星の泉の残照 —The Last Line of Defense— 作:モッチー7
闇の弾丸がデデデ大王の身体を容赦なく引き裂く。
防具代わりの赤いガウンはボロボロに裂け、青い皮膚には無数の傷が刻まれていた。しかし、デデデの目が光を失うことはなかった。
「まだまだぁッ!」
デデデは地を這うような低い姿勢から、大ジャンプを敢行した。
「デデデ・プレス」――己の巨体をそのまま武器として、ナイトメアの頭上へと落下する。
轟音とともに泉の結晶が砕け散るが、ナイトメアはテレポートでその攻撃を紙一重で回避していた。背後に現れたナイトメアが、冷酷にマントを振るう。
『愚直な。力だけの攻撃など、我には届かぬ』
マントから放たれた闇の刃が、デデデの背中を深く切り裂いた。
「ぐはっ!?」
デデデは前方に倒れ込み、激しく地面を転がった。
すでに意識は朦朧としている。全身の筋肉が悲鳴を上げ、生命力を絞り出しすぎたために、視界の端が黒く染まり始めていた。
(クソッ……ここまでなのか……。オレ様は、この程度の化け物に負けるのか……)
地面に顔を伏せながら、デデデの脳裏に、かつてこの国で過ごした日々が蘇る。
ワドルディたちと美味しいものを奪い合ったこと。
あおむけになって草原で昼寝をしたこと。
そして……時折現れては、自分の我が儘を容赦なく叩き潰していった、あのピンク色の小さな天敵(カービィ)の顔。
(あいつなら……あのピンク色のアイツなら、こんな時どうする……?)
あいつは、どんなに強い敵が現れても、決して諦めなかった。
いつでも暢気な顔をして、最後にはすべてを解決してしまう。
(ハッ……笑わせるな。あいつにできて、このオレ様にできないわけがねえだろうが!)
デデデの心に、新たな、そして最も強固なプライドが燃え上がった。
他者に頼るのではない。だが、あいつにこの国を渡すわけにはいかない。あいつがのんびりと昼寝をできるプププランドを、このオレ様が守ってやるのだ。
「おおおおおおおおお!!!」
デデデは吠えた。
その声は、夢の泉全体を震わせるほどの咆哮だった。
立ち上がるデデデの身体から、先ほどとは比較にならないほどの、黄金に近い眩い光が溢れ出す。それは、己の魂そのものを燃料として燃やさなければ出せない、究極の生命の輝きだった。
『何だと……!? まだこれほどの力が残っているというのか!?』
ナイトメアの単眼に、初めて「動揺」の色が走った。
「これで……最後だぁぁぁッ!!」
デデデは突進した。その速度は光速に近く、ナイトメアのテレポートすら追いつかない。
デデデはハンマーを両手で限界まで振りかぶり、スターロッドの真横に位置するナイトメアの胸元へと解き放った。
「オレ様の国から……出て行けぇぇぇーーーッ!!!」
ズガアアアアアアアアアアアン!!!!!!
夢の泉が、そしてプププランド全域が、真昼のような光に包まれた。
デデデの魂の一撃は、ナイトメアの肉体を完全に貫いた。スターロッドの浄化の光が、デデデのエネルギーを媒介にして爆発的に解放されたのだ。
『ぎゃああああああああああーーーーっ!?』
ナイトメアは絶叫した。
その異形の身体が、光の粒子によって内側から崩壊していく。
『おのれ……おのれデデデ……! だが、我が消え去ろうとも、この泉に植え付けた悪夢の根は消えぬ! スターロッドがある限り、我は再びこの光の裏側から蘇るのだ……!』
「そうはさせるかよ……!」
デデデは光の中で、意識を失いかけながらも、中央に立つスターロッドへと手を伸ばした。
ナイトメアを完全に封じるには、この泉の機能を止めなければならない。だが、泉を止めれば、住人たちは夢を見られなくなる。それでも、永劫の悪夢に囚われるよりはマシだ。
「スターロッド……! お前を、ここで眠らせる!」
デデデは最後の力を振り絞り、スターロッドを泉の台座から力任せに引き抜いた。
その瞬間、ロッドは凄まじい衝撃とともに、七つの光の破片へと分裂した。
パキィィィン!!!
金属が割れるような美しい、しかし悲しい音が響き渡り、スターロッドはバラバラになってプププランドの各地へと飛び散っていった。
『な、何をする……!? 聖遺物を自ら破壊するのか!?』
ナイトメアの声が、驚愕とともに遠ざかっていく。
スターロッドが失われたことで、夢の泉はその活動を完全に停止した。悪夢の供給源を絶たれたナイトメアは、実体を維持できなくなり、怨嗟の声とともに、泉の底の深い眠りへと強制的に封印されていった。
「……やった、ぜ……」
デデデはハンマーを落とし、その場に膝をついた。
周囲の闇は晴れ、静寂が戻ってきた。だが、夢の泉の水は干上がり、かつての輝きは失われていた。
デデデの身体から光が消え、彼はそのまま冷たい結晶の床へと倒れ込んだ。
息は絶え絶えで、指一本動かすこともできない。だが、彼の顔には、どこか満足げな、微かな笑みが浮かんでいた。王としての責務を、彼は孤独に、しかし完璧に果たしたのだ。