薬屋と魔法使いのひとりごと   作:晴天人

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*時系列的には「薬屋のひとりごと」が原作四巻終わり、アニメの第二期の終わりごろ、「葬送のフリーレン」は原作8巻の終わり、ゲナウの故郷の村のエピソード後くらいになります。
*設定はいくつか変えています。猫猫が壬氏の元にいる、楼蘭が上級妃のまま、小蘭がまだ後宮で働いている、となっています。
*子の一族の問題は、穏便な形で解決されている設定です。
*原作に登場しない魔法も登場します。



異世界転移編
第1話:魔法使いが降ってきた!


フリーレンとフェルンは、森の奥深くにある遺跡を訪れていた。

二人の目の前には、一基の古びた石碑が立っている。

長い年月、雨風にさらされてきたのだろう。表面はところどころ欠け、蔦や苔に覆われていた。

それは女神の石碑だった。

「フリーレン様」

石碑の周りをあちこち歩き回っているフリーレンを見ながら、フェルンが声をかけた。

「何があるか分かりません。もっと慎重に調べるべきではないでしょうか」

「大丈夫だよ、フェルン」

「フリーレン様の『大丈夫』は、あまり信用できません」

「ひどいな」

フリーレンは少しだけ頬を膨らませた。

しかし、すぐに石碑へと視線を戻す。

そこには、見覚えのない言葉が刻まれていた。

「……?」

フリーレンが顔を近づける。

「なんだ、これ。何て書いてるんだろう」

「え、どうしたのですか?」

「いや、ここに――」

フリーレンが文字に触れた。

その瞬間、石碑がまばゆい光を放った。

「フリーレン様!?」

「え?」

フリーレンが間の抜けた声を上げる。

次の瞬間、二人の姿は光の中へと消えた。

 

――その頃。

茘の後宮。

「それでね、それでね、その宦官がね!」

小蘭が身振り手振りを交えながら、楽しそうにしゃべっている。

「それ、本当なのか?」

猫猫が半信半疑で聞いた。

「本当だよ! みんな言ってるもん!」

「みんなが言っている話ほど信用できないものはないぞ」

「猫猫ってば、夢がないなあ」

「噂話に夢を求めるな」

その横では、子翠が植え込みの方ばかり気にしている。

「ねえ猫猫、あそこに珍しい虫がいそうじゃない?」

「仕事中だろ」

「ちょっとだけ」

「駄目だ」

「えー」

「子翠も猫猫も聞いてよ!」

三人はいつものように、取り留めのない話をしながら後宮を歩いていた。

そのときだった。

「ん?」

猫猫が足を止めた。

「どうしたの?」

小蘭が聞く。

猫猫は空を見上げていた。

空が、光っている。

「……なんだ、あれ」

「え?」

子翠と小蘭も空を見上げた。

次の瞬間、光の中から人が降ってきた。

「えええええええええっ!?」

小蘭の絶叫が後宮に響き渡る。

落ちてくるのは二人。

一人は小柄な少女。

いや、少女に見えるが、その両耳は人間ではあり得ないほど長い。

もう一人は紫色の長い髪をした若い女性だった。

「フリーレン様!」

「分かってる!」

地面まであとわずか。

その瞬間、二人の落下速度が急激に落ちた。

フリーレンが咄嗟に飛行魔法を使ったのだ。

しかし、突然の転移直後で体勢を崩していたため、完全に止めることまではできなかった。

どすん!

二人は地面へ落ちた。

「痛てててて……」

「痛~……」

フリーレンが腰をさする。

フェルンも顔をしかめながら起き上がった。

「フリーレン様、大丈夫ですか?」

「咄嗟に飛行魔法使ったから大丈夫だけど……完全には衝撃を消せなかった。痛たたた……」

「だから慎重に、と言ったでしょう」

「もう、怒らないでよ……」

「怒っていません」

「怒ってるじゃん」

「怒っていません」

完全に怒っている。

しかし、そんな二人以上に混乱している者たちがいた。

猫猫。

子翠。

小蘭。

三人とも口を開けたまま固まっている。

それも当然だ。空が突然光ったと思ったら、そこから人間が二人降ってきたのである。

驚くなと言う方が無理がある。

「…………」

猫猫は無言だった。

「…………」

小蘭も無言だった。

「…………」

子翠も無言だった。

三人とも、何を言えばいいのか分からない。

やがて子翠が、ぽつりと言った。

「……人が降ってきたね」

「うん……」

小蘭が答える。

「人って、空から降ってくるもの?」

「普通は降ってこない」

猫猫が答えた。

猫猫は二人を観察する。

服装、見たことがない。

髪の色、一人は銀髪、一人は紫色、この国ではありえない。

髪型も妙だ。

そして何より――

猫猫の視線がフリーレンの耳で止まった。

長い。

明らかに長い。

(……作り物か?)

だが、どう見ても自然についている。

フリーレンも周囲を見回していた。

「……って、ここどこ?」

「私に聞かれても分かりません」

見たことのない建物。

見たことのない庭。

少なくとも、二人が知るどの国とも違う。

そして目の前には、見たことのない服を着た三人の少女。

三人とも、とても驚いた顔でこちらを見ている。

子翠が恐る恐る一歩前へ出た。

「あなた達、誰?」

フリーレンとフェルンは顔を見合わせた。

小蘭は猫猫の袖を引っ張る。

「ねえねえ、猫猫」

「なんだ」

「あの人たち、どこの国の人か分かる?」

「分かるわけないだろ」

さすがの猫猫にも答えようがない。

衣服から推測しようにも、見覚えがまったくない。

ましてや、空から降ってきた。

「西方の人かな?」

「西方にも、あんな耳の人間はいないと思うぞ」

「じゃあ、あの耳、本物なの?」

「知らん」

「触ってみたい!」

「本人の許可を取れ」

フェルンが三人へ向き直る。

「あの」

「はい?」

「ここは、どこですか?」

三人が顔を見合わせる。

「……茘の後宮だけど」

猫猫が答えた。

「り?こうきゅう?」

フリーレンが首を傾げる。

どうやら言葉そのものは通じている。

しかし、その言葉が意味するものが分かっていないらしい。

「とりあえず」

猫猫が言った。

「どこかで落ち着いて話そう」

 

――これが、

千年以上を生きるエルフの魔法使い、フリーレン。

その弟子にして世話係、フェルン。

後宮随一の知恵者にして薬と毒をこよなく愛する薬屋、猫猫。

虫を愛する陽気な下女子翠――その正体は上級妃、楼蘭。

そして噂話が大好きな下女、小蘭。

本来ならば決して出会うはずのない五人の出会いであった。

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