のませて魔王様!!   作:メクスィィィー

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11滴目 血族面接③

◆ 魔王城近辺、詠《よみ》の森

 

「……結局、魔王様には会えなかったや……」

 

 詩民《エルフ》の少女──リーナは肩を落として歩いていた。

 木々の根を飛び、その小さい手で幹をなぞる。柔らかな樹皮と、仄かに香る甘い匂い──詩民《エルフ》の導《しるべ》が手のひらを掠める。

 

「……あれ、こっちにも続いてたっけ」

 

 鼻を鳴らしたリーナは、進行方向とは違う一本の木を見つめた。

 

「誰がつけたんだろう……?」

 

 甘い匂いの木に、ゆっくり近寄る。

 ──それは段々と濃くなっていき、やがて景色が霞む。

 

「……いい匂い。もしかしたら、可愛い子がつけたのかな……お友達になりたいな……」

 

 よろけながらも、近寄るリーナ。

 

 樹皮が、蠢く。

 

「ギィィイイ!!」

 

 肉を裂いたかのような、異様な鳴き声──木の根が蠢き、幾本もの触手となってリーナに襲いかかる。

 

 朦朧としたリーナには、それが危機と認識できた時。手遅れだ。

 

「……ぁ」

 

「第一節」

 

 一筋、光が駆けた。

 

 ──竪琴《ハープ》の音色が、滲む。

 

「旋律」

 

「ギィィイイッ」

 

 肉が裂けた、悲痛な泣き声。

 リーナに襲いかかった触手は全て千切れ、地に落ちてミミズのように蠢いていた。

 

 ようやくリーナは認識した。樹に、顔があることを。

 正確には、顔のような窪みがであり、一番大きな窪み──恐らく口の部分には鋭い枝が幾本も生えていた。

 

「│詩民喰い《グレートマンドーラ》? まだいたとは驚きだねぇ」

 

 穏やかな、しかしどこか情熱的な声が響く。

 

「クレシェンドおばさまっ!」

 

 リーナの左から、詩民《エルフ》が一人、姿を現した。

 茶髪のロングヘア。携えていたのは、竪琴《ハープ》のような弓。

 

「おばさまじゃない、お姉様ね。」

 

「……ご、ごめんなさいクレシェンドお姉様」

 

「グガァアッ!!」

 

 樹の怪物──│詩民喰い《グレートマンドーラ》が悲鳴を上げ、先よりも多い触手が、二人を襲う。

 

「第二節」

 

 背の矢筒から矢を三本抜いたクレシェンド。

 ──弓に張られた三本の弦をなだらかに弾きながら、弦《つる》に矢をかける。

 

「三和音」

 

 指先が、弦《つる》から離された──異なる三音が調和し、やがて一つとなる。

 

 放たれた三本の矢は、やがて襲いかかった触手全てを貫いた。

 

「アギギァァアアア」

 

「うん、良い音色だねぇ」

 

「綺麗な音……」

 

 リーナは、ただ見蕩れていた。奏でるように、弓を弾き、放つ。ただその一矢《いっし》、一姿《いっし》に。

 

「さぁ終曲だ。最高のフィナーレにしてくれよ?」

 

 触手を失った│詩民喰い《グレートマンドーラ》。

 駆け寄るクレシェンド。

 

 矢を一本握りしめ、左目に突っ込む。

 黒い飛沫が、クレシェンドの顔に飛び散る。

 甘い匂いが、気持ち悪いほど辺りに満ちた。

 

「ギァァァァアアアアアア」

 

「ははっ! これだよこれこれっ……!!

 ──苦こそ、音楽だ!!」

 

 乙女十三座、第十一番《イレヴン》。

 ──残琴弓鳴《ざんきんきゅうめい》 クレシェンド。

 魔王を射抜いた、張本人である。

 

◆ 魔王城 王室

 

 ゴブ男から渡された、一次面接の通過者リストを机で眺める。

 

「二次面接……何を面接するんですか……」

 

 俺のベッドで転がるルミィナ。先からずっとこの調子だ。

 唇を尖らせて、愚痴を言って転がっては、頭を抱えている。

 

 投げやりだったのは申し訳ないけどな……。

 

「ポヨンたそは? 何をしてるんですか」

 

「ポヨンたそは足湯に行ったぞ。なんでも気に入ったらしい」

 

「……面接を今一度頼みたいのですが……」

 

「ダメだ。スライムだって、お労しいんだから」

 

「あの!! 私がどこから帰ってきたか分かってますか?!」

 

「自分の領地だろ? いくら気持ち悪くても頑張って管理しろよー」

 

「……サアミクスのお世話もしたんですよ! 大変でした……。不死《アンデッド》は湧いて出てくるし……その度サアミクスが喘ぎながら薙ぎ倒して、死肉を喰らって……」

 

「お労しやルミィナだが……足湯はお預けだ。二次面接が終わったらな」

 

「……いやです。今すぐがいいです。ポヨンたそと一緒に入りますから」

 

 大きく溜息を吐いて、ようやく静かになったルミィナ。

 リストのページを捲る。

 

「あれ、サアミクスはどうしたんだ?」

 

「……サアミクスですか? 一緒にいましたけど……あ」

 

「あ、ってなんだ!? 待て待て待ってくれ……」

 

「候補者達の波を掻き分けてる時にはぐれました」

 

「……マジか……何しでかすか分からんぞ……」

 

「あー、やってらんないー」

 

 目に手を伏せて、仰向けになるルミィナ。

 

「今暇してる他の血族はどちらがいるんですか?」

 

「あぁ……かろうじてナイトスレインだが……」

 

「使いものにはならなそうですね」

 

「仕方ないだろう、竜だし」

 

 ふーん、人狼《ウェアウルフ》ね……。

 ──志望動機『蹂躙』?

 

 顎に手を添えた。

 すると、先まで唸っていたルミィナが口を開いた。

 

「……。面接って、どのような形でも良いんですか?」

 

「別に規定はないし、行き当たりばったりのアドリブだからな」

 

「……ふふ。名案が思いつきましたよ」

 

 起き上がって、不敵に笑うルミィナ。

 額の紅い一本角が煌めく。

 

「アグランス様。竜の角笛を」

 

「……へ?」

 

◆ 魔王城 門前広場

 

「今度は門前に集まれって……面接じゃないのかニャぁ?」

 

 門前に集った一次通過者たち。

 人猫《キャティ》、鈍豚《オーク》、詩民《エルフ》共。

 

 皆、疑念の言葉を呟いていた。

 フン……魔王の元へ就くのだ。あの程度の面接が何度もあるわけがないだろう。

 

「皆様、一次面接、通過おめでとうございます」

 

 女の声が響く。

 ……この声、まさか。

 

 門正面。一本角の飢鬼《オーガ》が立っていた。

 

「……あ、あの方はッ」

 

「ルミィナ様!?」

 

「ま、マリィソーンの末裔か……!!」

 

 ……存外だ。まさか、魔王の右腕直々に二次面接を担当するとは……。

 

「突然ですが、現時点で残っている候補者数は何名かご存知でしょうか?」

 

 突然の質問に、周りは静まった。

 何名か? 3000体から目に見えて減っているが。なぜそのような質問をする?

 

「3000体から──600体です。

 2400体もが不採用となっています」

 

「……そ、そりゃ魔王様の元へつけるのは限られた魔族だけケロから……」

 

 人蛙《フロガー》が口を開く。

 蛙如き喋るな。

 

「──るっせ、黙れや」

 

 隣にいた鈍豚《オーク》が人蛙《フロガー》を小突いた。

 フン、よくやった。

 

「……由々しき事態です。──たかが面接で、2400体も落ちるとは……。愛想は尽きますが、しかしあなた方が選ばれたのは事実です」

 

「お、オイラ選ばれたんだケロ……信じられないケロ……」

 

「──面接で(・)は(・)、選ばれたのはあなた方です。

 しかし、我々血族──また、魔王軍に加わるということは、それ相応の力が必要となります」

 

 ──ああそうだ。それを待っていたのだ。

 

「……何か、気づく者は?」

 

 ──気づく? 何にだ……?

 

 数十秒、ルミィナ様は口を開かず、俺たちの返事を待っていた。

 

 思考を張り巡らせたが分からなかったのが、悔やまれる。

 

「──そうですか。残念です」

 

 ルミィナ様は、懐から角笛を取り出した。

 ──その角、まさかッ

 

「ただ一言。生き延びなさい」

 

 ──直後、脳裏に浮かんだのは、魔族としての本能的な恐怖だった。

 産まれてから、気づかず根付いていた「生き延びる本能」が警鐘を鳴らす。

 

 息が詰まる。毛が逆立つ。全身が震える。

 

 そんな、音色だった。

 

 竜の角笛

 

 二百年前、神に近しき竜の角が折れたのを笛にしたもの。

 詩民《エルフ》達はこれを鳴らし、竜の鳴き音《ね》を楽しんだという。

 

 ──竜よ、竜。私のところにおいでくださったなら、それはなんと、幸あるでしょう。

 

「│騎士殺し《ナイトスレイン》。焼き付くせ──」

 

 ──巨影。あたりが暗くなる。空に何かが

──竜……ッ?!

 

「轟《グォオオオ》!!」

 

 唸り声。飛行による爆風と共に、膨大な熱が身体を包む。

 

「暑い! 熱いケロォッ!!」

 

 ナイトスレイン様は空《くう》で羽ばたき、我々のことを見下ろしている。

 口元からは紅蓮の炎が滾り、揺らめいていた。

 

「こんぐらいで暑がってんじゃねぇぞフロギー!! しこたまデケェのが来やがるッ! 俺様でも耐えれるか知れねぇ……」

 

 全身に力を込めるオーク。耐えるのか……この火力に……!!

 

「──魔族の小童《こわっぱ》共。よく耳にし給え。これより迫るは我が火力の、下の下の下である。これしきに音を上げるなど、魔族の恥よ」

 

 ナイトスレイン様の声が響く。

 脳を震わせたその声により、身体も震えていた。

 

「こ、この圧でもまだ弱いのケロかァ?!」

 

「……に、逃げなきゃ死ぬニャァッ!!」

 

「お、俺っちまだ死にたくねぇっ!!」

 

 弱音を吐く者共。

 

 ──未だ、腰の牙剣《ファングソード》を抜けずにいる俺も、またその一部だと痛感していた。

 

「……グルルル」

 

 思わず喉が唸る。

 

「皆、考える時間などありません。私が5つ数えましょう。それが最後です──

 

 ──5」

 

 どうする……!?

 

◆ │謁見の場《バルコニー》

 

 ワイングラス片手に、門前広場を見下ろす。

 おぉ、ナイトスレインが暴れてる。

 

 ……焼き尽くす、なんて。粋なことを考えることだ。

 いや俺もちょっと頭に過ぎってたけど。

 

 うーん、いかにも魔王っぽい。素晴らしすぎる。

 

 ちなみに右手のワイングラスには、小鬼造酒所《ゴブリンぞうしゅじょ》特製の、高貴的葡萄飲料《グレープジュース》が入っている。

 

 何とも美味。ほろ苦く、甘い。

 え? ワインじゃないのって?

 

「フッ」

 

 カッコがつかない自分に、思わず鼻を抜けて笑いが零れた。

 

 ──遠くで、竪琴《ハープ》の音が鳴った気がした。

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