第1話:決戦
フリーレンとフェルンは、迷わず世界と世界を繋いでいる空間へ飛び込む。
一瞬、視界が歪む。
上下も左右も分からなくなる。
身体が引っ張られるような感覚。
そして―、次の瞬間、二人は、奇妙な空間へ立っていた。
空でもない。
大地でもない。
周囲は暗く、しかし、ところどころに光の筋が走っている。
世界と世界の隙間。
そして、そこには二つの影がいた。
「まさか」
低い声。
「ここに来る者がいようとはな」
男の姿をした魔族。
その隣には。女の姿をした魔族。
二体。
「…………」
フェルンの表情が険しくなる。
明らかに違う。
これまで都や後宮で遭遇した魔族とは、存在感が、魔力が桁違い。
「フリーレン様」
「うん」
「強いですね」
「かなりね」
女型の魔族が笑う。
「トイシュングの気配が消えたから」
「…………」
「もしや、とは思っていたのよね」
フェルンが小さく言う。
「トイシュング……」
恐らく、あの女型魔族。
猫猫の前へ現れ、李白たちと戦い最後にフリーレンが倒した魔族。
男型魔族が二人を見る。
「しかし」
「…………」
「あの世界には魔法を使える者はいない」
その視線が。
フリーレンへ。
「それに、お前はエルフ」
「…………」
「あの世界にいるはずがない」
男型魔族の目が鋭くなる。
「お前たち」
「…………」
「どこから来たのだ?」
フリーレンは、ほんの少しだけ首を傾げる。
「そんなこと」
杖を構える。
「どうでもいいでしょう」
次の瞬間、有無を言わせず魔法。
凄まじい光。
「なっ!」
男型魔族が慌てて防御。
轟音。
魔力がぶつかる。
空間そのものが震える。
「くっ!」
男型魔族がわずかに後退。
「そう簡単にはいかないか」
そしてフェルンを見る。
「フェルン」
「はい」
「もう一体の方、任せたよ」
「分かりました」
フェルンが。
女型魔族へ向き直る。
女型魔族は笑う。
「私の相手はあなた?」
「はい」
「ふふ」
余裕。
その顔には明らかな侮り。
(若い)
(魔力も大したことはない)
(すぐ終わるわね)
こうして、フリーレン対男型魔族、フェルン対女型魔族の戦いが始まった。
女型魔族が手を上げる。
巨大な光弾がフェルンへ。
フェルンは障壁を展開。激突、防ぐ。
そして、即座に。
「ゾルトラーク」
光。
女型魔族、障壁。
「ふん」
防ぐ。
「そんな攻撃」
笑う。
「効かないわよ」
再び女型魔族が魔法。
フェルン防御。
そして。
「ゾルトラーク」
「またそれ?」
防御。
だが。
「ゾルトラーク」
また。
「ゾルトラーク」
また。
「ゾルトラーク」
「ちっ」
女型魔族の表情が。
ほんの少し変わる。
防ぐ。
また来る。
防ぐ。
また。
さらに、さらに。
「うっとおしいわね!」
女型魔族が攻撃しようとする。
だが、その瞬間、ゾルトラーク。
防ぐ。
「くっ!」
攻撃する暇がない。
また。
「ゾルトラーク」
防御。
また魔力の光。
「しつこい!」
女型魔族が苛立ち始める。
一方、フリーレンと男型魔族。
「ジュドラジルム」
フリーレンが杖を向ける。
次の瞬間、空間いっぱいに電流。
凄まじい雷撃。
「なっ!」
男型魔族、全力で障壁。轟音。
電撃が何度も障壁を叩く。
「ぐっ!」
男型魔族、ようやく耐えきる。
男型魔族が反撃。
魔法、フリーレンへ。
しかし。
「…………」
フリーレン、片手で障壁。
「な……」
そして。
「ヴォルザンベル」
炎。いや、業火。
空間そのものが燃え上がるような凄まじい火炎。
「くっ!」
男型魔族。
再び防御。
押される。
魔力障壁が軋む。
「そ……」
必死。
「そんな馬鹿な!」
何とか耐える。
しかし、反撃する暇がない。
「なぜ」
フリーレン。
次の魔法。
「こんな」
男型魔族、また防ぐ。
「強力な魔法使いが!」
また攻撃。
「ここにいるんだ!」
完全に防戦一方。
男型魔族の顔から余裕が消える。
「グラウザムカイト!」
女型魔族へ叫ぶ。
「早くそいつを倒せ!」
だが――
「くっ!」
女型魔族もそれどころではなかった。
「ゾルトラーク」
防ぐ。
「ゾルトラーク」
防ぐ。
「ゾルトラーク」
また。
「くそっ!」
攻撃したい。反撃したい。だが、できない。
フェルンの攻撃が途切れない。
「何なのよ!」
魔法陣。
一つ。
二つ。
三つ。
「この娘!」
五つ。
七つ。
十。
さらに。
「…………」
フェルンは何も言わない。
ただ、淡々と魔法を放つ。
「ゾルトラーク」
光。
「ゾルトラーク」
光。
「ゾルトラーク」
また、女型魔族が必死に防御。
(おかしい‥‥‥どうしてこんなに魔法を放って魔力切れにならないの!?)
若い。
魔力も大したことがないように見える。
使う魔法も単純。
なのに速すぎる。途切れない。隙がない。
フェルンは表情一つ変わらない。
むしろ連射速度が上がる。
十を超える魔法陣、そこからひっきりなしにゾルトラーク。
右。
左。
上。
正面。
「や、やめ――」
防御、防御、防御。
「くっ!」
光りが一つ抜ける。
肩。
「ぐあっ!」
障壁を展開しなんとか立て直す。
しかし、もう遅い。
次。
次。
さらに。
「そ」
「そんな」
「馬鹿な――!」
直撃。身体を貫く。
「――!」
女型魔族の身体が崩れる。
「どうして……」
女型魔族は、完全に消滅した。
フェルンが静かに杖を下ろす。
「終わりました」
フリーレンが少しだけ笑う。
「よくやった、フェルン」
「はい」
男型魔族が、その言葉を聞く。
フリーレンを見る。
そして、ようやく何かに気付く。
「…………」
銀髪。
エルフ。
圧倒的な魔力。
魔族を躊躇なく葬る。
「まさか……」
「?」
「お前」
男型魔族の顔が恐怖へ変わる。
「お前は……!」
フリーレンは無言。
「葬送の……」
声が震える。
「フリーレン!」
その瞬間、フリーレンの魔法が直撃。
「ぐあああああ!」
男型魔族が。
吹き飛ぶ。
地面らしき場所を転がる。
「ぐっ……」
身体が大きく損傷。
「な、なんでお前が‥‥‥」
立てない。それでも笑う。
「くく……」
「…………」
「くくくく……」
フリーレンが近づく。
「何?」
「俺を」
男型魔族が苦しそうに笑う。
「倒していいのかな?」
フリーレンの足が止まる。
「どういうこと?」
「この空間」
男型魔族が言う。
「俺の魔力で作られている」
「…………」
フェルンがわずかに眉を動かす。
「だから」
男型魔族が笑う。
「俺が消滅したら、その瞬間、この空間も消滅する!」
勝ち誇る。
「分かるか!」
「…………」
「貴様達もこの空間と一緒に」
笑う。
「消滅するのだ!」
沈黙。
そして、フリーレン。
「言いたいことは」
杖を向ける。
「それだけ?」
「…………」
男型魔族が固まる。
「な」
「ゾルトラーク」
「待っ――!」
光。
直撃。
「な……!」
男型魔族の身体が崩れる。
「なぜだ……」
理解できない。
「なぜ……」
魔力の粒子。
最後に。
「死ぬぞ……」
そして、完全に消滅。
静寂。
「…………」
フェルンが周囲を見る。
空間は消えない。
フリーレンが言う。
「ほら、消滅なんてしないじゃない」
フェルンが少し呆れたように言う。
「やはり嘘だったのですね」
「うん」
「最初から分かっていたのですか?」
「大体ね」
フリーレンは周囲を見る。
二つの世界を繋ぐ、巨大な歪み。
「この空間、一体の魔族が作れるようなものじゃない」
「やはり」
「うん」
「さっきの魔族たちは」
フェルンが考える。
「この空間を利用していただけですか」
「多分ね」
「では」
フェルンが空間の奥を見る。
「まだ」
「うん」
フリーレンも同じ方向。
二体の魔族は、恐らく、この空間そのものの主ではない。
フリーレンは、男型魔族が消えた場所へ一瞬だけ目を向ける。
「最後まで魔族らしかったね」
「嘘をついて生き残ろうとしたことですか?」
「うん」
「フリーレン様には通じませんでしたね」
「何度も見てきたから」
「そうですよね」
そして、フリーレンは杖を持ち直す。
「フェルン」
「はい」
「まだ終わってないよ」
「はい」
「ここを閉じる方法探しましょう」
二人は、空間の奥へ歩き始める。
敵は倒した。
だが、本当の目的は、猫猫達のいる世界を守ること。
そのためには、この巨大な歪みを完全に閉じなければならない。
二人はさらに進んでいった。