のませて魔王様!!   作:メクスィィィー

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13滴目 血族面接⑤

◆ 魔王、誕生前

 

 ──もはや戦場と化したマリィソーン館。ある詩民《エルフ》により放たれた烈火が、全てを焼き焦がし、薙ぐ。

 

 彼女は襲撃の傍ら、ただに魔弦響鳴《マジカギターラ》を掻き、鳴らしていた。

 

「あはれ 鬼共

 自らの過ちを

 自らの血痕を

 自らの蹂躙を

 

 はたまた小馬鹿に

 詩ずさむ我らに

 蹂躙されようと

 その血を啜らんと

 その肉を食わんと

 その骨を舐めんと

 地に伏せ

 床を這え

 

 靴を舐めいよ

 降伏せずともしようとも

 どのみち全員

 焼き払おうぞ

 

 せめての慈悲よ

 冥の土産にゃ我の音《ね》を」

 

 吟遊詩人──英雄は、静かに、しかし確かに情熱的に。

 鼓舞し、火は強まりて、またも飢えた鬼のその血筋を絶たんとし。

 

 原初の『蹂躙』である。

 

◆ 門前広場

 

 迫り来るクレシェンドの一撃。握りしめられた矢の先端が、もうそこまで迫ってきている。

 

 先につけた腕の傷──血を吹き出し、固める。

 赤く広がる視界、匂い立つ血──自分の血で酔ってしまうとは、余程空腹なのですね私は。

 

 硬質な音が響く。

 

「……なんだいなんだい? 私を試験に巻き込もうってのか?」

 

 竪琴《ハープ》の音……。詩民《エルフ》がいるから嫌な予感はしていたけど──まさか来るとは!

 

 赤がひび割れる。矢が盾を貫通する前に、右に腕を薙ぎ払う。

 共に、右へ弾けるクレシェンド。

 

 盾を融解、傷口は再生しないで良い。

 ──右手首から、仄かに鼻先まで漂う香りに、脳がぐらつく。

 

「……予定には無かったですが、丁度良いですよ……!! ──面倒くさい試験も、貴方を鎮れば終わりです!!」

 

 範囲外《アウトレンジ》なら、あちらが有利。ならばこちらが詰めるまで。

 隙を、探る。

 

「そうかい。」

 

 冷めた口調で、クレシェンドが吐き捨て──

 

「……」

 

 飛び出すクレシェンド。──なぜ距離を?

 

 右腕、力む。

 

 出血と共に薄い血煙が立つ。

 鼓動早まる胸を鎮めては、右腕に意識を集中。

 

 ──血煙剣花《ラ・ブラディ・レイピア》

 

「──へぇ。300年生きて、初めてみた魔装具だ」

 

 クレシェンドの握る矢を躱す。

 血煙を掠め、矢と過ぎ去るクレシェンド。

 

 後ろで闊歩《ステップ》音。

 今一度、来るか。

 

「近距離《インファイト》じゃこちらが有利ですよ」

 

 刺突剣の形を象った──剣花《レイピア》を構える。

 

 ──高貴に、鋭利に、淑やかに。

 

 奴を穿《うが》ち、抉る。零れた血肉は、私の喉に、腹に──瞳が蠢く。視界が揺れる。クレシェンドの長髪が無造作に伸びるように見えた。

 

 ッ……。ダメですっ、蕩けては──

 

「──その瞳。ついこの間──とはいっても、あんたらにとっちゃ、云《うん》十年って感覚なんだろうがねぇ……。

 

 酔っている目だ。見たかったよ……」

 

 優雅に佇み、弦を弾くクレシェンド。目を瞑り、音色に耳を傾けるその姿。──愚かな。

 

「覚えているかい? 私があんたを初めて見下ろした時。あんたが初めて、詩ずさむ憐れな愚民を見上げた時だ」

 

 弦に手をかけ、そっと撫でながら佇むクレシェンド。

 

「私としても、あのような体験は初めてだったねぇ……。クハッ、クハ!!」

 

 ──高らかな、私を侮辱し、惨めに晒し上げんとする。そのような気持ちの悪い笑み。理解が追いつかない嫌悪感に塗れ、顔が歪んだ。

 

「──なにが……おかしいのです」

 

 低く放った声。深く刻んだ剣花の構え。

 

「いやいや……すまないねぇ。

 ──滾る炎!! 燃ゆ館!!

 家族の血肉に塗れ、絶望しながらも、その血に酔いしれる君!!

 奏でられた私の音色が美しいッ!!

 

 初めての感覚……インスピレーションに塗れ、脳を犯され、焼かれ、身を焦がし!! クハッ、クハハハハハ!! ……はぁあああ……」

 

 クレシェンドの弦が、音《ね》が、鳴り止まない。

 血が沸き立つ。腹の底が、グツグツと煮え滾っては、脳裏に浮かんだ炎と詩民《エルフ》。

 

 嗚咽、嫌悪感が喉元まで上り詰めては、血煙がそれを覆い隠す。

 

 ──アグランス様……先に、ねだっておけば……。

 

「アグランスの小僧の血肉が足りぬか? もっと呑みたいか?

 無様に『オネダリ』しては、その首筋に歯を突き立て、『呑《ごくり》、呑《ごく》』と呑み干してしまいたい?」

 

「──アグランス様を小僧など……!!」

 

「──クハッ、最高じゃぁないか。かの魔王の右腕が、『のませて魔王様!!』だなんて言って、血をねだるか?! 一つ詩がかけそうだよ……。歌詞は思いついた……。

 まず一つ。跪き、魔王に包まれては蕩ける。 あはれ飢えた鬼如き──」

 

「──黙れッ!!」

 

 穿つ、抉る。血肉、叫び、舌の幸。

 気づけば、猛突していた。

 

「理性を失い!! ただ血肉を喰らおうと!!」

 

 胸に一突き。左に躱された。

 

「走り、牙ッ突いて!!」

 

 顔。身は右に捻られた。

 

「──そんなんじゃ、喰らう飯も不味いぞ!! マリィソーンの末裔が!!」

 

 叫ぶクレシェンド。もう一突きを──

 

 ──消えた。足元。屈むクレシェンド。

 

 三本の矢が、腹に突き立つ。弓に絞られた、それぞれ。

 

「第二節・改」

 

 竪琴《ハープ》の音《ね》。

 

「三強和音」

 

◆ 数分前。

 

「──詩民《エルフ》を討て!!」

 

「ッ!! マリィソーンの末裔がっ……」

 

 詩民《エルフ》の導者《しるべもの》──長髪、切り顔立ちの男が顔を顰めた。

 

「防御陣を張ってください!! 私はクレシェンド様に譜面を届けます」

 

「──そこのエルフ!! 何をしていまする!!」

 

 サアミクスの声が響く。

 

「……っ、剣聖ッ……」

 

 半歩引く導者《しるべもの》。

 詩民《エルフ》全体を見渡してから、フロギー達の方に勢いよく向き直るサアミクス。

 

「おい!! そこの蛙共!! 聞きたまえ!!」

 

「け、ケロォ?!」

 

 目を見開き、跳ねるフロギー。

 

「──ッ、エルフ達とやり合おうってのか?! 確かに右腕《ルミィナ》様はそう言ったが……」

 

 ストラークは腕を回した。その声は動揺していたが、身体は既に気合いに満ちている。

 

「剣聖よ、指示は要らん。俺は……犬孤狼《イヌコロ》如きではない──」

 

 ──魔族の山、薙いだ風。姿を消した、ラング・ファグ。

 

 導者の傍、目を閉じ、詠唱を終える詩民《エルフ》。

 

「防御陣《プロテクション》──」

 

「──牙突《トラスト・ファング》」

 

 旋風、高速の刺突。剣聖すら笑むほどの。

 

 しかし、詩民《エルフ》を貫くことはなかった。

 

「……チッ」

 

「イヌコロ如き、我々の音《ね》を止められると思ったか?」

 

 細く長い、靱やかな大剣が、刺突を防いだ。

 ──眼鏡をかけた詩民《エルフ》の男が、ラング・ファグの前に立ち塞がっていた。

 

 ギリギリと、軋み奏でられた金属の音《ね》。

 

「──おい!! 何をしているそこの豚共!!」

 

 斬り下がり、散る火花。交えられた刃同士は切り離され、詩民《エルフ》とラング・ファグには数歩の差が開いた。

 

「ッ!! 狼野郎が、俺様に指図してんじゃねぇぞ!!」

 

 腕を回し、脚を力強く叩くストラーク。

 

「ほ、ほんとに言ってるケロか?! エルフに仇なすなんて──」

 

 震えながらも、息を整えるフロギー。縮んでいた身体は、元に戻りつつあった。

 

「──分かったなら……とっとと詩民《エルフ》を片付けて、ルミィナ様の元へ征くぞ!!」

 

 その様子に、サアミクスも笑った。

 

「その調子だ……皆、詩民《エルフ》を討つぞ!!」

 

◆ 魔王城 足湯

 

「ふぅ……疲れたぁあああ……」

 

 ぁあー、気持ちいい。やっぱりこの瞬間が堪らんなぁ……。

 二次試験は無事……無事? に進んだみたいだし、あとはルミィナに任せよう……。

 

 まぁ……二次試験でだいぶ人数は削れただろうし、もうそろそろ合格者を割り出してもいいかなぁ。

 

 え? 合格者は血族になれるかって?

 ……なれないので、魔王軍に所属するってことで。

 

 ──いつも、ルミィナに無理させてるな。まったくダメな奴。

 色々終わったら、ルミィナの事いっぱい甘やかそう……。最近は、ロクに飯も食えてないだろうし。

 

 ──久々に、のませてやるか。

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