*設定はいくつか変えています。猫猫が壬氏の元にいる、楼蘭が上級妃のまま、小蘭がまだ後宮で働いている、となっています。
*子の一族の問題は、穏便な形で解決されている設定です。
*原作に登場しない魔法も登場します。
第1話:魔法使いが降ってきた!
フリーレンとフェルンは、森の奥深くにある遺跡を訪れていた。
二人の目の前には、一基の古びた石碑が立っている。
長い年月、雨風にさらされてきたのだろう。表面はところどころ欠け、蔦や苔に覆われていた。
それは女神の石碑だった。
「フリーレン様」
石碑の周りをあちこち歩き回っているフリーレンを見ながら、フェルンが声をかけた。
「何があるか分かりません。もっと慎重に調べるべきではないでしょうか」
「大丈夫だよ、フェルン」
「フリーレン様の『大丈夫』は、あまり信用できません」
「ひどいな」
フリーレンは少しだけ頬を膨らませた。
しかし、すぐに石碑へと視線を戻す。
そこには、見覚えのない言葉が刻まれていた。
「……?」
フリーレンが顔を近づける。
「なんだ、これ。何て書いてるんだろう」
「え、どうしたのですか?」
「いや、ここに――」
フリーレンが文字に触れた。
その瞬間、石碑がまばゆい光を放った。
「フリーレン様!?」
「え?」
フリーレンが間の抜けた声を上げる。
次の瞬間、二人の姿は光の中へと消えた。
――その頃。
茘の後宮。
「それでね、それでね、その宦官がね!」
小蘭が身振り手振りを交えながら、楽しそうにしゃべっている。
「それ、本当なのか?」
猫猫が半信半疑で聞いた。
「本当だよ! みんな言ってるもん!」
「みんなが言っている話ほど信用できないものはないぞ」
「猫猫ってば、夢がないなあ」
「噂話に夢を求めるな」
その横では、子翠が植え込みの方ばかり気にしている。
「ねえ猫猫、あそこに珍しい虫がいそうじゃない?」
「仕事中だろ」
「ちょっとだけ」
「駄目だ」
「えー」
「子翠も猫猫も聞いてよ!」
三人はいつものように、取り留めのない話をしながら後宮を歩いていた。
そのときだった。
「ん?」
猫猫が足を止めた。
「どうしたの?」
小蘭が聞く。
猫猫は空を見上げていた。
空が、光っている。
「……なんだ、あれ」
「え?」
子翠と小蘭も空を見上げた。
次の瞬間、光の中から人が降ってきた。
「えええええええええっ!?」
小蘭の絶叫が後宮に響き渡る。
落ちてくるのは二人。
一人は小柄な少女。
いや、少女に見えるが、その両耳は人間ではあり得ないほど長い。
もう一人は紫色の長い髪をした若い女性だった。
「フリーレン様!」
「分かってる!」
地面まであとわずか。
その瞬間、二人の落下速度が急激に落ちた。
フリーレンが咄嗟に飛行魔法を使ったのだ。
しかし、突然の転移直後で体勢を崩していたため、完全に止めることまではできなかった。
どすん!
二人は地面へ落ちた。
「痛てててて……」
「痛~……」
フリーレンが腰をさする。
フェルンも顔をしかめながら起き上がった。
「フリーレン様、大丈夫ですか?」
「咄嗟に飛行魔法使ったから大丈夫だけど……完全には衝撃を消せなかった。痛たたた……」
「だから慎重に、と言ったでしょう」
「もう、怒らないでよ……」
「怒っていません」
「怒ってるじゃん」
「怒っていません」
完全に怒っている。
しかし、そんな二人以上に混乱している者たちがいた。
猫猫。
子翠。
小蘭。
三人とも口を開けたまま固まっている。
それも当然だ。空が突然光ったと思ったら、そこから人間が二人降ってきたのである。
驚くなと言う方が無理がある。
「…………」
猫猫は無言だった。
「…………」
小蘭も無言だった。
「…………」
子翠も無言だった。
三人とも、何を言えばいいのか分からない。
やがて子翠が、ぽつりと言った。
「……人が降ってきたね」
「うん……」
小蘭が答える。
「人って、空から降ってくるもの?」
「普通は降ってこない」
猫猫が答えた。
猫猫は二人を観察する。
服装、見たことがない。
髪の色、一人は銀髪、一人は紫色、この国ではありえない。
髪型も妙だ。
そして何より――
猫猫の視線がフリーレンの耳で止まった。
長い。
明らかに長い。
(……作り物か?)
だが、どう見ても自然についている。
フリーレンも周囲を見回していた。
「……って、ここどこ?」
「私に聞かれても分かりません」
見たことのない建物。
見たことのない庭。
少なくとも、二人が知るどの国とも違う。
そして目の前には、見たことのない服を着た三人の少女。
三人とも、とても驚いた顔でこちらを見ている。
子翠が恐る恐る一歩前へ出た。
「あなた達、誰?」
フリーレンとフェルンは顔を見合わせた。
小蘭は猫猫の袖を引っ張る。
「ねえねえ、猫猫」
「なんだ」
「あの人たち、どこの国の人か分かる?」
「分かるわけないだろ」
さすがの猫猫にも答えようがない。
衣服から推測しようにも、見覚えがまったくない。
ましてや、空から降ってきた。
「西方の人かな?」
「西方にも、あんな耳の人間はいないと思うぞ」
「じゃあ、あの耳、本物なの?」
「知らん」
「触ってみたい!」
「本人の許可を取れ」
フェルンが三人へ向き直る。
「あの」
「はい?」
「ここは、どこですか?」
三人が顔を見合わせる。
「……茘の後宮だけど」
猫猫が答えた。
「り?こうきゅう?」
フリーレンが首を傾げる。
どうやら言葉そのものは通じている。
しかし、その言葉が意味するものが分かっていないらしい。
「とりあえず」
猫猫が言った。
「どこかで落ち着いて話そう」
――これが、
千年以上を生きるエルフの魔法使い、フリーレン。
その弟子にして世話係、フェルン。
後宮随一の知恵者にして薬と毒をこよなく愛する薬屋、猫猫。
虫を愛する陽気な下女子翠――その正体は上級妃、楼蘭。
そして噂話が大好きな下女、小蘭。
本来ならば決して出会うはずのない五人の出会いであった。