星の泉の残照 —The Last Line of Defense— 作:モッチー7
デデデ城へ戻ったデデデ大王は、即座に城の地下深くにある秘密の書庫へと向かった。
普段は歴史や学問などに見向きもしない彼だが、今回ばかりはそうも言っていられなかった。ナイトメアの結界を打ち破り、奴を夢の泉から追い出す方法を見つけなければならない。
「これでもない、あれでもない! くそっ、使えん本ばかり置きやがって!」
古い羊皮紙の書物を次々と投げ捨てるデデデ。
その背後で、バンダナワドルディが心配そうに様子を伺っていた。
「大王様、そんなに根を詰めては体に障ります。やはり、あの新入りの……メタナイト卿や、ほかの強者たちに助力を頼んではいかがでしょう?」
その提案に、デデデはピクリと動きを止めた。
そして、ゆっくりと振り返ると、バンダナワドルディを鋭い眼光で威圧した。
「馬鹿野郎。これはオレ様の国だ。オレ様が解決しなくてどうする。それに、あの仮面野郎(メタナイト)に弱みを見せるなど、死んでも御免だ。奴は信用ならん」
デデデの言葉には、頑固なまでの自負があった。
他者を頼ることは、己が「王」として未熟であると認めることに等しい。特に、最近プププランドに現れ、独自の騎士団を率いるメタナイトに対しては、強い対抗心を抱いていた。
「……見つけたぞ」
デデデの手が、一冊の古びた革表紙の本で止まった。
そこには、夢の泉とスターロッドの起源、そしてそれらが放つ「星の力」の性質について記されていた。
「スターロッドは、宇宙の始原の光を集めて作られた聖遺物。その光は、いかなる闇をも浄化する……だが、ロッド自体が闇に侵蝕されている現状では、その真の力を引き出すことはできない。ただし――」
デデデは頁の文字を指でなぞる。
「『星の力を宿せし者が、己の生命力を以てロッドと同調する時、一時的にその封印を解くことができる。しかし、それは術者の精神を著しく摩耗させる諸刃の剣である』……か」
「大王様、それは危険すぎます!」
バンダナワドルディが必死に叫んだ。
「その『星の力を宿せし者』って、大王様のことじゃないですか! そんなことをしたら、大王様の命が……!」
「フン、オレ様を誰だと思っていやがる。この程度のことでくたばるタマかよ」
デデデは鼻で笑い、ハンマーを強く握り直した。
だが、その心中は決して穏やかではなかった。先ほどの戦闘で感じた、ナイトメアの闇の深さは底が知れない。己の精神がどこまで耐えられるか、確証はなかった。
その時、城の外から凄まじい悲鳴が響き渡った。
「キャーーーーっ!」
「助けて! 夢が……夢が僕たちを喰べる!」
デデデは窓へ駆け寄り、外を見た。
すでに日は沈み、夜が訪れていたが、その夜空は異常だった。
星の光は完全に掻き消え、紫と黒の混ざり合った「悪夢の雲」が空を覆い尽くしている。そして、地上では住人たちが頭を抱えて狂乱していた。
彼らの影が、持ち主の意思を離れて巨大化し、怪物のような形状へと変化して住人たちを襲っているのだ。ナイトメアの魔力が、夢の泉を越えてプププランド全域に溢れ出していた。
「もう時間がねえな……」
デデデは静かに呟いた。
「バンダナワドルディ。お前に最後の命令だ」
「は、はい……!」
「城の全ての防壁を閉じろ。住人たちをできるだけ中に避難させろ。オレ様が戻るまで、ここを絶対に死守するんだ。いいな」
「大王様……。ご武運を!」
バンダナワドルディは涙を堪えながら、深く一礼した。
デデデは再び、漆黒の夜空へと飛び立った。
向かう先は、邪悪な紫の光を放つ夢の泉。
風は冷たく、彼の羽毛を激しく濡らす。空中にもナイトメアが放った悪夢の眷属――コックンやゴーストのような異形の影――が群がってきたが、デデデはハンマーを大回転させ、それらを強引に打ち砕きながら進んだ。
「退け! 退けぇいッ!」
邪魔立てする影を蹴散らし、デデデは再び夢の泉の地へと降り立った。
泉の周囲の木々はすべて枯れ果て、美しい結晶の池は、今や沸き立つ黒い泥の沼と化していた。その中央で、スターロッドは完全に黒い茨のような霧に囚われ、いまにも光が絶えようとしている。
『また来たか、愚かなる王よ』
霧の中から、ナイトメアウィザードが姿を現した。
その姿は、昼間よりも確実に巨大化し、その魔力は数倍に膨れ上がっているように感じられた。
『見よ、この美しき絶望の世界を。住人たちの恐怖が、我が血肉となり、我が力となる。お前がどれだけ抗おうと、この流れは止められぬ』
「黙れ、ペテン師め!」
デデデはハンマーを構え、己の体内のエネルギーを集中させた。
本に書かれていた通り、己の「星の力(生命力)」を呼び覚ます。プププランドの王として、長年この国の恵みを受けてきたデデデの身体には、強大な星のエネルギーが眠っている。
「おおおおおおお……!」
デデデの全身から、青白いまばゆいオーラが吹き出した。
その光は、周囲の闇を一時的に押し返すほどに強烈だった。
『ほう……? 単なる俗物かと思ったが、それほどの輝きを秘めていたとはな。だが、それは己の命を削る愚行だぞ』
「うるさいと言っているのが聞こえんのか!」
デデデは突撃した。
生命のオーラを纏ったハンマーが、再びナイトメアの結界へと炸裂する。
ドガゴォォォン!!!
激しい光と闇の衝突。
今回は、ナイトメアの結界に明確な「亀裂」が入った。
『チッ……!』
「破れぇぇぇいッ!!」
デデデがさらに力を込めると、結界がガラスのように粉々に砕け散った。その勢いのまま、ハンマーの頭がナイトメアの胴体を捉える。
ズガァン!
ナイトメアの身体が大きくよろめき、黒い霧が霧散した。
確かな手応え。しかし、デデデの身体にも、凄まじい反動が襲いかかった。心臓が激しく脈打ち、口から大量の血が噴き出す。視界が一時的に真っ白になった。
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
『ククク……見事だ。だが、その一撃のために、どれほどの命を支払った?』
ナイトメアはすぐに体勢を立て直し、不気味に微笑んだ。
傷は一瞬で修復されていく。この空間全体が奴の味方なのだ。
『我は不死身の悪夢。お前の命が尽きるのが先か、我が世界が完成するのが先か……試してみるか?』
ナイトメアの両手が怪しく光り、無数の闇の弾丸がデデデを目がけて放たれた。デデデは痛む身体を鼓舞し、必死の猛攻を開始する。それは、自身の命を極限まで燃やし尽くす、壮絶な消耗戦の幕開けだった。