失恋した元神童は実質バトルファ●ク世界でまたやらかす 作:匿名
ハメ匿の最下位争いからどうにか脱したいので、連休中に☆が余ってる方は高評価お願いします。
今や【グロスナッジ】の存在はゾルトラークくらい一般社会に浸透したわけだが、当初は諸外国の人々から強く批判されていた。
根本的な仕組みの全てがブラックボックス……完全非公開であれば、それもやむ無しだろう。
募金やら慈善活動やらで地道に信頼を積み重ねていなかったら、マロウは怪しいオカルト仮面としてネットのフリー素材で終わっていたかもしれない。品性は金で買えるよ。
ぶっちゃけ、あまり無駄に時間をかけたくなかったけど、グロスナッジの秘密を公表するのは色んな意味でリスキーすぎるからな。
いやー、でも、あの頃は本当にキツかったっすね。味方が少ない上に、失恋のショックもまだ尾を引いてたし……。あまりのストレスで闇堕ちキメて、黒歴史ノートをネットの海に放流したりもしてた。
恥ずかしすぎて記憶の奥底に封印していたが、確か内容は『俺の考えた最強理論』みたいなヤツだった気がする。
と言っても、グロスナッジと違って実現可能性が薄い……それこそ大国規模の権限が必要な代物ばかりを集めた没案集だ。オカルト関連も盛り込んだ理論なので、真っ当な科学者が見たら冷笑したに違いない。実際、いつの間にかネット上の関連データも全て削除されていた。
子供の落書きをわざわざ消してくれた人には礼を言おう。締めに『
ああ、そう言えば。あの文書がキッカケで俺に情熱的なメッセージを飛ばしてきた、電波なオッサンもいたな。
某国の国家元首だとか抜かしてたが、あんな我が儘で譲歩の欠片も知らない馬鹿が大国のトップなわけがない。物真似芸人として笑いを取りたいならもっと役作りを頑張れ。
普通にイラついたので『どしたん、話聴こか?』と適当な対応をしつつ、相手の端末に自作の増殖変異型ワームをブチ込んでやった事までは覚えてる。それ以降は知らん。
なんか【S文書】だの【アルナ計画】だのと陰謀論めいた妄言を吐いてたので、今も元気にSNSでレスバとかしてるかもっす。勝手に戦え。
……と。アルナルトスが【S文書】とか言い出したせいで、余計な記憶を思い出してしまった余熱君なのでした。
◆
「凸権【
花が咲くように広がった機関砲の束が出来立てホヤホヤの廃墟に向けられる。もうやめて! ラルヴァンダド盆地のライフはとっくにゼロっすよ!!
「凸権【
俺は熱線で砲身を溶断した。凸権同士のバトルは早撃ち勝負。とにかく先手を奪い続ける。行くぞ、戦闘狂。武器の貯蔵は充分か?
「おや、ミセス・メドレーから離れて良いのかな? 僕は彼女にトドメを刺そうとするかもしれないよ?」
「くだらん脅しだな。一流の軍人は敵に意図を読まれる事を最も嫌う。狙いを明確にしてくれると言うなら、むしろ好都合だ」
「あはは、参ったね。駆け引きでは勝てそうにないや。やはり、天才か……」
アルナルトスがピアスを指で軽く弾いた。
「だったら、当初の予定通り大艦巨砲主義で行こう。──"丸めた新聞紙"」
巨大な列車砲が出現する。奴が乗り込んだ装甲車両の部分に熱線をぶつけるが、少し焦げただけで終わった。そりゃ、俺のよく使う技は対策してくるっすよね。当たり前体操。
「ならば、こちらも質量で潰す。──"0004"」
上空に翡翠のような緑塊が現れる。空気中の水分を……なんてちゃちな理屈じゃない。俺は今ここで空間を変質させ、アルナルトスに撃ち込む為の新たな
「正しく、神の御業だね。だけど、それも許容範囲だよ。──"煤けた灰皿"」
隕石攻撃が分厚い盾に遮られる。
「爆発反応装甲。攻撃は最大の防御ってね」
盾の内部を爆発させて威力を削いだか。認めるのは癪だが、称賛に値する対応力である。
「次は僕のターンだよ。発射!」
特大口径の列車砲から放たれる殺意の塊に、俺の凸権が自動で反撃を始めた。正確には俺自身が無意識でやってるわけだが、細かい事はどうでも良い。時代はオートマだ。
(乙歯女さんの『調律』のおかげで、普段よりも官能力をコントロールできてる。これなら周りに配慮せずに戦えるな)
俺が最強という事は、誰も俺の官能力による影響を除去できないという事でもある。興奮すると力が制御できなくなる俺は、常に自制を強いられていた。
だが、今は違う(ギュッ)。乙歯女さんのサポートにより、俺は一時的な自由を手にしていた。有能。惚れてまうやろ。
「"吐き捨てたガム"……!」
全身に貼り付こうとした粘着爆弾を、硬い質感に変えて蹴り返す。同時に左手の槍を投げ付けて、ゴボウの皮剥きの要領で装甲車両の壁を引っ剥がした。
「窒息、転落、感電、中毒、圧壊、沸騰……。好きな死因を選べ、アルナルトス」
「……あはは、何て理不尽な強さだ」
俺はアルナルトスの挙動を注視する。
奴の性格から考えて、切り札も無しに俺に挑むとは思えない。必ず、ここから奥の手を出してくるはずだ。
「以前、君にも見せただろう? 破壊される事で完成する爆弾。あれは威力こそ低かったけど、実に僕好みのアイデアだった」
アルナルトスが糸目を開眼した。金属片の擦れる音が全方位で聴こえる。これまで破壊された兵器の残骸が集まり、歪な形に組み上がっていった。
「廃棄物回収車。──"壊れた糸巻き"」
それは失敗兵器である。ありったけの炸薬を詰め込んだ筒を2つの巨大な車輪で挟んだ、不格好な兵器。
車輪から放たれるロケット噴射の推進力により『飛ぶように走る』、攻撃力だけに特化した究極の自走爆雷。
──パンジャンドラム。
「僕は
墓地からの復活はルールで禁止すよね……?
「巨大化は負けフラグらしいぞ」
「合体は勝ちフラグだろう?」
アルナルトスの口振りでは、本日全ての爆発力があの兵器に集約されているようだ。……いやそれ、自分も無事では済まないだろ。頭イカれてんのか? ぱんころー、じゃないんよ。
「さあ、どう凌ぐ?」
避けるのは無理だな。爆発の威力が高すぎて躱しようがない。乙歯女さんも巻き込まれる。迎撃も駄目だ。衝撃を与えたら(以下略)。
「これしかないか……!」
パンジャンドラムを変質させて、爆弾としての機能を失わせる。時間との戦いだ。
止まれ、止まれ、止まれ……!
「……っ! 間一髪……!」
「お見事。君ならやってくれると信じてたよ」
気付いた時には、幅広の禍々しい軍刀を構えたアルナルトスが目の前にいた。コイツ、俺の注意を逸らす為に……!?
「僕は最強の兵士だよ。近接戦闘が不得手な道理はないね。──"切れたナイフ"」
後退りする俺を追うように刀身が爆発し、飛び散った破片が腕にパラパラと当たる。それはどうでも良い。そんな事よりも……。
「あはは、やった! マロウの腕輪……制御装置を奪い取った! これで、グロスナッジは僕のモノだ……!!」
「ぐっ……」
凸権の制御が急速に乱れていく。体が内側から破裂しそうだ。ああ、ヤバいな。
「君の異様な強さの秘密もこれだろう? 肌身離さず持ち歩いている腕輪こそが……!」
アルナルトスが自身の腕に腕輪を嵌める。そして……ピタリ、と動きが硬直した。
「……。……。……は?」
爽やかなイケメン顔に珍しく汗を浮かべている。ざまぁみろ。
「おいおいおい、冗談だろう……? そんな馬鹿な事があって良いのかい……?」
困惑。どうやら、あの腕輪の機能を正確に理解したらしい。
「これはただの
凸権最段、マロウ。
何故、俺が誰の支援も受けずに……世界を相手に立ち回れたのか。何故、グロスナッジを生み出せたのか。何故、戦闘後に頭が痛むのか。その答えはただ1つ……。
「何を驚く? お前らもずっと言ってただろ? その腕輪は制御装置だ。世界で唯一の
アルナルトス。凄いよ、お前。自力でグロスナッジの秘密に辿り着いた奴は多分初めてだ。
では、改めて自己紹介しよう。
「特権【
──
◆
本気になれ、と皆が言う。
手を抜くのは逃げてる証拠だ。全力を出さない人間は何も成長できない。とにかく力の限りに頑張ってみろ。……そう言われる。
「超能力に目覚めた時、俺は苦悩した。万物を変質させる力が制御できない状態では、世界が酷く脆いモノに感じられたからな」
これは世界に取り返しの付かない影響をもたらす力だ。慎重に試してからじゃないと本気なんて出せやしない。
そこで俺は考えた。俺だけが持つ【特権】をどうにか他人にも分け与えられないかと。
「その腕輪は『俺の【特権】が与える変質の方向性を1パターンに固定し、常に一定範囲に展開させ続ける』。要は【グロスナッジ】というシステムを運営する装置だ」
まあ、それでも力を使いきれなくて、1割くらいは戻ってきちゃってるけど。
「俺はグロスナッジから溢れた【特権】の絞り滓に【凸権】と名付け、俺の変質によって攻撃系の力に目覚めた者達も同じように呼ぶ事にした」
そんな凸権に対応した進化なのか、凹権なんて枠組みも生まれて『知らん……何それ……怖……』と若干ビビったりもした。
「……正直、信じられないよ。それほどの力を宿しながら君が人間でいられる事が」
アルナルトスが真剣な顔で呟く。
「窮屈じゃないのかい? 生まれる場所を間違えたと思った事はないかい? ……あの日の僕と同じように」
「さあな。だが……」
仮面がパリンと割れた。
流石に俺の全力には耐えられなかったか。まあ、アルナルトスがマロウの正体を言い触らすとは思えないし、構わない。
「独りぼっちで人間辞めても楽しくないっすよ」
「……意外と若いんだね」
「マロウはキャラ作りっす。貫禄がないと舐められるんで。ガッカリしました?」
「まさか。そっちの方がしっくりくるよ。今までは少し違和感があったから」
「そっすか。じゃあ、時間をかけると暴走しそうですし……落とし前、付けましょうか」
普段はグロスナッジに吸い取られている、正真正銘の10割。余熱芯の本気。【特権】が唸る。
「あはは、デッカ……。そんなの入らないよ」
直後、莫大な情報量がアルナルトスの精神世界を一瞬で埋め尽くした。
◆
どんな時代にも独裁者は存在する。
無論、本人がそう名乗るとは限らない。その者は民意の代弁者を自認しているかもしれない。もしかすると、かつては実際に名君だった可能性もあるだろう。
だが、自身が力を持つ者となり、誰も逆らえない環境を確立したが最後、人間は信じられないほど愚かな過ちに手を染める。
恐喝、粛清、虐殺。歴史を紐解けば、目を疑うような事例が幾らでも出てくるはずだ。
──【アルナ計画】もその1つである。
通信技術の発展と共に、世間の流行は目まぐるしく変化するようになった。しかし、価値観というものは一周回って元の場所に戻ってくる事も少なくない。
さて、戦争の話をしよう。
英雄が活躍する時代は終わり、現代の軍事は『優れた個人の育成』よりも『優れた技術の開発』に重点を置くようになった。
1人の飛び抜けた兵士がいたところで勝敗は覆らない。人間の能力には限界がある。注力すべきはシステムだ。もっと迅速に、もっと高度に、もっと複雑に。
では。
そうして先鋭化したシステムは誰がコントロールするのだろう。仮に人工知能が勝利に導いてくれたとして、それは本当に管理者の思惑を外れないと断言できるのか。
とある大国の国家元首は、ふと考えた。一応は民主主義を掲げながらも、彼はほぼ独裁に近い体制を構築している。だからこそ、疑心と不安も人一倍強かった。
彼は思う。今こそ、優れた個人が必要だ。権力者が把握できないほどに分散したシステムを束ね、自分の指示通りに敵を殲滅する
人間では能力が足りない? ならば、改造しろ。遺伝子を編集して知略に特化した人間を製造しろ。それでも足りないなら、脳に機械でも何でも埋め込めば良い。
……結論から言うと、独裁者の計画は頓挫した。そもそもの方法論が不完全で合理性を欠いていたからだ。
製造された子供達は誰1人として目標値に達しなかった。普通の兵士と比べれば圧倒的に優秀。だが、その程度では意味がない。
「廃棄しろ」
たった一言で、無数の命が散った。大国の機密を抱えた失敗作を生かしておく理由は、もはやなかった。
「皆……? ……な、んで……!?」
ただ1人、私兵から銃を奪って返り討ちにし、逃げ延びた少女がいた。後の『ダンプスター・アルナルトス』である。
独裁者は手短に『処分しておけ』と吐き捨て、【アルナ計画】に対する興味を失った。
眠れない。
少女はゴミ山の上でビニールシートに包まり、縋るように銃を握り締めていた。目を閉じると仲間達の死に顔が彼女を責め苛む。
粗大ゴミに混ざっていた機械類を組み合わせて電波を拾い、周辺国家の関係性や地理的要因を加味して、追っ手が最も手を出しづらいスラム街を転々とする日々。
皮肉にもアルナ候補としてインプットされた軍事知識が彼女を生かした。
「そっちが肩ぶつけてきたんだろうが! 何逃げてんだ! おい、コラ!!」
「い、いや……! もう、やめて……!」
この辺では名の知れた強盗グループのリーダーが、若い女性の髪を掴んでいる。彼女の服はナイフのような物で引き裂かれ、その肉体には『乱暴された痕跡』がハッキリと刻まれていた。
「……醜い」
少女は思わず嫌悪感を声に出す。生まれる前から遺伝子を操作され、生殖機能すら与えられなかった彼女にとって、愛の感じられない性交は唾棄すべき対象だった。
「……あ!? 今、何つったガキ!? 名を名乗れ! てめぇもボコボコにしてや……!!」
素人が手に持ったナイフを弾き飛ばし、ゴミの下に埋もれていたロープで首を絞める。
「お……げ、ぁ……!?」
「死にたくなければ、二度と僕に逆らうな」
泡を噴いて倒れる男性の顎を蹴り上げた。銃を使うほどの相手でもない。
(名……名前か。そう言えば、僕は何て名前なんだろう? アルナ? いや、計画名そのままを名乗るのも気分が悪いね)
少女が再びビニールシートを被る。命のないゴミの冷たさだけが、彼女を穏やかな気持ちにさせてくれる。誰からも必要とされない、打ち捨てられた者の居場所。
「僕達の、
数年振りに会っても、嫌いな奴は嫌いなままらしい。横柄な中年男性を細めた目の奥で睨み付けながら、ダンプスター・アルナルトスは敬礼する。
「招集に応じて参じました」
「おお、来てくれたか。いや、随分と立派に成長したね、アルナ」
(……正気かい? 自分があんな目に遭わせた相手に対して、罪悪感の1つも感じられない)
「君を呼び戻したのは他でもない。長らく凍結されていた【アルナ計画】に実現可能性が見えたんだ。そこで、我々が手塩にかけて育てた君に協力して貰いたい」
気持ち悪い。吐き気がする。この肉の塊は徹頭徹尾、他人は自分に尽くして当然だと考えているのだろう。その立場に見合った器もない癖に。
「……実現可能性、とは?」
「【S文書】だ! これは凄いぞ!!」
話を纏めると、どうやらネットに匿名で投稿されていたオカルト混じりの超理論が独裁者の心を掴んだようだ。
「我々が施した改造をこの理論に基づいて修正すれば、君は今度こそ『最強の兵士』として完成する! 嬉しいだろう、アルナ!!」
アルナルトスはずっと考えていた。コイツを殺すだけでは、死んだ仲間達はきっと納得しない。
(もっと徹底的に破壊しないとね。従順な飼い犬のフリをして、戦争を内側から破綻させる)
軽く流し読みしただけで、アルナルトスは理解した。驚くべき事に【S文書】はただの妄言ではなく『本物』である。この理論を身に宿す事ができれば……。
(この男の人生から全ての意味を奪って、ゴミ以下まで貶めてあげよう。──それが、僕の生きる意味だ)
彼女は抵抗の意思を忘れない為に、軍規違反のピアスをわざと両耳に付けた。
◆
「お前……女だったのか!」
「あはは、浅いリアクションをありがとう」
アルナルトスの身の上話が重すぎて、色々と深掘りできねぇよ……。
「長い地獄の中で、僕は学んだのさ。人を救うのは綺麗事ではなく力。そして、強大な力には必ず牽制できる存在がいなければならない。僕は君からグロスナッジを奪う事で、それを分かって欲しかったんだ」
「同情するとこはあったけど結論がカス!!」
口で言え、口で! 何、全世界を巻き込んで盛大なオナ○ーしとんねん!!
「お゛……♡ ぁ、あまり官能力を膨らませないでくれ、マロウ……。こう見えて、余韻でトロトロになっちゃってるんだ……」
ごめん、何が!?
「本当に屈辱だよ……♡ この僕が奥の奥まで曝け出す事を強要されて……挙げ句の果てに、自ら跪いて奉仕してしまうなんて……♡」
「言っとくけど、それ全部お前の妄想っすからね。俺がやったのは官能力による攻撃だけっす」
ゾクゾクと肩を震わせながらの上目遣いをスルーし、きちんと釘を刺しておく。お薬出しときますねー。はい、次の方ー。
「冷たいね、マロウ」
「『余熱芯』っすよ。俺の本名」
仮面無しでマロウと呼ばれるのは落ち着かない。アルナルトスなら素顔から簡単に特定するだろうし、隠しても無駄だろ。
もし問題があったらハメえもん……じゃなくて乙歯女さんにどうにかして貰おう。うわーん、またアルナルトスに虐められたよー。しょうがないわね、ヨネ太君は。
(あと、やっぱりあれだよなぁ。まさかと思ってたけど【S文書】って……)
俺が失恋のショックで書いた黒歴史ノートやないかーい! あの厨二病オッサン、ガチの国家元首だったのかよ! それなら最初に言っとけよ!!(←普通に言ってました)
ほわわ……俺の黒歴史が世界規模に……。早く関係者に記憶を消す光を当てないと……!
「……ちなみに、【S文書】の筆者も俺っす」
アルナルトスには超早口で補足しておく。言ったかんな! 義務は果たした!(クズ)
「そうか、マロウ。いや、芯が……僕の……」
……まあまあまあ、ね?(語彙力消失)
「ところで……あれっすよね? 独裁者が持ってた文書はちゃんと消去されたっすよね?」
「さあね。あの男が失脚したのは知ってるけど、文書データの行方は知らない。どっちにしろ、あれを削除しても意味ないし」
意味ない、とな?
「匿名Sは裏社会では有名人なんだよ。【S文書】の理論を元に進められた計画は世界各地にある。その中でも実を結んだモノは【Sの落胤】なんて呼ばれて、特級の厄ネタ扱いされてるくらいさ」
「落胤!? 人聞き悪っ!!」
「おや、僕は的を射てると思うけどね」
アルナルトスが軍服の胸元を開いて、ニヤリと笑う。うおっ、結構アルナっぱい……!
「君の理論が『最強の兵士』を造り上げたんだ。ちゃんと認知してくれよ……パパ♡」
「童貞で子持ちとか嫌なんすけど」
「本当につれないな、パパは。事後なのに♡」
「事後じゃねぇよ。ってか、その呼び方を定着させようとすんなっす」
誤解されるからやめろォ!!
「芯」
「今度は何すか」
「少しは満足できたかな?」
風に揺れる金髪が目に入る。
「お前……」
「僕はずっと自分が嫌いだった。最強の兵士という呪縛を誰かに否定して欲しかったんだ。……ああ、凄くスッキリしたよ」
アルナルトスがピアスを外し、投げ捨てた。
「ねえ、芯……」
「ん?」
「戦争を阻止してくれて、ありがとう」
「……っす」
子供みたいな笑い方すんなよ、馬鹿。
◆
「──"鶏鳴"」
その一撃はあまりにも速すぎた。
この俺が殴られた事に遅れて気付いたほどの、規格外なスピードパンチ。
「芯が、殴られた……!? 腕輪は返したけど、自動反撃は健在のはずだろう!? 凸権【……!!」
アルナルトスが動揺しながらも武器を出そうとして、蹴り飛ばされる。
「がっ……!」
「……何者だ、お前」
俺は下手人……『マダム・グユ』を睨む。
「芯ちゃんのママ、略してシンママで~す」
「ふざけるな。俺の母親は出産時に死亡してる」
天涯孤独。それが余熱芯だ。
「な~んちゃって。嘘、嘘~。でも、血縁なのは本当なんだな~」
よくよく観察してみると、確かにこの修道服女は少し俺に顔立ちが似ている。
「あ~しの名前は『余熱
マダム・グユが親指を立てた。
「アイ・アム・ユア・ファザ~♪」
「「……はぁ!?」」
理解が追い付かない。
グユが俺の父親!? いや、胸ありますやん!? バ美肉したんか!? 性転換タグ付けてる!? 俺は助けを求めるようにアルナルトスを見る。
「パパのパパ……つまり、
「お前は何を言ってるんだ」
乙歯女さーん! 早く起きてくれー! 間に合わなくなっても知らんぞー!!(他力本願)
ああ、もう、畜生! どうして、俺の周りはこんなにカオスなんだ!
神様ー! 俺はいつになったら美女とイチャイチャできるんすかーーーー!!??