異世界家族物語 ~孤独だった私ですが、今ではたくさんの子供達のママになりました。血の繋がりがなくても、育てた子供はとても可愛い。幸せいっぱいの大家族を目指します~   作:んばぶぅ

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第一話 ママ誕生!

 

 

 

 

 

 私はこの30年、謙虚堅実、質素倹約を通して生きてきた。

 

 真面目に働いて、税金を納めて、将来を考えてちゃんと貯金して、趣味や贅沢はぐっと堪えて……。

 

 そして、虫のように潰されて死んだ。

 

 最後に覚えているのは、こちらに向かって崩れてくる瓦礫の山。違法業者のトラックの事故に巻き込まれたのだと思う。

 

 ああ、なんてしょうもない人生。

 

 素敵な人と巡り合って結婚して、子宝に恵まれた幸せな家庭が欲しかった……。

 

 

 

『その願い、かなえてあげましょう』

 

 

 

 薄れていく意識の中。白いヴェールの向こうで、人ではない何かが小さく笑うのが見えた気がした。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 そして。

 

 気が付くと、私は人知未踏のジャングルの只中に転がっていた。

 

「……何故にホワァイ?」

 

 記憶の前後が繋がってないと怖いとか通り越して困惑しか出てこないというのを始めて知った。

 

 もそもそと身を起こすと、なんだかやたらと視界が低い。あれ、おかしいな、私ってここまで背が低かったっけ?

 

 そもそも私って何だ?

 

 あれ???

 

「????」

 

 寝起きで記憶が混乱しているのかもしれない。

 

 とりあえず、私はきょろきょろと周囲を見渡した。

 

 ここはどうやら、南米かどこかのジャングルの奥地……なのか?

 

 周囲にやたらめったら草木が生い茂り、巨大な広葉樹が空が見えない程に葉を茂らせているけど……なんか、その木の大きさが高層ビルぐらいある。葉っぱ一枚一枚が乗用車並みだ。

 

 いくらなんでも大きすぎる気がする。

 

 でもその前に、南米ってどこ? 高層ビルとか、乗用車って何?

 

「あにゃ???」

 

 何だか意識がまとまらない。

 

 とにかく、周囲は人の気配の存在しない大森林。頭上を枝葉に閉ざされた森の中は薄暗く、木の葉や枝の陰に何かが潜んできそうな気配がする。空気はむわっと湿気ていて、咽るような緑の香りの中に、生臭い獣臭が隠れているような気がした。

 

 近くで、ぴちょーん、と雫が落ちる音。

 

 ……なんだろう。このままここに居るのは、よくない気がする。

 

 とりあえず身を隠そうと、私は足元を覆う下草を払って、一歩踏み出した。

 

 その途端、ぽてっと、懐から何か四角い物が転げ落ちて地面に落ちる。

 

「あっ」

 

 反射的に拾い上げて確認する。表面についた汚れを払うと、それはどうやら携帯端末のようだった。

 

 ……? 私の持ってたスマホってこういうデザインだったっけ?

 

 首を傾げながらも、操作は指先が覚えていたようだ。側面のボタンをカチリと押し込むと、ぱっと画面が点灯する。

 

 無意識に4桁のパスワードを打ちこみ、ロックを解除。

 

『所有者認証を開始します』

 

 ぱっと画面が勝手にセルフ撮影に切り替わる。

 

 画面に映し出されたのは、黒髪青目の、ツインテールの女の子。年のころは10歳ぐらい? ほっぺは健康的に赤らんでいて、茶色いワンピースがシックで可愛らしい。

 

「って、これ、私!?」

 

 あわわ、と自分の顔をぺたぺた触ると、画面の中の女の子も同じ仕草。

 

 ば、ばかな。そんなはずは。

 

 だって私は30歳の会社員で……あれ? 私はどこで生まれて、どこで育ったんだっけ?

 

 なんだか頭の中がどんどん軽くなっていくような錯覚を覚える。果たして本当に寝ぼけているだけなのだろうか。思い出せる記憶が、どんどん消えていくような……。

 

『所有者認証を完了しました。続けて、ミッションについての説明を……』

 

 ブブー、と手の中の携帯端末が振動する。その画面が突如真っ赤に染まって、警告文らしきものが白字で表示された。只ならぬ雰囲気。

 

『警告。致命的存在が接近してきています。すぐさまこの場を離脱してください』

 

「え……?」

 

 表示された不穏な言葉に絶句するのと同時、近くの繁みががさりと揺れた。

 

 反射的に振り返る。

 

「……ひっ!?」

 

 そこにあったのは、真っ黒な毛の塊。

 

 微かな光を受けて艶やかに輝く繊毛で覆われた、無数の足とでっぷり膨らんだ大きなお腹。その中に埋もれるようにして、八つの瞳が黒真珠みたいにキラキラ輝いている。

 

 タランチュラ。

 

 それも、人間ぐらいの大きさがある化け物蜘蛛だ。

 

 その足がぐっとたわむ予備動作が見えたような気がして、私はとっさに横に飛びのいた。

 

「わああ!?」

 

 地面に倒れ込む私のすぐ後ろを、黒い巨体がすんでの所で通り過ぎていく。

 

 凄い跳躍力! どれだけ距離を開いても、あれじゃすぐに捕まってしまう!

 

 急いで身を起こすと、私はその場をたちまち逃げ出した。

 

「わ、わああ!?」

 

 狙いをつけられないように、ジグザグに蛇行しながらジャングルの中を走る。

 

 で、でもあんなのに狙われたら逃げ切れない! そ、そうだ、どこかに身を隠せばいいんだ! あの巨大蜘蛛が入ってこれない小さな隙間に……。

 

「ひぃ!?」

 

 踵を返した瞬間、目と鼻の先をひゅごお! と跳躍して通り過ぎていくタランチュラ。ビタン、と木に張り付くようにして停止したその巨体が、もぞもぞと方向転換してこっちに向き直る。

 

 だ、駄目だ、いつまでも逃げていられない、どこか近くに隠れる場所は……あった!

 

 数歩先の大木の根元! 根っこの下に小さな隙間……あそこなら私は入れるけどタランチュラは入ってこれない!

 

「うわあああああ!」

 

 全速力で走り込み、スライディングするようにして根っこの下に潜り込む。間一髪、大質量の何かが背後で根っこに激突する音と衝撃が聞こえてきた。

 

 せ、セーフ!

 

「た、たすか……ってない!」

 

 狭い天井に安堵したのも束の間、タランチュラの黒い脚が隙間に潜り込んできて慌てて奥に逃げる。

 

 どうやら相手は私の事が諦められないようで、なおも足をガサガサさせている。

 

「ひ、ヒィー」

 

 私に出来る事は、出来るだけ奥に身を寄せて震える事しか出来ない。

 

 一体いつまでこの時間が続くのだろう、そう思っていると……。

 

『……ギシュ!?』

 

『ギャオオオ!』

 

 何やら、外が俄かに騒がしくなる。タランチュラの足が忽ち引っ込み、代わりに聞こえてくるのは甲殻をすり合わせるような乾いた叫びと、轟くような獣の雄たけび。

 

 どすんどすん、と大質量がもみ合うような振動の後、にわかに外は静かになった。

 

「…………?」

 

 森に静寂が戻ってくる。

 

 たっぷり5分ほど様子見してから、私は恐る恐る隙間から顔を出して外を伺った。

 

 そこにはタランチュラの姿はすでになく……代わりに、千切れた奴の足と、黄緑色の体液らしきものが飛び散っていた。ツンと鼻をつくのは、毒か何かの臭いだろうか。

 

 そして地面には、明らかに蜘蛛ではない何かの獣の足跡が残されている。

 

 何が起きたのか理解して、私はごくりとツバを飲んだ。

 

「じゃ……弱肉強食……」

 

 食う物は食われる。あのタランチュラとて、この森では誰かのエサでしかないという事か。

 

 改めてこの森の地獄っぷりを理解して、私はすごすごと隙間の奥に引き返した。

 

 わ、私、もう一生この隙間から出ない! 外に出て化け物にむしゃむしゃされるぐらいなら、ここで干乾びて死にたい!

 

「ひーん……」

 

 涙目で隙間の奥に身を横たえる。幸いにして、隙間は私一人が収まるにはなかなか快適な空間だった。

 

 高さは私が膝立ちできるぐらいで、深さは少なくともタランチュラの足が奥まで届かないぐらい。広さは足を延ばしてもまだ余裕があるぐらいで、ちょっと上向きに広がっているので雨が入ってくることもない。

 

 思えば、昔テレビで見た古代文明の墓穴がこんな感じだったような気がする。洞窟に横穴を掘って、そこに遺体を安置する。私の終の地としてはそう悪い物件ではないかもしれない。

 

 もうここで一生を終えますぅ。

 

 そんな事を考えた時だった。ずっと握りしめたままだった端末が、ぴろりんと音を立てた。

 

『危機的状況の終了を確認。安全地帯を認識しました。防御結界を展開します』

 

「ほえ?」

 

 ふわあん、と端末から何か優しい光が放たれる。

 

 薄暗かった隙間が、まるで照明で照らしたように明るくなる。木の天井と、茶色い乾いた土の床。もそもそと身を起こした私の手の中で、端末がピコピコ輝いている。

 

『安全地帯の確保完了』

 

「ほわあ……」

 

 そして、放たれた光が収束して実体を得る。

 

 私の手の上に鎮座する乳白色の何か。特大のゼリービーンズのような半透明の物体、その内部で小さな何かが動いている。

 

 それは、恐らく。

 

「……卵ぉ!?」

 

 

 

『ミッション開始。“最初の卵”を孵化させよ』

 

 

 

 

 

◆◆

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