薬屋と魔法使いのひとりごと   作:晴天人

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第4話:服の汚れをきれいさっぱり落とす洗剤、のはずなのだが‥‥‥

猫猫とフリーレンの共同研究。

虫よけでは、成功と失敗を行ったり来たりした。

しかし二人は懲りない。

むしろ――

「失敗したってことは、改善するところが分かったってことだからね」

「そうだね」

完全に同じ思考である。

そして、発明の道はさらに続く。

今度は――

「これはいいものができた」

猫猫が自信満々に言った。

「なになに?」

小蘭が面白そうに覗き込む。

桶の横には、何やら見慣れない液体が置かれている。

「何これ?」

「これはね」

猫猫が胸を張る。

「服の汚れをきれいさっぱり落とす洗剤だよ」

「洗剤?」

「そう」

今回、猫猫とフリーレンが目を付けたのは――洗濯だった。

フリーレンの世界には、「服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法」が存在する。フェルンが一級魔法使いになった折、特権としてもらった伝説級の魔法である。

ならば、その魔法がどうやって汚れを落としているのか解析し、その仕組みをこの世界の植物や薬剤で再現できないか。

それが今回の研究である。

成功すれば、魔法を使えないこの世界の人々でも、簡単に衣類を洗えるようになる。

後宮には大勢の人間が暮らしている。

当然、洗濯物の量も膨大だ。

もし従来より簡単に汚れを落とせるものが完成すれば――これは間違いなく大発明である。

「じゃあ、やってみるよ」

猫猫が桶に水を入れる。

そこへ試作した洗剤を少量。

そして汚れた布を入れる。

ごしごし。

「おお!」

小蘭が声を上げる。

「すごい! 落ちてる!」

「だろ?」

猫猫は満足そうだ。

油汚れ。

泥。

食べ物の染み。

今までならかなり苦労して落としていた汚れが、面白いほど簡単に落ちていく。

「これ、すごいよ猫猫!」

「まだ試作だけどね」

「これがあったら洗濯、すっごく楽になるよ!」

「そうでしょう」

猫猫も手応えを感じている。

だが、小蘭が首を傾げた。

「ねえ、猫猫」

「何?」

「この泡……」

ぶくぶく。

「うん」

ぶくぶくぶく。

「なんか、すごくない?」

「…………」

猫猫も見る。

ぶくぶくぶくぶく。

確かに泡が多い。

「いや、でも」

猫猫は布を見る。

「洗浄力は完璧だ」

「でも泡が……」

「少しくらいなら問題ない」

ぶくぶくぶくぶくぶくぶく。

「……猫猫?」

「…………」

泡が桶から溢れ始めた。

「これ、少し?」

「想定より多いな」

「溢れてるよ!」

「まあ、水で流せば――」

ぶわっ。

「きゃあ!」

小蘭が飛び退く。

泡が一気に溢れた。

床へ。

さらに床から周囲へ。

「猫猫! 泡! 泡!」

「分かってる!」

「止まらないよ!」

「なぜだ!?」

泡は増える。

どんどん増える。

桶の周りどころではない。

部屋の床が真っ白になっていく。

「うわあああ!」

小蘭は逃げる。

猫猫は泡まみれになりながら洗剤を見る。

「配合を間違えたか!?」

「猫猫、こっちにも来た!」

「水を――いや、水を入れたら余計に泡立つか?」

「そんなこと考えてないで止めてよ!」

ついには――部屋から泡が流れ出した。

その頃。

「フリーレン様」

「何?」

フェルンが廊下の向こうを見る。

白いものが流れてくる。

「……あれ」

「ん?」

フリーレンも見る。

もこもこ。

もこもこ。

泡である。

大量の泡が部屋から吹き出ている。

その中から。

「うわあああ!」

小蘭が飛び出してきた。

頭に泡を乗せている。

続いて。

「おかしいな……」

猫猫が出てきた。

こちらも泡まみれ。

フェルンは無言でフリーレンを見る。

「…………」

「…………」

「フリーレン様」

「何?」

「あれ、何ですか?」

「う~ん」

フリーレンは腕を組んだ。

「おかしいなあ」

「何がです?」

「フェルンの『服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法』の解析結果を、この世界の薬草と合わせたんだけどな」

「…………」

フェルンの目が細くなる。

「それでこの前、私に『服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法』を何回も使わせたんですね」

「ああ、あれね解析に必要だったから」

フェルンの目がさらに細くなる。

「…………」

「フェルン?」

「…………」

「怒ってる?」

「怒っていません」

「絶対怒ってる」

「それより」

フェルンは泡だらけの部屋を指差した。

「あれ、どうするんです?」

「まあ……」

フリーレンは泡を一つ取る。

「解析はできるから、なんとか……」

「…………」

「フェルン」

「はい」

「そんな目で見ないで……」

「どんな目ですか?」

「ものすごく冷たい目」

「気のせいです」

「絶対気のせいじゃないよ」

そこへ猫猫がやって来た。

「フリーレン」

「何?」

「問題が起きた」

「見れば分かるよ」

「洗浄力そのものは高い」

「うん」

「油汚れもかなり落ちる」

「成功じゃん」

「ただし」

猫猫が周囲を見る。

泡。

泡。

泡。

どこを見ても泡。

「異常に泡立つ」

「そうみたいだね」

「なぜだろう」

二人は並んで考え込む。

フェルンが言った。

「その前に片付けませんか?」

「でも原因を――」

「片付けませんか?」

「……はい」

「はい」

二人とも素直になった。

その後、フリーレンの魔法を使い、なんとか泡は片付けられた。

そして改めて試作品を検証する。

「汚れは?」

猫猫が聞く。

小蘭が洗った布を見る。

「すっごく綺麗」

「やっぱり洗浄力は高いな」

「でも泡がすごいよ」

「そこなんだよな」

フリーレンも考える。

「魔法では汚れだけを綺麗に消してるんだけど」

「それを薬剤だけで再現しようとすると、別の反応まで起きるということか」

「多分ね」

「なら、この成分を減らして――」

「こっちを別の植物に変える?」

「試してみる価値はある」

「うん」

もう次の研究を始めようとしている。

フェルンがため息をつく。

「フリーレン様」

「何?」

「今度は外で実験してください」

「どうして?」

「どうしてだと思います?」

フリーレンが周囲を見る。

まだところどころに泡が残っている。

「……分かった」

小蘭も言う。

「絶対、外がいいよ」

「小蘭まで……」

「だって私、泡まみれになったもん!」

「でも服は綺麗になったでしょ?」

「そういう問題じゃないよ!」

そこへ、騒ぎを聞きつけた子翠がやって来た。

「何してるの?」

「洗剤の実験」

猫猫が答える。

「へえ。成功した?」

「汚れは落ちた」

「じゃあ成功じゃない」

「泡で部屋が埋まった」

「…………」

子翠は少し考える。

「面白そう」

「「面白くありません!」」

フェルンと小蘭の声が揃った。

猫猫は試作品の容器を見つめる。

洗浄力は申し分ない。

むしろ従来のものより遥かに優れている。

しかし、使えば周囲が泡だらけになる。

「……役に立つのか、立たないのか」

猫猫が呟く。

「微妙だね」

フリーレンも言う。

「でも、方向性は間違ってない」

「うん」

「泡を抑えられれば完成だ」

「じゃあ、私が泡を消す魔法を使って泡を消して――」

「待ってください」

フェルンが止める。

「何?」

「洗剤を使うたびにフリーレン様が魔法で泡を消すなら、最初から私が『服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法』を使った方が早いのでは?」

「…………」

フリーレン。

「…………」

猫猫。

二人は顔を見合わせた。

「……確かに」

「そうだね」

「今気付いたんですか?」

フェルンは頭を抱えた。

魔法の天才と薬学の天才。

二人の頭脳を組み合わせれば、これまで誰も想像しなかった発明が生まれる。

それは間違いないが、それが本当に役に立つか‥‥‥何とも言えなかったりするのだった。

 

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