星の泉の残照 —The Last Line of Defense— 作:モッチー7
宇宙の彼方で起きた凄まじい閃光が、静かに霧散していく。
世界を永劫の悪夢へと沈めようとした漆黒の魔術師は、星の力を宿したロッドの輝きの前に、今度こそ塵ひとつ残さず消滅したのだ。
パァァァァ……。
月の欠片がゆっくりと元の美しい球体へと戻り、プププランドの夜空に穏やかな月光が降り注ぐ。
国の中心にある「夢の泉」には、澄み切った聖なる水が再び満ち溢れ、中央の台座には、世界の平穏の象徴である「スターロッド」が、優しく、しかし確かな光を放って鎮座していた。
その泉から少し離れた丘の影。
ボロボロの身体を大樹の幹に預け、その様子を静かに見つめている巨躯の影があった。デデデ大王だ。
「……やりやがったな、あのピンクの餓鬼め」
デデデは口元の血を拭い、フンと鼻を鳴らした。
全身の痛みはまだ激しい。しかし、彼の瞳から「孤独な王」としての悲壮な光は消え失せていた。自分が守ろうとし、そして守りきれなかった世界の未来を、あの小さな天敵は見事にその手で掴み取ってみせたのだ。
「フッ……。これでようやく、不眠症からおさらばできるな、大王」
暗闇から静かに足音を響かせ、紺色のマントを羽織った騎士――メタナイトが姿を現した。彼の銀色の仮面には、オレンジオーシャンでの激闘で刻まれた微かな亀裂が残っていた。
「メタナイトか。お前、自分の担当(オレンジオーシャン)で、あっさりあの餓鬼に負けやがって。騎士団が泣くぞ」
「手加減などしていないさ。あれは本物の『星の戦士』だ。……貴殿が、あいつを信じてロッドを託した理由が、戦ってみてよく分かった」
「勘違いするな」
デデデはへそを曲げたように顔を背けた。
「オレ様はあいつを信じたわけじゃねえ。オレ様を負かした奴が、あんな化け物に負けるのが許せなかっただけだ。……まあ、最低限の仕事はしたみたいだけどな」
二人が見つめる先。
夢の泉のほとりで、カービィがスターロッドを戻し終え、満足そうに微笑んでいた。
その背後からは、いつの間にか異変に気づいて集まってきたワドルディやキャピィ族たちが、カービィを囲んで「世界を救った英雄」として大歓声をあげている。
住人たちは、これからもずっと真実を知ることはないだろう。
かつてこの国を滅ぼしかけた恐怖の存在(ナイトメア)がいたことも。
そして、目の前で怪我だらけで座り込んでいる我が儘な大王が、本当は誰よりも早くその化け物に立ち向かい、彼らの夢を守るためにすべての泥を被って戦っていたということも。
「大王。真実を話さなくて良いのか? 住人たちは、未だに貴殿が『ロッドを盗んだ悪者』だと思っている」
メタナイトの問いに、デデデは鼻で笑った。
「言ったはずだ。あいつらには、平和な夢だけを見てりゃいいんだよ。悪者(ヒール)なら、このオレ様一人で十分だ。……それに」
デデデは、住人たちに囲まれて照れくさそうに頭を掻いている、ピンク色の小さな影を見つめた。
「あいつがヒーローでいる方が、この国はよっぽど明るいだろ」
その言葉には、かつての利己的な独裁者としての我が儘ではなく、不器用ながらもプププランドの『日常』を心から愛する、一人の王としての絶対的な誇りが宿っていた。
「……そうだな。それが貴殿の王道か」
メタナイトは静かに一礼した。
遠くの東の空から、ゆっくりと朝焼けのオレンジ色の光が差し込んでくる。
それは、悪夢に脅かされることのない、本当の「プププランドの夜明け」だった。
これからは毎晩、住人たちは温かいベッドで極上の夢を見るだろう。そして目覚めた朝には、またいつものように、我が儘な大王と、暢気なピンクの主人公の、騒がしくて愛おしい小競り合いが始まるのだ。
「おい、行くぞメタナイト。城に戻って、残ったケーキを全部平らげなきゃならん」
「お供しよう。だが、その前にその傷を治療するのが先だ、大王」
二人の影は、新しく訪れた朝の光の中に溶けるように、静かにその場を去っていった。
夢の泉の残照は消え、そこにはただ、新世界を照らすまばゆい朝日と、星のロッドの穏やかな輝きだけが残されていた。