のませて魔王様!!   作:メクスィィィー

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3滴目 故に剣聖

 

「地に伏せ、蹂躙だ」

 

 炎が滾る。

 魔王軍による進軍は、ますます激しくなっていた。

 

 不死の騎兵。

 翼魔《ガーゴイル》による矢の雨。

 骨まで貪る喰鬼《グール》。

 

 逃げ惑う人々。巻き起こる悲鳴。数々の雑踏が入り乱れて、煙の向こうへと消えていく。

 

 その最前線から離れた地。静寂と炎が滾る戦地だった。

 ──魔王と対峙する、一人の女騎士が在った。

 

「……くっ」

 

 片腕を抑えて、魔王から数歩引き下がる女騎士。

 かろうじて構えられた剣は紅を纏っており、それは魔力のようだった。

 

「どうした、騎兵軍を屠った剣聖とて、そのようなものか?」

 

 対する魔王の刃は、どこまでも漆黒だった。

 

「所詮は人の子か。哀れな」

 

 一断ち。

 魔王によって、剣聖が討たれた。

 

「……いつか、貴方に届かせます。我の、究極の剣技を……」

 

 カラン。

 無慈悲な金属音が響いた。

 剣聖の剣はそこらに落ちて、ただ紅い魔力が滾っていた。

 

 剣聖の眼は揺らいでいて、どこか熱を帯びているようだった。

 その戦場でただ一人、魔王に魅せられた者だった。

 

 

「我、完全復活なり」

 

 靡く髪。背中に刺さった剣から流れる甚大な魔力。黒い玉座の間は、紅に染められていた。

 

 向かいに立つは、白く、透き通った肌の──もはや人と同じ見た目のサアミクス。

 つぎはぎも消え失せ、先までの不死《アンデッド》の手本のような姿が嘘のようだ。

 

 その魔力、美貌に怯えたか、ルミィナとポヨンたそは俺の後ろにピッタリくっついていた。

 

「厄介なことになりましたな、アグランス殿」

 

「おぞましい……」

 

 ──剣聖。誰にそう言わしめた理由がはっきりわかる。

 先の剣技だけでない。滾り、溢れるこの底の知れぬ魔力。

 『乙女十三座』の第十番で、この実力か。

 

 ……待て待て。こいつみたいのかそれ以上のが、あと十二体もいるのか……?めんどくさぁ……。

 

「……その魔力、恐らく先の褒美によるものか」

 

 俺の言葉にビクビクと震えながら、サアミクスは背中に手をまわす。

 

「そうですともッ!! これまでになく、至高でありました……。

 しかしながら──」

 

 ぐちゃりと、血生臭い音を立てて背中の剣を引き抜く。

 滾る魔力が、血と混ざって、さらに紅が増していた。

 

「我の死肉の剥がれ落つるを見たのは、アグランス様……ただの一人でございます!!」

 

 死肉? なんだ、何を言っている。

 

 ──かつて対峙したときは、人の見た目であって。俺が彼女を討った時、その剣聖としての執念、正義から不死《アンデッド》となって生き延びたのかと踏んでいたが。

 

『……いつか、貴方に届かせます。我の、究極の剣技を……』

 

 今、目の前に立っているのは不死《アンデッド》などではない。

 

 つぎはぎは弾け飛んで、自身の魔力さえ透かしてしまいそうな白い肌が露わになっている。

 

 まさしく人と同じ、かつて対峙したときと同じの──

 

 ──『剣聖 サアミクス』だ。

 

「足りない足りない。まずは、そこの一端の飢鬼《オーガ》から片付けてしまおうか……」

 

 引き抜いた剣についた自身の血を、二枚舌で舐め摂った。

 

「ひっ……」

 

 背後から小さく、ルミィナの鳴き声が聞こえた。

 

「アグランス様、どいてください。我は彼女の死肉を欲するのです」

 

 サアミクスは剣の先端を向けて言い放った。

 彼女の二つ名である『死肉』……。それが、意味するのは。

 

「先のご褒美によって、今までに喰らった1292の死肉が弾け飛びました」

 

 頬に手を当てて、俺に潤んだ瞳を向けるサアミクス。

 

「貴方に我の剣技を届かせるため、喰らったのだ……。たくさん、たくさん喰らった。しかし、それらすべては貴方の一撃によって無に帰しました」

 

 サアミクスの魔力が滾った。

 

「一端の不死《アンデッド》を殺しては、きわめて上質に熟成された、芽の生えた肉塊を喰らい、我が糧と成したのです……。

 

 ──喰らえば喰らうほど、我は甦るのですッ!!」

 

 不気味なほど、サアミクスの笑い声が玉座の間に響いた。

 

「……死肉は、その血が高潔であればあるほど良いものと聞きます……。

 私も、肉を喰らいますから。本音を言ってしまえば、アグランス様さえも……」

 

 背後、耳元でルミィナが囁く。

 

「──しかしながら、芽の生えた肉塊とまで……。そこまで腐り果てたものは、気が引けますね……」

 

 ルミィナのレポをよそに、サアミクスに目を向ける。彼女は不敵な笑みをうっすら浮かべて、ゆらゆらと揺れていた。

 ボタボタと音を立てて、背中の傷口から血が零れる。

 

「さぁ、そこの飢鬼《オーガ》!! 我のもとへ……」

 

 めんどくせぇ……今ここで斬り伏せてもいいか?

 なんとかして帰ってくれないか……。

 

「……アグランス様。ここは私がお相手を──」

 

「──待てルミィナ」

 

 一歩俺の前に出ようとしたルミィナを制して、魔刃《ナダギア》の刃先をサアミクスに向けた。

 

「そこの死肉。俺の血族になりたいようだが……貴様が先に受けた魔力は、俺の力のごく一部だ。

 その程度で、『死肉』が一度にして全て綻んでしまうのならば、貴様は到底、魔王《俺》には叶わん」

 

「……死肉ふぜッぃ……」

 

 俺の言葉を噛み締める様に、頬を赤らめるサアミクス。

 

「やはり、未だ届かぬのか……」

 

 しかし、次には唇を噛み締めた。

 

「お前として、それは嬉々とするべきことなのか? それとも、剣聖として、心折られるものなのか?」

 

 サアミクスの剣を握る力が弱まる。目を伏せて、深い一息。

 

「……それは──」

 

 固唾を呑み込むルミィナ。ポヨンたそのぷるぷる音。

 

「──どちらにでも、決まっているッ……!!///」

 

「ならば、ここで剣聖、心折られ、血族として仕えてしまえば、俺とは二度と対峙できぬぞ!」

 

「いやぁぁあ!! アグランス様の元につきたい……だが、同時に剣聖としてぇ、貴方に剣技を届かせたいぃぃい……」

 

 サアミクスは、剣を力なく落として、悶えた。

 まさしく不死《アンデッド》のような蠢きであり、逆に可愛く思えてきた。

 

「先の戦闘……何故手を抜いていた!?

 俺に究極の剣技を届かせるのではないのか?!」

 

「悩みがあるのですッ……我は恋する乙女なのです、恋の病なのです……ッ!!

 貴方の傍に在りたいと願いながらも……剣聖として、乙女十三座としてッ……その正義《プライド》が、貴方の傍にあることを許さないのですッ……!!」

 

「ならばどうする!? 剣聖 サアミクス!!

 俺に仕えるのか?! 剣聖の称号を守り抜くか?!」

 

「……ッ」

 

 サアミクスは力なく倒れ伏せた。愛剣《ラヴ・イン・デッド》が地に突き立つ。

 

 ルミィナは「ふぅむ」と、考え、唸った。

 そしてしばらくして、半歩歩いて俺の隣に並んだ。

 

「……アグランス様。私に案がございます」

 

「なんだ、ルミィナ」

 

 ルミィナが、耳打ちをして俺に伝えた。

 ──なるほどな、それならまだ厄介ごとにはならないであろう。

 

「さてはて、どうなることやら、ですな」

 

 ポヨンたそのボヤキ。

 

 ルミィナの交渉に頷いた。すると、ルミィナは俺の隣から抜けて、悶えるサアミクスの元へ歩み寄った。

 

「剣聖 死肉風情《サアミクス》。餌です」

 

 サアミクスの目前、ルミィナは冷たく言い放つと──

 ──自身の右腕を差し出した。

 

「ッ?! こ、この高貴なる血を……アグランス様の右腕たる血を、我ごとき、一端の死肉が啜ってもよろしいのか?!」

 

「えぇ。私の配下として迎え入れます」

 

「……な、なぜ?!」

 

「先は私を喰らおうとしていたのに……あなたはよくわからない人ですね。

 我々、魔王アグランス様に仕える血族たちは、アグランス様の血を啜り、血族となります。そして、その血族から派生した眷族……いわば、アグランス様の孫にあたる者ともなれば、かなりの自由が保障されます。

 あなたが『乙女十三座』に所属していようが、関係ありません。

 この私が、貴方を眷族として迎え入れます」

 

 ルミィナは、長く伸びた紅の爪で、自身の腕を引き裂いた。

 

「ひゃんッ……!!///」

 

 血が噴き出し、サアミクスの顔へ飛び散った。

 そして、ゆっくりと、柱のように立って、流れ落ちる。

 

「……いただきまぁっ」

 

 荒い呼吸。小さく鳴いたサアミクスは、そのまま引き裂かれた腕に口づけした。

 喉を鳴らしながら、吞み続けるサアミクス。

 

「……そんなに呑めば、酔ってしまいますよ」

 

「……ッ! もう酔いしれているぞ、大丈夫だ」

 

 15秒ほどして。ようやく、血が止まった。

 

「かなりの量、血を注いでしまいましたが。まぁ良いでしょう。

 ……私の眷族、貴方が初めてですし」

 

 まったく。こんな死肉が初めての眷族などと。

 ──ルミィナは、昔からそうだった。眷族にするなら、アグランス様の強さを知り得るものでないといけない、と。

 

「……我が、初めて?」

 

「えぇ。アグランス様の強さについては、十分に御知りでしょう」

 

「……こ、光栄にございます……ッ!!」

 

 サアミクスは、ルミィナに跪いた。

 

「……アグランス殿。私も眷族を増やしたいのですが……」

 

「魔粘液《スライム》に血は通わん、諦めろ」

 

 ポヨンたそは、ぷるんと落ち込んだ。

 

「私の治めることになった領地『ガリオローデオ』ですが。

 不死《アンデッド》の行き着く最後の地であり……禁忌とされていますから、そこに向かいなさい。アグランス様に届きたいのであれば、不死《アンデッド》を大量に喰らい、死にながら戦うこと。

 でなければ、到底叶いません」

 

「……はいぃッ!! 直ちに!!」

 

 ──そうして、サアミクスは猛ダッシュで立ち去った。

 これにて一件落着……。

 

「あぁぁぁあああ……疲れたぁぁあぁあ」

 

「まったく、厄介でしたね」

 

 ルミィナが右腕をさすりながら俺に微笑んだ。

 

「よかったですなルミィナ殿。初の眷属、ですか」

 

 ポヨンたそぷるぷる。俺の前に出た。

 

「扱いは厄介そうですけど。強力な武器となり得ますからね」

 

 ルミィナが溜め息混じり──けれども、どこか微笑んで呟いた。

 

「しかしだ。禁忌的《クィンキ・》最強変態《エンデッド・》乙女《ガールズ》に俺の眷族が入ったとなると、ほかも黙ってはいないだろう」

 

「第十番であれですからね……他がどれだけ化け物なことか」

 

 ……さすがに、対策を取らなければな。

 

「ルミィナ、ポヨンたそ。円卓の間へ向かえ。

 ──俺の血族、全員招集して会議だ」

 

 面倒だ、だとか言っていたが。

 中々に、面白くなってきたな。

 

 次は、どんな候補者が来ることか。

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