のませて魔王様!!   作:メクスィィィー

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14滴目 血族面接⑥

「っしゃ行くぞオラアァアアアッ!!」

 

 叫ぶストラーク。それに呼応したか、詩民《エルフ》の中から、一番図体の大きい者が近づいた。

 

「儂の相手は、お主に決まりじゃ」

 

 豪胆な肉体、無造作に伸ばされた白髭が揺れた。

 

「ッは!! エルフだから、ヒョロガリ共しかいねぇと思ってりゃァ、俺みてぇな筋力バカ野郎もいるもんだな?!」

 

 拳を叩き合わせ、豪快に笑い飛ばすストラーク。

 背筋から、蒸気が噴き出す。

 

「いやいや、一端の老いぼれじゃ。勘弁をしてくれると、助かるがね」

 

 片足を半歩引き下げ、腰を落とした詩民《エルフ》の老人。

 朗らかな表情、メキメキと、音を鳴らす肉体。

 

「ぁあ。老いぼれにゃ、親切にしてやらねぇとな!!」

 

 ストラークは、拳を叩き合わせ続けた。

 そうして、最後の7打目。小さく旋風が巻き起こり、門前広場の草が揺れる。

 

 勢いよく拳を突き上げてから、片足を半歩引くストラーク。

 蒸気は止まず、身体には熱が走り続ける。

 

「……行くぞ、爺さん」

 

「はっはっは。儂にゃ、ポーメントって名があるのじゃがな。ストラーク君」

 

「っは! 贅沢か? 俺様に名前で呼ばれようとはなぁ?

 ──ポーメント爺さんや!!」

 

 ──両者、正面衝突。

 両の手と手を繋ぎ合わせ、力比べの押し合いになっていた。

 

「まずは、力勝負と行こうかね。ストラーク君」

 

「望むところだ、爺さん!」

 

 左足を踏み込むストラーク。半歩、後方に滑るポーメント。

 

「素の力は中々やるようじゃのう?」

 

 互いの手の甲、血管が浮き出る。

 

「爺さんから褒められてもッ……嬉しくねぇっての!!」

 

 2歩分。ポーメントが再びズレた。

 

「おいおいどうした爺さん? こんなもんかよ──」

 

「──気付かぬかね?」

 

 血管の一本が引いた。

 

「っ、何をだ」

 

「君が押したのではないよ、ストラーク君。儂が滑り、君を引いたんだ」

 

「ッ!!」

 

 ストラークの目が見開かれる。

 

(……なっ、何を言ってやがるこのジジイ。だ、だが。確かに不自然だった……。俺がずっと全力で押してるにも関わらず、こいつはずっと動かなかった……)

 

「──足元を見たまえよ。君は足を動かしていないのに、先と違う位置に立っているだろう?」

 

「ッ!! 野郎ッ、老いぼれがぁあ!!」

 

 ストラークの背筋は、切り立った崖のように盛り上がる。そうして、崖に打ち付く波のように、蒸気が勢いよく噴き出ていた。

 

「──ストラーク君。力任せでは、限界があるものじゃ。覚えておくと良い」

 

 ストラークが、後方へと滑り始める。

 

「ガァァアアッ」

 

 力強く足を踏み込むも、ただ土の色が増すだけで、滑り続ける。

 

「力比べじゃ、儂の勝ちじゃな」

 

 ポーメントにより、両手が離れる。つかの間、瞬時に距離が空いた。

 ストラーク──ポーメント。互いの距離、およそ7歩分。

 

「クソジジイ! 小賢しいぞ!!」

 

 ストラークは脚を叩き、ポーメントに向かって叫んだ。

 しかしそれは、単なる怒号などではなかった。

 

 ──確かに、彼の目には『闘志』が宿っていた。

 

「では、次」

 

 瞬時──顔面に、拳。

 

「ッぶね!!」

 

 間一髪、左に頭を逸らし、拳を避けるストラーク。

 

「よくぞ反応した」

 

 反撃の一撃、左手から目前のポーメントの顔側面にフック。

 

「遅いのう」

 

 顔側面に置かれたのは、一枚の手の平だけだった。

 それだけで、ストラークの拳が止まった。

 

「なッ」

 

「これが、鋼の拳かの?」

 

 ポーメントの吐き捨てた言葉は、ストラークの脳を揺らした。

 ──今まで、防がれたとて、その防御をも貫き、相手を粉砕した拳が。

 今こうして、いとも容易く止められている。

 

 鋼のストラークよ。それで、良いか。

 ──否。今こそ、まさに、至高が、腹部に迫っている。

 

「またも、儂の番かな?」

 

 ポーメントの掌が、ストラークの腹部に押し当てられる──

 

「──地裂発勁《ちれつはっけい》」

 

 衝撃。腹部から縦に行き渡ったそれは、全身の骨を縦に引き裂くものであった。

 

「まともに喰らえば一溜りとないわい。どうじゃ、ストラーク君」

 

 ただふらつき、蒸気が出続けた。

 腕はだらんとし、膝は今にも折れそうなほど、震えていた。

 

 ──『闘志』は、褪せぬ。

 ──『鋼』の異名は、捨てられぬ。

 ──倒れなければ、負けではない。

 

 ──勝つまで立つから、勝てるのだ。

 

「慟哭《ラァァァアアアアアァ》!!!!」

 

 天に穿つ、ストラーク。

 

「なっ……ス、ストラーク君?! 何故耐えられるっ!?」

 

 ポーメントの笑った細い目は、初めて開かれた。

 

「──俺様の『鋼筋活性《バルクアップ》』はよォ……受けたダメージを魔力に変換、自身の脈に乗せて流し、全身に行き渡らせんだ……クソ痛ぇ、余すことなく、クソ痛ぇけどよぉッ!!」

 

 膝に何度も拳を叩きつけながら、笑うストラーク。

 

「蒸気みてぇに見えんのは、俺様の魔力ッ!! 魔力流しっぱで頭もフラッフラ、全身の届かないところが痛いわで失神寸前ッ!!

 

 ──けどなぁあああ!!」

 

 拳同士を、叩きつける。

 

 蒸気──魔力の旋風が巻き起こり、門前広場の草木を吹き飛ばす程の勢いで凪いだ。

 

「……ッ!」

 

 足を踏み込み、旋風を耐えるポーメント。

 

「超危険《ハイリスク》なもんには、最高火力《ハイリターン》ってのが待ってんだなぁあ!?」

 

 これまでに無いほど、硬い。

 ただ、肉体の硬さを追い求めることだけが、│この男《ストラーク》の浪漫《ロマン》であった。

 

「お返しだぁ! ポーメント爺さん!!」

 

 先の旋風でよろけたポーメントの懐。

 ──腹部、掌が押し当てられる。

 

「──地裂発勁《ちれつはっけい》!! 極《きわみ》!!」

 

 衝撃。おおよそ発勁とは呼べぬ、大胆な挙動でストラークの放った一撃は、やがてポーメントを吹き飛ばした。

 門前広場の端から端へ吹き飛び、壁へ激突したポーメント。

 

「……見事じゃ、ストラーク君……」

 

 呟き声の後、動かなくなったポーメント。

 

「っしゃオラァァアアッ!! 見たかよ、エルフに勝っちまったぁっ!!」

 

 勝利の雄叫びを上げるストラーク。

 

 目には涙が浮かび、満面の笑みが、顔に張り付いて取れなかった。

 

 ──エルフとの門前広場での死闘は、まだ続く。

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