あ、サブタイトルはサンボマスターです 聞こう!
俺の視界いっぱいに広がっている筈だった夜空を、エプロンドレスの美少女が覆い隠していた。
逆さまにひっくり返って浮遊しながら。
「…………は?」
ベランダなんだぜ、ここ。
都心部、見下ろせば夜中だってのに人がちらほら出歩いてるような通り沿いのマンションの六階、その一室の。
スマホに表示されてた時刻は確か、さっき見たときは深夜三時だった。だけど、冷蔵庫から取り出したばかりの甘い缶コーヒーで頭は冴えていたから、寝惚けてはなかったはずだ。
眠気ひとつない頭で処理できた情報は、彼女がどっからどう見ても宙に浮いていること、メイド服を着込んだ美少女であること、なぜか見るからに百均っぽいサンダルを裸足に突っかけていたことまでだった。
そこまででパンクした。
見惚れたんだ。
サンダルを空中にふんわり放って、目の前に投げ出されたその素足に。
いや、だってさぁ。
綺麗なんだよ。
太陽も大地も知らないような無垢な白さだった。爪はほんのり桜色で、柔い肉付きの指は甘やかで、空を蹴るみたいに伸ばした甲には靭やかな腱が張っていた。その窪みに、骨の凹凸に、反射光が薄い影を作る。バスタブで洗うように滴る月の雫が、艶めく踵を、薄くも瑞々しいふくらはぎを伝い落ちていく。長いエプロンドレスの裾が風に膨らんで柔い太腿を蠱惑的に覗かせている。
女神の脚だった。
日頃すれ違うクラスメイトたち、たまにテレビやネットで見かけるアイドル、ちょっとそういう目で見ることは憚られる懸命にスポーツへ励む競技者の方々、その他これまでのまだ浅い知見の及ぶ限りの全てを差し置いて、一番の美脚だった。
美少女星人とかそういう生まれつき黄金比で構成されてる存在でもなきゃおかしいくらいの御御足だった。
無重力空間に漂う美少女星人がくるりんとひっくり返る。ああ、脚が見えにくく……いや改めて見ると顔も良い。すげー、いるもんだな。幻覚じゃなきゃだけど。
目が合う。ゆっくり音もなくスライドしてきて目と鼻の先まで顔を近付けてきた。
俺はもう意味がわかんなくて固まりっぱなしだった。わかるかな。夢の中にいるときの、動いてるつもりの自分も含めた全部がゲームのムービーみたいに流れていくあの感じ。
ただ目の前の美少女を眺めているばかりだった。かち合う視線の深くまで、じっとつぶさに見つめていられた。
少し厚ぼったい眠そうな二重瞼を持ち上げた奥の瞳には、透き通った好奇心だけが仄明るく浮かんでいる。曲がりなりにも深夜に野郎と顔を突き合わせているとは思えない無警戒さだった。
「何見てるんだろ……ふふ、ちょいっ、ちょいちょいっ」
御御足と同じ白い両手をこちらに伸ばしては、顔に触れるか触れないかのところでパッと引っ込めることを繰り返す。幼児みたいだ。傍若無人っていうか、自分が見られてるなんて少しも思っちゃういないような態度だった。
俺が今この娘に手を伸ばしたりしたらどうなるんだ?
結局、ちっとも動けないままだったけど。
彼女はまたくるりんとひっくり返った。ワイヤーなんか吊りようもない空中で自在に遊ぶ無邪気な裸足がまた俺の前に曝け出される。
その爪先に引っ掛かっていた、もう一方のサンダルもすっぽ抜けた。
月が三つになった。
風が吹いて、美少女の長い髪が棚引いて、エプロンドレスの裾が丸まって、サンダルはいつまでも落ちてこなかった。
でも、呆けっぱなしの俺の手からすっぽ抜けた缶コーヒーは浮いてくれなかった。
「あ」
「わっ……!?」
それを美少女星人は追いかけようとして、だけどあっさり落下して派手な音を立てた缶にびくっと身を竦めるだけだった。
それから気まずそうに俺をちらりと見て、そそくさ身を翻し飛び去っていった。
去り際に垣間見えた、ふくらはぎから膝裏を過ぎて腿をなぞる緩やかなSラインが眩むほど焼き付いていた。
第六感の時空が歪む。
慣れ親しんだ眩暈と頭痛。
「
「あー……」
終業式が終わって教室に着いた途端、クラスメイトに声を掛けられた。
両肩にズシンと重みが乗る。大注目ではない、でも大声のせいで細やかながら意識はされて、塵も積もれば何とやらだ。
面倒だな。夏休みに入るのに打ち上げも何もねえだろ。
傾くような感覚によろめきそうになりつつ、どうにか苦笑いを浮かべた。
「バイトがあるから──」
重量が増す。教室の重心がこっちにズレて、却ってバランスが取りやすくなった。
あー。さては、人数足りてないな。声かけて回ってるけど集まってないから引っ込みつかない感じか? 自惚れかもだけど俺を餌にしてくれるな。
……はあ。
「──いられても二時までだな。カラオケって駅前のとこか?」
「お前も一瞬系かよ! とりあえず、一応現地集合な。ホームルーム終わったら流れで」
「オッケー。出欠とか取ってる?」
「スタンプ押しといて!」
「ういー」
長居できるやついないなら解散しろよ。
まあいいや。義理は果たしただろ。
足許の傾き感は薄れたけど肩の重みは増した。変な注目浴びたせい……いや、違うか。押されてる感じがする。自分の席へ近づくにつれて増していくじんわりとした圧。隣の女子から放たれている斥力に耐えながら着席した。
「アラっち大丈夫? 顔色びみょいよ」
「ちょっと寝不足かもってだけだよ。……悪いね」
「はー……ま、いいよ。ほどほどにね?」
窓際席の
それに美少女だ。俺がカラオケに来るかどうか気にされてた理由のひとつは彼女と比較的よく話すからっていうのもあるだろう、ってくらいには。
「毎日テスト返却だったら楽なのになー」
「じゃあ毎週くらいでテストじゃんかよ」
「あははは! ウケる」
ウケてなさそうだが、一欠片でもバレたら即セクハラな思考はバレてないらしい。
バレてたら
きちんと目を見て雑談タイム。細かいコミュニケーションがクラスでの立場を作るのだ。
「奥林さんはカラオケ来る?」
「アタシ? ないない、バイトだもん」
「確か……喫茶店だっけ。いいなあ、コンビニ辞めたいわ」
「いいっしょー。制服ちょー可愛いの。メイド服」
「俺も美少女だったら一緒に働きたかったな」
「アラっちも来なよー、男子のはふつーにエプロンだけど」
「ちょいアリ」
正直本当にそっちで働きたいんだけども。コンビニはひとつひとつなら難しくないけどやることの数が多すぎるし、同僚との関係がちょっと……若干……やや大変だし。それに地毛黒髪の飾り気薄めな白ギャルとかいう一周回ってレアな属性にメイド服まで付く特盛具合が普通に気になる。
なんならこの後のカラオケより奥林さんのバ先の方が百倍行きたいが、もう約束しちゃったしな。
「アラっちはカラオケ行っちゃうんだ」
「夏前の最後くらいはな。どうせすぐ文化祭準備で顔合わせるけど」
「それね。アタシもそっちの予定は空けてんだけど、今日はなー」
「バイト入っているならしゃーないだろ」
「アラっちは来るじゃん」
「まあ……」
なんか責められてる気がしてきた。
気の所為だと思いたいが、違う。
心配という干渉。斥力の正体。
「アラっちさ、付き合い良すぎだって。断って良かったっしょ」
「……そうかもな」
苦笑い、を作る。
普通に考えればその通り。でも俺にとっては、ただ重荷を未来の自分へ押し付けるだけでしかない。後で苦しむよりは少しでも小分けにしたいから、こうするしかないのだ。
「さあ! 悪いけどホームルームだけやらせてもらうよ! サクッと終わらせたいから聞いてねー」
「……だってさ」
「むぅ……」
担任が戻ってきたのを言い訳に引き下がってもらった。
奥林さんは見た目は好みだし優しくて明るいしとても良い友人だが、俺には
────いや、彼女だけじゃない。
クラスメイトが着席していくにつれ軽くなる──代わりに、担任のいる教壇へ強い傾きを感じる。滑り落ちていきそうな錯覚は勘違いだと言い聞かせるために、俺は机に下げていた鞄を掴んだ。
慣れ親しんだ眩暈と頭痛。
第六感の時空が歪む。
他人の向け合う関心を重力として捉える力が、俺には備わっていた。
好意でも嫌悪でも、同じ程度の強さなら重みは変わらない。肝心なのは多寡の方だ。ひとりあたりの関心は些細であっても、クラスひとつ分の注目が集まれば身が軋みそうなくらいになる。
厄介なのは、感じ取るのが自分に掛かる関心に留まらないことだ。他人が注目されていれば、今度はその人を重心として傾きとして察知してしまう。平衡感覚が崩れるだけじゃなくて現実の重力感との食い違いもあるから、酷いときは本当に立っていられない。
今もそうだ。教室が九十度傾いて先生のいる教壇へと滑り落ちていきそうなデタラメの浮遊感と、正しく椅子に腰を下ろしていられる垂直の引力でベクトルが狂って、脳味噌がぐちゃぐちゃに回っている。
…………あ、急に軽、く、
「じゃあ解散! また夏休み明……うわぁ!? どうした川室!?」
「なんでもないでーす……」
前へ落ちていく感覚に逆らっていたら椅子ごとひっくり返った。ホームルーム終了でみんなの意識が逸れて、教壇にあった重心が消えたせいだ。挙句に目立って重い。圧力差で吐きそう。
「い、ってて……」
「アラっち、マジで大丈夫……?」
「脚……」
「へ?」
「あざっす、って言った」
いかん、真横に脚が来たから見上げそうになった。スカートの中身には別に興味ないんだが、半膜様筋あたりのラインはつい目で追いそうになる。起き上がるために俯いてなかったらシバかれてただろうな。
加重がないので気付かれてなさそう。ヨシ。差し伸べられた手をありがたく取った。
「バイト行けんの?」
「……バイトは行くけど。カラオケは休もっかな」
「そうしな!」
こんな派手にやらかしたのなんざいつ振りだろうな。小学生以来とかじゃないか。やっぱ昨日の寝つきが悪かったせい……いや、こんなこと考えてる場合でもないな。
危うくぶつかりそうだった後ろの席へ振り返って謝ろう──と、して。
「ごめんごめん、驚かせた……」
あれ。
既に、誰もいなかった。
「……奥林さん。俺の後ろの席って」
「え? ……あー、いないね。てか頭とか打たなかった? 平気?」
「心配しすぎでしょうよ。いや、そうじゃなくて……誰だったっけ」
「誰って、だからいないよ」
「……そうだっけ」
後ろの席────窓際から二列目、最後尾。
クラス名簿は文化祭の班決めで最近見たし、そもそも悪目立ちを避けるために一応みんなと関わってるから、知らないなんてことはないはずなんだが。
……本当にいない? そんなことあるか? だったら普通は席を片付けるだろうに。
────
「どしたの、そんなこと気にして」
「……ちょっと、そうだな。マジで疲れてるかも」
「でしょ! アラっちいつも眠そうってか、隈できてんもん。夏休みなんだから休みなって!」
「ぐえっ」
重っ……おい! いやもう無理だ抵抗する気にもなれねえ……!
鞄を押し付けられてグイグイ背中を押され、半ば、ってか完全に教室を追い出された。準備終えてたからいいが、俺がまだ鞄に何も入れてなかったらどうする気だったんだ。
「バイバイ! また準備日にね!」と手を振られ、体中が軋む錯覚を背負いながらドアの前を離れた。どうにか、手を振り返しつつ。
疲れた……なんて、言っちゃいけないな。
「……生まれつきなんだし、いい加減慣れろよ。まったく……」
俺は悪くないって開き直れるなら楽だったんだが、このせいで酷い迷惑をかけたことだってあるから被害者面ばかりしていられなかった。結局は上手く折り合いつけて行くしかない。
歩き出した。
他人を避けるために。
人混みの方が注目が分散してマシになるのはわかってるが、それでも今は、誰もいない場所に行きたかった。クラスの打ち上げに付き合わないなら、時間も暇も余っている。
途中、特別教室棟が窓の向こうに見えた。吹部のウォーミングアップや軽音部の練習している音が聞こえる。
白い校舎の隣に、白い入道雲が並んでいる。白い白南風が流れて行く。
白い少女が、飛んでいる。
「…………は」
参ってんのかな。
思えば、昨日の夜からおかしかった。
いくら日頃ストレスの重みに耐えかねてるからって理想の美少女を夢に見るとか、求めてる救いが即物的っつーか俗物的っつーか。なんか情けなかったもんな。
ただ──朝、学校に行こうとしてマンションを出たとき。
夢の中で落とした缶コーヒーがそこに、確かに転がっていたのも事実だった。
「どこまで夢だったんだか」
どこまでも何も全部に決まってるだろ。
決まってるのに、踵を返した。
白い校舎。白い入道雲。白い白南風。見間違いだったのか、白い少女は綺麗さっぱり消えている。
それでも特別教室棟の屋上を目指した。
『プロヴァンスの風』のフレーズとサンボマスターが入り混じって届く。渡り廊下の明かりは落とされて日陰になっている。校舎内をぶらついている間に部活に行くなり帰るなりしたのか人の気配もない。浮いてしまいそうなくらいに足取りが軽くなっていく。
四階の突き当たりから少し作りの違う階段を登って、鍵のかかっていない──どうにも壊れていてきちんと施錠できないらしいドアを開けた。
何度か、来た事があった。
絵に描いたような屋上だ。そこそこ広くて、昔はテラスみたいに使ってたのか柵とベンチがあって、振り返ると今し方出てきたドアの収まった塔屋がある。これが結構大きくて給水塔も兼ねているらしく、上に貯水槽が鎮座していた。
塔屋に登る梯子は向かいの一般教室棟に面してるから、タイミングが悪いと見咎められる。それは面白くないって誰か悪い先輩が考えたのか、その更に上、貯水槽自体へ登るための梯子に結ぶ形でロープが垂れ下がっていた。こいつで校舎から見えない角度から上に登れる。
そして、俺もこっそり悪いヤツだった。
「よっ、と……いやめちゃくちゃ危ねえよな」
屋根に腰掛けて空を仰いだ。校舎から見えない角度ってつまり端の方だからな。飛び降りようと思えば飛べちゃうんだこれが。
まあ飛ぶったって、第三宇宙速度とか出せる訳じゃないから気休めだけど。飛ぼうと思えば飛べるっていう事実が大切だった。
終わりにしたければいつでも終われる。本物の重力が、俺の頭の中の地球を歪める偽物を木っ端微塵にしてくれる。その確信と、何にもないくせに一丁前に感じる根源的な死への恐怖が、俺をまだ地表に縛り付けていた。
「はー……バイト、夏休みで辞めちまうかな」
気の抜けるあまり、そんなことを思った。暇があるとうっかり魔が差して終わりへダイブしかねないから用事を入れてるだけで、親の仕送りで充分暮らせてるんだよな。もちろん貯金は貯まらないし、仕送りがある限り親元からは逃げられないが……いよいよとなれば、って考えがある限り、将来をまともに考える気になれないのも事実だった。
いつでも、なんて。
そんな度胸は無いのにな。
「……ん?」
流れて行く雲からちぎれた、何か白いものが、ふわふわと漂っていた。
それは水槽にインクを垂らすように、徐々にピントが合うように、曖昧なイメージが像を結ぶように、ゆっくりと鮮明になっていく。
眠気はなかった。
はっきりと意識があった。
なのに、確かに見えた。
俺の視界いっぱいに広がっている筈だった青空を、セーラー服姿の美少女が覆い隠していた。
逆さまにひっくり返って浮遊しながら。
「…………は?」
眠気ひとつない頭で処理できた情報は、彼女がどっからどう見ても宙に浮いていること、セーラー服を着込んだ美少女であること、なぜか見るからに百均っぽいサンダルを裸足に突っかけていたこと────それが、夢の中で見た少女であること。
なんとか理解した目の前の光景が俺の脳味噌を派手にスパークさせた。ざっと百万回はフラッシュバックした。砂漠のオアシスに飛び込んだ。今なら聖職者の思いがわかる気がした。
手を伸ばせば届きそうな近さまで天地逆転で降りてくる少女の脚は真夏の太陽に照らされて神々しくすらあった。深く澄んだ青空に対比して輝く白い脚は焼け付くことを知らない涼やかさだった。波色のスカートをはためかせる膝が風の姿をしていた。小さな踵へ向かって艶かしい弧を描いていくふくらはぎ、艶やかに照り返す小さな踵。
女神の脚だった。
生唾どころか息を呑んだ。
え?
なんだ?
もしかして今際の際か?
「……あれ?」
丸い鈴みたいな声が響いた。夢の中でも見たびっくりするくらい綺麗な顔が無遠慮に近づいてきて、興味深そうに覗き込んでくる。幅広な平行の二重瞼に収まった瞳はレイリー散乱した光を反射して、大気圏の空みたいな色をしていた。
ますます天の迎えみたいな気がしてきた。
だってさ。
これだけまじまじ見つめられてるのに、少しも重くない────どころか。
体を忘れて、心すら忘れて、無重力だった。
だから。
「……やっぱり。この人、きの──」
「うわっ」
「ひゃん……!?」
一層ぐっと顔を近づけてきたことに驚いて反射的に身を引いた俺は、バランスを取り損ねて。
柵の向こう側に落ちた。
「……あ」
死んだ。
掴もうと思えば掴めたかもしれないのに、突然のことに身が竦んだ一瞬の隙をついて諦めが俺を乗っ取っていた。
生まれてからほとんどずっと無理して、どうせ自分で終わらせる勇気なんか出なかっただろうから、ああ、マジでお迎えだったのかもな。
ふっと浮遊感を感じた。
生まれて初めて軽くなった。
屋上が瞬く間に遠ざかる。美少女は、俺を見て泡喰った顔してた。悪いことしたな────
「────アラっち?」
逆さまの廊下で。
奥林さんと、目が、合っ、
「────せ、セーフ……!」
「ぎ、っ!?」
水中、みたいな気分だ。
見上げると花壇があった。向日葵畑、って呼ぶにはちょっとショボい具合の花壇が真上にあって、手を伸ばしたらギリギリ届いた。花弁の湿った手触りが嫌にリアルだ。
え?
……ん? 死んだ?
いや、死んでないのか?
無重力のまま空を見下ろすと、あの美少女が俺の足首を頑張って両手で捕まえていた。
素足の部分を握り締めるその手はあんまり力強くなくて、だけど、温かかった。
何秒か何分かわからないがたっぷり時間を掛けて寝かすみたいに着地させられると、依然として宙に浮かぶ美少女星人を、今度こそ空の方向へ見上げる形になった。
「び、び、びび、びっくりした……! なんで落っこちちゃうの、なんでよりによってあんな、私の目の前で落っこちるの……!」
……なんでって。それは。
「あんな近付かれたらびっくりするだろ……」
「……え?」
「当たり前だろ……当たり前か? いや、うーん……?」
非現実的な美少女星人に手を伸ばしてみた。やけにおっかなびっくり応えた彼女の手が、触れる。触れた。握れた。引っ張られるままふよふよ着地して、白い素足が土に汚れた。
物理的に、実体が、実在してる。
「あの」
「……は、はい」
「……生きた人間だったりする?」
「い、生きてます……」
彼女の格好はセーラー服だ。それは、この学校の女子の制服だ。青いリボンは二年生の証。胸元のポケットにはBのピンバッジ──俺と、同じクラス。
以前見たクラス名簿にあった名前を、とても簡単に、当然に、思い出せた。
「
「ひん……よ、よりによって……同じクラスの人……!」
恥ずかしそうに顔を覆う彼女の頭上に、何かがふんわり降りてきていた。
さっきまで御御足に引っかかっていたはずの安っぽい百均サンダルが、重力を忘れたみたいに宙を漂っていた。