失恋した元神童は実質バトルファ●ク世界でまたやらかす 作:匿名
どうも、バトルファ○ク世界の運営っす。
「拝啓、アルナルトス君へ。俺にも心がある事と、俺の方が強い事を忘れないでください……っと。ヨシ! 送信!!」
「何をやっておるのじゃ、ヨネツ卿?」
目がチカチカするほど白一色コーデの『コキーユ・パイタン』が、コーンスープとコロッケを食卓に並べながら首を傾げた。
俺のサンドバッ……じゃなくて稽古相手として雇った彼女だったが、実は料理が得意という隠し要素があったらしい。その腕前たるや真顔で薔薇を投げてしまうほどである(ビビってた)。
「……ヨネツ卿?」
「ああ、これは単なる業務連絡っす。パイタンさん、【冥護窮理】って知ってるっすか?」
「ええと……腕利きの官能者達が所属する治安維持組織、じゃったな?」
正解。
「幾ら俺個人が強くても同時に対処できる範囲は限られてるっすからね。有事の際に俺の代理を務めるのが冥護窮理の役割っす」
ただ、【グロスナッジ】自体の歴史がまだ浅く非協力的な国も多いせいで、どうしても層は薄くなる。
凸権9段と凹権9段なんて現状1人ずつしか味方にいない。だって、他の9段連中とは会話が成立しないんだもん……。度し難い変態共め。
まあ、パイタンさんみたいな移民もドバトバ流入して来てるし、人材発掘のチャンスはまだあるはず。つーか、これからっしょ!(楽観)
「余熱がメールを送った相手はその次席メンバーよ。貴方も名前くらいは聞いた事があるんじゃない?」
黒髪の秘書『乙歯女・A・フエラ』がコーヒーカップをソーサーに置く。ちなみに、彼女の着ている服はシアートップスというらしい。ネットで調べたものの、童貞には特に使う機会がない知識だ。
「凸権9段『ダンプスター・アルナルトス』。
「優秀な奴ではあるっすよ。でも、性格が終わってるのでパイタンさんは会わない方が良いっす」
他人と触れ合えない事がコンプレックスの俺に対して、ビーチでナンパした水着女子と肩組んでる写真とか送り付けてくる、卑劣な術の使い手だからな。
なんっ……でそこまで! 的確に人を傷つける煽りができるんだよ、お前はあああああっ!! 野郎オブクラッシャー!!
「とにかく……最低なんだ、アイツ!!」
少年漫画なんかに登場しがちな、有能さで誤魔化してるタイプの問題人物。道徳0点。俺の事を音の鳴るオモチャだと思ってるドブカス。人の心でナインボールすな。
凹権9段の『ミセス・メドレー』も大概な自由人だし、もっと純粋に俺を慕ってくれる部下はいないんすかねぇ。人望がほちぃ……。
「さ、左様か……。あ、オトハメ卿、カップが空になっておるな。せっかくじゃから、エスプレッソのお代わりと軽くつまめる物を用意しようか?」
「いえ、遠慮しておくわ。今朝は余熱にお口で奉仕してたから、顎が疲れてるの」
「乙歯女さん、言い方ァ!!」
カス嘘お姉さん!?
「く、口で……!!」
口頭でスケジュール調整と事務的な話し合いをしてただけだよね!? ね!?
「大丈夫。上の口よ」
訂正するのはそこじゃねぇよ。
「途中から余熱がやる気になっちゃって、溢れるくらい出されたわ」
「溢れるくらい……」
アイデア! アイデアの話です!!
「出されたモノを全部
「よ、ヨネツ卿……独り善がりな行為は感心せんぞ……!」
「ゴカイガフエテル!(裏声)」
ヨネツヲイジメヌンデ……。そんなんだからマゾの癖に官能力が
「良いのよ。あたしも好きでやってる事だから」
基本的人権は死んだんだ。幾ら呼んでも帰っては来ないんだ。もうあの時間は終わって、俺も人生と向き合う時なんだ。
「やはり、2人はそういう関係なのかの……?」
「ふふ、ご想像にお任せするわ」
「ぴえぇ……」
∩(´・ω・`)つ―*’“*:.。. .。.:*・゜゚・* もうどうにでもな~れ。
◆
ウェルカム・トゥ・アンダーグラウンド。
乙歯女さんに対抗して下ネタを叫んだら普通に叱られた余熱芯っす。解せぬ。某動画投稿サイトの削除基準くらい理不尽だ。いやまあ、軽く注意されただけなんすけどね。
「ヨネツ卿が乱心すると人類の危機なのじゃが!? 心臓に悪い冗談は慎んでくりゃれ!!」
というのが、怒られ発生ポイント。何らかのゲージを解放し始めた故の奇行だと思われたようだ。戦力的に無敵の俺が精神的にも無敵の人になったら草も生えないので、この場合は向こうが正しい。
そんな俺が『パイタンまだ怒ってる?』と顔色を窺いつつ向かったのは、死角になりやすい地域の定期巡回であった。
「パトロールは【冥護窮理】の仕事っすから、別に付いて来なくても良いんすよ?」
「いや、ヨネツ卿に妾の実力を披露する良い機会でもあるからのう。初対面での醜態を払拭してやらんとな!」
専属シェフがグッと小さい拳を握る。
「聖地『ラルヴァンダド』の居住権を手に入れたのじゃ! 1分1秒も無駄にはできん! 有意義な学びを得なくてはの!!」
「聖地ねぇ……」
俺の率いる冥護窮理には現時点で3つの中心的な活動拠点が存在していた。
凸権9段、アルナルトスが統治している『ホルミスダス山脈』。凹権9段、ミセス・メドレーが管理する『グシュナサファ環礁』。
そして、凸権最段である俺が統治してるのが、ここ。最大級の広さを誇る『ラルヴァンダド盆地』である。
「うむ、其方が『戦争や環境汚染で人が住めなくなった地域』を積極的に再建している事は有名じゃ。道中で何度も聞かされたものじゃよ。その姿は人類の罪を引き受ける聖人の如し、と」
「はは……」
言えねぇー! 活動拠点を探し回ってる時に『おっ、静かで快適な場所あるやんけ!』くらいの感覚で決めたなんて、言えねぇー!
なまじ体が丈夫すぎるせいで普通に過ごせちまったから、畜生! 道理で人がいないわけだよ! いや、物理ダメージを無効化するグロスナッジのテスト環境としては申し分ないけども!!
おかげで、薄汚れたクレーターの上に建てたニュータウンが聖地とか言われるし、住民はやけに俺の事を崇拝してくるし……。
「知ってるか? マロウ記念館に対する寄付額が世界記録を塗り替えたらしいぞ」
「今、最も有意義に使われる寄付先と言っても過言ではないしな。マロウ様は多くの国々に平和を齎した賢者にして勇者。もしも横領なんてしたら、世界の敵になるのと同義だぜ」
「本人は私的な受け取りを拒否して、全額を慈善活動に費やしているとか……。あれほど高潔な魂の持ち主が他にいるでしょうか?」
「それに比べて、大国のお偉いさん達は彼の足を引っ張るばかりだ。有言実行も出来ない無能が我らが凸権最段と対等なつもりか? マロウ閣下なら出来たぞ? マロウ閣下なら出来たぞ?」
もうやめて! 偉人として持ち上げられすぎて、今さら自分の性欲を満たす為に開発したシステムとは言えない雰囲気になってる!
どうやら、一般ピーポーにとっては物理ダメージ無効こそが肝要で、グロスナッジがエッチなモノという認識はあまり無いらしい。これじゃあ、俺だけ脳内ピンクみたいじゃん!
「ふむ……絶頂だの性欲だのと宣いながら、立派な志も持っておるではないか、ヨネツ卿。器が大きい殿方は好みじゃぞ」
うっ、美少女に立派とか大きいとか囁かれると何ていうか……その……下品なのでやめとこう。
「よし、異状なしっすね」
いつものようにパトロールが終了する。昼間っから暴れるような連中は相当腕に自信があるヤベー奴なので、こういう地道な牽制は欠かせない。
「ヨネツ卿! あ、あれは!?」
突然、パイタンさんが顔を上に向けた。俺も追従してみるが、白い入道雲と変な円盤が目に映るだけである。
「そ、空を! 巨大な
「そういう天気の日もあるっすよ」
「あってたまるか!!」
そうかなぁ。
「おお……見ろよ、UFO飛んでる」
「何がおおだよ」
「いや、これは流石におおだろ」
「うるさいですね……」
ほら、住民達もあんな反応だよ。俺がマロウとしてチャリティーイベントを開いた時の方が1億倍くらい騒がしかったっす。それはそれでどうなの……?
「多分、誰かの官能力だろうし。……あ」
絵に描いたようなテンプレUFOの外周にジャキンと回転刃が現れる。ふーん、エッジじゃん。
「おい」
神速で仮面を顔に付け、個人を特定されそうな緑髪を変色させ、意識を凸権最段モードに切り替えた。民家の壁を斬り付ける寸前で高速回転する刃の腹を双槍で刺し貫く。
「
これ絶対入ってるよね(私有地に)。
「試してやる」
俺は腕輪に集めたエネルギーに指向性を与え、世界に刻まれた基本法則を反転させた。
「全霊で俺を持て成せ。凸権【
鎧袖一触。バラバラになって墜落するUFOの残骸を蹴り砕く。
「無人機か。追加で6機ほど迫って来ているな。……迎撃する。凹権持ちなら自分の身は自分で守れ」
俺は空中からパイタンさんへと指示を出した。
「はわわ……! 凹権【
同じく素性を隠す為の仮面を被った彼女が、貝殻状の
「人間が乗ってないなら」
加減した踵落としで1機を破壊し、両手の槍を投げて2機を機能停止させた。
「時間の無駄だな。"0666"」
残りのUFOが纏めてベゴンと潰れる。チマチマした作業は嫌いではないが、市街地で長期戦は避けたい。
「む?」
微かな違和感。俺の戦闘が一瞬で終わるのは普段通りだが、少し手応えが軽すぎたような……。
「きゃあっ……!」
地上で爆発音と同時に、女性の悲鳴が上がる。
自爆か!? しまった、彼女のバリアは上方面防御だ。横からの衝撃には対応できないだろう。
「パイタ……!」
「心配するでない! 妾は無傷じゃ!」
……! 細かく分割した貝殻を鎧にして全身を守ったか! しかも、余ったバリアで包むようにして周囲への爆風被害も抑えている。
素晴らしい。やっぱり、パイタンさんは潜在能力が高そうだ。ゆっくり育てよう。果実が美味しく実るまで……♡
「良い判断だった」
「其方と面会した時に思い付いてから、ずっとこの技を練習しておっただけよ。ようやく実戦で使える最低限レベルに達したかのう」
官能力は思考と想像の掛け算。自身の理想を追い続けられる者は、先天的な素質に関わらず成長する。例えばビスケットを出す能力とかでも、強い奴は強いのだ。
しかしながら、思考と想像のバランスは意外と難しい。浅い人生経験で常識が凝り固まると、少し前に襲ってきたロングコートのような雑魚で終わってしまう。
「その気概を忘れず精進してくれ」
「応っ!」
素直でよろしい。俺は仮面の下で少し微笑んでから、直ぐに真顔に戻った。
「それで? ……前回の襲撃も含めて何か申し開きはあるか、アルナルトス?」
「おや、気付いていたのかい」
他機体に紛れてステルスしていた最後のUFOが、景色を歪めながらヴィンと姿を現す。その上に立っているのは金髪糸目ピアスの軍服野郎。ムカつくほど整った顔立ちの美青年だった。
「もしかして、僕の官能力で製造した武器には特有の癖があるのかな? だとしたら……」
「"1984"」
言い終わる前に俺は腕を振るう。掌から放たれた熱線がイケメンを射貫いた。投げろ! ジャイロボール!!
「くたばれ」
これね、ファミリーの平手打ちだよ。
「あ、アルナルトス卿……。えっと……味方……じゃよな?」
多分そう。部分的にそう。どちらもあり得る。そんだけだ。
「悪は滅びた。帰るぞ」
「えぇ……」
楽しい祭りでしたね……。じゃ、帰ってフルアタ銀座風呂の再放送でも観るか。
◆
「あはは、酷いなぁ。生身の体で行かなくて良かったよ、本当に」
アルナルトスが憎らしい笑顔で立ち上がった。自身の右腕を引っこ抜き、断面から飛び出したケーブルと火花を眺める。
「ほら、君の放つ情報量を受け止め切れずに、内部構造が焼け爛れてるじゃないか」
「凸権9段、ダンプスター・アルナルトス。ホルミスダス山脈担当のお前がこのタイミングでここにいる理由。……まさか、偶然ラルヴァンダドを視察していたとは言うまいな?」
「そう怒らないでくれたまえ。僕の開発した兵器が悪用されてると風の噂で聞いて、独自判断で調査していたのさ。冥護窮理の首席としてね」
彼はガシャンと機械の腕を嵌め直した。
「勿論、山脈の管理にも支障は出てないよ。何せ僕はミセス・メドレーよりも優秀だからね。並行して複数案件を処理するくらいは余裕だとも」
「お前は一々自慢話を挟まないと喋れないのか」
「これでも反省してるよ。だから、不始末を詫びる為にわざわざ管轄外まで足を運んだんだ」
お前は! リモート参加だろうがァ!!
「さっきのUFOは何だ? 攻撃前に軽く探ったが爆発物の反応は無かった。状況から察するに、破壊させる事で完成する爆弾か……まったく、お前は悪意に満ちた兵器ばかり開発するな」
「ああ、オクタプルバック拡散起爆システムは僕が作った。それに合った戦術もね」
アルナルトスの代理人形が悪びれずに言う。
「もはや人間に分類できるか怪しい君はともかく、付き人程度に防がれるとは……試作品とはいえ威力不足だったよ」
おっと、心は硝子っすよ。
「とりあえず、今の戦闘で下手人の位置は探知できたから後は僕が片付けておこう。暇なら君も乗っていくかい?」
ばっ、別に暇じゃねぇし! ただ、俺は昔から乗り物というモノに密かに憧れていた。万が一にも感情を波立たせて運転手を気絶させたら大惨事なので、不要不急の搭乗は避けていたが。
だが、俺に次ぐ実力者のアルナルトスが操縦するUFO……。これはまたとないチャンスなのでは……?
「お前が心細いと言うなら、仕方な……」
「あ、ごめん。これ、中に色々詰め込んでるから1人しか乗れないんだった。うっかりうっかり。じゃあ、またね」
「……は?」
は?(困惑) は?(怒り) は?(殺意)
おい待てェ、失礼すんじゃねぇ。純真な心を弄ばれてバチボコにキレた俺は、UFOの発進を待たずにドパガキ舐めんなファンタジーを繰り広げようとする。
問題です。俺用の搭乗スペースを確保する時、代わりに下ろすべき荷物は何でしょう? 答えはお前! 死神クイズに解答者はいらない……!
「ところで、マロウ。
ぇ……?
「んあっ♡ 何、これぇ♡」
「ひぎぃ……♡ や゛あ゛……♡ こんな公道で……腰、抜けちゃ……♡」
「マロウ卿……♡ せめて距離を……♡ あへぇ……♡ ダメ♡ ぉぐ、逝っぢゃうぅ♡」
ヤベェ、一般官能者+パイタンさんが大変な事に。アルナルトスに構ってる場合じゃねぇ!!
落ち着くっす、俺! 冷静になるんだ! ぐっ、こんな時に限って見える範囲に女しかいない! 地面に倒れてる女子達のパンチラが、別方向に感情を昂らせてくる……!
「おぼぼぼぼ……♡ 極楽が見えるのじゃ……♡」
凄いぞ、アルナルトス。俺は今泣きそうだ。怖いし、辛い。
さて、乙歯女さんへの言い訳でも考えるか(諦め)。俺じゃない。アルナルトスがやった。知らない。済んだ事。ってか、あの野郎もしれっと退散してやがるし。
……悪い、少し泣く。
◆
「例えば、君が秘境に迷い込んだとしよう」
軍服の青年『ダンプスター・アルナルトス』はロングコートの人物の顔を覗き込んだ。糸のように細い目が不気味に感じられる。
「驚くべき事に、その土地では人肉食の文化が現役だったと仮定してくれ。君はきっとドン引きしながらも、異文化として許容する姿勢を示すだろう。多様性の教育万歳だね」
両耳のピアスがキラリと光った。
「だけど、もし彼らが『君も人肉を食べてみろ』と勧めてきたらどうだい? 生理的に無理なモノは無理だと思わないか」
「何の、話や……?」
ロングコートは口を挟む。凸権最段の腕輪を奪う仕事に失敗した件で処断されるかと思えば、目の前の依頼主は気にした様子もない。まるで最初から無理だと分かっていたように。
「僕がマロウという男に向けている、2つの想いについての話さ」
「はぁ……?」
「1つ目は感謝だ。猿のように醜く不衛生な『原始的な性交』に依存する時代を終わらせた事。これは評価に値する。僕にとっては人肉食と同じくらい生理的に無理な行為だったからね」
アルナルトスが広い格納庫の中を歩き始める。この場面だけを切り取れば、お喋り好きな青年にしか見えない。しかし、アルナルトスの経歴を知っている者にとっては……。
「2つ目は殺意」
軍靴が床を打ち付けた。
「彼は……僕の人生を否定した。世界に平和を齎して、あらゆる兵器を粗大ゴミに変えたんだ。最強の兵士として『製造』された僕も実戦投入前に生きる価値を失ったわけさ」
軍服の胸元をトントンと叩く。そこには公的に存在しないはずの部隊章があった。
「
「グロスナッジ……」
「そう。だから、僕は学んだ全てを使ってマロウを攻略し……グロスナッジの制御権を奪う」
ロングコートが複雑な感情を声に滲ませる。
「……可能なんか? 凸権最段は化け物やで。心技体、魂までもが規格外。奴はジブンらが手を触れる事さえ烏滸がましいと思えるほどの……奇跡の突然変異や」
彼はマロウの官能力を浴びた時、その情報量に圧倒された。一般的な官能者の持つ思考をメモ用紙1枚分とするなら、凸権最段の思考回路は大図書館。
グロスナッジに適応できなかった現実主義者だからこそ、ロングコートは敵の脅威度を冷静に分析できていた。
「策はある。僕自身も高段者だから分かるけど、凸権使いは攻撃力が高い反面、飽和攻撃を凌げるほどの防御力はない。事前準備次第では格下に負ける事もあるんだよ」
凸権と凹権はグロスナッジ適用地域でのみ得られる固有能力であり、本人の資質に合わせてどちらか片方だけが発現する。マロウも例外ではないはずだ。
「それに、僕達の目的はあくまで【グロスナッジ】運営権の奪取。腕輪を掠め取れるだけの隙を作れば勝ちだ。工夫の余地はあるよ。囮を配置して注意を分散させる、とか」
「囮……」
「囮役は勿論、僕以外が行く。こっちには心強い協力者がいるからね。……出番に備えてくれたまえよ、マダム・グユ」
「あいあいさ~♪」
修道服を着た女性『マダム・グユ』がピースサインで応じる。
「というか、何故ここにいるんだい? 病弱な君に配慮して専用の個室を用意したのに」
「いや~、ははは、格納庫で自撮りしたくなっちゃって~。ほら、こんなSF兵器がズラッと並んでる光景、絶対映えるじゃ~ん。げほっ、げほっ!」
グユが喀血した。しかし、彼女も自分の体質には慣れたもので、タオルで素早く血を拭う。
「は~い、リラックス、リラックス~。よーしよし、止まった~」
「難儀な体質だね、グユ」
「君ほどじゃないって~。えっと……そう言えば、何て呼べば良い~? ダンプスター君? それとも……アルナちゃ~ん?」
「凸権【
太い針金のような奇妙な兵器が変形し、グユの首を縛り上げる。
「危な~! 急にそういうの、やめれる~? 幾ら怪我に繋がらない官能力でもさ~」
「あまり元軍人を挑発するものじゃないよ、グユ。傷害行為が禁じられたくらいで僕の本質は変わらない。覚えておきたまえ。──快楽でも、人は殺せる」
あらゆる状況を想定して訓練してきたアルナルトスは、人間の壊し方を熟知していた。
「僕の凸権は超威力の架空兵器を生み出せるんだ。想像してごらん? 1都市を死の大地に変える威力の爆撃が全て快楽に変換されたとしたら……どんな人間でもショックで心臓が止まると思わないかい」
「ピリピリしてんね~。あ~しが悪かったから一旦落ち着こ~? リラックス、リラックス~。のんびり生きる方がアドだよ~」
グユの細い指が首を戒める兵器をなぞる。
「凹権【
破砕音。
「要するに、あ~しは冥護窮理の坊や達と時間稼ぎの喧嘩ックスしてればオッケ~?」
「ああ、できるだけ派手に注意を惹いてくれ」
「楽勝~。むちゃくちゃ暴れるから、大船に乗ったつもりでリラックスしてて~♪」
アルナルトスは溜め息を吐いた。
「はぁ……。普段なら扱いにくい人材はミセス・メドレーに押し付けるんだけど、今回ばかりはそうも行かないか」
「大丈夫~? 慰めックスしてく~?」
「しないよ」