薬屋と魔法使いのひとりごと   作:晴天人

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第2話:フェルンの世界の人って、その‥‥‥

こういう訳で、フリーレンが猫猫と何やら怪しげな共同研究を始めた。

一方、フェルンはというと‥‥‥

「ねえねえ、フェルン」

「はい?」

子翠が、いつものようににこにこしながら近寄ってきた。

「私、空飛びたい」

「……え?」

フェルンは困った顔をする。

フリーレンとフェルンが後宮の外へ出るときに飛行魔法を使って以来、子翠はずっと狙っていたのである。

「ええ……」

「駄目?」

「……駄目じゃないですが、危険かもしれませんよ」

「大丈夫な範囲で!」

子翠がぐいぐい迫ってくる。

そして、その横にいた小蘭が目を丸くする。

「フェルン、空飛べるの?」

「はい」

「ええっ! 本当に!?」

小蘭の目が一気に輝いた。

「私も飛びたい!」

小蘭が便乗した。

「小蘭までですか……」

二人の期待に満ちた顔を見て、フェルンはため息をついた。

「……ちょっとだけですよ」

「やった!」

「わーい!」

二人が同時に喜ぶ。

まず子翠。

「ちゃんと掴まっていてください」

「うん!」

フェルンが子翠を抱える。

そして。

ふわり。

身体が浮いた。

「わあああああ!」

「声が大きいです!」

「だって、本当に飛んでる!」

地面が少しずつ遠ざかる。

もちろん、フェルンはかなり低い高度に抑えている。

それでも子翠にとっては十分だった。

「すごい! すごい!」

「暴れないでください!」

「ねえ、もっと高く!」

「駄目です」

「ちょっとだけ!」

「駄目です」

「フェルン、意外と厳しい!」

「安全のためです」

地上では小蘭が飛び跳ねている。

しばらくして子翠を降ろす。

「楽しかったあ!」

今度は小蘭。

「お願い!」

「はいはい」

フェルンが小蘭を抱えて浮かび上がる。

「きゃあああ!」

「だから声を抑えてください!」

「だって怖いけど楽しい!」

「どっちなんですか……」

 

こうして空を満喫した子翠と小蘭。

その後、三人は一緒にお茶を飲んだ。

フリーレンは猫猫のところへ行って、何やら怪しい研究をしている。

「前にも聞いたけどさ」

子翠が菓子をつまみながら言った。

「フェルンの世界には、魔物とか魔族がいるんだよね?」

「はい」

「それって、どんなものなの?」

フェルンは少し考えた。

「魔物は色々です。獣に似たものもいますし、巨大なものもいます」

「人を襲うの?」

「襲うものも多いですね」

小蘭の顔が引きつる。

「怖……」

「魔族は?」

子翠が聞く。

「魔族は、人の言葉を話します」

「え、人みたいなの?」

「姿も人に近いです」

「じゃあ話し合えるんじゃないの?」

小蘭が言う。

フェルンは静かに首を振った。

「それは‥‥‥無理ですね」

「どうして?」

「魔族は人間とは考え方そのものが違います。言葉も、人を欺くために使います。欺いて、人を襲います。」

「うわあ……」

小蘭は想像しただけで嫌そうな顔になる。

子翠は逆に興味深そうだった。

「じゃあ、フェルンもそういう魔物や魔族と戦うんだよね?」

「はい」

小蘭がフェルンを見る。

「フェルン、なんだか格好いい」

「え?」

「だって魔物を退治するんでしょう?」

「いや、私なんか」

フェルンは少し照れた。

「フリーレン様に比べれば、まだまだです」

「でもさ」

小蘭は真剣な顔になる。

「そんな化け物みたいなのと戦うなんて、怖くないの?」

フェルンは少し黙った。

「怖い、と思う時もあります」

「やっぱり?」

「はい」

フェルンは正直に答えた。

「でも、立ち向かわなければならない時もありますから」

「逃げちゃ駄目なの?」

「逃げてもいい時は逃げますよ」

「そうなんだ」

「無理に戦う必要はありません。ただ、誰かを守るためだったり、旅を続けるためだったり……戦わなければいけない時があります」

そして、少し微笑む。

「それに、フリーレン様や他の人も助けてくれますし」

小蘭は感心したように頷いた。

「そうなんだ……私には絶対無理だね」

「大丈夫ですよ」

フェルンは穏やかに言う。

「この世界には魔物も魔族もいませんから、戦う必要なんてないですよね」

「人間同士は色々あるけどね」

子翠がさらっと言う。

「子翠、それ怖いよ」

小蘭が言った。

「後宮だからねえ」

子翠は笑っている。

「ところで」

子翠が話題を変えた。

「フリーレンって、結局どういう人なの?」

「どういう人、ですか?」

「エルフって何なの?」

「ああ」

フェルンは頷く。

「エルフというのはですね、人間とは別の種族です」

「やっぱり耳が長いの?」

「はい」

「妖精みたいなもの?」

小蘭が聞く。

「妖精ではありません」

「そうなの?」

「はい。エルフはエルフです」

「うーん」

小蘭はまだよく分かっていない。

「でも、すごい魔法を使えるんでしょう?」

子翠が聞く。

フェルンの表情が少し誇らしげになった。

「はい。なんといっても、フリーレン様は勇者様一行の魔法使いでしたから」

「勇者様一行?」

小蘭が首を傾げる。

「勇者って?」

フェルンは説明した。

かつて魔王がいたこと。

勇者ヒンメル。

僧侶ハイター。

戦士アイゼン。

そして魔法使いフリーレン。

四人が長い旅を続け、ついには魔王を倒したこと。

小蘭は口を開けて聞いていた。

「へ~……本当にそんなことあったのね。おとぎ話みたい」

「はい」

フェルンは少し笑った。

「もう八十年ほど前のことですけどね」

「八十年前……」

小蘭が改めて驚く。

子翠も考え込む。

「そういえば」

「はい?」

「フリーレンって千年以上生きているんだよね?」

「はい」

「エルフって、みんなそんなに長生きなの?」

「そうですね」

フェルンは答える。

「フリーレン様より長く生きているエルフもいます」

「ええ!?」

小蘭がまた驚いた。

「もっと長く?」

「はい」

「どれくらい?」

「人によりますけど」

子翠は妙に納得した顔になった。

「そっかあ」

「何です?」

「そんなに長生きするから、朝起きられないんだね」

「…………」

フェルンが止まる。

「違うの?」

「……それはたぶん」

少し間を置いて。

「フリーレン様だけです」

「そうなの?」

「はい」

「エルフの特徴じゃないの?」

「違います」

きっぱり。

「フリーレン様が朝に弱いだけです」

「へえ」

子翠は残念そうだった。

どうやら「長命種は朝が苦手」という謎の生態を期待していたらしい。

「それに」

フェルンは続ける。

「放っておくと髪も整えませんし」

「フェルンがやってあげるの?」

小蘭が聞く。

「そうですね」

「ご飯は?」

「食べさせます」

「なんだかお母さんみたい」

「違います」

即答した。

「私は弟子です」

だが子翠と小蘭は顔を見合わせる。

「でも、世話してるよね」

「してるね」

「…………」

フェルンは反論できなかった。

「フリーレン様がもう少ししっかりしてくださればいいんです」

そう言いながらも、どこか楽しそうに聞こえる。

二人もそれに気付いたが、あえて言わなかった。

そのとき、小蘭が急に黙った。

「…………」

「どうしました?」

フェルンが聞く。

小蘭は、じーっとフェルンを見ている。

正確には、少し視線が下だった。

「……小蘭?」

「ねえ、フェルン」

「はい?」

「フェルンの世界の人って、その……」

「?」

「みんな大きいの?」

「え?」

フェルンが首を傾げる。

「何がですか?」

「その……」

小蘭はちらっと子翠を見る。

「子翠もだけど……」

「私?」

小蘭は何とも羨ましそうな顔をした。

「いいなあって」

「???」

フェルンにはさっぱり分からない。

子翠は一瞬考え――

「ああ」

理解した。

「小蘭」

「何?」

「重いだけよ」

「え~!」

「肩凝るし」

「でもうらやましいよ!」

小蘭は自分の胸元を見下ろす。そして手を当てる。

「私も大きくならないかな~」

「そのうち変わるんじゃない?」

「本当?」

「知らない」

「ええ~」

フェルンは二人を交互に見る。

「え?」

子翠。

小蘭。

「え?え?何の話をされているんです???」

小蘭が驚く。

「フェルン、分からないの?」

「分かりません」

「だって――」

小蘭が言おうとしたところで、子翠が肩を震わせ始めた。

「ふふっ……」

「子翠?」

「いや、ごめん」

「何です?」

「フェルンって、こういうところ妙に鈍いのね」

「何がですか?」

「気にしなくていいわ」

「気になります」

「そのうち分かるわよ」

「だから何がですか?」

フェルンは完全に置いていかれている。

「???」

フェルンの頭の中には疑問符が浮かぶばかりだった。

子翠は笑っている。

小蘭は「いいなあ」とまだ羨ましそうにしている。

そしてフェルンだけが――最後まで、いったい何の話をされているのか理解できないままなのであった。

 

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