「あー(いやー、等速に戻ったら、マンションの窓が、盛大に割れましたねー)」
現状、私を抱きかかえるのは女性。壁際に引き寄せ、守るように立つのは男性。
そして、その目前に降り立つのは────魔女帽子をかぶった異形の化け物、という三拍子。
「くくく、ついに捉えたぞ、忌まわしき魔法少女……いや、もはやその残骸といえるか」
「貴様は、魔女の悪魔……馬鹿な、あの時、私が完全に屠っていたはずじゃ」
「潜んでいたのさ、貴様の影にな。そして力を蓄え、貴様が二十代を終え、完全にその力を喪失する時を待っていたのだ」
「だからどうした、たとえ彼女の力がなくとも、俺が屠るだけだ」
「ほう、豆鉄砲しか持たぬ人間に何ができる。科学では悪魔に勝てないと「パス、パス」再証明が必要か?」
「ちっ、ただの鉛玉では奴には無理か」
ほえー、魔女の悪魔さんはすごいですね。
物理攻撃をほぼ無効化してますし、これは完全に人外ですよ。
しっかも、放たれる威圧感のおかげで、脳内から逃げろの指令が出てますし、これはアレですね。
「────あっあっあぅ(勝った。このRTAは完全に勝利です。)」
まさか現実世界の中でも、アナザーの地球を引けるとは。
しかも、化物あり、魔法ありのSSR環境ですよ。
普通の地球に比べて、犬も歩けば、えっ死んでる神環境。
「あぅぅ(しかも、因縁持ちの敵が出てくるとは、自分の引きが怖くなりますね)」
「どうした恐ろしいか、忌まわしき少女の赤子よ」
「俺を無視して、子供に指一本触れれると思うなよ」
「指一本? くっくっく、笑わせるな、貴様らなぞ指を動かさぬとも、十分「ドゴンッ」「しまったッ」────貴様もな「ぐ、魔法さ、え」────ほらな?」
すげー、急に吹き飛ばされてびっくりしましたね。
大人2人が、秒でKOされましたよ。壁がへこんでますし、生きてるんですかね?
しっかし、気絶しながらも下敷きとなってくれた、男性には普通なら感謝したいところですが……これRTAなんですよねぇ。
「うー(せっかく死ぬチャンスだったのに)」
「どうした親がいたぶられて、怒っているのか? なら己のみじめさを呪え」
呪う? それは面白い冗談ですね。
私は今笑ってますよ? 盛大に、だってこんなにも神状況なんですからっ!!
「あーっ(ここで死ねば、天界RTAランキング上位は余裕で固いっ)」
「ほう、恐れず飛び出してくるとは、血は争えんということか」
ハイハイ、なんて出来ませんから、もちろんローリング一択。
床に飛び散ったガラスの破片で、自傷ダメージをかせぎつつ、魔女の悪魔に接近します。
「あーっ(ほら、早く、早く、私をころせえええええ!)」
「血を流しながらも向かってくるとは……生まれながらにして戦士というわけか、面白い……魔法起動」
うっひょおお、どう見ても殺傷力高そうな魔法陣が、構成されてます、いいですよぉ。
αから始まりΩで終わる、西洋系の魔法陣。殺傷力も火力も高そうですねぇ。
素晴らしい、赤子どころか家吹き飛ばせそうなオーバー火力で満点です。
「────うー(ならば、あとは前に進むのみ)」
えっ、なんで止まって攻撃を待たないのかって?
そりゃ縛りに“自殺なし”ってあるんで、諦めたら、自殺判定を食らってしまうからです。
だからこそ、どんな壁も乗り越える精神で、直撃を食らいにいくのが本RTAの正解です。
「ほおう、我が魔法を見ても挑んでくるとは……あと数十年、いや数年すれば良き敵だっただろうな」
「あー(あの、そういうのいいんで、さっさと魔法撃ってくれません?)」
「だが、我は殺す。情けとして、知識の集大成をくらって死ぬがよい……発動」
これでもかと紅色に輝く魔法陣。放たれる魔法は、彗星の如く。
床をえぐり、ソファーを溶かし、血まみれでボロボロの私の体を────
「うー(さて、最後は正面から受け止めて)」
────あのー、どうして私の体も、輝く必要があるんですかねぇ。
「ぼ、防御魔法の輝きッ! ば、馬鹿な、貴様、その年で魔法が使えるだとッ!!」
「あー(いや、使ったつもりはないんですが)」
「声もなく、陣もなく……まさか、その血を媒介として魔法を」
「うー(いや、出血で早く死にたかっただけなんですが)」
「だが、なぜ赤子にこれほどの魔力が……まさか、忌まわしき力は失われたわけではなく、引き継がれた、とでも言いたいのかッ」
あのー、どーでもいいことにキレてないで、さっさと、魔法の出力上げてくれませんか。
肌に纏わりつく翡翠色の輝きですけど、「ガリガリ」削られることで、紅色の光線を防いでいるんですよ。
つまりですね、威力が高ければ、さっさと剥がせるって話でして。
「あー(もういっそのこと、この魔法陣に近づいたら、早く焼けたりしませんかね」
「さらにこっちに向かってくるだと、太陽に近づくようなモノだぞッ」
火力は上がりましたけど、ライターからチャッカマン程度ですね。
面倒ですけど、本体に近づけば、即死魔法とか撃ってくれませんかねー。
「うー(へい、もっと強力な魔法をかもん)」
「く、くるな貴様ッ! 我が魔法をいともたやすく破り、なおも我が圧を気にせず、近寄ってくるんじゃないッ!!」
「あー(このピリッとする感覚じゃあ、全く死ぬレベルじゃないんですが?)」
「ひ、くるな、頼むからくるんじゃないッ」
あのー、ビビるんじゃなくて、攻撃をしてくれませんかね。
こっちもローリングしながら近寄るの大変なんですよ。
ほら出血がドバドバになってますし。痛みだって気合で耐えてるんですよ?
「うー(足に噛みついたりすれば、反射的に魔法を撃ってくれますかね)」
「おぇ、我が体に、忌々しい力を流しこんでくる……くそ、なんだこのげっそりとした感覚は」
「あー(ダメか、なんか弱ってますし、ちょっと悪役根性が足りてないというか)」
「だ、だが貴様は、うぇ、1つ勘違いをしている、おぇ、いくら力が強かろうと、その体は所詮、ぐぇぇ、赤子にすぎんッ、うっぷ」
「うー(体が掴まれたところで……あれ、防御魔法さんが働いてないですね)」
ほえー、つまり魔法は魔法しか防げないと。物理的な攻撃は無理なようです。
おー、いい感じに、肌を、青白い手が、ぐいぐいと締め付けていきますね。
「くくく、ふふ、やはり貴様の神秘的な力も、物理的な力にはかなわぬか」
「あー(いいですねー、このまま一思いに、ブチっと殺しちゃいましょう)」
「ふふふ、痛いか? 苦しいか? どうしようもできんだろう」
「う、うー(そうですよ。どうしようもできないですよ、でもタイムが迫ってるんでもっと早くお願いします)」
いい感じに、三途の川が見えてきましたね。
天使がラッパを吹いてくれれば、よいエンディングになるのですが、あいにく天国は出禁の魂。
虚無僧が吹いてそうな曲とともに、終了と────
「だがなぁ、ここで一思いに殺してしまうのは悪魔として二流」
「あー?(いや殺せよ、悪魔だろ)」
「じわじわと、なぶっていかないとなぁ」
「うー?(あの、見えてた三途の川が遠ざかっていくんですが、その)」
あのー、どうして拘束が弱められているんでしょうか。早く絞め殺してください。
そのー、どうして蛹を捕獲するがごとく、私を抱きかかえる必要があるんでしょうか。蛹ならプチっと殺すべきでしょ。
「ふふふ、あの忌まわしき女にも、体の一部を奪われる痛みを、教えてやる必要があるからな」
「あー(なら、本人の体を奪うとか、私を殺すとかがオススメなんですがー)」
「まあ、すでに気絶した女に、言葉は不要か」
「うー(いや、それを本人に言わないと、私が殺されたって勘違いされるんじゃ……)」
「さて、そうときまれば、さっそく我が城に戻るとしよう」
私の必死の説得も通じず、割れた窓から、夜空に飛び出していく魔女の悪魔さん。
いやー、街の明かりがきれいですね。いい風が吹いてますね。
ここで暴れて、地面に落っこちれば、死ねるのは間違いないんですけどねー。
「うー(でも、それって自殺判定になって、RTA失敗なんですよねえ)」
「どうした怖いか? 勇敢に魔女に挑めようとも、高所に怯える本能には抗えぬようだな」
「あー(ええ、クリアタイムが伸びるとかいう、最高の恐怖に襲われてますよ)」
「ふふふ、まあ貴様は素晴らしくかわいがってやる、あの女の悲鳴と、怨念と、悲痛をできるだけ長く聞きたいからな」
「あー(いや、まじで、タイムのために私を殺してくれません、まじで、一生のお願いです)」
そんな願いはむなしく、夜空にかかる流れ星のように、どこかに連れていかれる私です。
やっぱり悪魔は所詮悪魔か……信じるなら、天使にしとくか、でも天使もだいぶクソなんだよなぁ。と思うしかない、私でした。
今回はここまでとなります。
ご視聴お疲れさまでした。
細かいRTAテクニックは暇あれば解説していきたいと思います