星の泉の残照 —The Last Line of Defense—   作:モッチー7

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第4話:分かたれた星の記憶

決戦から数時間が経過した。

プププランドの空には、いつもの穏やかな朝焼けが広がり始めていた。

悪夢の雲は消え去り、住人たちを襲っていた影の怪物たちも、幻だったかのように霧散していた。

「う、うう……」

デデデ大王は、ゆっくりと目を覚ました。

視界に入ってきたのは、デデデ城の自室の天井だった。

「大王様! お目覚めになられたのですね!」

枕元には、目を真っ赤に腫らしたバンダナワドルディと、数人のワドルディたちが控えていた。皆、デデデの無事を心から喜んでいる。

「……オレ様は、生きてるな」

デデデは上体を起こそうとしたが、全身に激痛が走り、思わず顔を顰めた。

「動いてはダメです! 夢の泉で倒れている大王様を見つけた時は、もう息をしていなくて……本当に、本当に心配したんだから!」

バンダナワドルディが涙を拭いながら言う。

「……そうか。お前たちが運んでくれたのか。感謝するぞ」

デデデが素直に口にした感謝の言葉に、ワドルディたちは驚き、それから嬉しそうに微笑んだ。

デデデは窓の外に目をやった。

プププランドの住人たちは、悪夢から解放され、いつもの平穏な朝を迎えている。しかし、彼らの表情にはどこか「戸惑い」があった。

彼らはもう、悪夢を見ることはない。だが同時に――「良い夢」を見ることもできなくなっていた。夢の泉が停止したため、この国の住人たちは、眠っても何も見ない、ただの空白の時間を過ごすことになったのだ。

「大王様……。夢の泉のスターロッドが、なくなっています。あれがないと、みんな夢を見られなくなってしまいます。どうして……」

バンダナワドルディの問いに、デデデは重い口を開いた。

「ナイトメアという化け物がいた。奴は夢の泉を乗っ取り、この国を悪夢で満たそうとした。オレ様が奴を叩き潰したが、奴はスターロッドの光がある限り、何度でも蘇る。だから……オレ様がロッドをバラバラにして、世界中に隠したんだ」

その真実を知る者は、この部屋にいる者たちだけだ。

デデデは、自分が「スターロッドを奪った悪者」になっても構わないと考えていた。真実を公表すれば、住人たちはナイトメアの恐怖に怯え続けることになる。それならば、自分がすべての泥を被ればいい。

「ロッドの破片は、プププランドの強力なボスどもに預けてある。ウィスピーウッズや、クラッコたちにな。奴らなら、簡単に破片を渡しゃしねえだろう」

デデデはフンと鼻を鳴らした。

「これでいいんだ。夢を見られんのは少し寂しいが、悪夢に喰われるよりはマシだ。プププランドの平和は、このオレ様が守った。それで十分だろ」

その時、部屋の扉が静かに開いた。

入ってきたのは、紺色のマントを羽織り、銀色の仮面をつけた騎士――メタナイトだった。

「……やはり、そうだったか」

メタナイトの低い声が響く。

「メタナイト卿! いつからそこに……」

バンダナワドルディが驚く中、メタナイトはデデデのベッドの傍らまで歩み寄った。その一文字の眼光が、デデデを見つめる。

「夢の泉の異変には気づいていた。だが、私が駆けつけた時には、すべてが終わっていた。デデデ大王……貴殿が一人でナイトメアを封じたのだな」

「……フン、見ての通りだ。文句があるか、仮面野郎」

デデデは不機嫌そうに顔を背けた。

「いや、敬意を表する。貴殿の行動は、真に王のそれであった」

メタナイトは腰の宝剣ギャラクシアを少しだけ引き、それから元に戻した。

「スターロッドの破片の一一つは、私が預かろう。私の『オレンジオーシャン』の領域で、厳重に保管する。ナイトメアの復活を目論む者が現れても、私の騎士団が叩き潰す」

「好きにしやがれ。お前なら、そう簡単に奪われん価値はある」

二人の間に、奇妙な信頼関係が生まれた瞬間だった。

メタナイトは一礼すると、マントを翻して闇の中に消えるように去っていった。

数日後。

デデデ大王の傷は、その驚異的な回復力によってほぼ完治していた。

彼は再び、いつもの派手なガウンを身にまとい、ハンマーを肩に担いで夢の泉へと向かった。

泉は干上がり、スターロッドの台座は虚しく空を向いている。

デデデはそこにドカリと腰掛け、空を見上げた。

「……さて、これからどうしたもんかね」

住人たちは夢を見られないことに不満を抱き始めている。

だが、これでいい。これが最善の選択だったのだ。

その時、遠くから「ぽよ?」という、聞き馴染みのある、暢気な声が聞こえてきた。

デデデが視線を向けると、丘の向こうから、ピンク色をした丸くて小さな身体が、楽しそうに跳ねながらこちらへ向かってくるのが見えた。

カービィだ。

彼は、プププランドの異変――「みんなが夢を見られなくなったこと」を解決するために、動き出したのだろう。何も知らない彼は、デデデが我が儘でスターロッドを盗み、泉を独り占めしていると思い込んでいるに違いない。

「ハッ……来やがったな、ピンクの悪魔め」

デデデはニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、ハンマーを強く握りしめた。

カービィはきっと、デデデを倒し、各地のボスからスターロッドの破片を集め、再び夢の泉にロッドを戻そうとするだろう。

だが、それをそのまま許すわけにはいかない。もしロッドが戻れば、封印されたナイトメアが再び目を覚ます危険がある。

「来い、カービィ。お前が本当に、このオレ様の用意した『試練』を乗り越え、ナイトメアを打ち破るほどの力を持っているかどうか……このオレ様が直接試してやる!」

デデデは立ち上がり、カービィを迎え撃つためにハンマーを構えた。

自分が悪者になろうとも、この国を守る。

もしカービィが自分を越えていくのなら、その時は、この国の未来をあいつに託してもいい。

朝の光が、夢の泉の残照の中で、二人の英雄の影を長く伸ばしていた。

これが、のちに語り継がれる『夢の泉の物語』の、誰も知らない始まりの記憶である。

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