失恋した元神童は実質バトルファ●ク世界でまたやらかす ~興奮すると歯止めが利かなくなる広範囲・無差別・自動反撃・最強・超能力持ち一般人なんすけど、お客様の中に俺の童貞を奪える真ヒロインはいませんか?~ 作:信頼できる語り手
俺の官能力は興奮するほど制御を失う。
だから、理論上は女性に触る事自体は可能なはずだが、あの……ほら……男子諸君は分かるっすよね? 童貞って生き物は手を繋ぐだけでドキドキするチョロオスなんで……。
特に俺の周りの女性陣は危険だ。乙歯女さんの巨乳は勿論、胸が控え目で安全圏に見えるキュンメロでさえ尻と太ももが凄い。ロングスカートの上からでも形が分かるのだから、相当な凶器を隠し持っている。
アルナルトスはグラビアアイドル顔負けの火力抜群なスタイルだし、ラフポールは細身のせいでくびれがエグい。
自慢じゃないが、彼女達の体に触れながら下心ゼロでいられるほど俺は枯れていないのだ。
しかし、俺は天才。【S文書】の筆者にしてグロスナッジの開発者、余熱芯だ。その点に関しては俺に良い考えがある。
女性の存在を近くに感じながら、官能力の暴走に巻き込まない方法。それは……。
『マロウ様、おはようございますぅ……』
「もう夜だぞ、ラフポール」
遠距離ビデオ通話。これなら安心して女性と接する事が可能だ。
『時差ですよぉ。そんな小言よりも楽しい話しませんか、マロウ様ぁ? この通話は過酷な仕事を頑張ってる拙へのご褒美として要求したんですからぁ』
「俺と喋る事が褒美になるのか?」
『それは……そこそこですけどぉ。ただ、拙のいないところで他の女とイチャつかれるのは癪なので、少しでもマロウ様のプライベートな時間を奪いたいなってぇ。乙女心(笑)』
そんな陰キャすぎる乙女心の発露、嫌だよ。
「別に構わんが……部下が何を考えているのかは知りたいしな。他にも俺に要望があるなら遠慮せず言え」
『お、おぅ(笑)。まぁ……えぇと……要望ってほどじゃないんですけどぉ……。メドレー様だけ特別扱いはズルいですしぃ……拙の事ももっと構って欲しいっていうかぁ……』
「……!」
ヤバい。普段はウザさ9割なラフポールの声だが、携帯越しというシチュエーションのせいで『女』を感じてしまった。コイツ……こんなに色っぽかったか……?
無意識に醸成された『女子との私的な通話=恋人』という固定観念により、俺の脳が『レヴァニー・ラフポール=恋人』と誤認しそうになる。
その理屈はおかしいって? おいおい、青春キャンセル界隈の予後の悪さを舐めるなよ? 10万3000冊の恋愛小説を読んで培った価値観だぞ。義務教育を中退した同志だけ俺に石を投げろ。
『あぁ、でも、抜き打ちで来るのはやめてくださぁい。女の子には色々と準備があるんですぅ』
「俺は散らかってても気にしない」
『いえいえ、マロウ様が快適に過ごせるように、数キロ圏内の動物を絶滅させておきますからぁ』
気軽に生態系を破壊するな、毒女。それをやったら、お前はもう人類の敵を通り越して自然の敵だよ。俺は全力で
ヨシ。おかげで冷静になれた。ラフポールを可愛いと思ってしまったのは気の迷いである。2度とこんなパブリックエネミーに胸を高鳴らせたりするもんか。
『あっ、はぁ……♡ どう、ですかぁ……♡ 実は最近、拙も運動を始めてみたんですよ、ぉ……♡ ふぅ、ふぅ……♡』
すんません。あれ、嘘言いました。自慢げにストレッチを見せ付けてくるラフポール、めっちゃエチエチっす。
『ぉ……♡ お゛ぉ……♡』
柔軟性の欠片もない四肢を健康器具で曲げ伸ばしする度に、彼女の喉から切羽詰まった喘ぎ声が漏れる。これはもう、余熱芯の余熱芯が健康的なストレッチをしてしまっても、責められる謂れはないはずだ。
『やっ……激しぃ……♡』
あと、通信用のタブレット端末を床に立てて置いているせいでセーラー服のスカートの中身が丸見えなのだが、紳士な俺は当然黙っている。ちなみに、髪色と同じ青だった。
「……苦手な事に挑戦する姿勢は評価しよう」
『ふへぇ……♡ マロウ様に褒められたぁ♡』
何だ、その嬉しそうな顔は。人からの拒絶を恐れる俺的には、気を許した表情が効果抜群なんすけど。乙歯女さん、助けて。俺、この娘好きになっちまう。
『んっ……今日はここまでにしときますぅ……。くぅ、疲れましたぁ(笑)』
ラフポールはスポーツドリンクをちゅーちゅーと飲み、汗ばんだ肌をタオルで拭った。
『あ、そういえば、マロウ様、知ってますかぁ? 脳筋様が【ストライフ】に出場するみたいですよぉ?』
彼女の言う【ストライフ】とは動画投稿サイト『ミューシェイク』の目玉企画だ。闘争の名の通り、毎度趣向を凝らした対戦型ゲームが用意され、優勝者には豪華景品が贈られる。
普通のバラエティ企画との違いを挙げるとすれば『主催者』が匿名でもOKな点だろう。
ミューシェイク運営はあくまで場所と人員を提供しているスポンサー。実際のアイデアや景品は素人から募集する。
その予測不能な自由さも人気の秘訣であり、この企画に採用された底辺ミューシェイカーが一躍トップ配信者の地位を得る事も珍しくない。
そして、今回の優勝景品に設定されたアイテムこそが俺の求める【深淵の嘴】だった。
「報告は受けている。純粋な身体能力を競うゲームなら、キュンメロが優勝するだろうが……」
『ルール次第ですねぇ。拙はあの企画好きなので、割りと楽しみにしてますぅ』
ラフポールは『マロウ』と『ミセス・メドレー』の正体を知らない。参加予定者の名簿から、キュンメロだけがエントリーしたと思っているようだ。
『良ければマロウ様もオンラインで同時視聴しませんかぁ? ……なんつって(笑)』
「魅力的なお誘いだが、その日は忙しくてな。時間が取れそうにない」
『残念ですぅ。今回は盛り上がりそうなのにぃ』
ラフポールがセーラー服の袖をイジイジしつつ、唇を尖らせる。
「有名人でも出るのか?」
『マロウ様は知らないと思いますよぉ。……拙が子供の頃に噂になってた『消えた天才』と同姓同名の人が出るんですぅ。まぁ、騙りかもしれませんけど、本物なら面白い事になるんじゃないですかねぇ?』
「お前にしては、随分と高く買ってるな」
『……昔、彼と会った事があるんですぅ。ぶっちゃけ、神童って評判は的外れだと思いましたぁ』
レヴァニー・ラフポールは苦笑を浮かべた。
『──あの人は『神』そのものですよぉ』
◆
廊下、長くないっすか……?
どうも、思ったよりイベントの規模が大きくて逃げ腰の余熱芯っす。
ただ、スタッフの人達が『えー、彼女さん厳しいー。でも、今年度の予算の方がもっと厳しいよ』みたいな事を言ってたので、やっぱりカツカツなのかもしれない。
「さあ、ついに始まります! ミューシェイクの名物企画【ストライフ】! 私がゲームマスター代理の『モナイ』でございます!!」
マロウとして撮影されるのには慣れているが、それでも素顔でカメラに囲まれると緊張する。
不安になってキョロキョロしてると、いつも通りクールな乙歯女さんの立ち姿が目に入った。素人の貫禄じゃない。書類選考を突破してきた他の参加者と比べても面構えが違う。頼もしいぜ。
俺もちょっと緊張が解れたので、スタジオを見渡してみた。
(ただのスタート地点なのに、えらく観客が多いっすね。流石、人気イベント)
観客席に『芯ちゃんガンバ~♪』と書かれた横断幕が張られているが、きっと気のせいだろう。あ、撤去された。
「え~!? 徹夜で作ったのに、酷いよ~!!」
敵なのか味方なのかよく分からない立ち位置のマダム・グユが、警備員に引き摺られていく。残念ながら当然。運動会じゃないんだぞ。
(キュンメロも端の方にいるな。優勝景品を手に入れて俺に言う事を聞かせるつもりらしいっすけど、どうなる事やら……)
「まずは、参加者30名の紹介です! トップバッターはこの人! 特技は剣術! 趣味は体を動かす事! 猪突猛進少女、『キュンメロ・ストリッパー(本物)』!!」
何でお前は成り済ましが出てくる前提のネーミングなんだよ。
「ん、斬り殺す。全員処刑。1人残らずあの世行き」
そういうゲームじゃねぇんだわ。コイツ、本当に『競技』って概念を理解できてるか……?
「続きまして、国内最大級の芸能事務所『フィンガーズ・パレス』からの刺客! ナレーションや声優業をこなしながら、官能者としても高い実力を誇るボディガード! 才色兼備、『クーポン・ストリッパー』!!」
「当主様と並んで紹介されるのは気恥ずかしいですわね。まあ、負ける気はありませんけれど」
ん? あの執事服のお姉さん、前にどっかで会ったような……?
そんな事を考えている間に乙歯女さん達の紹介もサクッと終わる。ライブ配信だけあって、テンポ重視だな。ところで、俺だけ名前呼ばれてないんだけど、忘れられてる……?
「最後に……『余熱芯』!!」
おい、紹介しろよ。
「……?」
「ホトボリ・シン……? 誰……?」
「説明なしって事は有名人か……?」
ざわざわ。
(マジで何も言う事がなかったんだろうな……。うわ、めっちゃ悪目立ちしてるっす)
司会のモナイお姉さんに抗議の視線を向けると、ニッコリと微笑みを返してくれた。
「趣味は読書だそうです!!」
「最悪の補足……!」
クラス分け後のボッチ確定演出やめろ。陰キャに親でも殺されたのか、お前は。
「それでは、早速ルール説明に移りましょう! 皆様にプレイして頂くゲームは……『オウンゴール』!!」
モナイさんが合図をすると、俺達の前にガラガラとデカい台車が運ばれてくる。その上には3つの白い箱が重ねられていた。スタッフの人が1つのSHIROBAKOからボールを取り出す。
「今回のゲームで鍵となるのは、3個の『トゥルーボール』でございます!」
モナイさんはバスケ選手のようにダムダムとボールをバウンドさせた。
「これを各所に設置されたゴールに投げ入れる事で……」
左手を添えて放たれたボールが、スタジオ中央に設置されたバスケットゴールにスポッと入る。
「ボールに内蔵されたデータチップが反応し、一番近くにいる人の携帯端末に優勝景品【深淵の嘴】の在処……のヒントを発信します!」
……ふーん。
「3個、全てのヒントを回収すれば確実に『宝』に辿り着けますが、途中で答えを予測してゲットしてしまうのもアリ! 体力か、知力か、幸運か! 過程は不問! 最初に【深淵の嘴】に触れた参加者が優勝となります!!」
「でも、それだけではありませんわよね?」
クーポン・ストリッパーが疑問を投げかけた。本職声優だけあって、口を挟むタイミングが上手い。
「その合いの手、ナイスですね! それでは、追加ルール『ダミーボール』について説明します!」
ガラガラと、先程の10倍以上の箱を載せた台車が運ばれてきた。
「
「はい、キュンメロ様! でーすーがー、ボールが
モナイさんが両手に2つのボールを持ち、空中でポンとぶつける。
「トゥルーボールとダミーボールが衝突した時、内部データが入れ替わります!」
「偽物が本物に、本物が偽物になるのね」
「ええ、乙歯女様! その通りです!」
だから、ボール同士が直接触れ合わないように個別の箱に入れられてたのか。
「あっ……ですが、気を付けてくださいね! あまりに強い衝撃を与えると、データチップが破損する場合があります! また、ボールが割れた場合も内部データは揮発します! それに対する救済措置はありませんので!」
ふむふむ……。
モナイさんのパフォーマンスを見る限り、あのボールは特別強靭ってわけでもなさそうだ。『官能力による攻撃で遠方のゴールまで飛ばす』なんて事をしたら、間違いなく割れてしまう。
高段者が絶対有利にならない、良いルールだ。さて……ルールの穴を探しますか(マンチ野郎)。
俺の官能力で『絶対に割れない強度のボール』に変質させるのはどうだ? ……いや、却下だな。ゴールの読み取り装置が内部データをスキャンできなくなるリスクがある。俺の凸権は暴王の月くらい反抗期なのだ。
(過程は不問、か……)
モナイさんはああ言ったが、俺はラフポールから聞いて知っている。どうやら、あまりにも配信映えしない戦い方をすると運営が介入してくるらしい。それが実質的な制約だろう。……なるほどね。大体、分かった。
「……難しいっすねぇ」
俺はわざと大きめの声を発して、皆の注意を惹き付ける。
「と、仰いますと?」
やっぱり、乗ってきたな。運営は撮れ高を逃さない。俺もグロスナッジの運営なので、管理者側の思考は多少読める。
「だって、こんな沢山のダミーボールとシャッフルされたら本物がどれか分からなくなるっすよ。しかも、何かの拍子にたった3個の本物データが全部壊れたら全員詰んじゃうっす」
心にもない台詞だ。ボールの模様が1つ1つ違う事にはとっくに気付いてるし、俺ならシャッフルも目で追える。俺が真に確認したいのはそこじゃない。
参加者の反応は無関心3割、呆れ顔6割、警戒1割。まあ、妥当だな。そして……。
「……」
司会のお姉さんが無言で微笑む。オッケー、把握。『コレ』はセーフなのね。
「そうですね! 芯様の主張も分かります! なので、ゲーム開始前に準備の時間を与えましょう!」
スタッフから俺達に部屋の鍵が渡される。
「説明されたルールを踏まえて、各々作戦を練ってください! ちなみに、イベント中の知り合いへの連絡は自由ですよ!」
相談・談合アリ。人望も実力の内って事っすね。俺のスクロール不要な連絡先リストが火を噴くぜ。
「個室には私からのささやかなプレゼントも用意していますので、お楽しみに!!」
◆
「で、これがプレゼントっすか」
個室に置いてあったボールを踵でリフティングしながら呟いた。球技は素人だが問題ない。俺は天才なので、練習しなくてもメタ・ビジョンくらいは多分できる。
「さて、このボールはアタリかハズレか……」
メモ書きによると全参加者にボールが配布されており、その内の3人がトゥルーボールを持っているそうだ。他はダミー。
何でもゲームスタート時の1回だけ、サービスとしてどれが本物か教えてくれるらしい。勝負を仕掛けるとしたら、その瞬間だな。
「もしもし、乙歯女さん? 俺、俺、俺っす。ちょっと力を貸してくれません? 実は気付いちゃったんすよね」
秘書に電話が繋がった。
「このゲームには必勝法がある!」
『……楽しそうね、余熱』
「そうっすかね? 大人数で遊んだ経験が少ないから、結構テンション上がってるかもっす……」
『ふふ、良いわ。作戦を聴かせなさい』
乙歯女さんは瀟洒に笑う。
『優勝したらもっと楽しいでしょ? あたし達2人で勝ちに行くわよ、余熱』
「乙歯女さん……! 了解っす!!」
流石にイケ女ンすぎる。やっぱり、フエラがナンバーワン! マジLOVE1000%!!
『他の参加者は最初から組んでる人が多いみたいだし、協力プレイを自重する必要はないわ。特に『フィンガーズ・パレス』なんて8人も送り込んで来てるもの』
「まあ、元々【深淵の嘴】は指ノ宮代表の所有物なんで、面子的に取り返しに来るのは当然っすけどね。にしても、随分とガチっす」
『ふふ、今までも気に入らない相手は大手の圧力で潰してきたんでしょうけど……世界には簡単に挟めないサイズの槍がある事をそろそろ思い知らせてあげるべきね』
「その卑猥なジェスチャー、やめれます?」
シュッシュと指を出し入れする部下を嗜める。平常運転にも程があるっすよ。
「もしもし、アルナルト……」
『はい、こちらレクター博士』
「切るぞ」
『あはは、ただの小粋なジョークだよ。君と僕の仲じゃないか。寛大に受け止めてくれよ、パパ』
今すぐ50万円借りられる広告くらい怪しい糸目女とそんな深い仲になった覚えはない。
「時間がないから単刀直入に言うっす。取り急ぎ教えて欲しい技術があるんすよ、アルナルトス」
『何だろう? 請求権の捏造方法かな?』
「開戦事由が欲しいわけじゃねぇよ」
何てこった、これが人間兵器……。破壊する事しかできない悲しい存在……。だがまあ、今回に限ってはその戦争屋の知識が必要なのだ。
「お前……破壊工作、得意っすよね?」
『誰に物を言ってるんだい? 僕は最強の兵士だよ。要塞の攻略からドローンの解体まで、何でも任せてくれたまえ』
「そうっすか。じゃあ……」
俺はアルナルトスに現在の状況と要望を手短に伝える。
『んー、本来なら最低でも数時間かけて教える技術なんだけど……まあ、君なら大丈夫か。1度の説明で理解してくれよ』
「誰に物を言ってんすか? 俺は天才、余熱芯っすよ。1を聞いて全てを知る男っす」
ワン・トゥ・インフィニティ!
『ところで、パパ。人に頼み事をする時には相応の態度があるとは思わないかい?』
「……何が望みっすか?」
『君達の話を聞いていたらシャバの空気が恋しくなってしまってね。監視付きで構わないから数日ほど外に出してくれないかな』
「監視役はラフポールで良いっすよね?」
『僕はパパとデートしたいなぁ……♡』
お前、そのおねだり声は何処から出してんだよ。癖のあるハスキーボイスに甘さが加わると破壊力が凄い。……でも、どうせ何か企んでるんだろ? 騙されんぞ。
『パパの選んだ服を着て、恋人みたいに振る舞ってあげるのになぁ……。青春を享受できなかった者同士、高校生カップルみたいに羽目を外して燃え上がろうよ。……ね?』
そ、そんな悪魔の誘惑にこの俺が……。
「……スケジュール調整しとくっす」
釣られクマー!( ´∀`)
◆
そして、スタート直前。
俺がマイボールを抱えてスタジオに戻ると、執事服の女性が駆け寄ってきた。
「芯様、ごきげんよう」
「え……ぉ、俺!? あ、えっと……うっす」
女性に話しかけられた時のキョドり具合で、童貞である事が同定されてしまった気がする。テイク2とかできない?
「わたくしはクーポン・ストリッパー。指ノ宮家の執事を務めております。凹権は『視界に収めた物体に動力を付与する』力。俗に言う念動力ですわ」
クーポンはボールに手を触れず、スイスイと8の字に飛行させた。この時点で官能力のコントロールは俺よりも上だろう。
「はぁ……?」
何故いきなり凹権の開示を……? ボマー捕まえたとか言ってやるべきか? 既に爆弾魔は収監済みなんだが……。
「今回のルールはわたくしに有利だと思いますの。普通の参加者が守りながら運べるボールは頑張っても2個程度。ですが、この力を使えば他者からの強奪に対応しながら多数のボールをゴールまで持っていけますわ」
「両手両足フリーってのは、かなりのアドバンテージっすね」
「ええ、そうなのです。では、芯様。……わたくし達と組みませんこと? お金が目当てでしたら【深淵の嘴】の所有権は買い取りますし、楽器目的であれば貸与も考えますわよ」
これは……『釣り』ですね(最初のスナイパー)。くくく、そんな演技で『いつわりびと◆芯◆』と呼ばれたこの俺を騙せると思っているのか?
と普段なら考えるところだが、うーむ。この女性は不思議な人だ。神童時代の俺を深く知っている素振りなのに、崇拝も畏怖も軽蔑も感じられない。
強いて言うなら、感謝? いやいや、何に対する感謝だよ。マロウになってからならともかく、子供の頃の俺は人助けなんかした記憶はないぞ。
「極めて個人的な理由ですが……貴方とは争いたくないのです」
慈愛の女神像くらい慈愛に満ちた俺としてはクーポンと協力する事も吝かではないが。
「嬉しい誘いですが、お断りするっす」
「……理由を伺っても?」
「大切な人と『2人で勝ちに行く』って約束しましたから。他人を勝たせる為の駒に成り下がるわけにはいかないんすよ」
最悪、俺達以外の誰かが優勝したとしても。黒歴史ノートの拡散防止と乙歯女さんとの口約束なら、圧倒的に後者が重い。
「……ズルいですわ。そんな事を言われては、わたくしの方が野暮ではありませんの」
クーポンは食い下がる事なく去っていく。潔い人だ。あの……別に連絡先交換くらいはしても良かったんすけど……?(陰キャ後悔)
「それでは、第31回【ストライフ】! 匿名希望様のアイデアに基づき……宝探しゲーム『オウンゴール』がまもなく開始いたします! ホイッスルと同時にボールの奪い合いが解禁されますよ! 皆様、ご武運を!!」
「余熱、準備はできてるわね?」
「うす。完璧っすよ」
俺は自身のボールを乙歯女さんの足元近くに置く。奪い合いはまだ駄目でも、これは禁止されていない。
「それでは、気になる抽選結果を発表します! 幸運にもトゥルーボールを配られたのは……」
乙歯女さんは代わりに自身のボールを投げ上げるモーションに入った。
「こちらのお三方です!」
俺はダッシュで落下地点に回り込みつつ、目線を走らせる。あの3人か。キュンメロ、『フィンガーズ・パレス』の1人、後は一般参加者。
(賭けには勝ったな)
ホイッスルの音と共に、俺はダミーが確定した乙歯女ボールを一般参加者に向けて蹴り飛ばす。
「甘いですわ!」
クーポンが念動力でボールの軌道を曲げ……。
「ナイスパスっす」
神速で追い付いた俺が再びボールを蹴った。
「あっ……!」
ボールが衝突すれば、本物と偽物が入れ替わる。俺は跳ね返ってきたボールをキャッチして、念動力に奪われないように胸の前でキープする。
そして、スタジオから外に飛び出した。
「……! や、やられましたわ……!」
「今、何が……?」
「余熱芯がトゥルーボールを奪って逃げたんだよ! 早く追うぞ!」
会場の喧騒を背中に浴びながら、逃走中の俺は上機嫌に口笛を吹いた。キュンメロ達よりも無名の俺が狙われるのは必然。上等だ。全員まとめてかかってこい。
「──試してやる。全霊で俺を持て成せ」
幻術恋人体験シナリオが読みたいヒロインは?
-
【循環吹奏】乙歯女・A・フエラ
-
【無機戦役】ダンプスター・アルナルトス
-
【退廃淫酒】レヴァニー・ラフポール
-
【偏狭横断】キュンメロ・ストリッパー