ウホッ良いヴィラン。ヤらないか。 作:お前達も執筆をヤらないか
絵筆が教室の前に到着するも、初めて会う人たちの恐怖で一歩進めず身が固まりかけている絵筆の肩にそっと阿部は触れる。
「大丈夫。みんなヒーローの卵、怖い事なんてないさ」
促され教室の扉を開くも早い時間であった為誰もおらず、絵筆はほっと息を吐きながら席を確認すると最後尾に二つと長イスが用意されていた。個性の都合上常に阿部さんとザコソルジャー達が側にいるため、舘紙(たちかみ)であっても場所のある後ろになっていた。
ほっと一息つきながら席に着き、本を開いて待っていると次々と生徒達が現れ、名前を確認して席についていく。近くの席やなんとなく馬が合いそうだと思った相手に自己紹介などが行われるも、まだ他者が怖い絵筆は心の準備が出来ずに関わられないようにと本に集中していた。
そんな中、メガネをかけた生徒が入ってくると、荷物を置き足早に絵筆の方に歩いてくる。
「君! 事情があるかもしれないが保護者と一緒に教室に来るのはヒーローとしての覚悟が足りないのではないか!」
絵筆に対して指をさしながら注意をするも、絵筆は突然話し駆けれた事で言葉がでなくなってしまう。
「えっ、あの、保護者じゃなくて、あのあの」
男性に前もって心構えもなく声をかけられた恐怖でうまく何も言えない中で、絵筆の代わりに阿部とザコソルジャーが立ち上がる。
「すまないな少年。 俺は彼女の自律型個性で保護者というわけではないんだ」
「ザコ達も絵筆の個性ザコ」
阿部とザコソルジャー達は軽く挨拶すると、飯田は考えていたことと違いすぐに頭を下げた。
「そっそうなのか。 知らずにすまない。 ぼ、俺は聡明中学校からきた飯田というんだ。 よろしくたのむ」
謝られるも絵筆は声が出ず、手で大丈夫だと反応を示し本を読むように視線を下げる。それから少しずつA組の生徒が集まり、教室の半数以上登校してきたころ、髪の毛がツンツンした少年が乱暴にドアを開け自らの席に着くと机に脚を載せた。その態度にメガネをかけた生徒が席を立ちあがり、ツンツン髪の生徒の前に立つと注意と喧嘩腰の言い返しが始まった。
それでも関わらないようにと絵筆は机に対して横に開いていた本を斜めに傾け、集中しているように見続ける。
少し時間が経ち、なにか不穏な言葉の連続に意識を傾けると寝袋のようなものを着ている成人男性が教室入り口にたっていた。
「私語はあとにしておけ。 静かになるまで9秒、お前達は合理性に欠けてるね。 担任の相澤消太だ、よろしくね……。 さっそくだが、体操着に着替えてグラウンドに出ろ。 机の横にそれぞれ掛けてある。 急げよ」
突然の言葉にクラスが混乱しているものの、説明もせず早くしろと促し教室から出ていこうとするも途中で立ち止まる。
「それと舘紙、お前の個性は先に運動場に行かせておけ」
それだけ伝えるとさっさと教室を出て行ってしまい、クラスにいた全員はとりあえず各自の机の横に掛けられていた体操服を持ち、更衣室に向かっていく。
女子だけで更衣室なために特に困らず、着替えて指定されたグラウンドに出れば色々な道具が用意されており、説明がなされ入学式もなしで個性把握テストをやるという言葉に全員が驚いていた。
個性把握テストが始まるも絵筆の点数は低い、どれだけ頑張ってもある程度鍛えた平均的高校一年生女子の範囲内、自律動作する個性の為に、代わりにやってもらうにも限度があった。短距離走や握力テストは自力でやらなければ意味がないものも多くある。
「次、舘紙」
絵筆もボール投げの順番になり、サークルに向かう途中で阿部さんとザコソルジャーに声をかけられた。
「ここは俺に任せて大丈夫さ」
「2投目はザコ達に任せるザコよ」
個性を利用して投げるのだから、自律行動をしている個性が投げたって問題はない。とのことでそのまま阿部さんがまずは円の真ん中に入る。
ザコソルジャー達は小さな筒を取り出すと色々弄り始める中、阿部さんは振り返りながら大振りで投げる瞬間、腰に独特の回転を利かせる。腰の動きの意味をA組の中で唯一気付いてしまった峰田はとっさに尻を抑えた。が他に気付いた者はいない。
「よっと!」
掛け声と共に投じられたボールはぐんぐんとのび、114mの所で落下した。そして次のボールを絵筆は渡され、そのままザコソルジャーに渡すと3人で円の中で斜めに筒を設置する。
「みんな耳を抑えるザコ」
「危ないから離れるザコ」
「行くザコ」
小さなロケットのようなものの先端にボールを取り付け、そのまま筒の中に落とすと ドンッ!と太い音が響きボールが視界から消えた。クラスメイト達がわけもわからずにいるも、相澤先生は一人計測数値を映し出している端末を見ていた。
「3535m。次」
順番が進み、緑谷の番になるも一回目は凡庸な結果、何故か途中で相澤先生に呼ばれ、何か注意を受けた後ボールを渡された。
二投目、強烈な衝撃と共にボールが飛んでいく。
「うわっ。……一体、ひぇっ」
爆発音が響き、絵筆が視線を向けると今にも人を殺しそうな勢いで睨んでいるクラスメイトがそこにいた。
「てめぇデク! どういうわけが言いやがれ!!」
一歩飛び出した瞬間、いつのまにか背後に回っていた阿部さんが爆豪の両肩を後ろから掴み動きを止めてしまう。
「おっと兄ちゃん、許可のない個性の使用は学生でもヴィランになっちまうから駄目だぜ」
「んだてめぇ! 邪魔すんじゃねぇ!!」
阿部の方を見ながら掴まれた方を振り払おうとするも、まったく肩から手が離れない事にイライラを募らせるも、突然伸びてきた布に巻き取られてしまった。とっさに爆破の個性で抵抗しようとしたがそれもできず、バランスを崩し地面に倒れてしまう。
「なっ、個性がなんでつかえねぇんだ」
相澤先生の捕縛布による捕縛、周囲に気を配っていたため、阿部は自らに捕縛布が及ぶ寸前に一歩下がって避けていた。
「布をまるで体の一部のように使うなんて、良い腕の動きじゃないの」
色々な意味を含められた阿部の言葉にゾワリと精神的に身の危険性を感じながらも、相澤は表に出さず爆豪を見据える。
「何度も個性を使わせるな、俺はドライアイなんだ。 爆豪、個性を使ってこれ以上暴れるなら、問答無用で除籍処分にする」
その言葉を聞き大人しくなる爆豪だが、緑谷を睨んだままなことはかわらない。
絵筆は動けずにいたものの、周囲はザコソルジャー達が腰に留めていたヒートホークやザコマシンガンを握り締め守っている。大きな問題にはならないと分かっていても、絵筆に安全だと思ってもらうには必要な事だった。
「大丈夫ザコ」
「安心するザコ」
「体制解除ザコ」
握っていた武器を腰に留め直すザコソルジャー達、そして阿部さんも落ち着いた様子で絵筆の近くまで戻るとのんびりとした様子で何か起きないようにと周囲に視線を向ける。
「まっ、男子高校生によくある事さ。 お嬢もあんまり気にせず、今はテストに専念しなきゃだめだぜ」
普段と何も変わらず、ウインクしながら話す阿部の落ち着いた様子に、おっかなびっくりしていた絵筆も頷き落ち付こうと深呼吸を繰り返した。
そのまま個性把握テストは続き、最終結果として相澤先生がランキングを表示する。
舘紙 絵筆 18位
葉隠 透 19位
峰田実 20位
緑谷出久 21位
絶望の表情を浮かべている緑谷に、クラスの数名がどう声をかけたらよいかと考えていると相澤先生は平然としながら言葉を続ける。
「それと諸君、除籍は嘘な」
クラス全員が驚く中、相澤先生は気にする様子もなく映し出していた映像を消す。
「君らが今の最大及びそれを越えられるだけ実力を発揮できるようにな。合理的虚偽って奴だ」
「「「合理的虚偽!?!?!?」」」
「これで今日は終わりだ。 全員着替えてから教室に戻り、明日からのカリキュラムの書類があるから読んだらとっとと帰れ。 それと緑谷は保健室で治療を受けてから戻れ」
それだけいうと相澤先生はさっさとグラウンドを後にしてしまう。
「……はぁよかった。いきなりクラスメイトが消えるのは、悲し過ぎるよ」
絵筆はほっと胸をなでおろしながら更衣室に向かっていく。
阿部は表情を変えずにいたものの、相澤先生の口調や試験中の真剣な眼差しからヒーローとしての適正、危機に対して必死に乗り越えようとする力があるかを主に見ていたと見抜き、本当は除籍するつもりがあり、全員がその判定をクリアしたと理解していた。
ザコソルジャー達はそもそも絵筆が落ちるとは考えておらず、ヒーローという性質上試験程度で落ちるのなら仕方ないと思い焦っても居なかった。