星の泉の残照 —The Last Line of Defense—   作:モッチー7

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第2話:星の王冠、昏き侵蝕

デデデ城へ戻ったデデデ大王は、即座に城の地下深くにある秘密の書庫へと向かった。

普段は歴史や学問などに見向きもしない彼だが、今回ばかりはそうも言っていられなかった。ナイトメアの結界を打ち破り、奴を夢の泉から追い出す方法を見つけなければならない。

「これでもない、あれでもない! くそっ、使えん本ばかり置きやがって!」

古い羊皮紙の書物を次々と投げ捨てるデデデ。

その背後で、バンダナワドルディが心配そうに様子を伺っていた。

「大王様、そんなに根を詰めては体に障ります。やはり、あの新入りの……メタナイト卿や、ほかの強者たちに助力を頼んではいかがでしょう?」

その提案に、デデデはピクリと動きを止めた。

そして、ゆっくりと振り返ると、バンダナワドルディを鋭い眼光で威圧した。

「馬鹿野郎。これはオレ様の国だ。オレ様が解決しなくてどうする。それに、あの仮面野郎(メタナイト)に弱みを見せるなど、死んでも御免だ。奴は信用ならん」

デデデの言葉には、頑固なまでの自負があった。

他者を頼ることは、己が「王」として未熟であると認めることに等しい。特に、最近プププランドに現れ、独自の騎士団を率いるメタナイトに対しては、強い対抗心を抱いていた。

「……見つけたぞ」

デデデの手が、一冊の古びた革表紙の本で止まった。

そこには、夢の泉とスターロッドの起源、そしてそれらが放つ「星の力」の性質について記されていた。

「スターロッドは、宇宙の始原の光を集めて作られた聖遺物。その光は、いかなる闇をも浄化する……だが、ロッド自体が闇に侵蝕されている現状では、その真の力を引き出すことはできない。ただし――」

デデデは頁の文字を指でなぞる。

「『星の力を宿せし者が、己の生命力を以てロッドと同調する時、一時的にその封印を解くことができる。しかし、それは術者の精神を著しく摩耗させる諸刃の剣である』……か」

「大王様、それは危険すぎます!」

バンダナワドルディが必死に叫んだ。

「その『星の力を宿せし者』って、大王様のことじゃないですか! そんなことをしたら、大王様の命が……!」

「フン、オレ様を誰だと思っていやがる。この程度のことでくたばるタマかよ」

デデデは鼻で笑い、ハンマーを強く握り直した。

だが、その心中は決して穏やかではなかった。先ほどの戦闘で感じた、ナイトメアの闇の深さは底が知れない。己の精神がどこまで耐えられるか、確証はなかった。

その時、城の外から凄まじい悲鳴が響き渡った。

「キャーーーーっ!」

「助けて! 夢が……夢が僕たちを喰べる!」

デデデは窓へ駆け寄り、外を見た。

すでに日は沈み、夜が訪れていたが、その夜空は異常だった。

星の光は完全に掻き消え、紫と黒の混ざり合った「悪夢の雲」が空を覆い尽くしている。そして、地上では住人たちが頭を抱えて狂乱していた。

彼らの影が、持ち主の意思を離れて巨大化し、怪物のような形状へと変化して住人たちを襲っているのだ。ナイトメアの魔力が、夢の泉を越えてプププランド全域に溢れ出していた。

「もう時間がねえな……」

デデデは静かに呟いた。

「バンダナワドルディ。お前に最後の命令だ」

「は、はい……!」

「城の全ての防壁を閉じろ。住人たちをできるだけ中に避難させろ。オレ様が戻るまで、ここを絶対に死守するんだ。いいな」

「大王様……。ご武運を!」

バンダナワドルディは涙を堪えながら、深く一礼した。

デデデは再び、漆黒の夜空へと飛び立った。

向かう先は、邪悪な紫の光を放つ夢の泉。

風は冷たく、彼の羽毛を激しく濡らす。空中にもナイトメアが放った悪夢の眷属――コックンやゴーストのような異形の影――が群がってきたが、デデデはハンマーを大回転させ、それらを強引に打ち砕きながら進んだ。

「退け! 退けぇいッ!」

邪魔立てする影を蹴散らし、デデデは再び夢の泉の地へと降り立った。

泉の周囲の木々はすべて枯れ果て、美しい結晶の池は、今や沸き立つ黒い泥の沼と化していた。その中央で、スターロッドは完全に黒い茨のような霧に囚われ、いまにも光が絶えようとしている。

『また来たか、愚かなる王よ』

霧の中から、ナイトメアウィザードが姿を現した。

その姿は、昼間よりも確実に巨大化し、その魔力は数倍に膨れ上がっているように感じられた。

『見よ、この美しき絶望の世界を。住人たちの恐怖が、我が血肉となり、我が力となる。お前がどれだけ抗おうと、この流れは止められぬ』

「黙れ、ペテン師め!」

デデデはハンマーを構え、己の体内のエネルギーを集中させた。

本に書かれていた通り、己の「星の力(生命力)」を呼び覚ます。プププランドの王として、長年この国の恵みを受けてきたデデデの身体には、強大な星のエネルギーが眠っている。

「おおおおおおお……!」

デデデの全身から、青白いまばゆいオーラが吹き出した。

その光は、周囲の闇を一時的に押し返すほどに強烈だった。

『ほう……? 単なる俗物かと思ったが、それほどの輝きを秘めていたとはな。だが、それは己の命を削る愚行だぞ』

「うるさいと言っているのが聞こえんのか!」

デデデは突撃した。

生命のオーラを纏ったハンマーが、再びナイトメアの結界へと炸裂する。

ドガゴォォォン!!!

激しい光と闇の衝突。

今回は、ナイトメアの結界に明確な「亀裂」が入った。

『チッ……!』

「破れぇぇぇいッ!!」

デデデがさらに力を込めると、結界がガラスのように粉々に砕け散った。その勢いのまま、ハンマーの頭がナイトメアの胴体を捉える。

ズガァン!

ナイトメアの身体が大きくよろめき、黒い霧が霧散した。

確かな手応え。しかし、デデデの身体にも、凄まじい反動が襲いかかった。心臓が激しく脈打ち、口から大量の血が噴き出す。視界が一時的に真っ白になった。

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

『ククク……見事だ。だが、その一撃のために、どれほどの命を支払った?』

ナイトメアはすぐに体勢を立て直し、不気味に微笑んだ。

傷は一瞬で修復されていく。この空間全体が奴の味方なのだ。

『我は不死身の悪夢。お前の命が尽きるのが先か、我が世界が完成するのが先か……試してみるか?』

ナイトメアの両手が怪しく光り、無数の闇の弾丸がデデデを目がけて放たれた。デデデは痛む身体を鼓舞し、必死の猛攻を開始する。それは、自身の命を極限まで燃やし尽くす、壮絶な消耗戦の幕開けだった。

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