星の泉の残照 —The Last Line of Defense— 作:モッチー7
ナイトメアウィザードを夢の泉の底へ封印し、スターロッドを七つの破片へと分かつことに成功したデデデ大王。しかし、その代償は大きかった。己の生命力を極限まで燃やし尽くした身体は、一歩歩くごとに血が滲み、呼吸をするだけで胸が焼け付くように痛む。
「ハァ……ハァ……。ここで、のたれ死んでる、暇はねえんだよ……」
デデデは、砕け散ったスターロッドの破片を、ボロボロになったガウンのポケットに詰め込んだ。ロッドはバラバラになってもなお、掌を刺すような純粋な星の光を放っている。この光がある限り、ナイトメアは夢の泉の底から、いつでもロッドを目印にして這い上がってくるだろう。
「奴を引き剥がすには……この破片を、オレ様の目から届かねえ場所に、散り散りに隠すしかねえ」
デデデは重い足を動かし、最初に向かったのは、プププランドで最も古くからこの大地を見守り続けている、優しき森の王者――ウィスピーウッズの広大な森だった。
1. ベジタブルバレー:寡黙なる大樹の誓い
いつもなら鳥たちが歌い、平和な木漏れ日が差し込む森。しかし、夢の泉が停止した今、森の空気はひんやりと静まり返っていた。
「おい……ウィスピー……。いるか……」
デデデが木々の隙間からふらりと現れた時、ウィスピーウッズはその巨大な幹を震わせ、驚愕の声をあげた。
「これは……デデデ大王!? なんという痛々しいお姿ですか! 一体誰が、あなたをそこまで……」
「うるせえ……、質問に答えてる余裕はねえ。お前に……頼みがある」
デデデはガウンから、最初の一片――優しく緑がかった光を放つスターロッドの破片を取り出した。その光を見た瞬間、ウィスピーウッズはすべてを察した。大樹としての長い記憶が、それが世界を支える聖遺物であることを告げていたからだ。
「それを、お前に預ける。これから、この国から『夢』が消える。住人どもはオレ様を恨むだろう。だが……何があっても、この破片を誰にも渡すな。たとえ……あのピンクの餓鬼(カービィ)が、力ずくで奪いに来てもだ」
ウィスピーウッズは、デデデの血に染まったハンマーと、その奥にある「狂気とも言えるほどの決意」を見た。大王が我が儘でこのロッドを奪ったのではない。この国を、目に見えない恐ろしい脅威から守るために、一人で泥を被る覚悟なのだと理解した。
「……承知いたしました、大王様。我が根の尽きるまで、この星の一片、この命に代えてもお守りいたしましょう」
ウィスピーウッズは自身の幹にぽっかりと深い洞(うろ)を作り、そこに破片を仕舞い込んだ。大樹の強固な皮が光を覆い隠し、星の気配が消える。
「頼んだぞ……」
デデデは振り返ることなく、次の地へと向かった。
2. ベジタブルバレー~サンドキャニオン:試練の配置
デデデはその後も、傷ついた身体を引きずりながら、プププランドの各地に君臨する実力者たちの領域を訪れた。
リゾート地として名高い「ベジタブルバレー」の島々では、狂暴な巨大画家ペイントローラーのもとを訪ねた。
「おい、小僧。お前のそのくだらねえ絵の具で、この星の光を塗り潰して隠せ」
デデデのただならぬ気迫に、いつもはお調子者のペイントローラーも真剣な顔で頷き、自身の最高傑作のキャンバスの裏に破片を封印した。
灼熱の太陽が照りつける砂漠地帯「サンドキャニオン」では、古代の防衛兵器であるミスター・シャイン&ミスター・ブライト(太陽と月)がデデデを待っていた。
「お前たちの日月の運行の力で、この光を天界の網に隠せ」
昼と夜を司る二つの球体は、無言で火花を散らし、スターロッドの破片を太陽のコロナと月の引力の狭間へと隠匿した。
3. グレープガーデン:雷雲の王との無言の契約
そしてデデデは、空高くそびえ立つ雷雲の要塞「グレープガーデン」へと、最後の飛行能力を振り絞って上昇した。
待っていたのは、大空の絶対的な支配者であり、幾度となくデデデとも領空を巡って争った宿敵――クラッコであった。
バリバリと不気味な紫の電撃を放ちながら、巨大な単眼の雲がデデデを見下ろす。
「クラッコ……。お前とは、何度も縄張り争いをしてきたな……」
デデデは雲の上の足場に膝をつき、激しく咳き込んだ。口から零れた血が、白い雲を赤く染める。
「オレ様を……弱者としてあざ笑いに来たか? なら、今のうちにオレ様を雷で焼き殺せばいい……。だがな、このプププランドの空を……あの悪夢の化け物に渡すのだけは、お前だって御免だろう……!」
デデデは四つ目の破片――激しく明滅する、雷のような黄色い光の破片を雲の床へ投げ出した。
クラッコの単眼が、じっとデデデを見つめる。クラッコは言葉を持たない。しかし、その中心にある巨大な瞳が、デデデのボロボロの肉体と、決して折れない傲岸不遜な魂を凝視していた。
ピシャァァァン!!!
激しい雷光が走り、クラッコはスターロッドの破片を己の巨大な雲の身体の中心へと吸い込んだ。それは、「お前の覚悟、この雷雲の王が引き受けた」という、無言の意思表示だった。周囲の雷雲がさらに厚くなり、破片への到達を拒む難攻不落の要塞が完成した。
「ふん……。話の分かる奴で、助かるぜ……」
デデデは意識が遠のく中、不敵に笑った。
こうして、残りの破片は「ヨーグルトヤード」の重力を操るヘビーモールへ、そして最後の破片は「オレンジオーシャン」で待つ仮面の騎士メタナイトへと託された。
デデデ大王が用意したこの「七つの関門」は、ナイトメアの復活を阻止するための防壁であると同時に、もし万が一、この封印の真実を知らない「ピンクの闖入者」がロッドを求めて暴れ出した時のための、最高峰の『試練の迷宮』でもあったのだ。
すべての破片を預け終えたデデデは、最後の一歩を踏み出す力も残っておらず、夢の泉の冷たい結晶の上へと崩れ落ちるように倒れ込んだ。
(第4話:分かたれた星の記憶 へ続く)