ブルーアーカイブ ―砂塵の角醒ハンター― 作:ガンダムラザーニャ
放課後。
アビドス高等学校の教室。
昨日の柴関ラーメンでの出来事を、カナタ、炎角、先生を交えて話していた。
「――というわけで、セリカが4人分のラーメンを大盛りにしてあげたんです」
アヤネが説明する。
「へぇ~。セリカちゃん、優しいねぇ」
ホシノが笑う。
「別に……」
セリカは少し気まずそうに腕を組む。
「困ってるみたいだったから、ちょっと手を貸しただけよ」
「でも、セリカさん。4人分の大盛りですよ?」
ノノミが微笑む。
「結構な出費だったんじゃないですか?」
「うっ……」
セリカの表情が固まる。
「そ、それは……」
「まあまあ」
先生が苦笑する。
「セリカらしいと思うよ」
「先生まで……!」
その隣では、炎角が腕を組んでいた。
「しかし、奇妙な話だな」
「何が?」
カナタが聞く。
「金に困っていた者たちに、セリカが食事を与えたのだろう?」
「そうだけど」
「ならば、なぜ我らが警戒せねばならぬ?」
「……それがね」
セリカがため息をつく。
「カヨコって子が、あの子たちはアビドスだって気づいたらしいのよ」
「それだけなら、まだいいんだけどな」
先生が答える。
「便利屋68が何の依頼を受けているのか、まだ分かっていない」
「依頼……」
カナタが呟く。
第8話で見かけた便利屋68。
彼女たちがアビドス周辺で何かを探していたことを、カナタはまだ知らなかった。
その瞬間だった。
――ドンッ!!
遠くから爆発音が響いた。
「!?」
全員が立ち上がる。
「今の音……!」
アヤネが窓の外を見る。
砂煙が上がっていた。
「アビドス地区の南側です!」
「まさか……」
カナタが立ち上がる。
炎角も、すでに窓の外を見ていた。
「行くぞ、カナタ」
「ああ!」
先生も頷く。
「みんな、行こう!」
---
アビドス地区。
砂煙の向こう側には、武装した少女たちが大勢集まっていた。
銃を構えた者。
大型の武器を持った者。
軽装で素早く動く者。
全員、便利屋68が今回の依頼のために雇った傭兵だった。
「これだけいれば、さすがに大丈夫よね!」
アルが胸を張る。
「はい!」
ハルカが頷く。
「今回の依頼では、傭兵の雇用費も依頼主から支給されています!」
「へぇ~。ずいぶん太っ腹な依頼主だね~」
ムツキが笑う。
「それだけ、アビドスを手に入れたいってことでしょ」
カヨコが依頼書を見る。
今回の依頼内容は単純だった。
アビドス高等学校、および周辺区域の確保。
アビドス高等学校は巨額の借金を抱えている。
そのため、依頼主はその土地と学校を手に入れようとしていた。
そして――。
「それと、もう一つ」
カヨコが依頼書の下部を見る。
そこには別の指示が記されていた。
『指定区域内に存在する角獣関連遺物を発見した場合、併せて回収せよ』
「……これね」
カヨコが呟く。
「古代遺物の回収?」
ムツキが覗き込む。
「そう。学校を確保した後、指定区域を調査することになってる」
「なんだか宝探しみたいで楽しそう!」
「遊びじゃないわよ」
カヨコが淡々と答える。
「依頼主は、本気であの土地を欲しがってる」
アルが胸を張る。
「つまり、私たちがアビドスを確保すれば依頼達成!」
「そういうこと」
「それじゃあ――」
アルが指を前へ向ける。
「便利屋68、出撃よ!」
「おー!」
傭兵たちが一斉に走り出した。
---
「来た!」
シロコが銃を構える。
「数が多い……!」
ノノミが驚く。
「これだけの人数を雇ったんですか!?」
アヤネも慌てて指示を出す。
「みんな、無理に前に出ないでください!」
「先生!」
先生が周囲を見る。
「シロコ、左!」
「了解」
「ホシノは中央で防御!」
「おじさんに任せて~」
「ノノミは後方支援!」
「はい!」
「アヤネは全体の状況を見て!」
「分かりました!」
指示が飛ぶ。
アビドス組は一斉に動き出した。
「そこ!」
シロコが敵の隙を突く。
「まとめていきますよ!」
ノノミの銃撃が敵の動きを止める。
ホシノが盾を構え、仲間への攻撃を受け止める。
「今です!」
アヤネの指示に合わせ、全員が反撃する。
しかし――。
「まだまだ!」
敵の数は多い。
一人を倒しても、すぐ別の傭兵が前に出てくる。
「数が多すぎる!」
セリカが叫ぶ。
「このっ!」
銃撃で一人を退ける。
しかし、別の方向から攻撃が飛んでくる。
「セリカ!」
カナタが前に出て、銃撃をかわす。
「助かった……!」
「こいつら、ただのチンピラじゃない!」
カナタが周囲を見る。
「傭兵だ。ちゃんと訓練されてる!」
「だったら――」
セリカが銃を構える。
「こっちだって負けない!」
---
「社長!」
ハルカが叫ぶ。
「このままなら押し切れます!」
「当然よ!」
アルが得意げに笑う。
「これだけの人数がいれば、アビドスの学校を確保するのも――」
「……いや」
カヨコが静かに口を挟む。
「まだ分からない」
「え?」
「相手には先生がいる」
カヨコは戦場を見る。
「指揮を取っている人間がいる限り、人数差だけでは押し切れない」
「先生……?」
アルが首を傾げる。
その時。
カナタと目が合った。
カヨコの表情が変わる。
「……あの子」
「どうしたの?」
ムツキが聞く。
「昨日のラーメン屋にはいなかった」
「うん?」
「でも、あの子もアビドス側」
カヨコはカナタを見つめる。
「……何か持ってる」
カナタの腰にある、見慣れない装置。
そして――。
その隣にいる炎角。
「……あれは?」
カヨコが目を細める。
「妙な二人組だねぇ~」
ムツキも興味深そうに見る。
---
戦況が変わり始めた。
先生の指揮によって、アビドス組が少しずつ敵を分断していく。
「シロコ、右!」
「了解!」
「ノノミ、今!」
「はい!」
「ホシノ、前をお願いします!」
「任せて~」
一人。
また一人。
傭兵たちが倒れていく。
「押し返してる!」
セリカが叫ぶ。
「先生の指揮、すごい……!」
カナタも驚いていた。
「これが先生の指揮か……」
炎角が頷く。
「一人一人の力ではなく、全体を一つの力として扱っている」
「なるほど……」
カナタが前を見る。
「じゃあ、俺も――」
その瞬間。
「カナタ」
炎角が呼び止めた。
「……あの女を見ろ」
カナタが振り向く。
カヨコが立っていた。
その手には、見慣れないエゴルギア。
そして、それを装填するためのレプリカ。
「……エゴルギア?」
カナタが目を見開く。
「どうして、あの子が……?」
カヨコは静かにエゴルギアをレプリカへ装填する。
「……角醒憑依」
レプリカが反応する。
「忍角」
角獣の力が、カヨコの身体へ宿る。
次の瞬間――。
カヨコの姿が視界から消えた。
「!?」
カナタが周囲を見回す。
「消えた!?」
「忍角」
炎角が答える。
「隠密を得意とする角獣だ」
「じゃあ、あいつは――!」
背後。
カナタが振り向く。
しかし、誰もいない。
「……そこ!」
銃撃。
カナタが咄嗟に飛び退く。
「危なっ!」
再び姿が消える。
「くそっ……!」
カナタが警戒する。
炎角が言う。
「焦るな。相手の位置ではなく、動きを読め」
「動きを……」
カナタは周囲を見る。
砂。
足跡。
風。
わずかな音。
「……そこだ!」
カナタが銃を撃つ。
「!」
カヨコが姿を現し、弾丸をかわす。
「……気づいた?」
「なんとか!」
カナタは銃を構える。
「お前もハンターなのか?」
「そうみたいね」
「そうみたいって……」
「私はただ、依頼を受けてるだけ」
カヨコは淡々と答える。
「アビドスを手に入れる。それが今回の仕事よ」
「学校を……?」
カナタの表情が変わる。
「そんなことさせるか!」
「それなら、止めてみて」
カヨコが再び姿を消す。
---
「社長!」
ハルカが叫んだ。
「時間です!」
「……え?」
アルが振り返る。
「契約時間、終了です!」
傭兵たちが一斉に時計を確認する。
「本当だ!」
「そろそろ帰らないと!」
「延長料金は?」
「契約には入ってません!」
「じゃあ帰ります!」
「ちょっと待ってぇぇぇ!?」
アルが叫ぶ。
傭兵たちは次々と武器をしまい始めた。
「お疲れ様でしたー!」
「またお願いします!」
「ありがとうございました!」
「こちらこそ!」
次々と帰っていく。
「いやいやいや!」
アルが慌てる。
「まだ戦闘中よ!?」
「契約時間外なので」
「そんなぁ!」
ムツキが笑う。
「アルちゃん、日雇いなんだから仕方ないよ~」
「仕方なくないわよ!」
カヨコも忍角の力を解除する。
「……これ以上は不利」
「カヨコ!?」
「撤退する」
「でも!」
「私たちだけでは人数差が逆転してる」
カヨコは冷静に戦場を見る。
「今日はここまで」
「……くっ!」
アルは悔しそうに拳を握る。
「覚えてなさい、アビドス!」
「それ、依頼相手に言う台詞じゃないよ~?」
「うるさいわね!」
便利屋68はその場から撤退していった。
---
戦いが終わった。
「……逃げた」
セリカが呆然と呟く。
「なんだったのよ、あいつら……」
「昨日ラーメン食べてた人たち」
カナタが答える。
「それは分かってるわよ!」
セリカが怒鳴る。
「だから余計に腹が立つの!」
「ラーメンを大盛りにしてあげたのに、次の日には学校を奪いに来るなんて……!」
「セリカちゃん、それは確かに怒っていいと思うよ~」
ホシノが苦笑する。
先生も便利屋68が去っていった方向を見る。
「でも、あの子たち……」
「先生?」
「ただの便利屋じゃないかもしれない」
カナタも頷いた。
「俺もそう思う」
腰にあるオメガホーンへ手を置く。
「エゴルギアを持ってる奴がいた」
炎角も静かに答える。
「そして、あの者たちは角獣の力を知っている」
「それだけじゃない」
カナタが遠くを見る。
「学校を奪う依頼……」
アビドスが抱える莫大な借金。
そして、今回の襲撃。
「……誰かが、アビドスを狙ってる」
炎角が頷く。
「そして、その者は角獣の力にも目を付けている」
カナタは拳を握った。
「絶対に渡さない」
その頃。
撤退した便利屋68。
「はぁ……」
アルは肩を落としていた。
「まさか、あんなに強いなんて……」
「先生がいたのも大きかったね」
カヨコが言う。
「でも――」
ムツキが楽しそうに笑う。
「面白い子がいたよね」
「……ああ」
カヨコも思い出す。
オメガホーンを持った少年。
そして、その隣にいた炎角。
「次に会った時は、あの子についても調べる必要がありそう」
「え?」
アルが振り返る。
「何か分かったの?」
「まだ何も」
カヨコは静かに答える。
「ただ……」
その視線の先には、遠く離れたアビドス。
「普通の生徒じゃないと思う」
そして、カヨコは依頼書をもう一度確認する。
アビドス高等学校の確保。
そして――角獣関連遺物の回収。
「……この依頼、思っていたより面倒かもしれないわね」
こうして――。
アビドスと便利屋68。
そして、カナタと炎角。
二つの勢力の間に、新たな因縁が生まれた。
だが、彼女たちはまだ知らない。
今回の依頼が、アビドスだけではなく――。
角獣そのものを巡る戦いへ繋がっていくことを。