薬屋と魔法使いのひとりごと   作:晴天人

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第7話:遠い西方で押し通す!

こうして、フリーレンとフェルンの身分については――

楼蘭妃が招いた、遠い西方からの客人。

ということで処理することになった。

もちろん、かなり無理がある。

二人の服装が見慣れない?

――遠い西方の服装だから。

二人の髪や容姿が珍しい?

――遠い西方の出身だから。

フリーレンの耳が明らかに長い?

――西方のさらに遠い地域には、そういう特徴を持つ少数の種族がいるから。

魔法を使う?

――遠い西方諸国の、ごく一部の者だけに伝わる神秘の秘法だから。

何でもかんでも「遠い西方」である。

猫猫は思った。

(便利だな、遠い西方)

実際、距離があまりにも離れてしまえば、簡単に確かめることなどできない。

しかも楼蘭妃自身が招いた客ということにする。

少々妙なところがあっても、

「楼蘭妃だから」

で押し切れる部分もある。

楼蘭は以前から、帝を驚かせるような趣向を凝らした献上品を用意することがあった。

今回もその延長――ということにした。

強引。非常に強引。

だが、それで押し通すしかない。

そして、そういうことになれば当然――

「帝に挨拶してもらう」

壬氏が言った。

「帝……」

フェルンの表情が強張った。

「この国で一番偉い人ですよね」

「ああ」

「私、緊張します」

フェルンは明らかに落ち着かない。

その横でフリーレンは平然としていた。

「ようは王様だよね」

「そういう認識で構わない」

「なら大丈夫だよ」

「フリーレン様は緊張しないのですか?」

「何度か王様には会ったことあるから」

「…………」

フェルンは思った。

そうだった。

普段は朝も起きられないし、放っておけばいつまでも魔導書を探しているし、変な魔法を集めることに夢中になる。

だが、この人は勇者ヒンメルたちと共に旅をした大魔法使いなのだ。

各地の王侯貴族と会った経験も当然ある。

こういうときだけは妙に頼もしい。

「まあ」

楼蘭が笑った。

「教えたとおりにすれば大丈夫だから」

「はい」

フェルンは頷いた。

「フリーレンもね」

「分かってるよ」

「本当に?」

「信用ないなあ」

「フリーレン様」

「何?」

「変なことを言わないでくださいね」

「言わないよ」

壬氏は頭を押さえた。

「頼むから、帝の御前では普通にしてくれ……」

この数日で、壬氏は妙に疲れていた。

そして――

帝への拝謁。

楼蘭と壬氏に伴われ、フリーレンとフェルンは帝の前へ出た。

猫猫は少し離れたところに控えている。

帝は二人を見た。

さすがに、その表情に驚きが浮かぶ。

まず衣服。

明らかにこの国のものではない。

次にフェルン。

紫色の長い髪は非常に珍しい。

そして――

フリーレン。

銀色の髪。何より、その長い耳。

帝の視線が一瞬、そこで止まった。

しかし、そこは一国を治める帝である。すぐに平静を取り戻した。

フリーレンは、事前に教えられたとおりに礼を取った。

「フリーレンと申します」

普段の少し気の抜けた様子とは違う、落ち着いた、礼儀正しい態度だった。

「此度は無礼ながら突然の訪問となりましたこと、お許しください」

猫猫が少し驚く。

(ちゃんとできるんだな)

隣ではフェルンも丁寧に頭を下げる。

「フェルンと申します。師のフリーレンと共に、勉学のために参りました」

「うむ」

帝は二人を見ながら頷いた。

「遠路はるばる、よくぞ参った」

まずは無難に始まった。

帝は二人の故郷について尋ねる。

当然、ここからは打ち合わせ通りだ。

遠い西方。

さらにその向こう。

容易には行き来できないほど離れた土地。

嘘をついているようで、完全な嘘でもない。

何しろ、本当に容易には行き来できない。

というより、今のところ帰り方すら分からない。

「そなた達の国は、どのようなところなのだ?」

帝が尋ねる。

フリーレンは少し考えた。

ここで魔物や魔族の話をするわけにはいかない。

「そうですね……自然が多くて、色々な国や町があります」

「一つの国ではないのか?」

「はい。私達も旅をして色々な土地を巡っていました」

「ほう、旅を」

帝は興味を示す。

フェルンが続けた。

「地域によって文化も食事も大きく異なります。技術や学問についても、こちらとは違うものがあると思います」

「なるほど」

壬氏がそこで口を挟む。

「二人は遠き国々を旅しております。そのため、我が国にはない知識も多く持っているようです」

「ほう」

帝の目が少し変わった。

為政者として興味を持ったらしい。

楼蘭も続ける。

「特にフリーレンは、様々な土地を巡っておりますので、とても物知りですわ」

「そうなのか?」

帝がフリーレンを見る。

「まあ、それなりには」

フリーレンが答える。

フェルンは思った。

(千年以上生きていますからね)

もちろん、それは言わない。

フリーレンが千年以上生きているという事実は、伏せることになっている。

ただでさえ、

遠い西方から来た謎の魔法使い

なのである。

そこへ、

実は千年以上生きています

まで加えれば、収拾がつかなくなる。

帝がフリーレンの耳を見る。

「ところで」

来た、壬氏が思った。

「そなたの耳は、随分と珍しい形をしているな」

「はい」

フリーレンは落ち着いて答える。

「私と同じ特徴を持つ者は、私の故郷にもいます」

「多いのか?」

「いえ。少数ですね」

これは事実である。エルフ自体が極めて少ない。

「なるほど」

帝は興味深そうにフリーレンを見る。

「世界とは広いものだな」

異国には自分たちの知らない民族がいる、そういう理解をしたらしい。

壬氏は内心で安堵する。

(なんとか通ったか……)

もちろん、いずれ帝には真実を話す必要があるかもしれない。

だが今はまだ状況が分からなすぎる。

まずは二人を安全な立場に置くことが先決だった。

帝はさらにいくつか質問した。

二人が旅してきた土地。

食べ物。

生活。

学問。

魔法については「西方に伝わる秘法」として説明する。

「それほど珍しい技を持つのなら、いずれ余にも見せてもらいたいものだ」

帝が言う。

「もちろんです」

フリーレンが答えた。

フェルンは少し不安になった。

(フリーレン様、何を見せるつもりでしょう)

そんなことを考えていると――

フェルンは、帝の視線が自分へ向いていることに気付いた。

「……?」

何だろう。

帝が妙に興味深そうにこちらを見ている。

顔?

髪?

服?

フェルンは少し居心地が悪くなった。

帝の視線が――ほんの少し下へ。

「…………」

壬氏が気付いた。

「ゴホン!」

かなりわざとらしい咳払い。

帝が我に返る。

「……うむ」

何事もなかったように姿勢を正した。

猫猫は少し離れたところからそれを見ていた。

(……帝相変わらずだな)

と不敬なことを考えている。

楼蘭は笑いを堪えている。

フェルンだけが分かっていない。

「?」

首を傾げる。

ともあれ、拝謁そのものは、何事もなく終了した。

帝は二人を楼蘭の客人として後宮に滞在させることを認めた。

「遠き国から来た客人だ。滞在中は不自由のないように」

「ありがとうございます」

フリーレンとフェルンが頭を下げる。

こうして二人は退出した。

廊下へ出て、フェルンは緊張から解放されたように息を吐いた。

「疲れました……」

「ちゃんとできてたよ」

フリーレンが言う。

「フリーレン様も意外とちゃんとしていましたね」

「意外とは何」

「普段を考えるとです」

「ひどい」

その後ろから壬氏も出てくる。

そこでフェルンは、先ほどから気になっていたことを尋ねた。

「あの、壬氏様」

「何だ?」

「一つ聞いてもよろしいでしょうか」

「ああ」

「帝は、どうして途中から私を興味深そうに見ていたのでしょうか?」

「…………」

壬氏が止まった。

猫猫も止まった。

楼蘭はニヤッとした。

フリーレンはフェルンを見る。

「そういえば見てたね」

「ですよね」

フェルンは真面目な顔で続ける。

「私の髪でしょうか?」

「いや……」

「服?」

「いや……」

「では何でしょう?」

「…………」

壬氏が答えに窮する。

猫猫は助ける気がない。

楼蘭は明らかに面白がっている。

「壬氏様?」

「いや、その……」

「はい」

「帝は……」

「はい」

「その……大きいのを好まれるから……」

「大きい?」

フェルンが首を傾げる。

「何がです?」

「…………」

壬氏は目を逸らした。

「まあ……気にしなくていい」

「?」

フェルンには分からない。

「大きい……?」

自分を見る。

「背丈でしょうか?」

「違うと思うよ」

フリーレンが言う。

「では何でしょう」

「さあ」

フリーレンも分かっていない。

猫猫がぼそっと言った。

「知らない方が幸せなこともある」

「猫猫様?」

楼蘭はついに堪えきれず、くすくす笑い始めた。

「フェルン、そのうち分かるかもしれないわよ」

「何の話ですか?」

「気にしない、気にしない」

「……?」

フェルンはますます分からない。

フリーレンも一緒になって首を傾げている。

壬氏は頭を抱えた。

猫猫は半眼になった。

楼蘭だけが楽しそうだった。

こうして――多少どころか相当に強引ではあったものの、異世界からやって来た二人の魔法使いは、遠い西方から楼蘭妃を訪ねてきた、珍しい秘術を操る客、として正式に後宮へ滞在することになったのであった。

 

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