

 

「うん。でも、まだ油断はできないよ。トキさんとC&Cの戦いも続いているはずだから」

 

 ミドリの言葉に、カナタは表情を引き締めた。

 

「そうだな。ここで時間をかけている場合じゃない」

 

 そのときだった。

 

 炎角が、崩れたアバンギャルド君の胸部へと歩み寄った。

 

 砕けた装甲の奥に、機械部品とは異なる光が見えていたのだ。

 

「……御前様。ここに何かある」

 

 人の姿に戻っていた炎角が、装甲の隙間を見つめる。

 

「何だ、炎角?」

 

「この気配……。戦闘の始めから感じていたものと同じだ」

 

 カナタたちは警戒を保ったまま、炎角のそばへ集まった。

 

 装甲の破片を慎重に取り除く。

 

 すると、内部の機構に組み込まれるように、一つのエゴルギアが姿を現した。

 

 カナタは思わず息を呑んだ。

 

「エゴルギア……!」

 

 炎角の表情が変わる。

 

「……そうか。あの異様な気配の正体は、これだったか」

 

「炎角、知っているのか?」

 

 カナタが問いかけると、炎角は静かに頷いた。

 

「うむ。これは五角聖の一角――壁角のエゴルギアだ」

 

「五角聖……壁角……」

 

 カナタは、目の前のエゴルギアを見つめた。

 

 戦闘前から炎角が感じ取っていた、機械とは異なる気配。

 

 アバンギャルド君の内部から膨れ上がった、あの不安定な力。

 

 その正体は、壁角の力だったのだ。

 

「リオは、これを機体に組み込んでいたのか……」

 

 カナタの表情が険しくなる。

 

「角獣の力を、機械の制御に利用しようとしていたということか」

 

「おそらくな。だが、あの機械はこの力を完全には制御できておらなんだ」

 

 炎角は、壁角のエゴルギアを見つめながら告げた。

 

「角獣の力は、ただ機械に組み込めば扱えるというものではない。力の性質を理解せず、制御できると思い込めば、あのような事態にもなろう」

 

 その言葉に、カナタは黙って頷いた。

 

 角獣の力を利用しようとする者たち。

 

 その力を兵器として扱う者たち。

 

 そして、角獣と向き合い、その力を理解しようとする自分たち。

 

 同じ力を前にしても、そこには大きな違いがある。

 

「……このエゴルギアは、俺たちが回収する。これ以上、誰かに悪用させるわけにはいかない」

 

 カナタは慎重に壁角のエゴルギアを回収した。

 

「けど、今は先に進もう。まだアリスを助け出せていない」

 

「うむ、御前様。急ぐとしよう」

 

 先生も頷く。

 

「C&Cの状況も気になる。ここで立ち止まっている時間はない。全員、警戒を続けながら中央区画の奥へ進もう」

 

 カナタたちは再び歩き出した。

 

 アバンギャルド君との戦闘には勝利した。

 

 しかし、リオが角獣の力を機械に組み込んでいた理由も、壁角のエゴルギアがどこからもたらされたのかも、まだ分からない。

 

 そして、要塞都市エリドゥの奥では、もう一つの戦いが続いている。

 

 鎖角の力を宿したネルと、アビ・エシュフを纏うトキ。

 

 カナタたちは、アリスを取り戻すため、再び走り出した。

 

 角獣の力を巡る謎は、まだ終わらない。

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