薬屋と魔法使いのひとりごと   作:晴天人

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第6話:ついに画期的大発明?

猫猫とフリーレン。

この二人は、懲りるということを知らなかった。

虫よけの魔法で虫が大量に集まり。

洗剤を作れば泡だらけになり。

睡眠薬を作れば一日中眠り、眠気覚ましを作ればその反動で一日中眠る。

普通なら、そろそろ慎重になる。

しかし――

「猫猫、今度は何する?」

「薬草の保存について考えてる」

まったく懲りていなかった。

むしろ、失敗するたびに研究意欲が増しているようにすら見える。

そんなある日のこと。

「ようし」

猫猫が満足そうに頷いた。

「できた」

「完璧だね」

フリーレンも満足そうだ。

二人の前にあるのは、一つの箱。

一見すると、何の変哲もない木箱だった。

ただし、手のひらサイズである。

「フリーレン様」

フェルンが恐る恐る聞く。

「今度は何ですか?」

「薬草を長持ちさせる箱」

「薬草を?」

「うん」

猫猫が説明する。

「薬草の中には、保存が難しいものがあるんだ。暑さや湿気で傷んだり、薬効が弱くなったりする」

「なるほど」

これはフェルンにも理解できる。

「だから」

猫猫が箱を指差す。

「箱の中を低温に保つ」

「フリーレン様の魔法で?」

「そう」

フリーレンが少し得意そうに胸を張った。

「冷却する魔法を箱に組み込んでみた」

今回は珍しく、まともそうだ。

いや、かなり画期的なのではないか。

暑い季節でも、薬草を低温で保存できる。

しかも氷を用意する必要がない。

「じゃあ開けるよ」

猫猫が箱を開けた。

「…………」

「…………」

沈黙。

猫猫が中を見る。

フリーレンも見る。

フェルンも覗く。

薬草が入っている。

ただし――

カチカチだった。

「…………」

猫猫が一本取る。

こんこん。

箱の縁に当ててみる。

硬い。完全に凍っている。

「フリーレン」

「何?」

「全部凍ってる」

「……そうだね」

「薬草を長持ちさせる箱だよね?」

「そのつもり」

「凍らせる箱じゃないよね?」

「うん」

「…………」

「…………」

フェルンがため息をついた。

「フリーレン様」

「何?」

「また失敗ですね」

「まだ失敗って決まったわけじゃないよ」

猫猫が凍った薬草を一本折った。

ぽきん。

「失敗だな」

「……失敗だね」

さすがのフリーレンも認めた。

だが、ここで諦める二人ではない。

「原因は分かってる」

猫猫が言う。

「冷やしすぎだ」

「そうだね」

フリーレンも頷く。

「温度調整をしないと」

「一定以上冷えないようにできる?」

「術式を調整すれば、多分」

「湿気も問題なんだ」

「じゃあ湿度も?」

「できる?」

「やってみる」

二人の目が輝く。

フェルンは思う。

(また始まりましたね……)

そして、何度かの試行錯誤の末――

「今度こそ」

猫猫が箱を開ける。

「…………」

薬草を取り出す。

凍っていない。

萎れてもいない。

触ってみる。

問題なし。

「温度は?」

「ちょうどいい」

「湿度は?」

「これもいい」

フリーレンが箱の中を確認する。

「成功?」

「成功だ」

二人の顔が明るくなる。

「おお」

フェルンも感心した。

今度こそ本当に役に立ちそうである。

数日後、さらに確認する。

「傷んでない」

猫猫が言う。

「薬効も?」

「ほとんど変化してない」

「じゃあ完璧だ」

「うん」

二人が顔を見合わせる。

これはすごい。

薬草の保存期間を延ばせる。

貴重な薬草を無駄にしなくて済む。

遠方から運んできた薬材の保存にも使えるかもしれない。

さらに――猫猫が気付く。

「これ、薬草だけじゃなくて」

「うん?」

「食べ物にも使えるんじゃないか?」

フリーレンが箱を見る。

「肉とか?」

「肉、魚、野菜……」

「果物も」

「乳製品なんかにも使えるかもしれない」

「すごいね」

「うん」

二人の目が再び妖しく輝く。

これはひょっとすると――今までの発明とは違う、本当に生活を変えるほどの発明なのではないか。

食料を長く保存できれば、後宮だけではない。

軍。

旅人。

商人。

遠隔地への輸送。

様々な用途が考えられる。

猫猫とフリーレンは完成した箱を見る。

そして。

「…………」

猫猫が言った。

「ちっちゃいね」

「そうだね」

箱は――

小さい。

かなり小さい。

手のひらサイズ、薬草をいくつか入れればいっぱいになる程度だ。

「…………」

二人は箱を見る。

「大きくできない?」

猫猫が聞く。

「できなくはないけど」

フリーレンが考える。

「大きくしたら効き目が弱くなる」

「そうなのか」

「うん。この術式だと、このくらいが一番安定する」

「じゃあ魔力を強くすると?」

「私が定期的に補充すればできると思う」

「それじゃ意味ないな」

「そうだね」

猫猫は腕を組む。

「この世界の人間だけで使えるようにしたいんだ」

「そうすると難しいね」

「食物保存にも使えそうなんだがなあ」

「うん」

「大きな箱にできれば、肉や魚も大量に保存できる」

「そうだね」

「厨房にも置ける」

「うん」

「薬庫にも欲しい」

「うん」

「旅にも――」

「猫猫」

「何?」

「それ全部入る大きさにしたら、かなり大きいよ」

「……そうだな」

二人は黙った。

「う~ん」

猫猫が唸る。

「いいところまで行ったと思ったんだがなあ」

「私も」

そこへ小蘭がやって来た。

「何してるの?」

「新しい発明」

「今度は何?」

「薬草を長持ちさせる箱」

「へえ!」

小蘭が箱を見る。

「すごいじゃない!」

「でも小さい」

「これくらい?」

「うん」

小蘭は考える。

そして――

「じゃあ、お菓子入れたら?」

「…………」

猫猫。

「…………」

フリーレン。

二人が箱を見る。

「お菓子……」

「冷やして保存……」

二人の目が再び輝き始める。

フェルンが嫌な予感を覚えた。

「フリーレン様?」

「フェルン」

「何です?」

「これで冷たいお菓子を保存できるよ」

「フリーレン様」

「何?」

「肉や若菜を大量に保存しようという話だったのでは?」

「そうだった」

猫猫が言う。

「いや、そういう用途もいいかも‥‥‥」

「猫猫まで……」

そこへ子翠まで現れた。

「何してるの?」

「冷たいものを保存する箱」

小蘭が説明する。

「へえ!」

子翠が中を見る。

「虫も保存できる?」

「…………」

猫猫が答える。

「できるかもしれないけど」

「本当!?」

「生きたまま入れるなよ」

「なんで!?」

「死ぬからだよ!」

「じゃあ標本!」

「それなら……」

「やった!」

フェルンは頭を抱えた。

薬草保存のために始まった研究。

食物保存に使える可能性が見つかり、小さすぎるという問題にぶつかり、最終的には――冷たいお菓子と虫の標本を保存する箱になりかけている。

ついに人類の生活を変える大発明、と思いきや、なんだかスケールが小さくなっている。

「う~ん」

フリーレンが箱を見る。

「いいところまで行ったんだけどね」

「もう少し大きくできればなあ」

猫猫も残念そうだ。

「術式を一から考え直す?」

「それもありだね」

「別の薬草を組み合わせれば、魔法への負担を減らせるかもしれない」

「じゃあ試してみよう」

また始まった。

フェルンはため息をついた。

猫猫とフリーレンの発明。

発想はいい。

原理も悪くない。

あと少しで、とんでもなく便利なものが完成しそうな気もする。

なのに――何かが微妙にずれている。

魔法の天才と薬学の天才。

二人が本当に歴史を変える大発明を完成させる日は来るのか。

それとも、後宮に大量の珍発明を残すだけなのか。

それはまだ誰にも分からない。

ただ、少なくとも、異世界に飛ばされ、帰る方法すらまだ分からないフリーレンが、この世界で猫猫という研究仲間を見つけ、毎日楽しそうにしている。

それだけは――悪いことではないのかもしれなかった。

 

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